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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


トーキョー・ラバー

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0.オープニング

「お兄さん、お兄さんっ」
珍しく、はしゃぎ気味の零。
俺は微笑みながら返す。
「ん?どした?」
「これ!どうですか?」
そう言って、零はチラシ?を差し出す。
俺は、コーヒーを飲みつつそれを受け取り見やる。

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【 第1回 東京ラバーコンテスト 】

来たれ!ラブラブカップル!!

バカップル歓迎!インテリカップル歓迎!
優勝カップルには賞金30万円贈呈!
更に旅行もついてくる!(行先は発表まで極秘!)

日時:12/1 サテラナ教会
主催:トーキョーラバー実行委員会 代表/工藤

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へぇ〜…東京ラバーコンテストねぇ。
賞金30万円+旅行か…へぇ〜…。
って、おい。
「何の冗談だ。零」
俺がチラシを返しつつ言うと、
零は、微笑んで返す。
「お兄さん、ガールフレンドたくさんいるから」
「………」
「どうかなぁ、と思って」
ガールフレンドってなぁ。
別に、多くねぇよ。…多分。
それに、これ参加条件は「恋人」だろ。
生憎、俺に恋人は いねぇ。今は。
「…うーん。やっぱり駄目ですか」
「ダメ。っていうか、相手がいねぇって……」


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1.

カチャッ―
「よし…っと」
洗い終えた食器を見やり、フゥと一息。
次は…。
あ。そうだ。コーヒー。
武彦様に煎れて差し上げましょう。
チラリと時計を見やれば、時刻は15時10分。
うん。小腹の空く頃ですね。
何か一緒に茶菓子でも。
「えーと…」
棚を開けて茶菓子を探していると。
フッと視界に入る。
壁から顔を半分だけ出してコッソリと、私を見やる 零様の姿。
普段あまり見ない零様の、その御茶目な姿に。
クスッと笑って問う。
「何か?」
零様は、はにかみ笑いを浮かべて。
トコトコと 私に歩み寄り 紅い紙を差し出す。
「…?」
首を傾げつつ、それを受け取る。
何でしょう。仕事の依頼か何かですか?
私が その紙に視線を落とす前に、零様が言う。
「お兄さんと恋人になって下さい!」
「…へっ?」
突然の申し出に漏れる、間抜けな声。
「ななサンと お兄さん、凄くお似合いだと思うんです」
「…えぇっ? そ、そんな…」
まくしたてるように絶賛する零様。
何の前触れもない突然の事態に慌ててしまう 私。
そ、そんな風に思っていたのですか。零様。
私と武彦様が お似合いだと…。
こ、光栄ですわ。武彦様の妹君にそう思って頂けているなんて。
す、少し…恥ずかしいですけれど…。
視線を逸らしつつ、私は問う。
「た、武彦様と私でよろしいのですか…?」
「はい。ななサンとなら優勝狙えます!」
「そんな…優勝だなんて。……え?優勝?」
頬を押さえつつ、俯く。頭上に浮かぶ疑問符。
零様は、ニッコリ微笑んで紙を指差す。
紙に視線を落とした途端。
私は全てを理解し、悟る。
「こ、こんてすと…です、か。…はぁ」
舞い上がってしまった自分にガックリ。
恥ずかしい事 この上ないです…。うぅ。


「駄目ですか?」
不安気な顔で、私を見上げる零様。
溜息の後。再度、紙を見やり私は微笑む。
うん。これは、そうですね。確かに、魅力的。
現状を察するに。かなり。
「構いませんよ。武彦様を、説得すればよろしいのですね?」
「わぁい!ありがとうございますっ」


「武彦様」
「ん。あぁ。どうも」
書類に目を通す武彦様。
私は、そっと歩み寄り。
デスクに煎れたてのコーヒーと、赤字明細を置く。
「ん?」
明細に気付いた武彦様はパッと、それを取り眉を寄せる。
「随分と唐突な嫌がらせだな」
私はニッコリ微笑んで返す。
「少し、危機感を持ったほうがよろしいかと」
武彦様はメモをクシャッと丸め、ゴミ箱へ放る。
ボトッ―
ゴミ箱に掠りもせず床に落ちるメモ。
それを、すかさず拾って きちんと捨てる零様。
「…お前ら」
満面の笑顔の私と零様を見て、事態を悟った武彦様は、
頭をガシガシと掻きながら、煙草に火を点ける。
パッ―
すかさず、それを取って灰皿に押し付ける私。
「あ。おい。何すんだ」
更に不愉快そうな表情の武彦様へ。
私は一言。
「禁煙」
ウンウン、と頷く零さん。
ハァ、と溜息を吐いてソファにゴロンと横になる武彦様。
こういう言い方は何ですけれど。
扱い易いと。今、心から思います。

「お前らが組むとタチ悪ぃわ…」
ボソリと零れた武彦様の愚痴に、
顔を見合わせて笑う私と零様。


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2.

12月1日。コンテスト開催当日。
会場である教会に足を運んだ私達。
人込みに嬉しそうにはしゃぐ零様と。
対照的にウンザリ顔の武彦様。
うーん…。多少強引だったかもしれないけれど。
そこまで嫌な顔しなくても…。
…ちょっと切ないです。
「じゃあ、エントリーして来ますねっ」
密かに落ち込む私を他所に、
いそいそと出場手続きを済ませに向かう零様。
「…楽しそうですね」
零様の背中を見つつ私が微笑んで言うと、
武彦様は苦笑して目を伏せ言う。
「久しぶりに見たな。あんな、零」




『それでは!第1回 東京ラバーコンテストを開始します!!!』
ワァァァァッ―
楽屋のモニターで、盛り上がる会場を目にした私は。
急に気恥ずかしくなる。
参加はしたものの…。
これ、かなり恥ずかしいのでは…。
そもそもコンテストって言うけれど。
一体何をするのか…。
…恋人コンテストというからには、やはり。
あんな事や、こんな事を…。
ポワワワッと頭に浮かぶイメージ。
私は頬を赤らめて俯く。
ど、どうしましょう…。

『今回は第1回という事もあり、至って簡素な進行になります!!!』
司会役の人の言葉に、少しだけ顔を上げる。
簡素な進行…。
それは一体どんな…。
『一組ずつ舞台に上がっていただきまして〜』
はい。
上がっていただきまして…。
『甘〜〜い ラブトークを披露して頂きます!!!』
………。
ラブトーク?
理解できずに首を傾げつつ。
パッと武彦様を見やれば。
「………」
武彦様は、腕を組んでモニターを睨んでいる。
うん…物凄く不機嫌ですね。
「…ちっ」
あっ。
今…舌打ち。
舌打ちしましたよね。
不機嫌を通り越して怒り、ですか。
ラブトーク、というものが。どんなものなのか。
私は理解できませんけれど…。
何だか、もう。
結果は目に見えているな気が、します…。


モニターに次々と映し出される恋人達。
彼等の会話を見て、私は すぐさま理解。
ラブトーク、というものが。どういうものなのか。
恥ずかしくて聞いていられない、愛の囁き。
当事者ではないのに、俯いてしまう程の、愛の囁き。
こういう事でしたか。
あの…。その…。
ヒトツ、良いでしょうか。

無理です……。

『次〜!エントリーNo.22!どうぞ〜!!!』
ビクッと肩が揺れる。
わ、私達の番じゃないですか。
ど、どうしましょう。
もう、いっそ棄権してしまいましょうか。
零さんは残念がるでしょうけれど…。
どう考えても無理です。不利です。
賞金・副賞目当てで参加するものじゃないですね。
皆さん素敵な恋人同士ですもの。
どなたが優勝しても おかしくない程に。
皆さん愛し合っていますもの。
どなたが優勝しても おかしくない程に。
短時間で一斉に頭を駆け巡る想い。
私は苦笑して。
武彦様に棄権しましょうか、と提案しようとした。
けれど。
「さっさと終わらせちまおう」
「えっ」
武彦様は、そう言って スタスタとステージへ向かう。
ちょ…ちょっと。
さっさと、って。
出るんですか?
本気ですか?
一体、どうするつもりですか…!?


『おぉ〜。これはまた、不思議なカップルですね〜!!!』
嬉しそうに言う司会役。
『さぁ!どんな甘いラブトークを披露してくれるのでしょうか!!!』
ワァァァッ―
盛り上がる観客。
モニターで見るよりも迫力のある歓声に戸惑う私。
甘いラブトークなんて。出来ませんよ…。
あぁ…どうすれば…。
急かすような歓声に、一層焦る。
どうすれば…どうすれば…っ。
俯いて必死に考えていると。
ポン―
「なな」
肩を叩いて、私の名前を呼ぶ武彦様。
私がパッと顔を上げると。
武彦様は。
「…何つー顔してんだ」
クッと笑い、私を抱き寄せる。
パフッ―
「…たっ、武彦様っ!?」
アタフタする私。
と、ととと当然です。
驚かない、動揺しない訳ないです。
ど、どうすればっ…。
困惑する私を押さえ込むように。
武彦様は、更に強く。
ギュッと抱きしめる。
武彦様の胸に顔を埋める姿勢。
体が、どんどん熱くなるのを感じる。
立っていられなくなりそうな程。
火照る体と、覚える眩暈の中。
武彦様は言う。

「いつも ありがとう」

時々。時々、凄く思うんです。
何に対しても、誰に対しても。
無関心なフリをして。

貴方は、ずるい。
それは。それは。
「私の台詞です…」


『ピュア!!なんてピュアなカップル…!!な、涙がっ…!!ううっ…!!』


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3.

「あははっ!可愛い〜!」
「…そうか?」
武彦様と零様の楽しそうな声が聞こえる。
うっすらと目を開けて、見やれば。
零様の掌で輝く…メダル?
まぁ…。本当。可愛い。
ふふ。けれど、武彦様が持つには少し。
可愛すぎますわね。
「ほらほら。お兄さんっ」
「要らねー…って、おい。こら、零っ」
両手が塞がっている武彦様は、なす術なく。
コートのポケットに、
メダルを入れた満足気な零様を見て苦笑する。

優勝は出来なかったけれど。
とても。
とても幸せです。
私は。
とても幸せです。

フッと微笑み再び目を閉じて。

武彦様の背中で。
心地良い オーバーヒート。


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    登場人物 (この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

4410 / マシンドール・セヴン / ♀ / 28歳 / スペシャル機構体(MG)

NPC / 草間・武彦

NPC / 草間・零


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          ライターより          
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こんにちは。発注ありがとうございます^^
心から感謝申し上げます。

遅くなってしまい申し訳御座いません。気に入っていただければ幸いです。

コンテスト参加の証としてアイテムを進呈致します。
作中で得たものです。ちょっと恥ずかしい代物ですが大事にしてやって下さい^^

よろしければ また お願い致します^^


2006/12/21 一檎 にあ