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ねこびより【続】
季節は冬。
すっかり肌寒くなり、こんな時は暖かい部屋の中でのんびりと過ごしたいところだった。
こたつの誘惑に耐え、寒空の元へと出かけたのは用事があったからこそである。
「だからって寒い物は寒いにゃ」
手袋をした手をポンポンと叩きいてからはーと息を吹きかけ、ねこだーじえるは約束の場所へと急いだ。
今日の目的地は学園ではなくIO2本部。
変わった場所だが、メノウ曰く、実験はそこでとのこと。
実験。
そう、実験だ。
あくまで呪術的な実験だということがせめてもの救いだ。
初めてあった時。
彼女の持ち前の好奇心から、メノウが疲れるまで追い掛けられたわけだが……今回はその延長線上である
実験を手伝うことを約束に、どうにか追い掛けるのをやめて貰ったわけだ。
それに女の子からの頼み事。
聞かないわけにはいかないだろう。
それが例え……少しばかり特殊な内容になりそうだと解っていたとしても。
■
IO2本部。
「めのちゃおまたせにゃ」
「いいえ、ようこそ」
「……よう」
中にはメノウとりょうとナハト。
通りがかりを引っ張ってこられたか……あるいは何か理由を付けて手伝わされているか、そんなところだろう。
なにしろメノウはホワイトボードの前でペンとノートを片手に説明する気満々である。
「どうしてここだったのにゃ?」
「色々あった身ですから。実験の許可を申請したら『せめてここでしなさい』と言われたもので。どうぞ座ってください」
素朴な疑問にあっさり返される答え。
流石に呪術的な実験を外でするわけには行かないだろう。
「ありがとにゃー」
「では、実験の前に簡単に説明をさせていただきますね、まずは――……」
一時間経過。
「……――つまり、このパーツを付ければ似たような能力が手軽に得られるようになります。何か質問は?」
「ないにゃー」
「ないない」
「同じく……」
実に楽しそうに説明を終える頃には、三人はもうぐったりだ。
動物耳とシッポその他アイテムを付ければ、その動物の特性に合わせて身体能力が高まるという説明をこれほど長く語れるとは。
隠しきれない疲労感に気付いてはいたようだが、実験の成功を確かめたい気持ちの方が上回ったのだろう。
「では早速、お願いします」
「……え?」
箱ごと渡されたりょうが間の抜けた声を発する。
こうなるだろう事は、説明されている間にねこだーじえるは薄々感づいていた。
まだ不確定要素が多いと言っていたのはメノウである。
だからこそ何かあったときに対処しようと思ったらまずねこだーじえるとナハトは除外されるだろう。
そして身体能力が高まったかを確認するのなら人である方がいい、そうなれば答えは一つだ。
「はやくにゃー」
「ああ、だから人型なのか」
早く早くと急かすねこだーじえると、今納得したナハト。
更にはメノウにジッと見られた時点で、結果は決まったも同然である。
「わかったよ、ってか……拒否権ないよなぁ」
かくして、場所を変えて実験は開始された。
■
模擬戦用の部屋を借り、そこにねこだーじえるが結界を張り万全を期しておく。
これで多少派手にやっても、外にはなんの影響もない。
「では、どうぞ」
「何かあってもバッチリにゃ」
ルールは少々。
ナハトは魔術を使わない。
あくまでも組み手だと自覚すること。
そんな程度だ。
「どうぞ……っていわれてもなぁ」
軽くため息を付きながらも、律儀に組み手らしき物を始めだす。
普段なら能力差は大きすぎるはずだが、身体能力が上がっていることと超能力も使っているからその差は少なくなっているとメノウは仮定していた。
それはつまり、メノウにはさっぱり目で追えないと状態だという事にもなる。
「どうです?」
「なかなかいい線行ってるにゃ。めのちゃすごいにゃ」
「ありがとうございます、どうぞ」
長いすに並んで腰掛け、進められるままにお茶とモナカを食べ始めた。
もちろん組み手をしている二人との間には結界は張り済みである。
「おいしいにゃ」
「なによりです」
濃いめのお茶をすする横でメノウが時間を計ったりしいてた。
目の前で行われている組み手とは一線を画したまったりとした雰囲気の中、メノウに変わってねこだーじえるが実況を始める。
「りょうくんのほうは超能力も使ってるにゃ」
「能力使用……っと」
「ナハトは手加減してるみたいにゃ」
速記でメモを取っていたメノウがピタリと手を止め、ナハトに向けて声をかけた。
「ナハト、もう少し真面目にしてください」
「……解った」
「ちょ、うわ!?」
唐突に強まった打撃にりょうが驚いた声を上げ見えない何かで防御する。
そんなやりとりを繰り返すこと数回。
ムラはある物の動きが少しずつ良くなってきている。
「対戦相手がナハトなのはいい案だったにゃ」
「そうですか? 二人を選んだのは何となくだったのですが」
「イメージに近い動きができるようににゃったから、ナハトを参考にできるのにゃ」
「なるほど、確かにそうですね」
同じように前を見て目をこらすが、どう変わったかは良く解らない風だった。
だからこそこのアイテムの結果がどうなっているかは、ねこだーじえるの実況にかかってくる。
「動きが良くにゃるのは、外部から取り入れる力と中の道具によってなのにゃ?」
「はい」
「アイテム以外の力も使って身体能力上がってるみたいにゃ」
「それは……個人差と言うには正確なデータが取れないような気がします」
見る限り超能力を使っているのはほぼ無意識のようだった。
これでは使わないようにと呼びかけた所でやめたりはできないだろう。
頭を悩ませるメノウに、ねこだーじぇるがポンと手を合わせて笑いかけた。
方法は幾らでもある。
「手伝うにゃ」
「本当ですか? 助かります」
「お耳かしてにゃ」
「はい」
考えついた作戦をひそひそ声で耳打ちする。
別に普通に話しても構わないのだが、それはそれ。
気分やのりという物だ。
「どうにゃ?」
「そうですね、それでお願いします」
当事者を他所にどうするかは確定し、早速行動に移すことになった。
とは言っても特になにもすることはない。
ほんの少しの間だけ、りょうの力の一部を封印させて貰うだけのことだ。
「にゃっ」
変わった瞬間が少しでも解りやすいように、ポンと手を叩く。
途端にバランスを崩すが、とっさに後ろに飛び退いて蹴りをかわす。
流石におかしいと気付いたりょうが防御を続けつつ大きな声を張り上げた。
「なっ、なにしたああ!?」
「……やめた方がいいのか?」
眉を寄せたナハトに、メノウが淡々とした口調で続ける。
「続けてください。いま……?」
「これで純粋にアイテムの力だけにゃ」
「今度はどうです?」
「動きのイメージが出来るぐらいになれてたのもあってなかなかにゃ」
騒いでも無駄だと悟ったりょうが防戦一方になり始めた。
見た目はやや押され気味といったところだが、このまま防御をとり続けていたら体力の差で負けを見るのは明らかだった。
そこではたと気付く。
「めのちゃ」
「はい、なんでしょうか?」
首をかしげるメノウはどうやら気付いていないようだ。
ある、重大な一点に。
「防御はどうしてるにゃ?」
「……え」
人であるりょうと、ワーウルフのナハトの差は力と動きだけではない。
体力と防御力と再生能力等々。
あげればきりがないとまでは行かないが、前にあげた二点の差も力と同じくらいに大きいのだ。
「これだと武器だけ持って、防具は付けてないのとおんなじにゃ」
ふと気付いたのだが、メノウから受けた説明には防御に関してはすっかり抜け落ちていたのである。
攻撃力に関していうなら二重丸だが、これだと基本となる防御や体力は人のままなのだ。
さらには、多少は防御代わりをしていた超能力も今は封じられている。
「一撃くらったら危ないにゃ」
「………あ」
小さく声を上げ、前へと視線を移す。
返答がないと言うことは、防御に関しては考えていなかったらしい。
「え、なん……?」
「よそ見を……っ!」
「ごふ!?」
声に気を取られた瞬間、ナハトの拳が見事なまでに腹部へと叩き込まれた。
バグン!
余り耳にすることは出来ないような音と共に、りょうが思い切り床へと叩き付けられる。
音の余韻を残し、室内を満たすイヤな沈黙。
「………」
「……」
「…………」
ぎりぎりで結界を張るようにしたが、果たして間に合ったかどうか?
一撃で決まったらしくまったく動かないのが不気味だ。
「いきてる、かにゃ?」
「と、取りあえず医者を……」
「し………しまったっ、医者っ!?」
急いで医者を呼びに飛び出していくナハト。
とにかく様子を見てみようと結界を解き、メノウと共に具合を確かめて見る。
「ど、どうです……」
「うーん、気絶してるだけみたいにゃ。すぐきづくにゃ」
心配なら見て貰えばいい、その程度の傷である。
意識が飛んだのは直接的なダメージからではなく、大きく体を上下させた事による脳の揺れが原因だろう。
医者が来たら改めて説明すればいい。
安そうに尋ねるメノウにそう言うとホッとしたようにその場に座り込んだ。
「そうですか……よかった」
「心配しなくても大丈夫にゃ」
流石に心配したのかと思ったが、そうではないらしい。
安心したようにメノウが言った。
「よかった……次はもっとうまくできます」
「に、にゃっ」
どうやらこの研究、まだまだ続きそうだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【2740/ねこだーじえる・くん/男性/999歳/猫神】
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■ ライター通信 ■
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続編発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。
アイテムはミスがあるとすればああいう理由からだろうなと。
機会があればまたよろしくお願いします。
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