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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


プチサンタ


 きらめくライト、鳴り響くメロディ、華々しい雰囲気。
 クリスマスイブに行われるファッションショーとライブが融合した企画イベントは、毎年多くの人が訪れ、人気を博している。
「すごいのー」
 藤井・蘭(ふじい らん)はそう言って、自らが纏った服を見て笑う。赤と白を基調としたふわふわした触感のコートが、なんとも心地よい。フードまでぱふっとかぶると、全身がぬくぶくとしてくる。
「蘭ちゃんのも素敵ね!」
 そう言って水鏡・雪彼(みかみ せつか)は蘭のコートを触る。
「雪彼ちゃんも可愛いのー」
 蘭に誉められ、雪彼は「ありがとう」と笑う。雪彼が着ているのも、やっぱり赤と白を基調としている。ただ、こちらは赤と白のひらひらしたレースが幾重にもなっており、ぱっと見薄紅色にも見える。それにファーがいたるところについており、ふんわりとした女の子らしいドレスになっている。
 二人は顔を見合わせ、ふふふ、と笑い合う。どちらも互いの衣装の素敵さを称えあっているかのようだ。
 クリスマスイベントに、蘭も出てみないかと誘ったのは雪彼だった。主催側のデザイナーが親戚であるからと、毎年モデルよろしくこのイベントに借り出されていた雪彼だったが、折角だからと蘭を誘ったのだ。同じく主催している音楽系プロダクションも、そのことを快く承諾してくれたため、蘭の出演が決まったのだ。
「雪彼ちゃん、お姫様みたいなの」
「蘭ちゃんもサンタさんみたい」
 再び言い合い、ふふ、と笑い合う。その様子を見て、他の出演者も微笑んでいる。可愛い二人が、サンタをモチーフにした服を着こなして笑っている。それだけで、笑顔が自然と出てくる。
 ステージの方は、レディース、メンズ、キッズという順でファッションショーが行われ、最後に歌手達のライブが行われた。最後に出演者全員でステージに上がり、大きく一礼して終了である。
「蘭ちゃん、そろそろ出番よ」
 雪彼はそう言って蘭の手を握って引っ張る。蘭は「はいなのー」と答え、雪彼の手をぎゅっと握り返す。
 ステージ袖で出番を待っていると、ふと曲が変わった。蘭と雪彼が登場するための音楽なのだが、それが何故か違和感がある。
「こんな曲だったかなー?」
 リハーサルと違う音楽に、雪彼は小首を傾げる。
「分からないのー」
 蘭も小首を傾げる。テレビやラジオでも聞いた事のない、正体不明の歌手だ。二人が「うーん」と悩んでいると、スタッフから出番である事を告げられた。
 二人は考える事をやめ、手を繋いだままステージへと飛び出した。可愛らしい二人の登場に、わあ、と会場が沸く。それに応えるように、二人はちょこんと礼をして、楽しそうにステージ中央へと進んでいく。にこにこと笑いながら音楽に合わせて歩く姿は、観客の目を楽しませた。二人のステージは大好評だったらしく、ステージ袖に引っ込んだ後も拍手が響いていた。
 そうこうしている内に、全てのイベント内容が終了した。大成功に終わったイベントに、出演者達は嬉しそうに会話を交わす。
「蘭ちゃん、やっぱり遅くなっちゃったね」
 空を見上げながら、雪彼が言う。既に真っ暗になってしまい、星が輝いている。
「雪彼ちゃんのお家に泊まるって伝えておいて、良かったのー」
 にこ、と蘭は笑う。雪彼も「ねー」と言いながら頷く。
 そんな中、突如蘭が「あれ」と呟く。
「どうしたの? 蘭ちゃん」
「外に、何かいるの」
「何か?」
 不思議そうな雪彼に、蘭はこっくりと頷く。「こっちなの」といいながら、蘭は走り出した。雪彼も慌てて蘭を追って走り出す。
「雪彼ちゃん、あそこなのー」
 蘭がそう言って指差す先には、トナカイがいた。がっくりとうな垂れたそのトナカイには、大きな白い袋を乗せたソリが繋がっている。
「トナカイさん?」
「哀しそうなの」
 二人がぱたぱたと駆け寄ると、トナカイが顔を上げた。
「あなた達は……?」
「僕は藤井・蘭なのー」
「水鏡・雪彼よ。トナカイさん、どうしたの?」
 トナカイは繋がったソリを見、大きなため息をつく。
「実は、サンタさんが忘れ物をしたといってちょっとだけ戻ったんですね。待ってたんですけど、凄くいい音楽が聞こえてきて、つい」
「いい音楽?」
「あなた達が楽しそうにしていた音楽です」
 トナカイの言葉に、二人は「あ」と声をあげる。ファッションショーでBGMとしてかかっていた、あの音楽だ。リハーサルとは違った、あの。
 トナカイは「ああ、どうしよう」と言いながらがっくりとうな垂れた。
「今夜中にプレゼントを配らなくてはいけないのに、サンタさんは」
 くしゅんくしゅんと泣き始めたトナカイに、ぽんぽんと蘭と雪彼が体を撫でる。
「じゃあ、代わりに雪彼達が配ってあげる!」
「任せて欲しいの!」
 ぐっと力強く二人が言う。トナカイは「いいんですか」と言いながら、ぱあ、と顔を綻ばせた。二人は顔を見合わせ、トナカイに向かってにこっと笑いながら頷いた。
「それじゃあ、ソリに乗ってください。プレゼントを渡す子ども達のところへ連れて行きますから」
 トナカイはそう言い、自らに繋がっているソリを指し示した。まずは蘭がソリに乗り、雪彼がソリに乗るのを手伝う。
「出発進行なのー!」
「レッツゴー!」
 きゃっきゃっと二人同時に掛け声をかける。それを皮切りに、トナカイは地を蹴った。すると、一瞬のうちに星が瞬く夜空にソリが走っていた。二人は空の中を駆けるソリの縁を持ち、感嘆する。
「きれい!」
「すごいの!」
 嬉しそうな二人の声に、トナカイの速度も上がる。そうして、町から離れた一軒の建物の屋根に止まった。
「ここは、孤児院ですね。結構な量がありますから、何度かに分けていった方がいいでしょう」
 トナカイの言葉に、蘭と雪彼は「はーい」と返事をする。渡すプレゼントをトナカイが仕分けし、それを蘭と雪彼が持っていく。結構なプレゼントの量に、二人は何度も往復をした。
 ようやく配り終えた二人に、トナカイは「お疲れ様です」と声をかける。
「大変だったでしょう?」
 そう言うと、蘭と雪彼は顔を見合わせてからにっこりと笑う。
「でも、楽しいよ。だって、雪彼達がサンタさんなんだもの」
 雪彼が「ね、蘭ちゃん」といいながら蘭を見ると、蘭もこっくりと頷く。
「皆にクリスマスプレゼントをあげるのは、凄い事なの」
 楽しそうな二人に、トナカイは嬉しそうに頷き、再びソリに乗るように指示する。
「それじゃあ、次に行きましょう」
「皆にクリスマスプレゼントなの!」
「再びレッツゴーね!」
 トナカイの言葉に、蘭と雪彼はきゃっきゃっと答える。そうこうしているうちに、再び夜空へとトナカイが駆け上がっていく。
「次はどこなのー?」
「次は……茸の王国ですね」
「茸さん?」
 きょと、と蘭が小首を傾げる。
「それって、この世界じゃないよね? 異世界にも行っちゃうの?」
 声が弾む雪彼に、トナカイが「はい」と答える。二人は顔を見合わせ、きゃーと手を叩く。
「凄いの!」
「雪彼たち、世界を旅してるみたい!」
 嬉しそうに笑う雪彼と蘭に、トナカイはただ微笑んだ。プレゼントを配るという大仕事に、嫌がるどころか嬉しそうにやってくれる。サンタとしての素質がある、と心なしか嬉しそうだ。
「この分だと、ビームを出す日も近いのー」
「びーむ?」
 突如言い出した蘭に、雪彼は不思議そうに小首を傾げる。
「そうなの。サンタさんには、人を笑顔に出来るサンタビームっていう技があるのー」
「そんな技があるんだ。雪彼も、出したいな」
「大丈夫なの。雪彼ちゃんも、出せるの」
「本当?」
「本当なの! その証拠に、僕は笑ってるの」
 にこにこと笑う蘭に、雪彼は「じゃあ」と言って笑う。
「蘭ちゃんもビーム出せてるよ。だって、雪彼も笑ってるもん」
 二人でにこにこと笑い合う。トナカイは「そんな技、あったっけ?」と不思議に思いつつも、口には出さなかった。楽しそうに話している二人に「そんな技は無い」と言って、水を差す必要など何処にもない。
 しばらくすると、もごもごと動く茸の王国に到着する。色鮮やかなかさをした茸たちの枕元に、蘭と雪彼はプレゼントを置いていく。
「中身、何なのかな?」
 箱を手に不思議そうにする雪彼に、蘭も「うーん」と悩む。
「分からないのー」
 茸が何を貰って喜ぶのか、いまいち想像しにくい。
「でも、きっと喜んでもらえるものだよね」
「勿論なの。僕達、サンタさんだから大丈夫なの」
 にこ、と笑い合う。そうして、小さな茸の子ども達を起こさぬように、そっと家から出た。
 ソリに戻り、また次の世界へと移動する。プレゼントを配り、また次の世界に。
 そうして、ようやくソリの上にあった大きな袋はぺちゃんこになった。
「終わったのー」
「終わったねー」
 元の世界に戻ってきて、二人は嬉しそうに飛び跳ねた。トナカイも嬉しそうに「有難うございます」と頭を下げる。
 そこに、大きな体のおじいさんが現れた。赤と白の服に、長い白いひげ。
 サンタクロースだ。
「あ、サンタさん。プレゼントなら、無事に配り終えましたよ」
 嬉しそうに報告するトナカイに、サンタは「ほほう」と言って笑い、蘭と雪彼の頭をがしがしと撫でた。
「これはこれは、小さなサンタさんたちだ」
「大きなサンタさんなのー」
「凄いのね、大きいのね」
 きゃっきゃっと嬉しそうな二人に、サンタクロースは「おお、そうだ」と言って袋を取り出す。
「君たちの分があるんだよ。プレゼント」
「本当なの?」
「もちろん」
「雪彼たち、サンタさんなのにもらえるの?」
「君たちはサンタであると同時に、とても良い子だからね」
 サンタはそう言い、二人にプレゼントを渡す。雪彼のはレモンイエローの包装紙に包まれたプレゼントで、蘭のは若草色の包装紙に包まれたプレゼントだった。
「ありがとうー」
「ありがとうなの」
 二人が礼を言うと、サンタクロースは嬉しそうに頷き、トナカイと共に去っていった。
 その途端、ステージの方からざわざわと音が聞こえてきた。随分時間が経っているように感じたが、終了してすぐの状態とあまり変わりがないようだ。
「時間、経ってないのかな?」
 不思議そうに雪彼が言うと、蘭は「そうかもしれないの」と言って頷く。
「そうだ、雪彼ちゃん。プレゼント、見てみるのー」
「うん、見てみよう」
 二人はそう言い、プレゼントを開ける。
 雪彼は「あ」と声を上げる。確かに控え室においていたはずの包みが、赤と白と緑の毛糸で編まれた大きな靴下と一緒に入っていたのだ。
 同じく、蘭も「あ」と声を上げていた。同じく控え室においておいた包みが、雪彼と同じ靴下と一緒に入っていたのだ。
 二人は顔を見合わせ、にこっと笑う。
「蘭ちゃん、めりーくりすますー」
 雪彼はそう言い、包みを渡す。中身はクッキー、蘭へのクリスマスプレゼントとして持ってきたものだ。
 蘭は「ありがとうなの」と言いながら受け取り、同じように包みを差し出す。
「雪彼ちゃんも、めりーくりすますなの」
 雪彼は「ありがとう」と言って包みを受け取る。中身は熊のリュックサック。雪彼へのプレゼントとして持ってきたものだ。密かに、蘭とおそろいでもある。
「ありがとう、蘭ちゃん」
「僕もありがとうなの」
 二人は顔を見合わせて「ふふふ」と笑う。そうして、互いのプレゼントをそれぞれの靴下に入れ、手を繋いで走り出した。
 その時、空に一筋の星が流れた。あるいは、あのサンタクロースとトナカイが乗ったそりだったかもしれない。


<鈴の音がどこからか聞こえ・了>