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<クリスマス・聖なる夜の物語2006>


あなたと、ともに
―Happy Christmas!―




「今日はクリスマス。聖なる夜〜♪」

実際には今はまだ昼間なのだが、今日この日の夜が楽しみらしい。
良く言えば特別な存在。悪く言えば神様のパシリ的存在である、天使らしくない天使・リューイは、バサバサと羽根を羽ばたかせながら空中散歩をしていた。

「…あれ?せっかくのクリスマスなのにケンカしてる…」

ふと下を見下ろせば、マンションの部屋の前で言い合いをしている二人の少年の姿が目に入った。二人とも銀髪で、兄弟のように見える。では、兄弟ゲンカだろうか?

「どうしたのかな?どうしてケンカなんかしちゃうの??」

今日はクリスマスなのに。
クリスマスといえば、恋人同士が愛を語らったり祝ったりする日、友達同士で盛り上がったりする日、家族で団欒な日……リューイ的にはそういう日なのだが、下で言い合っている少年たちにとっては全くの別ものなのだろうか?

「…そんな事ないよ。きっと、お互いに素直になれてないだけなんだよね!」

きっかけがあれば、必ず仲直りしてくれるはずだ。
そう思ったリューイは、手と手を合わせて「よし!」と一言。

「私が何とかしてあげちゃおう☆なんたってクリスマスだもんね!クリスマスに兄弟ゲンカはよくないもん。大切な家族と素敵な夜を過ごすべきだと思うし。うん、決定!」

満面の笑顔で言うと、リューイは言い合いをしている少年たちのもとへと降り立った。


■■■


「何でなんだよ!俺の約束の方が先なのに、何で行けないんだよ!!」
「だから、急にバイトが入ったって言ってるじゃないですか!」

「ねぇねぇ、兄弟ゲンカはよくないよ?」

「「!」」
突然だった。突然、自分たちの会話に割って入ってくる声が聞こえてきた。その声の方向に振り向けば、そこにいるのは純白の翼を背にもった天使で…
「天使…?」
「うわっ、天使っ?!」
隣人ならともかく、まさか天使に割って入られてくるとは思わなかったデュナン・ウィレムソンもファレル・アーディンも、天使の姿が視界に入った時は今までの言い合いも忘れてポカンとしている。
「こんにちは!私はリューイって言うの。二人が兄弟ゲンカしてるみたいだったから、気になっちゃって。今日はクリスマスなんだし、ケンカなんて止めようよ?」
「別に、ケンカしてるつもりなんてないよ。ただ、デュナンが約束を守らないから文句言ってただけだよ」
「ファレルが聞き分けないから言い返していただけです。ケンカじゃありません。それに、俺とファレルは兄弟じゃありませんよ」
ファレルもデュナンも、ムスッとした表情でリューイに返した。…明らかに二人とも不機嫌で、お互いにそっぽを向いている。これをケンカと言わずして何と言うのだろう?
「きょ、兄弟じゃなかったんだー?」
お互いに背を向け合っている二人に、リューイは少しばかり焦った。とりあえず言い合いは止める事ができたみたいだが、二人の機嫌は直っていない。むしろ、途中で言い合いを止めてしまったせいか、互いに感情を吐き出しきる事ができずに不機嫌さが増しているように見えた。
「…家族みたいな存在ではありますけど」
二人とも銀髪で、瞳も同じ緑色だったのでリューイは二人を兄弟かと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。けれど、他人という訳でもなく、家族のような存在であるとデュナンが教えてくれた。
「…っ…もういいよ!とっととバイト行けばっ?!」
デュナンの「家族みたいな存在」という言葉に、ファレルは一瞬だけ反応した。デュナンを実の兄のように思うファレルにとって、その言葉はとても嬉しくはあるのだが…それとこれとは話は別。ファレルは勢い良くドアを開閉し、中に入ってしまった。
「ファレル…」
閉じられたドアの向こうにいるファレルを思って、デュナンは彼の名を呟いた。


■■■


「デュナンくんはどうしてファレルくんとケンカしちゃったの??」
「それは…」
ファレルに締め出されるような形になって、マンションを出たデュナンの後をついてきたリューイは、歩くデュナンの速度に合わせてフヨフヨと飛びながら聞いた。聞かれたデュナンはちゃんと質問には答えてくれるのだが、その表情はどこか淋しそうに見える。
「今日は、ファレルと一緒に遊園地に行こうって約束してたんです。でも、俺の方がバイト入っちゃって行けそうになくて…それを言ったらファレルが怒って」
後はあなたが見た通りですよ。
静かに、苦笑しながらデュナンは言った。やはり淋しそうな表情だ。
「そっかー、お仕事かー、急なお仕事は仕方ないけど…でも、ちゃんとした理由あるよね?約束した日にお仕事入れちゃった理由」
どうしても、リューイにはデュナンが約束よりもバイトを優先させるような人には見えなかった。きっと、ちゃんとした理由があるはずだ。
「…天使には、分かっちゃうものなんですか?」
「んーん、そうなんじゃないかなーって」
笑顔で言うリューイに、不思議と「かなわない」と思えてしまう。デュナンは立ち止まるとファレルには話していない、バイトを入れた理由を話してくれた。
「実はファレルにプレゼントしたいものがあって…今日バイトを入れないと買えなくて…でも、そんな事をファレルに言えるはずもありませんから、ファレルには「バイトが入った」としか言えなくて…」
「そっか、ファレルくんにあげるプレゼントの為かー…やっぱりデュナンくんは良い人だね!どんなお仕事なの?早く終わらせるとかできないお仕事?」
「どうでしょうか…今日はケーキの販売で、完売させられればすぐに終わりなんですけど」
「ケーキを売るの?クリスマスだもん、ケーキを買ってくれる人はいっぱいいるよ!大丈夫、きっと完売できるから頑張って!!」
「そう…ですね。そうですね!始める前から後ろ向き考えじゃいけませんよね!俺、頑張ります!!」
「ファイトー!!」
約束を守れないのは、悪いと思う。けれども全てはファレルの為。ファレルに贈りたいものがある。だからこそデュナンは約束当日にバイトを入れた。他人が聞いたらどう思われるのかは分からない。理由があるとはいえ、約束を守れないデュナンを非難する声があるかもしれないが、少なくともリューイはデュナンが悪いとは思っていない。ファレルを思うが故の行動だ。デュナンのその気持ちはリューイにも伝わるくらいに強い。
「有難うございます、リューイさん!」
去って行くデュナンを、リューイは笑顔で見送った。
「よーし。それじゃ、ファレルくんの様子でも見に行こうかなー」
そして方向転換すると、リューイはもと来た道を戻ってファレルのいるマンションへと向かった。



■■■



『夜九時半に絶対遊園地の前に来て!』
昼休み。手にした携帯には一件のメールが入っていた。送り主は…ファレル。
「ファレル!」
相手が目の前にいる訳でもないのに、デュナンは思わずファレルの名を声に出してしまった。てっきり怒ったままだと思っていたが、メールをくれるくらいだ。怒りが静まったのだろう。
デュナンはすぐにファレルに返信した。


『今日は本当にごめん。九時半に遊園地だね?必ず行くよ』
デュナンにメールを送信してすぐ、デュナンから返事が返ってきた。それは、今日の事を詫びる言葉と、必ず行くという言葉。デュナンがすぐに返事をくれた事が、たまらなく嬉しい。
「今度こそ約束破らないでよね、デュナン!」
必ず来ると、そう返信してきたデュナンに、ファレルは携帯の画面を見ながら呟いた。



■■■



「ケーキはいかがですか?クリスマスの夜は家族や恋人と一緒にケーキを!」
午後九時。
約束の時間まであと三十分。
ファレルにメールをもらってから、デュナンのヤル気も高まり、ケーキは順調に売れていった。通行人に声をかけまくって、自分でも驚いてしまうくらいの積極さで売りまくった。残すところあと一つなのだが…その最後の一つが、なかなか売れないでいる。最後の一つになってから数十分経つが、さすがにこの時間帯になると通り過ぎていく人も限定されてしまい、買ってくれそうな親子連れや買い物帰りのカップルは殆ど通らない。既に家でパーティーか、レストランなどで食事をしているだろう時間帯なのだ。
「ケーキ、一つくださいな」
天の声が聞こえてきたのは、その時だった。
「…!」
「最後の一つ、だよね?私もケーキ食べたいなーって思っちゃって」
声の主は今日知り合ったばかりの天使…リューイだ。背中の羽根は今はない。人の姿をとっているのだろう。
「リューイさん!」
「ほらほら、早くケーキケーキ!そして約束の時間!」
「――有難うございますっ!!」
時計を見れば、九時五分。リューイが何故ファレルとの約束の時間を知っていたのかは分からないが、今はそんな事を考えている場合じゃない。デュナンはリューイにケーキを渡し、会計を済ませると手際よく後片付けを始めた。
「きっと、間に合うから」
優しい眼差しでデュナンを見つめ、片付けが終わる頃にはそこにリューイの姿はなかった。



■■■



時刻は九時三十五分。約束の時間から五分が過ぎていた。
「もう間に合わないなー、さすがに…」
諦めかけたその時、
「ファレルーっ!!」
自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。それは待ち望んでいた相手の声だ。
「デュナン!!五分遅刻っ!」
「ま、間に合うように走ってきたんですけどっ」
「じゃ、もう少し走ってもらうから!」
「えぇっ?!」
デュナンがファレルのもとへ辿りつくと同時、ファレルはデュナンの腕を引っ張って走り出した。訳も分からず着いた先は…遊園地の定番、観覧車の前。だが、デュナンの目に映る観覧車はいつもの観覧車ではなく…

『大好きなデュナンへ。メリー・クリスマス』

デュナンの目に映った観覧車の電光掲示板には、ファレルからのメッセージが表示されていた。
「間に合わないかと思った。あれ、持ち時間一人十分なんだ」
「ファレル…!俺…凄く、凄く嬉しいですよ!!これは、俺からのプレゼントです」
言って、デュナンは大事そうに抱えていた大きめな包みをファレルに渡す。ファレルは受け取り、中身が何か分かる程度に包みを開けて驚いた。
「これ…俺が欲しかったゲーム機っ!!」
少しだけ開けられた包みの下には、自分が欲しかったゲーム機のメーカーロゴと商品名が見えたのだ。デュナンはこのプレゼントの為にバイトを入れたのだと改めて謝ると、ファレルも謝った。お互いに謝っているのが何だかおかしく思えてきて…二人は顔を見合わせると、一緒になって笑った。
「メリー・クリスマス、ファレル」
「メリー・クリスマス、デュナン」
少し離れた所で、音楽が聞こえる。人ごみも激しくなってきた。どうやら今から夜限定のクリスマスパレードが始まるらしい。
「せっかく来たんだし、観に行こう!」
再び、ファレルはデュナンの腕を引っ張って走り出した。








「神様は二人を見捨てなかったでしょ?」
観覧車のてっぺん。リューイはそのてっぺんに座りながら真下にいて走り去っていくデュナンとファレルを見て呟いた。リューイの膝の上にはデュナンから買ったケーキ。食べながら様子を見守っていたらしい。
「これは私から二人へプレゼント!」
ケーキを安定した場所へ置くと、リューイは立ち上がって光の粉を降らせた。その光の粉はキラキラと輝いた後、雪へと変わる。
雪を目にするのは二人だけじゃないけれど、今、この瞬間、確かにリューイは二人だけの為を思って雪を降らせた。
「幸せなクリスマスを!」



―――――Merry Christmas!!





-FIN-


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

PC
≪0862・デュナン=ウィレムソン・男・16歳・高校生≫ 
≪0863・ファレル=アーディン・男・14歳・中学生≫

NPC
≪リューイ・女・18歳・天使≫

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■         ライター通信          ■
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始めまして!朝比奈 廻です。この度はご参加有難うございます!!クリスマスのハプニング。お楽しみ頂けましたならば幸いです。
デュナン様のプレイング、心温まりました。プレゼントの為に頑張るデュナン様の姿が目に浮かびます。これからも仲良しな二人でいて下さい!
では、有難うございました。またの機会がありましたら、宜しくお願いします。

朝比奈 廻