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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


五つの封印石〜第二話〜

オープニング

 木々が揺れ、大きな翼を持つ異形の者が神聖都学園を見下ろしていた。
 美貌を持つその男は、口に笑みをたたえたまま、こう呟いた。
「鬼を倒した男、ね」
 仲間ともいえる者をまたもや封印されながらも、彼は酷く楽しそうだった。
「どんな男なのか」
 その言葉は風に乗って消えていった。

***

「おや、雪ノ下君」
 有川の研究室の扉を開くと、椅子にゆったりと腰掛けながら、お茶を飲んでいる有川の姿が雪ノ下の視界へと入ってきた。雪ノ下はあくびをかみ殺しつつ、首を鳴らすと、有川に言葉を向ける。
「有川先生、鬼を倒しました」
「ありがとうございます。……次は、鵺にあたりますかね」
「鵺、ですか?」
「はい、そうです。鵺でしたら、少々対策が必要ですね」
「対策、ですか?」
 雪ノ下は有川の言葉に、眉をゆがめた。己のこぶしで倒すだけでは足りないのか、という疑問を持った。その疑問を見透かされたのか、有川は不敵な笑みを浮かべる。
「鵺は飛びますからね、逃げられたら厄介でしょう」
「あー、そうですね」
「結界を張るための護符を用意しましょう」
「術、ですか」
「貴方には苦手分野ですね」
 雪ノ下は、有川に困惑の表情で答えた。有川は雪ノ下に席を勧めお茶をだすと、そのまま奥の部屋へと姿を消してしまう。
 雪ノ下は決して見せてもらえない奥の部屋をいぶかしげな視線で眺める。
 高校時代のときから、何か特殊なものを出すときにのみ有川はあの扉の向こうへと消えるのだ。あの扉の向こうが四次元世界へとつながっていないことを切に願う。
 雪ノ下がお茶に口をつけたそのとき、有川が出てきた。
「お待たせいたしました」
「大丈夫です、何を持ってきたんですか」
「ああ、これです」
 雪ノ下の言葉に有川がある紙を机の上に置いた。
 その紙は黄色の用紙に、どす黒い色の筆字で何か模様のようなものが書かれている。見せられても一体何かよくわかっていない雪ノ下は、お茶をすすりながら有川の説明を無言で求める。有川はそんな雪ノ下の態度をわかっているのか居ないのか、しばらく雪ノ下の反応を見た後にやっと口を開いた。
「これは、鵺の行動範囲を小さくするための結界の役割をする呪府です」
「へー。……この文字は墨、ですか? 色がちょっと違うような気もしますが」
「ああ、それは、鶏の血です」
「ふーん……って、鶏の血で書いたんですか!? しかも筆に浸して!」
「そうですが」
 何のことはないように言う有川に、雪ノ下は苦笑いを向けた。たまに、有川のことが理解できなくなる時があった。
 だが、有川の好意はありがたくいただいておくとでも言うように雪ノ下はその紙を手に取った。
「ありがとうございます」
「いえいえ、それから、これを」
 有川は雪ノ下の耳のそばに口を近づけ何かを言う。
「これは、南無八幡大菩薩の呪文です。これを言えば、鵺を倒すための力を借りることが出来るでしょう」
「はい、がんばります」
 雪ノ下は元気よく答えると、そのまま扉の外へ消えていった。

***

 雪ノ下は廊下で瞼を閉じて、鵺の気配を探った。
「気配が、希薄だな」
 一応高等部美術室近くに気配を感じることは出来たが、予想外に鵺の気配は希薄だった。その原因を思い、溜息を吐き出す。
「飛んでんのかなぁ」
 雪ノ下はガリガリと頭をかいた。
 飛んでいるとしたら予想外に厄介だった。
 考えをめぐらせ、とりあえず人気のない場所へと向かって歩き出した。


 人気のない倉庫裏へと来ると、気配を探るために意識を集中させた。すると、鵺がどうやらこちらへ向かってきているということがわかり、雪ノ下はぱちん、と指を鳴らす。
「運がいいな」
 待っているだけでこちらに転がり込んでくれるのだ。雪ノ下は落ち着いた様子で上を見た。きっと鵺は飛んでくる。そんな予感がした。
 雪ノ下は注意深く空を見つめていた。
 すると、大きな羽音が風をともにつれてくる。
 雪ノ下の髪を揺らし、太陽の光を遮る大きな影が見えたと思った、その瞬間、雪ノ下はそれが巨大な翼を持った長い髪の男だということに気がついた。
 男は雪ノ下の姿を見つけるとにやりと笑い、下へと降りてきた。雪ノ下は呪府を握り締め、鵺が完全に地面に足をつけた瞬間に、地面に呪府を貼り付けた。あたりの空気が明らかに変わり、結界がはられたことがわかった。
「あらん、結界なの? 賢いわね」
 ニヤリ、と笑い鵺が言った。
「あんたね、鬼を再び封印したのは。人間のくせにやるじゃない。でも、私はあいつのようにはいかないわよ」
「どうかな!」
 雪ノ下は、鵺に拳を向けた。気をまとった拳が鵺の頬を捉えようとするが、鵺はそれを裂け、にやりと笑いながら、飛び上がると雪ノ下の顔を蹴る。予想外にすばやい動きと、強い力に雪ノ下は地面へと倒れこんだ。
「あら? そんなものなの? もっとおいでなさいよ」
「ちっ」
 雪ノ下は舌打ちをすると、唇を切ったために流れ出て顎を伝った血をぬぐった。鬼のようにはいかないという鵺の言葉は決して嘘ではなかったようだった。
 雪ノ下は、手と足に気を集めると、鵺に向かっていった。気をまとった足で地面を蹴ると通常よりも早く走ることが出来る。
 鵺はいきなりスピードを上げた雪ノ下の行動を見極められなかったらしく、目を見開きながら体と顔に攻撃を受けてしまう。細いからだが宙を舞うが、雪ノ下が予想していたほどダメージを与えられなかったようであり、鵺の羽が雪ノ下の頬を掠った。血が零れ落ち、鋭い痛みに眉をゆがめたそのとき、鵺の拳が雪ノ下の腹へと食い込んだ。一応気でガードはしたが、吹っ飛ばされ地面を転がった。
「つぅ」
「私の顔に手を出そうとするからそういう目にあうの」
 雪ノ下は鵺の言葉を完全に無視して、鵺の四肢を極めるための関節技をすかさず繰り出した。鵺は四肢を極められ、その痛みに顔をゆがめた。
 雪ノ下はぼろぼろの体を奮い立たせ、有川から教わった南無八幡大菩薩の呪文を唱える。
 すると、鵺の体が傍目にもよくわかるほどに震え始めた。
「効いてる、みたいだな」
 雪ノ下はつぶやくと、息も絶え絶えになった鵺の眉間へ鏃の如く人差し指と中指を揃えて貫手で突き気を流し込んだ。
 鵺は声にならない悲鳴をあげ、ぐったりとその場で意識を失った。
「ったく、手間取らせやがって」
 鬼よりもずっと手ごわかった。痛む肋骨を押さえながら、懐より封印用の呪符を取り出すと、鵺の体に貼り付けてその場に封印を行った。地面に封印すると、雪ノ下はその場にどさっと座り込む。
「あー、かえんねぇとなぁ」
 痛む体を奮い立たせると、雪ノ下はボロボロになってしまった体を奮い立たせ、帰路についた。



エンド

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0391/雪ノ下・正風/男性/22歳/オカルト作家】

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■         ライター通信          ■
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二度目の発注ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
これからもどうぞよろしくお願いします。