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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


あなたの笑顔を守り隊〜sideβ






「母さん、最近銀兄さんの様子がおかしいんだけど」
「銀埜の?」
 わたしの言葉で振り向いた母さんは、その弾みに手に持っていた火薬のような小さくて丸いものを爆発させてしまいました。
”あちゃあ”っていう顔をしているけれど、わたしはお構いなしに続けます。だって母さんは作成術の使い手の魔女。こんなことは日常茶飯事なんだもの。
「銀兄さんがね、変なんだよ」
「ああもう…火薬のバランスって難しいわね。で、銀埜がどうしたの?」
 さすが母さん、わたわたしつつも、わたしの話はちゃんと聞いてくれているようです。
「この間のことなんだけどね…」
 私は母さんの作業室の入り口に寄りかかりつつ、説明しました。




 銀兄さんこと銀埜兄さんは、母さんの使い魔の一人で、普段は背の高いお兄さんなんだけども、本当の姿は銀色の毛並みが綺麗なシェパード。犬の姿になっていても人の言葉が喋れる銀兄さんは、お店が暇なとき、近所の犬さんたちの様子を見に回ったりしているそうです。兄さん曰く、”ぱとろーる”というんだって。
 ことの起こりは3日前、兄さんがそのパトロールから帰ってきたときのことでした。
大きなシェパードの姿で帰ってきた兄さんは、何故かしきりにため息ばかりついているのです。どうしたの、ってわたしが尋ねてみても、心ここにあらず、な感じで生返事ばっかり。年がら年中思考が移り気な母さんなら珍しくもないけれど、うちのお店で一番の常識人で、そしてちょっぴり神経質なほどお堅い兄さんには、そんな状態は似合いません。
 兄さんが理由を話してくれないので、わたしなりに探ってみました。相談したリース姉さんやリックちゃんの話を総合して考えてみると、どうやら兄さんは、パトロールの最中に、とある女の子と知り合ったそうです。リックちゃんが近所の小鳥に聞いてみたところ、その女の子の住んでいるマンションに、銀兄さんと思しきシェパード犬が入っていくのを見た、というんです。
 リース姉さんは、”それは、その女の子にハートを奪われちゃったわね! 古今東西、化け犬やら化け猫やらが人間に惹かれる話は、山ほどあるからね〜”といっていましたが、それは結構怪しいです。だってその女の子は、わたしよりもだいぶん小さい子なんだもの。
 さすがに兄さんでも、そんな歳の子は守備範囲には入っていない、と思います。でも、じゃあその女の子と何があったんだろう?




「…ねえ、不思議だと思わない?」
「そうねー、銀埜もやるわねー、幼女と逢引なんて」
「だから、それは違うんだって」
 話を聞いているかと思いきや、結局母さんはちっともわたしの話を聞いていませんでした。どうも母さんは、作成術に取り掛かると、周りのモノが見えなくなる傾向があるようです。
「あはは、ごめんごめん。ちょっと今作ってるもの、配合が難しいのよ。なかなか注文がうるさくてねー」
 母さんは苦笑しつつも、今作っているものについて教えてくれました。それは珍しく、中年のおじさんの注文で、最近喧嘩気味の奥さんに向けての趣向を凝らしたプレゼント…だとか。花火の一つに、線香花火ってあるの知ってますか? 母さんは、その小さな花火を花束みたく包んで渡せるように、と作成術に励んでいるらしいんですが…そう上手くいくのかなあ?
「だから難しいのよねー。どうやったら半永続的に火花を散らすことが出来るか…。そうだわ、花束じゃなくっても、ドーム型の耐熱膜に包んで、鉢植えみたいに…」
 母さんはアイディアがひらめいたようで、わたしをそっちのけに作業に没頭し始めてしまいました。こうなると、もう地震があろうがお構い無しです。
 仕方ないので、わたしは母さんをあてにするのを諦めました。









                    ★







 リネアがルーリィに相談を持ちかけてから数日後。『ワールズエンド』店内を訪れる人影があった。
「お、おじゃましますです…」
 器用にダンボールに入りながら、ぴょこぴょこと店内に入ってくる少女。
透き通るような白い肌、腰まで波打つ漆黒の髪、その瞳は銀と黒、左右で色が違う。
少女、伊吹夜闇はきょときょと店内を見渡しながら、恐る恐るダンボールの中から這い出てきた。
ダンボールの中からぴょこん、とで出てきた人形が、夜闇の肩に飛び乗る。夜闇そっくりの造形をした人形は、白い旗をふりふり自己主張している。
その旗には、『むじん か。ぶっそうだな』とある。
「…誰もいらっしゃらないのでしょうか…」
 気が向いて遊びに来ただけなのだが、誰もいないからといって、何もせず帰るのも味気ない。
どうしようかと夜闇が悩んでいると、二階からどたばたという音が聞こえてきた。
「できたできたーっ! ギリギリできたわー!」
 夜闇がその騒々しい音にぎょっとしていると、音の主はばさっとカーテンを開け、カウンターの裏から顔を出した。
「あらっ、夜闇ちゃんじゃないの! こんにちはー!」
「こ、こんにちはです…」
 顔を出したのは、この店の店主、ルーリィ。見知った少女なのだが、夜闇はいつもよりも数段ハイテンションな彼女に、思わず慄いてしまう。
「いいところにきたわ! 夜闇ちゃん、これからちょっとした見世物があるのよ」
「み、みせもの…ですか?」
 夜闇は慄きつつも、そう問いかける。ルーリィはグッと親指を立てて見せた。
「いえーす、ざっつらいと! ギリギリがけっぷちの男の人が、何とか縁を戻そうとがんばるらしいの。夜闇ちゃんも応援してあげてくれる?」
「?? は、はい…」
 夜闇はハテナマークを浮かべつつ、とりあえずこくん、と頷いた。
ルーリィの言うことはいまいち意味が分からないが、応援…というからには、悪いことではないだろう。
 夜闇の返答を聞き、ルーリィは嬉しそうに飛び上がった。
「よかった! これで百人力ね。夜闇ちゃんの可愛らしさには、さすがの奥さんもいちころだと思うの!」
「…???」
 やはり意味が分からない。…でもルーリィが喜んでいるのなら、別にいいか…と、夜闇は思った。







「何を…どう応援すれば良いのですか?」
 しかし分からないことをそのままにはしておけない。
ある程度落ち着き、誰かを待っている様子のルーリィに夜闇は問いかけた。
ルーリィはそうそう、と頷き、夜闇に説明してくれる。
「数日前に、ある依頼を受けたの。中年のおじさんなんだけど、どうやら奥さんと喧嘩してるらしくって。
それで、仲直りのために、何か奥さんが感動するような道具を作って欲しい…っていうことでね。
今日取りにくるんだけど、さっきようやく完成したのよ」
 ルーリィはそういって、テーブルの上に大きな鉢植えをどん、と置いた。
何故かその鉢植えには、透明なガラスのような半球体がかぶせてある。
「……?」
 夜闇は不思議そうにその鉢植えの中身を覗き込んだ。その中身が何かを知り、思わず目をまん丸にする。
「お花がぱちぱちいってますです…!」
「うふふ、そうなの。何か面白い花束がいい、っていわれたもんだから。
この花ね、一つ一つが小さな花火なの。線香花火みたいな、ね。このドームは耐熱材になってるから、触れても火傷はしないわ。
精々1日ぐらいしか持たないけど、綺麗でしょう?」
 ルーリィがそういうと、夜闇はこくこくっと何度も頷く。
「とっても綺麗なのです…! ぱちぱち燃えてるのが、まるでお花みたいなのです。夜にみると、きっともっと綺麗だと思いますです」
「そうね、照明を落として暗くすれば、イヤでもロマンチックなムードになるわね。うんうん、それもいいかも」
 ルーリィは嬉しそうにはしゃいでいる。それを見ていると、自然に夜闇の気分も盛り上がる。
なので、ついつい気になっていたことを聞いてしまった。
「それで、何で喧嘩してるのですか?」
「へ?」
 ルーリィは夜闇の問いかけに、きょとん、とする。
夜闇をサポートするように、夜闇人形、小夜が、彼女の肩から白い旗をふりふりしている。
「『ぱぱさんの けんかの げんいん』? ああ、なるほど。依頼主のことね?
夜闇人形…じゃなくて小夜ちゃん、ありがとう。それがねえ…」
 ルーリィはそういって、ほう、とため息を付く。
「その人がいうには、浮気が原因らしいのよ。以前、奥さんじゃない女の人と仲良く食事をしてたり、そういうことがあって、奥さんがカーッとなっちゃったのね。
依頼主さんの言い分だと、二人で食事をしたぐらいしかなかったそうなんだけど、奥さんが疑ってるんですって。
最近じゃ離婚話まで持ちあがっちゃって、ほとほと困ってるらしくって…夜闇ちゃん、どうしたの?」
 ルーリィは話を区切り、夜闇の顔を覗きこんだ。
夜闇はううむ、と考え込んでいる。ルーリィは心配そうに夜闇の具合を尋ねるが、なんてことはない、単に夜闇は”浮気”と言う言葉の意味を知らないのだ。
「うわき…って、なんでしょう?」
 そこをすかさず、小夜がいらないサポートをする。
『みずのなかで うくための どうぐだな =うわき』
「はぅ…それで浮気、ですか。なるほどなのです」
 うんうん、と夜闇は納得して頷いている。ルーリィは思わず、そりゃあ”うきわ”だよっ! …とツッコミたくなったが、そこは敢えて気持ちを抑える。無論、そのほうが面白いからだ。
「そうそう、その浮気がね、原因なのよ」
「うわきがげんいん…。パパさんは、水に浮くことができなくなったのでしょうか…」
 むぅ、と真剣な表情で夜闇は考え込む。ルーリィは顔を赤くして、ぷるぷる震えながら言った。
「そ、そう…。そうなのよ、大変なの…」
「それは大変ですね…」
 ああ天然、ここに極まれり、である。
 だがそんな和みの時間は長くは続かない。
 ルーリィは壁にかかった時計を見、「そろそろだわ」と呟いた。
そしてそのルーリィの言葉に呼応したように、店の扉がバン、と開かれた。










「こ、こんにちは。先日はどうもありがとうございました。無理なお願いを聞いてもらって…」
「いえいえ、多種多様なお願いを聞くことも、私の仕事ですから! さ、奥様もどうぞ」
 店にやってきたのは、30台半ばの男女が二人。男性が始終おどおどと頼りなく、女性は居住まいは正しているものの、明らかに不機嫌である。
「それで、何? こんなところでする話でもないでしょう」
「いや、それがね…きみに渡したいものがあるんだ」
 夜闇はルーリィの背後から、様子を伺っている。ルーリィも特に、二人に口を挟むつもりはないようだ。
にこにこと笑いながら、男性に先程夜闇に見せた鉢植えを差し出している。
「ああ、ありがとう…! これをね、きみにあげたくて…その…」
 男性のとちりながらもそう言った。だが女性は、彼のそのおどおどした態度が気に入らないらしく、椅子に腰かけたはいいものの、腕組みをしてまともに鉢植えの中を見ようとしない。
 夜闇が不安を感じてきた頃、ルーリィがすっと席を立ち、カーテンを閉めて回った。
女性が眉をしかめるが、それをお構い無しで、店の照明を落とす。
 パッと真っ暗になった店内で、ガラスのドームの中の火花が、ぱちぱちと静かに燃える。
暗闇の中で咲く花は、確かに夜闇の言うとおり、明るい中で見るよりも数段美しく見えた。
 場の空気は思わず安らぐ。ロマンチックな空気が漂い、女性の表情も和らいでいる…ように見えた。
「…すごいわね。どんな魔法なのかしら、これ」
 女性はそう呟く。夜闇は思わず、本当の魔法なんだといいたくなったが、口を押さえた。
自分が口を出さなくても、きっと言いようにまとまるだろう…そう思った矢先。
 ドンッ! と大きくテーブルを叩く音がして、夜闇はビクッと震えた。女性が拳でテーブルを叩いたのだ。
「…で、これが何? 私がこれで誤魔化されるとでも思ってるの、あなたは」
 場の空気が再び凍る。…これだけじゃだめか。ルーリィは心の中で舌打ちをし、女性に見られないように、こっそり指を弾いた。
その合図で再度店内の照明が点され、カーテンが開かれる。意識を向けていない女性はそれに気づいていない。
「あなたはいっつもそう。具合が悪くなると、何か私の気を惹くプレゼントで誤魔化そうとして。私がそういうものを望んでいないのが、まだわからないの!?」
「す、すまない…! でもきみ、こんな店の中で大声は…」
「連れてきたのはあなたでしょう! 見せたいものがあるって、こんな子供じみた玩具だったのね。最低だわ!」
 子供じみた玩具、といわれて、思わずルーリィがガーンっと固まる。
ぐらぐらとショックを受けるルーリィは、くいくいっと服の袖が引かれたことに気づき、はっと我に返った。
「あ、ああ夜闇ちゃん…。ごめんなさい、私の力が及ばず…」
「あのっ。女の人、なんであんなに怒ってるですか…?」
「うーん…色々と事情があるみたいだけど…。あのプレゼントでは、パパさんの心は伝わらなかったってことね…」
「こころ…」
 ルーリィの言葉に、夜闇はそう呟いた。心を伝える必要がある。…ならば自分が出来ることは?
「ルーリィさん、なにか…いいお道具はないですか?」
「お道具? どんな?」
 夜闇の真意が分からず、ルーリィは眉を寄せる。
「あの、その…記憶を映像に写すことが出来るような…そんなお道具です…!」
「記憶を映像に…? でもまず記憶を読み取るなんて出来ないわ。それは特殊な能力がないと―…」
 ルーリィはそういって夜闇を見つめた。夜闇はぐっと真剣な表情でルーリィを見つめ返している。
何か案があるのだろうか。そう思ったとき、夜闇が口を開く。
「…わたしなら出来ます。私を媒体にして、記憶を読み取ることができますです。でも、読み取れても、私は写すことができないのです。だから、そんなお道具があれば―…」
「……夜闇ちゃん…」
 ルーリィは小さな彼女の名を呼んだ。彼女は真剣だ。ならば自分も応えなければならない。
「…あるわ、丁度いいのが。夜闇ちゃん、お願いできる?」
「…はいです!」








「あ、あの…ママさん、パパさん…!」
 夜闇の声に、言い争い―…いや、一方的に男性を怒鳴りつけていた女性の動きが止まった。
そしてはじめて気がついた、というように、夜闇のほうを向く。
「あら…ここの店員さん? ごめんなさいね、見苦しいところを見せてしまって。でも大丈夫、すぐに出て行くわ」
「そんな、きみー…!」
「ま、まだ出て行っちゃだめなのです!」
 夜闇はそう言い、左目に意識をこめた。夜闇の左目は、白銀の色を持っている。その白銀が鈍く光り、思わず二人は顔を覆った。
「夜闇ちゃん、いける?」
 問いかけるルーリィの言葉に、夜闇はこっくり頷く。
宵闇の子供である夜闇の左目は、相手の記憶を読み取る力がある。夜闇は幸せな記憶を読み取った。
二人、―…いや三人で過ごした幸せな時間。それを思い出させることが出来れば、きっと。
 ルーリィが用意した道具は水晶だった。まるで大人の頭ほどもある大きな丸い水晶。
その水晶に両手を当てて、夜闇は二人に語りかける。
「この中を、じっと見つめてくださいです…。そして、思い出してください…!」
「……」
 二人の目は、まるで吸い付くように水晶を覗きこんでいた。それこそ、魔法にかかったように。
ルーリィは背後から夜闇の様子を見守っていたが、何が映っているのか興味にかられ、思わず水晶を覗き込む。






 水晶には、いまよりも幾分若い二人が映っていた。
大して広くはないが、綺麗に片付けられたリビング。差し込む明るい日差しが、団らんの温かさを象徴しているようだ。
 リビングの上には、大きなまな板が広げられていた。まな板の上には、白い小麦粉が塗してある。
二人は笑顔で、パン生地を捏ねていた。楕円形、円形、大きく、小さく、平べったく。
手で、たくさんのパンを作っていく。
 そこに映っているのは、二人だけではなかった。もう一人、6,7歳程度の小さな女の子もいる。
女の子は二人からパンの捏ね方を教わり、一生懸命形を作っている。
女の子が作りたいのはパンダ。目が上手くいかず、男性が変わりに、ココアが入った茶色い生地で、丸い模様を作ってやる。
それを笑いながら女性がならし、きちんとした形に仕上げる。
女の子がドライフルーツの目と口を乗せ、やっと完成した。
出来上がりが楽しみだね、なんて声が聞こえるようで―…


「ん?」
 ルーリィはほのぼのとその光景を眺めていたが、思わず素っ頓狂な声をあげた。
水晶にうつっているのは、二人の幸せな過去。―…のはず。
なのに、何故か、二人のつけたエプロンの真ん中に、夜闇そっくりの人形が、片手を掲げたポーズで縫い付けられて―…。
(……はい?)
 もう一度目をこらしてみた。だがやはり、それは夜闇人形、小夜だった。まるで、どこぞのTシャツのカエルのような。
 ルーリィは眉を寄せ、夜闇の肩にいる小夜を見た。
小夜は素知らぬ顔で、『よやみ がんばれ』と書いた白い旗をふりふりしている。
(………)
 ルーリィは思わず、こめかみが痛くなるのを感じた。…魔女にまで非常識だと感じさせるとは…この子、さすがだわ。









 青白い光を放っていた水晶が、中の映像を映し出すのをやめた。
夜闇がゆっくりと手を離したからだ。
 夜闇は何も言わず、じっと二人を見つめている。そこに、先程の冷たい空気はない。
 女性は目頭を押さえ、呟くようにいった。
「そうね…あんなときもあったのよね。…いつから、あの子とあなたと、三人で何かをするのをやめてしまったのかしら」
「…ごめん。もっと、きみに気持ちを伝えればよかったね」
 男性は、おずおずと、だがはっきりと言った。
「きみはまだ疑っているかもしれないけれど…本当にあの彼女とは、食事をしただけなんだ。それ以上のことは何もない」
「……そうね。以前なら、信じられないって返すだけだったけど。
でもね、私は信じられないんじゃない。信じるのが怖かったのよ。…また裏切られるかもしれないって思ったから」
 男性は、分かってる、というように、女性を引き寄せた。そして軽く抱きしめる。
 目の前で抱きしめあう二人を見て、夜闇は思わず頬が赤くなった。
「と、とにかく…よかったのです」
『よやみ かおが あかいぞ』
「…きっと夕焼けのせいなのです」
「まだ昼間なんだけど…」
 夜闇も言い訳がうまくなったものだ、と思いながら、余計なツッコミをいれるルーリィだ。
 まあ、何はともあれ。
「…一件落着、ってところかしら?」
 そうにっこり笑いかけると、夜闇もまた、にこっと笑顔を返した。










                    ★







「へえ、じゃあ皆はそのあの二人の娘さんのところにいってたんだ」
「そーそー。ハナちゃんっていって、可愛い子だったぜ?」
 『ワールズエンド』店内では、久々にお茶会が開かれていた。
仲良く夫妻が帰っていったあと、夫妻の娘のところに遊びにいっていた3人と1匹が戻ってきたのだ。
 その一人、紅珠はクッキーをぱきん、と割りつつ話す。
「部屋を綺麗にしてから、一緒にご飯食べてたんだけどさ。ラブラブモードの二人が帰ってきたから吃驚しちゃったよ。
あれ、ルーリィたちが何とかしたんだ?」
「ええ、殆ど夜闇ちゃんのおかげだったけどね?」
 ルーリィがふふ、と笑って見せると、ダンボール箱の中から、アンテナ毛が恥ずかしそうにぴょこん、と顔を見せた。
「わ、私は何も…。ただ、幸せだったときの二人を思い出させてあげただけなのです」
「えー、それだけでもすごいよ、夜闇ちゃんっ」
「わたちのやみも、なかなかやりまちゅね」
 興奮して声をあげるリネアと、カッコイイ仕草で紅茶を傾けるクラウレス。
どちらも夫妻の娘、ハナちゃんのところに向かった二人だ。
「それで、ハナちゃんはどうだったの?」
 ルーリィが尋ねると、クラウレスと紅珠が交互に言った。
「ぱぱとままがいっしょにかえってきたら、びっくりちてましたよ。
てっきりふたりはまだけんかちてるとおもってたでち」
「そそ。でも仲直りしたんだーって気づいて、パパさんがハナちゃんに謝ってて、それで何とか笑顔を見せてくれたよ。
やっぱ家族は一緒にいなきゃな!」
「そうね、ということは、何とか円満におさまったってことね。何よりだわ」
 ルーリィは嬉しそうに紅茶を傾けた。
 そこに人間の姿に戻った銀埜が、やれやれ、と肩をほぐしながらやってきた。
「皆様、お疲れ様でした。…そしてルーリィ、あれは何ですか?
カウンターの隅に鉢植えのようなものが置かれていましたが」
「…鉢植えって、母さん…」
 皆の視線がルーリィの注がれる。事情を知らない紅珠とクラウレスはきょとん、とし、事情を唯一知ってる夜闇は、ダンボール箱の中でぷるぷるしている。
 ルーリィは暫く固まったあと、ふっと薄い微笑を浮かべて、肩をすくめた。
「…ふっ。たまには魔女ルーリィだって、お客の要望を満足に汲み取れないときもあるわ」
「…もしや…へんぴんされたでちか」
 クラウレスの痛恨の一言に、うぅっと胸を押さえるルーリィ。
「ふ、ふふ…悪かったわね、子供だましで…!」
 その色々なものが込められている言葉を聞き、その場にいた一同は、二度とこの話題に触れないようにしよう…と誓うのだった。

 ルーリィの名誉のために追記しておくと、返品ではなく、単に忘れられていただけ…とのことだが。
どっちにしろ返品と同じだ、というクラウレスの言葉に、今度は再起不能になってしまったルーリィのことは、また別の話である。











                おわり。





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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【5655|伊吹・夜闇|女性|467歳|闇の子】

【4958|浅海・紅珠|女性|12歳|小学生/海の魔女見習】
【4984|クラウレス・フィアート|男性|102歳|「生業」奇術師 「本業」暗黒騎士】

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▼ ライター通信
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こんにちは、いつもお世話になっております。
参加してくださって有難う御座いました!
またもや、多大な遅刻…本当に申し訳ありません;
その分楽しんで頂けるといいなあ…と願いつつ;

今回は毎度おなじみな方ばかりで、私もリラックスして書くことが出来ました。
PC様方のイメージを壊していないか、それだけが心配ですが…!

今回はsideα、sideβで中身が違うものになっております。
もし良ければ、違う側面のノベルも読んで頂ければなあ、と思います。

それでは有難う御座いました。
またお会いできることを祈って。

本年も宜しくお願いします!