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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■鐘つき、ゆく月
 年越し蕎麦も食べ終わり、後は除夜の鐘を聞くばかり。
 しんしんと冷える、月の明るい夜だ。
 草間・武彦と零は、こたつにもぐって「ゆく年くる年」を見ている。
「お兄さん」
 みかんを手にしながら、零はためらいがちに問う。
「あの、今日は除夜の鐘を聞きに寺に参りませんか」
「……そんな庶民的なことはしたくねーなぁ」
 答えてから、はたと気づく。
(そうか。零は初詣をしたことがないんだ)
 残念そうにそうですか、と言ってうつむく零を見て、武彦は頭をかいた。
「零、わかった。皆も誘って、寺に行こう」
 零は顔を上げ、うれしそうに笑った。

■一時だよ! お寺で集合
 鐘の音はすでに鳴り響いていた。漆黒の虚空に漂う、荘厳な音。
 二人の男女が歩いているのが見えた。女性は、真っ赤な髪をしどけなく背中に垂らしていて、背が並の男性よりも高い。男性はスーツ姿で、中性的な顔立ちをしており、やわらかく笑んでいる。彼らを追うように那智・三織は合流した。待ち合わせ場所には、すでにシュライン・エマと零がいた。
 かくりと肩を落とし、師の隣に立つ彼を見る。
「……なんで響さんがここに……」
 その視線にまったく気がついていないように、棗・響はにこにこと気の抜けるような笑顔を浮かべている。
「ちょっと小耳に挟んだものだから遊びに来てみましたー」
「どうやって知ったんだ……」
「ああ、それは」
 日置・紗生が言いかけたのを遮って、意地悪く笑みを浮かべると人差し指を唇に当てた。
「秘密☆」
「……〜〜〜っ〜〜〜……」
 三織は何か言いかけたけれど、かっくりと肩を落とし口を閉ざした。絶対に遊ばれている。
「エマさんおっひさー」
 響が腕を組んで微笑む。シュラインはにこやかに返した。
「おひさしぶりね」
「零ちゃん初めまして! 棗・響です。こちらの素敵な女性は日置・紗生さん。こちらの可愛い女性は那智・三織ちゃんだよ。今日はよろしくね」
「貴様に紹介されたくない」
「ひどいなぁ、三織ちゃん」
 紗生は少しかがんで、零に目線を合わせる。零は小首をかしげた。
「零ちゃん、今日が初めての『初詣』なんだって?」
「はい。今日はよろしくお願いします。集まってくださって、うれしいです。ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げる零に、一同はほんわかと和んだ。
「武彦さん遅いわね」
 シュラインが携帯を片手に唸る。連絡を入れようと携帯のボタンを押していると、武彦が走ってやって来た。隣には、すらりとした黒いロングコートを着ている女性が颯爽と歩いている。
「ひゅー☆ カッコいい」
 響は歓声の代わりに口笛を吹く。二人は何があったのか、憮然とした表情を浮かべている。
「あたしは日置・紗生だ。よろしく頼むよ! あんたの名前は何て言うんだい」
 紗生の言葉に、すこし照れたように目を合わせないまま彼女は言った。
「黒・冥月だ」
「そう言えば何で紋付き袴じゃないんだ」
 武彦の言った言葉に眉をぴくりと動かし、すみやかに足を蹴り上げた。見事に武彦の側頭部に当たる。
「私は女だ」
 武彦はその場に突っ伏した。三織はそのやりとりを見ながら、胸をときめかせていた。
(この女……私と近いものを感じる)
「あっれ。三織ちゃん、恋でもしたの?」
 じろりと見てやったけれど、響は飄々としてにこやかなままだ。
 からかっておいて放置プレイ。それが響のやり方。真面目な性格だとはよく言われるけれど、こんな言い方をされるとつい反応してしまう。かといって、決して嫌いではないのだけれど。
「嫌い嫌いも、好きのうちらしいがね」
 豪快に笑う紗生に、一同は何で今このタイミングでと反論したかったがやめておいた。倒れていた武彦は起き上がり、服についたものを払ってから気を取り直した。
「全員そろったことだし―――行くか」

■除夜の鐘
 いつもならひっそり閑としている寺の夜。今日は賑わしく、どこかおごそかな気持ちになる。着物を着ている女性や子供連れ、カップルなどいろんな人たちが通り過ぎてゆく。張りつめたような冷たい空気とあたたかそうなオレンジ色の屋台の光が混ざると、妙にわくわくした気持ちになる。
「零ちゃん、鐘を撞きに行くのはどう?」
 シュラインが提案すると、零は顔を上げて笑った。紗生が零の肩に手をのせ、
「一緒に並ぶか。あたしも久々に鐘を撞きたい」
「じゃあ、俺も行こうかな」
 響をギロリと睨み、なんでとてもとても嫌そうに無言のまま、むっつりして三織は紗生の後について行く。
「師匠、除夜の鐘って108回ですよね」
「ああ、そうだね」
「これって、もう108回以上鳴らしてますよね」
 二十人近い人が並んで鐘を撞いている列の最後尾に並ぶ。一人一人が鐘を撞いてはほっとした表情を浮かべる。
「こんなもん、気持ちだからいいんだよ」
 順番はすぐに回ってきた。最初に零に撞かせてあげようとしたが、
「私、一番最後でいいですか?」
 と言われたためまずは紗生から鐘を撞いた。いい音が鳴る。耳に響く鐘の音に紗生は頷く。
「うーん、風情があるねぇ」
 次は三織である。すこし緊張したような面持ちで、鐘木を動かす。意外に弱く撞いてしまったようで、小さな音が出た。
「……なんて中途半端な音なんだ」
「じゃっ、次俺行くよー」
 響は慣れた手つきで鐘木を鐘に当てた。ほどよい音がする。
 そしていよいよ、零の番になった。零はドキドキと心臓を震わせて、鐘木についている小綱を引っ張る。すると、ぐぉーん、とあり得ない大きな音がした。尋常ではない。まるで地響きだ。すごい勢いで鐘が揺れている。一行は素早くその場を後にした。
「いやぁ元気な子だ!」
 やはり豪快に笑う紗生は、笑いすぎたのかすこし涙目になっていた。対する零はしょぼんとうつむいている。
「ごめんなさい。弱く撞いたつもりだったんですけど」
「見た目の割に、すごい力ですね」
 三織の言葉に零はぴくりと体を震わせた。
「あっ、辛口〜! 零ちゃんが泣きそうじゃない! ダイジョブ? 零ちゃん」
 さすがに慌てて三織が言った。
「えっ、いやあの、泣かなくていいんですよ全然ッ。おみくじ! おみくじ、ひきませんか」
 三織が零の手をとって、本堂へ向かう。シュラインと武彦を残して、紗生と響、冥月が歩いていく。

■おみくじはいかが?
「どうやったらいいんですか?」 
 おみくじ初体験の零は、紗生にたずねた。
「こうやればいいんだよ」
 おみくじ代の百円を白木の箱に入れて、木製のおみくじ箱を逆さにして振る。すると、小さな穴から細い棒が出てきた。
「すみません、八番おねがいします」
 八番のおみくじをもらい、中を開くと大吉だった。
「こんな感じだ! やってみな」
 恐る恐る、零は同じようにおみくじ箱を振る。棒に書かれていたのは二十三番。開いてみると、大吉だった。
「よかったね! 大吉ってのは、一番いいんだ」
 聞いてうれしそうに笑い、おみくじをぎゅうと抱きしめた。
 三織もおみくじをやってみると、吉だった。響はといえば、凶だった。のぞき込んだ三織は鼻で笑って、
「名前が名前だけに、凶なわけだ」
「えっ、でもそれって、逆にツイてるのかもしれないってことじゃない?」
「いや、いい方に考えすぎだろう」
 言いながら、自分のおみくじの『願いごと』というところを見ると三織は顔をほころばせた。
 ―――『願いごと 全て叶う』
「じゃあ次は、お賽銭ね!」
 腕を振り上げた紗生に、さりげなく声をかける。
「師よ、順番が違うのでは……みくじを引く前に……」
「あんた、そんな小さいこと気にするんじゃないよ! さぁ、行くよ! あんたたちっ」
「……はい」
 気の抜けたような返事をして、一同はようやく本堂に歩き出した。

■お賽銭とお祈り
 そうして、一同はお賽銭を投げる。
「師、ひとつお願いをしてもよろしいですか」
 三織はささやくような小さな声で言った。
「どうした」
「さ、財布を忘れてきてしまって……十円、お借りしてもいいでしょうか」
「ああ、いいよ」
「えーっ、三織ちゃん、新年早々やっちゃったねぇ!」
「うるさいなぁ」
 響は三織に悠然と微笑む。
(……まぁ、いいか。と思ってしまうんだ。この表情を見てると)
 もらった十円玉を投げる。そうして、手を合わせ、祈る。何を祈ったかは、三織だけが知っている。それでいい。―――叶えてみせる。現実にする。

■そして、朝を迎えて
 事務所に戻ると、皆でシュラインお手製のお節を食べた。その時には、零は晴れ着を着ていた。赤い豪奢な金銀の模様がある着物。赤がよく映えて、とても可愛かった。
 そんな、平和でおだやかな一年のはじまり。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【4412 / 日置・紗生 (ひき・さお) / 女性 / 37歳 / システム屋】
【4315 / 那智・三織(なち・みおり) / 女性 / 18歳 / 高校生】
【4544 / 棗・響 (なつめ・きょう) / 男性 / 26歳 / 『式』の長】
※整理番号順

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■         ライター通信          ■
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