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Dead Or Alive !?
生きろ
とあの人が言ったから
ボクは今、ここにいる
「瑠守未央さん?」
男の人の声に未央は振り返った。咄嗟に服に仕込んである銃を抜こうと手を伸ばしたが、すぐに思い止まる。
裏の世界で生きていくとなると、やはり敵も多い。だが、目の前の青年二人組からは殺気というものを少しも感じなかった。むしろ片方からはほのぼのとした雰囲気すら漂っている。
「おにーさん達、ボクに何か用?もしかしてナンパとか?」
「まさか。俺達に幼女趣味はねえっつーの」
小馬鹿にしたような言い方にカチンときたが、反論はしなかった。その前にほのぼのとした方の青年がこちらに歩み寄ってきたからだ。
「ごめん。ナンパじゃなくて、ちょっと大事な話があるんだ。落ち着いて訊いて貰えるかな?」
「何?」
「ええっと・・・物凄く言い辛いんだけど・・・」
かなり要領を得ない説明だったが、極簡単に要約するとこういうことらしかった。
『瑠守未央は今日死ぬ運命にある』
この目の前の青年二人―ほのぼのな方が深紅、失礼な方が綺音という名前らしい―は自らを「死神のようなものだ」と表現した。人間の生死を管理している「ナイトメア」という場所から来たのだという。
そのナイトメアに存在している「死亡リスト」に未央の名前が誤って載ってしまったらしい。そのリストは絶対で、名前が載ったら最後、その人物は死ぬ運命を辿るしかない。
深紅達、生命の調律師が関わらない限りは。
「ボクが死ぬの?・・・困ったなぁ。まだ遊びたりないよ。それにボクは死ぬ訳にはいかないんだ」
約束がある。
この青いバンダナに託した約束が。
未央の真剣な眼差しに驚いたのか、深紅は瞳を瞬かせると柔らかく微笑んだ。
「うん。だからさ、僕達が君を全力で護るよ」
【ボクは今〜瑠守・未央〜】
金の髪と青いバンダナがゆらゆらと揺れている。
まったく・・・この少女は相当肝が据わっているのか、それとも単なる馬鹿なのか。
何故わざわざ遊園地なのだ。
未央の死因は出血多量死。原因は詳しく記されていないのだが、人の少ない場所でじっとしているのが得策だろう。
綺音の意見に未央は首を横に振り、あろう事か「遊園地に行こう」などと言い出したのだ。
まったく、どうかしている。
「だってせっかくの休みだし。それに三人も人が集まったら、これはもう遊園地に遊びに行くしかないと思わない?」
何だ、その滅茶苦茶な理屈は。
「綺音!あれ・・・っ、あのカップが回ってるの何・・・!?」
・・・相方もどうかしていた。
郷に入っては郷に従え。
心の中で呪文のように唱えつつ、深紅が指差す先を見る。
「あれは・・・」
「あれはコーヒーカップ。どれだけ早く回れるか極限に挑戦するゲームだよ」
綺音の発言を未央が遮った。しかも微妙に嘘を教えている。
「ていうか、深紅って遊園地初めてなんだ?」
頷く深紅に未央がにやりと笑う。何だか嫌な予感がした。
『面白いオモチャ見つけちゃった♪』
そんな台詞が聞こえてきそうな顔だ。
こっそり未央から距離を取ろうと思ったが、時すでに遅し。しっかりと腕を掴まれていた。
右腕に深紅、左腕に綺音。
そのまま未央はコーヒーカップに向けて走り出す。
「よし!極限に挑戦!」
「待て待て待てええええええ!」
「???」
未央に引っ張り回されること約3時間。綺音は遊園地の存在意義がわからなくなっていた。
コーヒーカップで最高速度回転。
ゴーカートでスピード違反&接触事故。
フリーフォールに5回、ジェットコースターには7回乗った。
「死・・・死ぬ・・・」
本来楽しいはずの遊園地で地獄を見るとはどういうことだ。
「情けないなあ。綺音って意外と軟弱者?」
これが普通の反応だと思うが。
ベンチにへたり込みながら、恨めしげに未央を見上げる。その横にはやはり平然としている深紅がいた。
まともなのは俺だけなのか。
「・・・楽しかったか?」
「うん!」
笑顔で頷く未央に、ならいいかと怒る気が失せる。無邪気なのか残酷なのか、掴めない少女だ。
「それで?次は何に乗るんだ?」
「あれ?乗り気なんだね」
「こうなったらとことん付き合ってやるよ」
どうせ今日一日だけの関係なのだ。
未央は少し考えた後、「ミラーハウス」と答えた。
「ミラーハウス?」
「そ。綺音の体を労わってあげようと思ってさ。ボクって優しいよね!」
「言ってろ」
あまり人気のないアトラクション。真っ先に浮かんだのがミラーハウスだった。
今時流行らないというのもあるが、ここのミラーハウスは古ぼけていて何か出そうな雰囲気を醸し出しているので、いつ来ても客がいない。
「おい、未央」
後ろから綺音の声がかかる。
「何?」
「お前・・・随分と戦い辛い場所を選んだな」
どうやら彼もミラーハウスに入る前から向けられていた殺気に気付いていたらしい。未だにきょとんとしている深紅よりは場慣れしているようだ。
「ええっと・・・どういうこと・・・?」
「未央の死因は出血多量死だ。で、多分他殺だな。お前、何か恨まれることでもしたのか?」
「まあ、ボクにも色々あるんだよ」
敵は・・・・・・全部で3人。服の下の銃を握り締める。
深紅もやっと場の空気を理解したのか、辺りを注意深く見回し始めた。
一面鏡。
正面の鏡には未央と綺音、深紅の姿。
背後、同じ。
右、同じ。
左・・・
「っ」
左の鏡の端に三人以外の人影が僅かに覗いている。瞬間、未央は床を蹴った。
「おいっ未央!一人で行動すんな!」
綺音の制止は気にせず、そのままミラーハウス内を走り抜ける。何度か入った事があるので、中の構造はほぼ頭に入っていた。
前方の鏡に黒服の男の姿が映る。右にも左にも背後にも。
「そこっ!」
未央は迷わず右に銃を向けた。低い唸り声をあげて、男の体が倒れる。
――まずは一人
間髪入れずに後ろを振り返り、もう一発打った。
――二人目
最後の一人が左横から走り込んでくる。顔めがけて向かってきたナイフをギリギリで避けた。
避けたのだが―――
「・・・あ」
風圧で髪を纏めていたバンダナがほどける。
――駄目・・・!
咄嗟に手を伸ばしていた。一瞬、目の前の男のことなど頭から消え去っていた。
―――パリン・・・ッ!
響いたのは鏡が割れる音。
男が未央の目の前の鏡に向けて銃本体を投げつけたらしい。
沢山の欠片が未央目掛けて降ってくる。
出血多量死という言葉が頭に浮かんだ。
ああ、こういうことなのか、と。
ああ、どうしよう。
まだ、死ぬわけにはいかないのに。
「未央!!」
いつまでたっても、覚悟した痛みは襲ってこなかった。代わりに何か重いものが体にのしかかっている。
「え・・・」
綺音だった。
綺音が未央の体を鏡から護るように抱き締めていた。
「な・・・に・・・」
何これ。
手に触れる生暖かいものは・・・・・・血?
「・・・無茶すんじゃねーよ、ばーか」
何これ。
なにこれ。
ナニコレ。
あの時のあの人の顔が
生きろと言ったあの人の顔がフラッシュバックする。
手に掴んだ青いバンダナを強く握り締めた。
「き・・・お・・・。綺音・・・っ!」
「痛・・・!おい、こら!暴れるなって・・・!傷に響く・・・っ」
「え・・・」
思いの他元気そうな声に思わず間の抜けた声をあげてしまった。
「平気・・・なの・・・?」
「や。平気ではないけどな」
「死なない・・・?」
「これくらいで死なねーよ。俺、普通の人間より丈夫だからな」
そう言って微笑み、綺音は未央の頭を撫でる。
ほっとして涙が出そうになった。
良かった。
本当に良かった。
「おい、深紅!そっちは?」
「な・・・なんとかおーけい・・・」
気絶している最後の一人の手を縛り上げながら深紅が答える。
「うわっ!綺音、痛そう・・・」
「や。実際痛いんだって」
「ボクが治すよ!」
意識を集中し、癒しの風を発動させる。暖かな風が綺音の体を包んだかと思うと、傷は完全に塞がっていた。
「・・・サンキュ」
また頭を撫でられる。
「・・・子供扱いはやめて欲しいんだけど」
「だってお前、泣きそうな顔してたからさ」
「嘘だ」
「嘘じゃねーよ」
綺音の手は温かくて・・・
未央は目を閉じ、小さな声で「ありがとう」と言った。
三人の男はまとめて縛り上げ、トイレの個室に放り込んでおいた。銃で撃ちはしたが、致命傷ではない。
「殺したのかと思った」
「え?」
「だってお前、殺し屋なんだろ?」
綺音の問いかけには答えなかった。代わりにニッと微笑んでみせる。
「遊園地っていうのは楽しい場所なんだよ」
納得したのかしていないのか、綺音が未央の横に並ぶ。そして手を握ってきた。反対では深紅が同じように手を握ってくる。
「今度は何乗ろうか?」
「締めくくりは観覧車だぞ、観覧車」
「え・・・」
きょとんと二人の顔を見上げる。
これは一体、どういうこと?
「もう少し付き合ってやるよ。遊園地ってのは楽しい場所なんだろ?」
温かい手の平。
しっかりと握り締めて、未央は歩き出した。
青いバンダナを揺らして。
生きろ
とあの人が言ったから、ボクは生きてる
ここでちゃんと生きてるよ
fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【6786/瑠守・未央(るかみ・みお)/女性/11/小学生・ハンターネーム【ハーピィ】】
NPC
【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。ライターのひろちです。
今回も納品がかなり遅くなってしまい・・・申し訳ないです・・・。
未央ちゃんはちょっと子悪魔的な要素のある子だなーというのが最初の印象でした。でもまだ11歳ですし、やっぱりちょっと弱い部分とかもあるんではないか・・・と。
綺音との絡みを中心に書かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
本当にありがとうございました!&すいませんでした!
また機会がありましたら、よろしくお願いします。
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