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五つの封印石〜第一話〜
オープニング
すっかり空に闇の帳が降り、半分になった月が雲の合間から光を落とす。
神聖都学園の広大な敷地の中の一角に、その場所はあった。
肝試しのスポットともなるそこには、五つの古ぼけた石が置いてある。その石には妙な紋章が彫られていたが、その姿は苔に阻まれて見えなかった。
そこに現れたのは二つの人影だった。
肝試しに来たのだろうか、少年と少女の二人は品のない笑い声を夜空へと響かせながら歩いていた。
「こんなとこに来るぐらい、わけないっつーの！」
「幽霊なんているわけねぇじゃん」
そういいながら、足元に佇むその五つの石を目に入れた。
「これってさぁ、倒すとどうなんだろう」
そういったのはどっちだったのか、それはもうわからない。
ただ、その言葉をどちらかが吐いた瞬間、二人はその五つの石を蹴飛ばしたのだ。
「あはははー」
「祟れるもんなら祟ってみろっつーの！」
言いながら二人は背を向けてその場を去ろうとした。
しかし。
それは突如としてその場に現れたそいつらによって阻まれる。
がっしりと男の肩がつかまれた。男が肩を見ると、それは嫌に爪の伸びた手だった。
「な」
男が驚きに声を上げかけるが、それはもはや声にはならなかった。
「感謝するぞ」
その姿を見た瞬間、肩で息をすることしか出来なくなった。
「われらを目覚めさせてくれて、な」
「そうだねー。えへへー、ありがとー」
「あーあ、久々の外よ。いいものねぇ」
「サンキュー」
その場に現れた五人の異形が口々にそういう間に二人は気を失ってしまっていた。
五人はくすくすと笑いながら、神聖都学園の中にそれぞれ散っていった。
＊＊＊
「ん？」
神聖都学園に遊びに来ていた雪ノ下正風は、学園敷地内に入った瞬間に感じた違和感に首をひねった。
「なーんか、よくない雰囲気がすんだよなぁ」
コキリと首を鳴らして、しばらく考え込んでから、なじみの先生である有川に会いに行こうと歩き出した。
有川は神聖都学園でも古株で有名な教師だった。神聖都学園以外の場所では勤務したことがないとまで言われている。実際何年神聖都学園に居るのか知る者は理事長ぐらいのものだろう
有川は齢五十の、年配社会教師だった。己の研究室までも所持している。
雪ノ下はその研究室の戸を叩いた。
「はい」
中からおっとりとした声が返ってくる。雪ノ下は戸をあけた。見ると、そこに居たのは有川だ。机に本を開き、眺めている。
「よ、せんせ」
「雪ノ下君ですね。ちょうどいいところにきてくれました」
「ん？」
「昨日遅くに、五つの封印石が壊されて、異形のものが学園内に散らばってしまったんですよ」
「はぁ？」
穏やかな口調とは裏腹に、事件はあまり笑えるものではなかった。雪ノ下は、この教師のこういうところがわからないと、頭に手を当て、それから彼に再び尋ねた。
「で、俺に退治しろってことなんですか」
「君なら、可能でしょう」
雪ノ下は有川の言葉に溜息を吐き出した。
「何で学校に封印してるかねえ、厄介な物を５つも同じ場所に。ま、退治しますよ」
雪ノ下はそういって、有川に向かってにっと笑って見せた。
＊＊＊
五つの封印石があると聞いた神聖都学園の一角に現れた雪ノ下は、あたりを見渡した。五つの石が倒れているのを目にして、頭をかいた。
「ま、退治してやるかね・・索敵開始」
雪ノ下は瞼を閉じ精神を集中させた。的の居場所を探るためだ。雪ノ下の意識に一つ引っかかるものが見つかり、彼はバット目を開けた。
「体育倉庫裏」
雪ノ下はつぶやくと、駆け出した。体育倉庫裏に人ではないものが潜んでいるのがわかったのだ。
「あぶなそーなやつの封印を解きやがって」
風を切って駆ける。幸いなことに、ここから体育倉庫裏は遠くない。すぐに体育倉庫が見えて気配もずっと強くなった。
雪ノ下が裏へ回ろうとしたそのとき、上のほうから気配がし、彼は反射的に上のほうへと視線を移した。
黒い影が落ちてくるのを視界の隅に捉えると、雪ノ下は後ろに飛びのいた。
彼が居た場所に落ちてきたのは、人の形をした人とは異なるもの。頭に角のような物が生えている。
「ざぁんねん」
鬼はそういって下卑た笑みを顔にたたえた。
雪ノ下は、ゆらりと立ち上がる鬼を見ながら、拳を作る。
「俺は雪ノ下・正風、お前を殴り倒す男だ」
大きく息を吸い込むと、気弾を打った。
「あたらないぜ」
「！？」
鬼はその気弾を避けると、雪ノ下に向かってきた。
そのすばやさに気弾を放ったばかりだった雪ノ下は鬼の攻撃を受けてしまう。右肩を打たれ、痛みに顔をゆがめ、時間稼ぎのために後ろに飛んだ。
化剄で衝撃を和らげたというのに、すごい威力だ。雪ノ下は、気を落ち着け腹式呼吸で気を練り直す。その間にも鬼は目前に迫ってきていた。
「お前を、俺の最初の餌食にしてやるよ」
鬼はそう言って雪ノ下を激しく攻撃しようとした。
だが、彼は慌てることはしなかった。気を練り直し、気をまとってから、目の前に迫ってきた鬼に向かってこぶしをむける。
鬼の腹にこぶしを打ち込み、ひるんだところに蹴りを入れる。鬼の体が大きく横へと吹き飛ばされた。雪ノ下は攻撃を休めなかった。倒れた鬼の腕を掴むと、地面へ投げ飛ばし、そのままこぶしを叩きつけた。
「くそ！！」
「俺を、餌食にするんじゃなかったのか」
鬼はにやりと笑った雪ノ下の攻撃から逃れるように後ろに飛んだ。
雪ノ下はそれを見て、大きく息を吐き出して瞼を閉じる。
すると、
彼の全身から金色のオーラがあふれ出し、力が満ちる。鬼はそれに多少の危機感を抱いたように後ずさるが、プライドがどうしてもその行動を許さなかったのだろう。こぶしを握り締めると、雪ノ下のほうへ向かって走り出した。
雪ノ下は目を開いた。
そして、地面を強く蹴って大きく跳躍する。駆けてくる鬼に向かって、爪先蹴りを入れ、そこから大量の気を流し込む。
「黄龍破天腿！」
鬼の体が大きく後ろへと飛んで、体育倉庫の壁に激突した。体育倉庫の壁にひびが入り、鬼の体がずるずると壁伝いに地面へと落ちていく。
雪ノ下は完全に気絶した鬼を一瞥する。
「系統は違うが、封印すっかね。また暴れたら、困るし」
そうつぶやきながら、剣指を作る。そして、口訣を唱える。
すると、鬼の体が金色に輝き、砂のようにサラサラと風に乗って流れていく。それは小さな竜巻となり、雪ノ下の足元へと姿を消した。
「地面に封印したから、もうお前はにげれねぇぜ。残念だったな」
雪ノ下は、髪をかきあげた。そして、複雑な表情であたりを見渡すと、苦々しげな表情を顔に浮かべる。
「後四匹、か」
そのつぶやきは空気の中へと溶けていった。
エンド
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
【０３９１／雪ノ下・正風／男性／２２歳／オカルト作家】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして。
摩宮 理久です。
今回初の発注でしたが、いかがでしたか。
まだまだ戦闘シーンの描写が未熟ですが、もしよろしかったら次の作品もよろしくお願いします。
では。
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