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スノウ・スマイル
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0.オープニング
ガタッ―
「………」
物音に目を覚ます。時刻は深夜2時。
またか…。
頭を掻きつつ、扉を開く。
冷たい冬の風に目を細め。
フッと下を見やれば。
俺の目は 「それ」 を捉える。
「またですか?」
背後からヒョコッと顔を出す零。
「おぅ。また、だ」
溜息混じりに返す。
零は嬉しそうに「それ」を手にとって。
パタパタとキッチンへ急ぐ。
パタン―
冷蔵庫の冷凍室を閉めて微笑む零。
「これで、7個目ですね」
「…んー」
煙草に火を点けて窓の外を見やる俺。
毎晩2時に。
興信所の玄関先に置かれる「それ」は。
いびつな雪だるま。
可笑しな話さ。
雪なんて積もっていないのに。
雪だるまが毎晩届くんだから。
この可笑しな現象も今日で7回目。
ちょうど1週間、か。
そろそろ…何とかしねぇとな。
「お兄さん?」
零の声で我に返り。
俺は笑って言う。
「まだ起きるには早すぎるだろ。ほれ。寝ろ」
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1.
えっと…氷氷…。
アイスコーヒーに落とす氷を取ろうと。
興信所の冷凍庫を開けた私は。
カチャ―
「うわっ」
驚いた。
何よ、これ…。雪、だるま…?
7個ある、それは全て片目のない雪だるまで。
どれも、いびつ。
…っていうか、全部 微妙に溶けて歪んでいるから、そう思うだけかも?
首を傾げていると、パタパタと駆け寄り慌てて冷凍庫を閉める零ちゃん。
パタンッ―
「溶けちゃうじゃないですかっ」
私はクスッと笑い、零ちゃんの頭を撫でて謝罪。
同時に問う。
「ごめんなさい。でも、どうしたの?これ」
私の問いに、零ちゃんは微笑んで返す。
「毎晩、届くんです。ここ1週間位」
「届く?誰から?」
「わかりません」
「えぇ…?」
さっぱり わからないわ。
ずっと傾げたままの、私の首を。
背後からグイッと起こして、武彦さんが言う。
「シュライン。今晩空いてる、よな?」
私は振り返らずにクスクス笑って返す。
「えぇ。大丈夫よ」
「ふぅん…毎晩2時…ねぇ」
話を聞きつつ、コーヒーをデスクに置く。
武彦さんは、煙草をふかしながら言う。
「…さっぱり わかんねぇ」
「でしょうね」
特に何か危害を加えるわけじゃないものね。
毎晩、雪だるまを置いて行くだけで。
「あっ」
手をポンと叩く私を見やる武彦さんと零ちゃん。
「最近、妙なものを助けたとか。見たとか。ないの?」
「ねぇな」
「零ちゃんは?」
「特に思い当たらないです」
…即答か。うーん。困ったわね。
恩返し的なものかと思ったんだけど…って。
雪だるまを置いて行くのが恩返しなんて変、よね。
でも、零ちゃんは喜んでるみたいだからなぁ…無きにしも非ず?
玄関先に監視カメラを設置しながら、私は呟く。
「溶けてるって事は、どこかから持って来てるのかしら」
カメラの角度を微妙に調整しながら武彦さんが呟き返す。
「さぁなぁ」
「片目探してくれ、って依頼かもよ?」
クスクス笑いながら言う私に、
「…面倒くせぇ」
武彦さんは顔をしかめて言った。
「それじゃあ、一旦戻るわね。また、後で」
「おぅ」
私は興信所を出て、泊り込みの準備の為に 自宅へ向かう。
足取りが軽いのは。
久しぶりの調査協力だから。
ううん。私に協力を求めてくれたから、かな?
なーんて。喜んでちゃ駄目ね。
気を引き締めて 調査しなくちゃ。
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2.
「…う〜ん」
冷凍庫の中に並ぶ雪だるまに首を傾げる私達。
時刻は23時。
雪だるまの宅配時間まで、あと3時間。
その間に出来る限りの事をしておこうと。
私達は、先ず雪だるまの調査を始めた。
7個の雪だるまに共通している事は、片目…右目がない事。
どれも似たように溶けている事。
パッと見、全部同じ。並べ変えられても、きっと気付かないわね。
「これ、ビー玉…かしら」
雪だるまの左目を指差して私が言うと、
「これと同じだと思います」
零ちゃんが小箱を差し出して言う。
私は、それを受け取り そっと開く。
小箱の中には、雪だるまの左目と同じ 紅いビー玉が幾つも入っていた。
「綺麗ね」
私がクスッと笑って言うと、零ちゃんは嬉しそうに微笑み返す。
その反応で悟る。これは、零ちゃんの宝物なのね。
私は、小箱を返しつつ問う。
「これ、最初は何個入ってたの?」
「今朝お兄さんにも聞かれたんですけど…わからないんです」
申し訳なさそうに言う零ちゃん。
うーん。まぁ、そうよね。数えておいたりしないものね。普通は…。
もとの数より減っているようなら、
犯人…毎晩雪だるまを置いて行く人は、
何らかの形で所内に入ってるって事になるんだけど、ね。
私は零ちゃんの頭をポンと叩いて。
「さて。おにぎりでも作りましょうか」
微笑んで言う。零ちゃんはキョトンとして返す。
「お夜食ですか?」
「うん、それもあるけど。労いを、ね」
どんなが理由があるにせよ。毎晩寒い中届けに来るんだもの。
お疲れ様です、って労ってあげても良いじゃない?
「…何してんだ?」
おにぎりを頬張りつつ武彦さんが問う。
作業を終えた私は、お茶を注ぎつつ返す。
「意思疎通を図るアイテムの準備よ」
「疎通ねぇ…どうだかなぁ…」
いつもの事だけど。こういう調査の時、貴方って本当にダルそうね。
やる気がない、っていうか。困ったものだわ。
準備したのは、届け人が想いを書き留める事のできるメモとペン。
それから、蛍光塗料を塗った板。足跡が追えれば即解決に繋がるしね。きっと。
足跡を残して行くかが問題だけど。
「よいしょっ、と」
それらを持って玄関へ向かう私。
「いつになく ヤル気満々だな」
背後からの、武彦さんの その言葉に 私は笑う。
あなたの分も 私が動かなきゃならないのよ。
おにぎりを美味しそうに頬張る、あなたの分も。
準備万端。時間まで待機。あと…15分くらいね。
薄暗い所内で、監視カメラのモニターを食い入るように見つめる私達。
私はポツリと呟く。
「零ちゃん、寝かせちゃって良かったの?」
「うん?」
「もしかしたら、もう今日で雪だるま届かなくなっちゃうかもしれないじゃない」
「ん。まぁな」
「届け人に会わせておいてあげた方が良いんじゃないの?」
「いいんだよ。安全とは限らねぇし」
「あら。私は危険な目に遭っても良いって事?」
「んな事言ってねぇだろ」
クスクス笑う私のオデコを、武彦さんが ペチッと叩く。
その時。
カタン―
「!!」
物音。私達はバッとモニターを見やる。
そこに映るは、半透明の女の子。
その手には、あの雪だるま。
「まぁ。こんな事だろうと思ったよ…」
頭を掻きながら玄関へ向かう武彦さん。
私は足音をたてぬよう、その後を追う。
ガチャッ―
「ごくろーさん」
扉を開けて、そう言った武彦さんを見て 女の子は目を丸くして驚き、そして俯く。
私は しゃがんで、新たに置かれた雪だるまを手に取り問う。
「何か、困ってる事があるのかな?」
女の子は俯いたまま。何も言わない。
腕を組んで、女の子を見下ろす武彦さん。
やめなさいよ、威圧的な…私は苦笑しつつ武彦さんの足を小突く。
「き、綺麗な…」
どもりつつ、ボソボソと女の子が話し始める。
ウンウンと頷きながら、聞き入る私。
「ガラス玉を持ってて…う、羨ましかったの…」
私は微笑んで言う。
「綺麗よね。これ。零ちゃんの宝物なのよ」
私の言葉に顔を上げて、女の子は申し訳なさそうに言う。
「お、怒ってるかな…?」
「おぅ。かなり怒ってるぞ。一体誰の仕業だ!ってな」
武彦さんが真顔で言うから、女の子はビクッと肩を揺らしてしまう。
私はバシッと武彦さんの足を叩いて、訂正する。
「そんな事ないわ。その逆よ。楽しみにしてるの」
「楽しみ…?」
「あなたが届けてくれる雪だるま。零ちゃんのお気に入りなのよ」
「ほ、本当に?」
「えぇ」
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3.
「シュライン。コーヒー。ホットで」
私はクスクス笑いながら返す。
「やぁね。喫茶店でオーダーしてるみたいじゃない」
「あ、ブラックで」
「ちょっと待って。先にココアいれなくちゃ」
食器棚からマグカップを取り出す私を見て、
武彦さんは目を伏せ、読んでいた雑誌を放り言う。
「最近 俺に対しての奉仕が甘いな」
ココアをいれながら、私は笑って返す。
「何様のつもりよ」
「俺様」
ガチャッ―
「お待たせ」
扉を開いた私に向けられる、ふたつの笑顔。
可愛い、ふたつの笑顔。
「「ありがとうございます」」
声が揃った事を、顔を見合わせて嬉しそうに微笑む2人。
私はココアをテーブルの上に置いて 微笑み 一言。
「ごゆっくり」
毎晩2時に雪だるまが置かれなくなったかわりに。
毎週火曜日19時に 食器棚からマグカップが2個消える。
あの雪だるま?
ふふ。今も冷凍庫の中で並んでいるわよ。
ウサギみたいな紅い両目で微笑んで。
「シュライーン。コーヒー!」
「はいはい。ちょっと待って」
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦
NPC / 草間・零
NPC / ノイシュ (雪だるま届け人 → 零の新しい御友達 )
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ライター通信
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます^^
何だかんだで、ほのぼのテイストに仕上がりました。
シュラインさんのノベルを書くと どうしても、
どこかで草間との甘いシーンを挿入したくなります(笑)
今回もポツッと入れてしまいました。すみません orz
気に入って頂ければ幸いです。
よろしければ また お願い致します^^
2006/12/27 一檎 にあ
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