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ザッツ・メリー熊リマス
●それは熊の思いつき。
町は電飾に彩られ、いたるところに飾られたもみの木が置かれ、赤と白の服を着たティッシュ配りが横行する。アクセサリーショップや玩具屋はこぞってセールを開催し、プレゼント包装の種類には赤と緑の包装紙が登場する。
クリスマスシーズンだからだ。
森谷・咲姫(もりたに さき)は、鼻歌混じりで小さなクリスマスツリーを飾っていた。そこに、手触りのよさそうなテディ・ベアがやってくる。世にも珍しい、人材派遣を営む喋って歩いて飲食までするテディ・ベア、熊太郎(くまたろう)だ。熊太郎は、もふもふの前足でひょいと星飾りを手にする。
「綺麗ですね、咲姫さん」
「はい、熊様。クリスマスですから」
森谷はそう言い、頬を赤らめながら上目遣いで熊太郎を見る。熊太郎に命を助けてもらった時から、森谷の恋心は花開いている。他ならぬ、テディ・ベアに向かって。
「折角だから、クリスマスパーティでもしましょうか」
熊太郎が言うと、森谷は「いいですね」と言って微笑む。そこに「ちょっと待て!」と言いながら、野田・灯護(のだ とうご)がやってくる。
「熊公、咲姫と二人でクリスマスを祝おうとしてるのかよ?」
「いえ。登録所員の方も招いてですよ。灯護君が働いた報酬でのケーキもありますしね」
熊太郎の言葉に、野田はため息をつく。この熊太郎、野田の知らない所で野田の仕事を勝手に引き受けてくる事が多々あるのだ。勝手に引き受けてきたのだから、と無視しようとした事もある。だが、結局森谷の「頑張ってね」という一言で派遣先へと向かう事になる。勿論、派遣先での仕事が楽しいのもあるにはあるのだが。
「ただパーティをするのもつまらないですから、何かゲームでもしましょうか」
熊太郎はそう言い、30センチ四方の箱を取り出す。森谷と野田が不思議そうに箱を見ていると、熊太郎はぽんぽんと箱を叩きながら口を開く。
「この箱に入るくらいの大きさで、プレゼントを持ってきてもらうんです」
「お前、何する気だ?」
怪訝そうな野田に、熊太郎は「ふっふっふ」と笑う。
「プレゼントコンテストです。派遣所からもプレゼントを用意しますから、代わりにプレゼントを貰いましょう、という」
「熊様、ナイスアイディアです」
拍手をする森谷に、野田は冷静に「そうか?」と突っ込む。
「さあ、灯護君。皆さんにプレゼント付で来るようにと、お誘いしてきてください」
「何で俺が……」
拒否の答えを返そうとすると、森谷に「よろしくね」と微笑まれる。
「私はプレゼントを買ってこないといけないから、灯護ちゃん、よろしくね」
野田は言葉にぐっとつまる。そういわれて、やらないなんてことは出来ない。
かくして、野田は派遣所員達にクリスマスパーティの招待状を送るのだった。
●クリスマスだよ、全員集合!
シュライン・エマは縫い糸の玉止めをし、額を拭いながら「ふー」と息をつく。
「完成完成」
嬉しそうに言いながら、出来上がったものを見つめる。柔らかな手触りの、和柄の端切れで作られた手乗りテディ・ベアだ。ちょこんと手に乗るサイズのテディ・ベアは、熊太郎とはまた違った可愛らしさがある。
シュラインは出来上がったそれを、箱の中に詰めた。招待状に書いてあった、規定のサイズである30センチ四方の箱だ。それに、シュラインの作った手乗りテディ・ベアがみっちりと入っている。中には熊ではなく、何故か茸の形をしたものもあるのだが。
全てのテディ・ベアは、様々な端切れを使っている為に同じものは一つとしてない。一つ一つ手で縫っていったのも手伝い、その表情すら違ってくるのだ。
「うん、良い仕上がりになったわね」
シュラインは再び箱につまっているテディ・ベアを見つめ、小さく笑った。箱を閉め、綺麗にラッピングを施す。
これで、熊太郎が開催するというプレゼントコンテストへの準備は万全だ。
「そうそう、料理のお土産も持っていこうかしら? 軽食がいいわよね。ラザニアとか、山芋の海苔巻き揚げとか……お豆腐のディップもヘルシーで何にでも合うし」
まずは人数を聞いておかないとね、とシュラインは呟き、熊太郎の事務所に連絡する為に立ち上がった。
口元に、絶えず笑みを携えながら。
クリスマスパーティ当日、熊太郎派遣所には四人の派遣登録所員がやって来た。皆、それぞれに30センチ四方の箱を持っている。
「こんにちは。昨日連絡した料理、持ってきたわよ」
シュライン・エマはそう言って、風呂敷に包まれたタッパーたちを取り出す。それを野田が「あ、どうも」と言って受け取る。
「あ、シュ……」
「今回、違うあだ名をつけてもらってもいいかしら? クリスマスっぽく」
前回つけたあだ名で呼ぼうとした森谷をさえぎり、シュラインが言う。森谷はしばらく悩んだ後、口を開く。
「クリスマスっぽく……シュリン、かな」
「シュリン?」
「ベルを鳴らしているみたいでしょう? だから、シュリン!」
にっこりと笑いながら言う森谷に、シュラインは「分かったわ」と言って笑う。
「私もビスケットを持ってきたのです」
大きな缶を差し出しながら、マリオン・バーガンディが言った。野田が「ほいほい」と言って受け取ろうとすると、そんな野田の手に白いものが置かれた。付け髭だ。
「ええと、コレは何スか?」
「付け髭なのです。野田さんはサンタなのですから、必要なのです」
「え、俺サンタなんだ」
野田が呆然としていると、マリオンは熊太郎のところに行ってカチューシャをすっとつける。トナカイの角がついているカチューシャだ。
「熊様、可愛い」
嬉しそうに言う森谷に、熊太郎がもふもふと前足で頭をかきながら照れた。
「やっぱり似合うのです」
「素敵ね、マーディ。最高よ」
ぐっと森谷が親指を突き立てる。マリオンもそれにぐっと応える。野田だけが「俺、サンタなんだ」と小さく呟いた。
「あ、俺はクラッカー持ってきたぜ」
弓削・森羅(ゆげ しんら)はそう言って、華やかな色のクラッカーを取り出す。
「盛り上がりには欠かせないわね。有難う、みっきー」
「み、みっきー? どっから出たんだ、その名前」
にこやかに言う森谷に突っ込むと、森谷は「だって」と口を開く。
「木が三つで森羅、でしょう? だから」
「中々奥が深いな」
森羅が苦笑混じりに言うと、森谷は誉められたと勘違いしたのか「そうでしょう」と誇らしげに言った。何処にも誇るポイントは無い。某ネズミと間違えないのを願うばかりである。
「うおっ!」
突如、野田が驚きの声を上げる。体長50センチはあろうかという黄色い生き物が、ひよひよと動いていたのだ。確かめると、黄色い生き物とはヒヨコであり、その背にはちょこんと露樹・八重(つゆき やえ)が乗っていた。
「お前、凄いのに乗ってきたな」
「ふっふっふ。めりくりなのでぇすよー」
八重はそう言い、ひらひらと手を振った。ぶかぶかのサンタルックが、なんとも愛らしい。
「やっちぃは、ふわふわの生き物に乗ってきたのですね」
興味深そうに熊太郎が言うと、八重はヒヨコから降りて熊太郎を登り始める。
「ええと、何をしているんですか?」
「熊太郎しゃん登りなのでぇす。もふもふする約束だったでぇすからね」
八重はそう言い、熊太郎の頭の上に体を預ける。もふもふという触感が、なんとも心地よい。
「折角だから、皆しゃんにも登るのでぇすよ。さあ、誰から登られたいでぇすか?」
ふっふっふ、と笑いながら皆の方に向き直る。皆、顔を見合わせた後に、一斉に野田を指差した。
「え、何で俺?」
「登りがいがありそうよねぇ」
シュラインはそう言ってにっこりと笑う。
「まずは所員からだと思うぜ」
森羅はそう言ってけらけらと笑う。明らかに他人事だ。
「気が向いたら、私達にも登ってくださいね」
マリオンはそう言って笑う。八重は「任せて欲しいのでぇす」と、ぽんと胸を叩く。
「じゃあ、次は私に登ってね。やっちぃ」
嬉しそうに手をあげながら、森谷が言う。野田は小さな声で「登られたいのかよ」と突っ込むのだった。
●パーティ・パーティ!
事務所内は、森谷が用意していたサンドイッチとポテトチップスやチョコレートなどのお菓子、シュラインが持ってきたラザニアと山芋の海苔巻き揚げ、それに豆腐のディップなどの軽食、そしてマリオンの持ってきたビスケットといったように、たくさんの食べ物で溢れていた。
「たくさん食べられそうなのでぇす」
八重の目が輝く。一つ一つの食べ物を確認しているかのようだ。
「まだケーキも後で登場しますから」
森谷がそう付け加えると、八重が更に「楽しみでぇす」と言って目を輝かせた。
「飲み物のリクエストがあれば言ってくれ。一応、ジュース類はたくさん買ってきてるからな」
野田がそう言うと、びしっとマリオンの手があがる。
「ミルクティがいいのです」
「み、ミルクティ?」
「ビスケットにはミルクティが一番なのです」
マリオンはそう言ってちらりとビスケットを見た。すると、他のメンバーたちもこぞって「ミルクティ」という声があがってくる。
野田は「ああ、もう分かった分かった」と答え、紅茶の用意を始める。
「乾杯でミルクティって、何かがおかしくないか?」
「まあ、いいじゃないですか。そういうクリスマスがあっても、いいじゃないですか」
「何がいいんだ、熊公」
はっはっは、と笑う熊太郎に、野田はびしっと額にチョップを喰らわせる。といっても、中身が綿なのでふわふわの感触なのだが。
「へこんだな、熊太郎。やっぱり中身は綿なのか」
森羅はそう言って、さわさわと熊太郎の額をなでる。へこんでいた所が、ふわりと空気が入って元に戻っていく。ふかふかの毛並みが気持ち良い。毛並みというか、まあ布というか。
「綿ですよ。抱き心地が良いと、子ども達にも大評判です」
「そうだろうな」
誇らしげに言う熊太郎に、森羅はこっくりと頷いた。確かに、抱き心地が良い。これならば子ども達も大喜びする事だろう。
「ミルクティ、できたぜ」
野田はそう言って、ティカップを皆に配る。しかし数が足りなかったらしく、森谷と熊太郎、そして野田はマグカップだ。
「では、これからクリスマスパーティを始めます。熊様、一言どうぞ」
森谷に言われ、熊太郎は「こほん」と一つ咳払いをする。
「皆さん、今日は目一杯楽しんでください。そして、またよろしくお願いします」
熊太郎がぺこりと頭を下げると、ぱちぱちと拍手が起こる。そして、皆でティカップを掲げて「乾杯」である。
「絵的におかしい」
どうもしっくり来ない野田に、森羅が「まあまあ」となだめる。
「次はジュースを飲めばいいじゃん」
「そりゃそうだが」
「美味しければ、何でもいいのでぇす!」
八重がティカップのミルクティを飲み干し、高らかに宣言する。野田は諦めの顔になり、小さく「そうか、そうだよな」と繰り返した。
「シュリン、この山芋の海苔巻き揚げは美味しいですね」
もくもくと食べる熊太郎に、シュラインは「ありがとう」と微笑む。そして、熊太郎の体を観察する。それはもう、ためつすがめつ。
「どうしましたか?」
「熊太郎さん、綻びとかないかな? と思って」
「綻び、ですか」
「ええ。森谷さんがいらっしゃるから、大丈夫でしょうけど。ご自分、構わなさそうだもの」
シュラインの言葉に、熊太郎はもふもふと後頭部を掻く。全く以って、その通りだ。時折、森谷のチェックが入るから大丈夫だというだけで、普段は全く気にしていない。
「そうそう、このカードに一言書いてもらってもいいかしら?」
「いいですよ」
熊太郎はそう言い、シュラインの取り出したカードにさらさらとメッセージを書き、シュラインに手渡す。
「これでいいですか?」
「ええ。有難う」
「いえいえ、これくらいは」
熊太郎はそう言い、ミルクティをぐびっと飲み干す。そこに、森羅がひょいっと熊太郎を持ち上げた。そうして、お腹の辺りをさわさわと触る。ふわふわだ。
「どうしたんですか? 何かあります?」
「いや、無いから不思議なんだよな」
森羅はそう言い、再び熊太郎を元に戻す。食べ物や飲み物を摂取しているので、腹から本当に何も染み出してこないのかを確認したのである。
結果は、ゼロ。
ただ、手触りは抜群に良かった。さすがは、子ども達に大人気である。
「あ、羨ましいのです」
マリオンはそう言い、熊太郎をぎゅっと抱きかかえる。熊太郎が「ええと」と言って戸惑っていると、マリオンは「あ」と言ってビスケットを差し出す。
「ついつい力が入ってしまったのです。お詫びに、これをあげるのです」
「ビスケットですね。しかも、手作りのようですが」
熊太郎はそう言ってビスケットを受け取る。
「作ってもらったのです」
「ほほう、作ったわけじゃなく作ってもらった、というのが味噌ですね」
熊太郎は妙に納得し、ビスケットを口に運ぶ。甘い香りが、口いっぱいに広がっていく。
「美味しいでぇすか?」
ひょこ、と森谷の頭の上から八重が訪ねる。熊太郎はこっくりと頷きながら「おいしいですよ」と答える。
「やっちぃも召し上がってはいかがですか?」
「いただくのでぇす!」
八重は差し出されたビスケットを、嬉しそうに受け取る。体長10センチには、なかなか巨大なサイズ……なのだが、あっという間になくなってしまった。
「うーん、美味しいのでぇす。さあさあ、野田しゃん! ミルクティのお代わりはまだでぇすか?」
「そりゃいいけどよ、何で咲姫の頭に乗っかったままで食ってるんだ?」
いまだ森谷の頭の上にいる八重に尋ねると、ふっふっふと笑いながら八重がびしっとテーブルの上の食べ物を指差す。
「ぱーちーメニューが一望できて、リッチな気分になれるからでぇす!」
八重の意気込みに、皆が「おー」と言いながらぱちぱちと手を叩く。野田だけが一人、小首を傾げながら「何で?」と突っ込む。
「熊様、そろそろプレゼントコンテストを始めませんか?」
大分みなの食事が落ち着いてきた頃、森谷が言う。熊太郎は「そうですね」と頷き、皆が持ってきたプレゼントを机の上に並べた。
「それでは、始めましょうか。プレゼントコンテスト、開催します」
もふっと礼をする熊太郎に、ぱちぱちと拍手が送られた。
「さあ、次は誰に登るでぇすかね」
そんな中、八重は参加しているメンバーをじっと値踏みするように見ていくのだった。
●クリプレコン
んしょ、と八重がシュラインに登っている間に、もう一つの机に四つのプレゼントボックスが置かれていた。
「こっちが皆さんから頂いたプレゼント、そしてこちらがこの事務所が用意したプレゼントです」
事務所が用意したというプレゼントは、全部で5つ。同じ包みが四つと、違うものが一つある。
皆が不思議そうな顔をしていると、熊太郎が余った一つをぽむぽむと叩く。
「これは、コンテストで1位の人にプレゼントです。クリスマスプレゼントコンテスト、略してクリプレコンの景品という事になりますね」
「クリプレコン……略が微妙だな」
ぼそ、と森羅が突っ込む。
「森谷さんが略したような気がするのです」
ぼそ、と同意するマリオン。
「八重ちゃん、何か取りましょうか?」
あまり気にせずに、自分の頭上にいる八重を気遣うのはシュライン。
「ラザニアがいいのでぇす」
八重は食べ物に夢中だ。
「じゃあ、まずはこれから」
熊太郎はそう言い、一つ目の箱を開ける。箱の中から出てきたのは、たくさんの手乗りテディ・ベアだ。和柄の端切れで作られているテディ・ベアたちが、箱の中にぎゅっぎゅっとみっちり入っているのである。色々な端切れで作っているため、一つ一つの熊に個性がある。
「まあ、可愛い! 熊様がいっぱいね」
「いや、待て。熊だけじゃないぞ」
嬉しそうな森谷を制し、野田が気になる一つを手にする。
それは、茸。熊ではなく、茸の形をしている。
「それはご愛嬌っていうやつよ」
シュラインがそう言ってウインクする。
「これはシュリンのプレゼントでしたか」
熊太郎はそう言い、こくこくと頷く。「可愛らしい、シュリンらしいプレゼントですね」
「それじゃあ、次に行きましょう」
森谷はそう言い、二つ目の箱を開ける。開けた途端、もわっと箱から何かが溢れた。
「えっ……ええ?」
森谷が慌てて出てきたものを押さえる。野田は「咲姫!」と言いながら、森谷を救出する。
熊太郎は出てきたものを、前足でもふもふと触った。
「この心地よい触感……これは、クッションですね?」
熊太郎の言葉に、マリオンが「ぴんぽん、なのです」と言って笑う。
「お昼寝に最適なのです」
「確かに気持ちいいけど……良く入ったな、この箱に」
野田は感心しながら、出てきたクッションと箱を見比べる。一見、箱には入りきりそうに無いサイズのクッションである。
「お昼寝に最適、というのは確かですね。流石はマーディです」
熊太郎はそう言い、こくこくと頷く。
「じゃ、次だな」
野田はそう言い、次の箱を開ける。中から何が飛び出てくるのかとどきどきしたのだが、全く飛び出る気配は無い。
箱の中にあるものを取り出すと、それはたくさんの小さな袋に入った、コーヒー豆や紅茶の茶葉であった。色んな種類が少しずつ入っているという、お得感ばっちりのものである。
「おお、たくさんあるな。これ、俺の好きな茶葉だし」
野田はそう言って、中にあったキャラメルティの茶葉を取り出す。ほのかに香る紅茶の香りが、なんとも心地よい。
「まあ、コーヒーもたくさん種類があるんですね」
「これは……みっきーですか?」
熊太郎が尋ねると、森羅が「ああ」と言って頷く。
「そんだけ種類があったら、どれかがヒットするだろ?」
森羅の言葉に、熊太郎たちはこっくりと頷く。紅茶やコーヒーの種類を色々見るのも、楽しい。当分は事務所内の飲み物に不自由しないだろう。
尤も、選ぶのに時間がかかりそうだが。
「良いプレゼントですね。人を選ばないし、楽しめます」
熊太郎はそう評価し、次の箱に前足を伸ばす。「次は……」
ぱかっっと開けた後、熊太郎は箱を覗き込んで「ぷっ」と笑った。皆が不思議そうに見ていると、熊太郎は笑いながら箱の中身を取り出す。
出てきたのは、サンタクロースの蝋燭だ。
皆の目が、いっせいに八重に向けられた。八重は「な、なんでぇすか、その目はー」と言いながら笑う。
「高価なものじゃなくても良いじゃないでぇすかー。要は気持ちの……」
「これって、ケーキの上にささってる蝋燭よね?」
森谷が八重の言葉をさえぎり、確認するように言う。八重は「え?」と言いながらもこっくりと頷く。
「なら、土台となったケーキはどうしたのかしら? やっちぃ」
鋭い突っ込みに、八重がぎくりと体を震わせる。そうして大きく息を吐き出し、窓から外を見つめる。
「世の中には、知らなくても生きていけることが、たんまりあるのでぇすよ」
「ほほう、これがその知らなくても生きていける事なのですね」
熊太郎はそう言い、蝋燭をふりふりと振る。八重はそんな熊太郎に向かい、にやりと笑う。
「あまり突っ込むと、もふもふするでぇすよー?」
八重はそう言ってシュラインの頭から熊太郎の方へと飛びかかる。見事、熊太郎の腹でキャッチした。もふもふとする八重の顔は、なんとも幸せそうだ。
「これで全部ですね。では、1位を決めましょうか」
そう言うと、熊太郎・森谷・野田の三人が集まって、ごそごそと話を始めた。そうしてしばらく経った後、熊太郎が真ん中に現れた。
「それでは発表します。1位は……マーディ!」
ぱちぱちぱちー、と拍手が起こる。
「シュリンの熊様てんこ盛りも、すっごく素敵なんだけどね」
と、森谷。シュラインは「ありがとう」と言って微笑む。
「コーヒーと紅茶だって、すっげいいんだけど」
と、野田。森羅は「そうだろ?」と言って、にっと笑う。
「驚きと使い勝手を考えて、選びました。あ、蝋燭も可愛らしくてよかったですよ」
と、熊太郎。マリオンは嬉しそうに「驚いてもらえたのです」と言った。
「おまけのようなのでぇす」
軽く御立腹の八重。それを見て、皆が笑った。
「それじゃあ、みなさんにプレゼントと……これはマーディに」
熊太郎がそう言うと、皆にプレゼントを一つずつとマリオンに更に追加プレゼントを手渡していく。
「プレゼント、帰って開けてみてくださいね」
森谷の言葉に、プレゼントの箱を開けようとした皆の手が止まった。
「それじゃあ、一応閉めるか」
野田の言葉に、皆が頷いた。すると森谷が皆にクラッカーを一つずつ手渡す。
「みっきーが持ってきてくれたクラッカーなんですよー」
「お、ここで使うんだ」
最初に登場しなかったので使わないのかと思っていた森羅が言うと、野田が苦笑交じりに口を開く。
「最初がミルクティだったからな」
「それじゃあ、皆さんいっせいに。せーのっ」
熊太郎の言葉と同時に、皆がいっせいに紐を引っ張る。
ぱーんっ!
事務所の中が、景気の良い音でいっぱいになる。華やかな紙吹雪が飛び散り、つん、と火薬の匂いが鼻につく。
クラッカーを鳴らすと、何故か笑いが出てくるから不思議だ。皆、クラッカーを鳴らした後でくすくすと笑っている。
熊太郎は皆を見回し、にっこりと笑った。
「皆さん、メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
また再び、笑い声が事務所内に響くのだった。
●さて、プレゼントは。
シュラインは、貰ったプレゼントの箱を開ける。中から出てきたのは、様々な種類の小さな石鹸たちだ。林檎や苺、パイナップルといったフルーツ系の石鹸がたくさん入っている。
「まあ、良い匂いね」
ふふ、と笑いながらシュラインは石鹸を一つ一つ確かめる。色も形も様々で、なんとも可愛らしい。たくさん熊のぬいぐるみを詰めたかいがあったというものだ。
「そういえば、カードには何て書いてくれたのかしら?」
シュラインはそう言いながら、パーティの途中で熊太郎に書いてもらったメッセージを確認する。すると、そこには『クリスマスは奇跡の起こる日ですよ』と書いてあった。
(熊太郎さんらしいわね)
そのカードを渡す予定である草間の顔を思い返し、ぷっとシュラインは笑った。恐らく、苦い顔をすることだろう。昔から、熊太郎が絡むたびにそうであったように。
「あら」
確かめていく中、シュラインはふと気付く。小さな熊のクリップにカードがついているのだ。
『メリークリスマス! 素敵な夜を』
「ここにも、熊太郎さんがいるのね」
シュラインはそう言いながら熊のクリップをカードからはずす。その後「いえ、ジュニアかしら」と小さく呟き、そっと笑うのだった。
<フルーツの匂いに包まれて・了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 0086 / シュライン・エマ(シュリン) / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1009 / 露樹・八重(やっちぃ) / 女 / 910 / 時計屋主人兼マスコット 】
【 4164 / マリオン・バーガンディ(マーディ) / 男 / 275 / 元キュレーター・研究者・研究所所長 】
【 6608 / 弓削・森羅(みっきー) / 男 / 16 / 高校生 】
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■ ライター通信 ■
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ちょっと遅れましたが……メリークリスマス!
お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度は「ザッツ・メリー熊リマス」にご参加いただき、有難うございます。
クリスマスから少し遅れてのクリスマス会でしたが、如何だったでしょうか。皆様のプレゼントがどれも素敵で、派遣所所員達も喜んでいる事でしょう。
シュライン・エマ様、いつもご参加いただき有難うございます。プレゼント、めちゃめちゃ可愛いですね! 個人的に「それ欲しい」と思いました。しかも茸まで。茸は件の研究所で所長大ハッスルの代物になりそうです。
今回も少しずつですが、個別の文章となっております。他の方が何を貰ったか、暇なときにでも見てやってください。
ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。
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