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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■鐘つき、ゆく月
 年越し蕎麦も食べ終わり、後は除夜の鐘を聞くばかり。
 しんしんと冷える、月の明るい夜だ。
 草間・武彦と零は、こたつにもぐって「ゆく年くる年」を見ている。
「お兄さん」
 みかんを手にしながら、零はためらいがちに問う。
「あの、今日は除夜の鐘を聞きに寺に参りませんか」
「……そんな庶民的なことはしたくねーなぁ」
 答えてから、はたと気づく。
(そうか。零は初詣をしたことがないんだ)
 残念そうにそうですか、と言ってうつむく零を見て、武彦は頭をかいた。
「零、わかった。皆も誘って、寺に行こう」
 零は顔を上げ、うれしそうに笑った。

■一時だよ! お寺で集合
 鐘の音はすでに鳴り響いていた。漆黒の虚空に漂う、荘厳な音。
 日置・紗生は、弟子である那智・三織から除夜の鐘を聞きに行きませんかと誘われ、たまたま他の用事で電話をかけて来た棗・響と合流、一緒に寺まで出かけることになった。
「寒いねぇ」
「そうですね」
 響はいつにもまして楽しそうに笑っている。
「どうしたんだい? そんなにやけ顔」
「いえ、俺を見た時の三織ちゃんの反応が楽しみだなぁと思いまして」
 響と三織は仲が悪いわけではない。紗生が見たところ、二人ともお互いに気を許しているようだった。悪友、親友。いろんな表現の仕方ができる二人。
(まぁ、あたしは二人が幸せになってくれればそれでかまわないしねェ)
 零とシュライン・エマは、一足先に寺の門の前で待っていた。
 ちょうど同じタイミングで合流したのは三織だった。三織はかくりと肩を落とし、師と共にやって来た響を見た。
「……なんで響さんがここに……」
 その視線にまったく気がついていないように、響はにこにこと気の抜けるような笑顔を浮かべている。
「ちょっと小耳に挟んだものだから遊びに来てみましたー」
「どうやって知ったんだ……」
「ああ、それは」
 紗生が言いかけたのを遮って、意地悪く笑みを浮かべると人差し指を唇に当てた。
「秘密☆」
「……〜〜〜っ〜〜〜……」
 三織は何か言いかけたけれど、かっくりと肩を落とし口を閉ざした。
「エマさんおっひさー」
 響が腕を組んで微笑む。シュラインはにこやかに返した。
「おひさしぶりね」
「零ちゃん初めまして! 棗・響です。こちらの素敵な女性は日置・紗生さん。こちらの可愛い女性は那智・三織ちゃんだよ。今日はよろしくね」
「貴様に紹介されたくない」
「ひどいなぁ、三織ちゃん」
 紗生は少しかがんで、零に目線を合わせる。零は小首をかしげた。
「零ちゃん、今日が初めての『初詣』なんだって?」
「はい。今日はよろしくお願いします。集まってくださって、うれしいです。ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げる零に、一同はほんわかと和んだ。
「武彦さん遅いわね」
 シュラインが携帯を片手に唸る。連絡を入れようと携帯のボタンを押していると、武彦が走ってやって来た。隣には、すらりとした黒いロングコートを着ている女性が颯爽と歩いている。
「ひゅー☆ カッコいい」
 響は歓声の代わりに口笛を吹く。二人は何があったのか、憮然とした表情を浮かべている。
「あたしは日置・紗生だ。よろしく頼むよ! あんたの名前は何て言うんだい」
 紗生の言葉に、すこし照れたように目を合わせないまま彼女は言った。
「黒・冥月だ」
「そう言えば何で紋付き袴じゃないんだ」
 武彦の言った言葉に眉をぴくりと動かし、すみやかに足を蹴り上げた。見事に武彦の側頭部に当たる。
「私は女だ」
 武彦はその場に突っ伏した。三織は冥月をじっと見つめている。
「あっれ。三織ちゃん、恋でもしたの?」
 三織はむっとしたような表情を見せたが、響は飄々としてにこやかなままだ。二人の姿を見ていると、なんとなく言葉が滑り出た。
「嫌い嫌いも、好きのうちらしいがね」
 なぜか全員から困惑したような視線を向けられた。
 倒れていた武彦は起き上がり、服についたものを払ってから気を取り直した。
「全員そろったことだし―――行くか」

■除夜の鐘
 鐘の音はやまない。いつもならひっそり閑としている寺の夜。今日は賑わしく、どこかおごそかな気持ちになる。着物を着ている女性や、子供連れ、カップルなどいろんな人たちが通り過ぎてゆく。
「零ちゃん、鐘を撞きに行くのはどう?」
 シュラインが提案すると、零は顔を上げて笑った。紗生が零の肩に手をのせて、
「一緒に並ぶか。あたしも久々に鐘を撞きたい」
「じゃあ、俺も行こうかな」
 響、そして三織がついてきた。三織がふっと思い出したように尋ねる。
「師匠、除夜の鐘って108回ですよね」
「ああ、そうだね」
「これって、もう108回以上鳴らしてますよね」
 二十人近い人が並んで鐘を撞いている列の最後尾に並ぶ。一人一人が鐘を撞いてはほっとした表情を浮かべる。
「こんなもん、気持ちだからいいんだよ」
 順番はすぐに回ってきた。最初に零に撞かせてあげようとしたが、
「私、一番最後でいいですか?」
 と言われたためまずは紗生から鐘を撞いた。いい音が鳴る。耳に響く鐘の音に紗生は頷く。
「うーん、風情があるねぇ」
 次は三織である。すこし緊張したような面持ちで、鐘木を動かす。意外に弱く撞いてしまったようで、小さな音が出た。
「……なんて中途半端な音だ」
「じゃっ、次俺行くよー」
 響は慣れた手つきで鐘木を鐘に当てた。ほどよい音がする。
 そしていよいよ、零の番になった。零はドキドキと心臓を震わせて、鐘木についている小綱を引っ張る。すると、ぐぉーん、とあり得ない大きな音がした。尋常ではない。まるで地響きだ。すごい勢いで鐘が揺れている。一行は素早くその場を後にした。
「いやぁ元気な子だ!」
 やはり豪快に笑う紗生は、笑いすぎたのかすこし涙目になっていた。対する零はしょぼんとうつむいている。
「ごめんなさい。弱く撞いたつもりだったんですけど」
「見た目の割に、すごい力ですね」
 三織の言葉に零はぴくりと体を震わせた。
「あっ、辛口〜! 零ちゃんが泣きそうじゃない! ダイジョブ? 零ちゃん」
 さすがに慌てて三織が言った。
「えっ、いやあの、泣かなくていいんですよ全然ッ。おみくじ! おみくじ、ひきませんか」
 三織が零の手をとって、本堂へ向かう。シュラインと武彦を残して、紗生と響、冥月は三織たちの後についていった。

■おみくじはいかが?
「どうやったらいいんですか?」 
 おみくじ初体験の零は、紗生にたずねた。
「こうやればいいんだよ」
 おみくじ代の百円を白木の箱に入れて、木製のおみくじ箱を逆さにして振る。すると、小さな穴から細い棒が出てきた。
「すみません、八番おねがいします」
 八番のおみくじをもらい、中を開くと大吉だった。
「こんな感じだ! やってみな」
 恐る恐る、零は同じようにおみくじ箱を振る。棒に書かれていたのは二十三番。開いてみると、大吉だった。
「よかったね! 大吉ってのは、一番いいんだ」
 聞いてうれしそうに笑い、おみくじをぎゅうと抱きしめた。
 三織もおみくじをやってみると、吉だった。響はといえば、凶だった。のぞき込んだ三織は鼻で笑って、
「名前が名前だけに、凶なわけだ」
「えっ、でもそれって、逆にツイてるのかもしれないってことじゃない?」
「いや、いい方に考えすぎだろう」
 三織を見守りながら、紗生は微笑んだ。
(嫌い嫌いも、だねぇ)
 気を取り直すように背筋をピンと伸ばし、紗生は拳を突き出した。
「じゃあ次は、お賽銭ね!」
「師よ、順番が違うのでは……みくじを引く前に……」
「あんた、そんな小さいこと気にするんじゃないよ! さぁ、行くよ! あんたたちっ」
 はぁいと気の抜けたような返事をして、一同はようやく本堂に歩き出した。

■お賽銭とお祈り
 そうして、一同はお賽銭を投げる。
「師、ひとつお願いをしてもよろしいですか」
 三織はささやくような小さな声で言った。
「どうした」
「さ、財布を忘れてきてしまって……十円、お借りしてもいいでしょうか」
「ああ、いいよ」
「えーっ、三織ちゃん、新年早々やっちゃったねぇ!」
「うるさいなぁ」
 横目で見ると、三織は笑っていた。
(……この子が幸せに。違う、みんな楽しくやってければいいよなぁ)
 鋼色の十円玉を投げる。そうして、手を合わせ、祈る。
 平和でおだやかな世界で、バカやってられるのが一番いいさ。
 頼むよ、神様。

■そして、朝を迎えて
 事務所に戻ると、皆でシュラインお手製のお節を食べた。その時には、零は晴れ着を着ていた。赤い豪奢な金銀の模様がある着物。赤がよく映えて、とても可愛かった。
 そんな、平和でおだやかな一年のはじまり。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【4412 / 日置・紗生 (ひき・さお) / 女性 / 37歳 / システム屋】
【4315 / 那智・三織(なち・みおり) / 女性 / 18歳 / 高校生】
【4544 / 棗・響 (なつめ・きょう) / 男性 / 26歳 / 『式』の長】
※整理番号順

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■         ライター通信          ■
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ご依頼ありがとうございます。タカノカオルです。
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