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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


アスラローネ・1906

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0.オープニング

アスラローネ。それは禁断のワイン。
中でも1906年ラベルの それは、もはや兵器。
一口飲めば。
普段 どんなにクールでも。
普段 どんなに淑やかでも。
普段 どんなに真面目でも。
普段 どんなに天然でも。

崩壊。

そんなワインが今。1人の男の手に渡った。

「…どーすっかな。これ」

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1.

「へぇ…聞いた事はあるけど。見るのは始めてだわ」
マジマジとラベルを見つつ言うと、
武彦さんが真顔で返す。
「どうするべきだと思う?」
私はキョトン。
どうする、って。え?
首を傾げていると、零ちゃんが説明してくれた。
「売れば結構な額になるらしいんです。それ」
あぁ。なるほどね。そういう事か。
売れば 暫らく煙草代に困る事はない、けど。
伝説のワインを飲んでみたい気持ちもある。
そういう事ね。
クスクス笑う私を見て、武彦さんはムスッと。
だって可笑しいんだもの。
そこまで真剣に悩んじゃう貴方が。
「折角だし。頂きましょうよ」
微笑んで言うと、武彦さんは天井を見つめ少し考え。
「そうだな」
はにかみ笑いながら言った。
はい。伝説のワイン、その魅力の勝ち。



「ちょっと…やり過ぎじゃねぇか?」
テーブルに並べられた食事を前に苦笑する武彦さん。
「いいじゃない。パーッといきましょ」
そうよ。たまには。
このくらいの贅沢、したってバチ当たらないわ。
「エビ…エビが…沢山…」
海老たっぷりのグラタンに向かって手を組む零ちゃん。
やだ。ただの海老グラタンが、まるで神じゃない。
大袈裟な仕草に、私は笑う。

ポンッ―
おもむろに開栓された伝説のワイン。
アスラローネ・1906。
フワリと辺りを舞う、その香り。
「うわぁ」
「ふわ〜…」
自然と漏れる声。
目を伏せ香りに酔いしれる私と零ちゃんに。
「アホ面」
クックッと笑いながら武彦さんが言う。

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2.

…駄目だわ。全然表現し切れない。
何て言えば良いのかしら。
何て言えば伝わるのかしら。
この香り。
本当、良い香り。
そう。まるで、花畑のような…。

ガシャァンッ―
「1番!草間 零!歌いましゅっ!」
挙手の後、大声で歌い出す零。
ついでに、噛んだな。今。
「あっはっはっはっ!!」
それを見て、大笑いのシュライン。
楽しそうで何よりなんだが。
床に散らばるグラスの破片。
テーブルから今にも落ちそうなサラダボウル。
ワインで紫色に滲んだカーペット。
…この散らかりようは、どうかと思う。
ドカッ―
「お兄様!飲んでましゅか!?」
背中にタックルをかましつつ言う零。
モワッと香る、甘い香り。
「飲み過ぎだっつーの」
俺は笑って零の頭を撫でて言う。
すると、その場に寝そべっていたシュラインがガバッと起き上がり。
「あっ!ずるい!零ちゃん、ずるいっ!」
そう叫びつつ 俺に向かって這い来る。
虫みてぇ。
そう思った俺は、笑いを堪える。
「ちょっと!近寄り過ぎですよ〜シュラインさん」
「あら〜。零ちゃんこそ くっつき過ぎじゃなくって〜?」
「私は お兄様の妹君で、お兄様は 私のお兄様だから良いんです〜」
おーい。零。ワケわかんねぇ事言ってるぞ。
「あら。それは何?武彦さんは自分の物だって言いたいのかしら?」
「そのとおりです!誰にも渡しませんんんっ!」
腕にギュッとしがみ付く零。
「あー。よしよし」
そう言って頭を撫でる俺。
その光景を見て、シュラインが少し俯く。
あっ。やべぇ。
「…酷い。酷いわ。零ちゃん…」
震えた声。まさか、泣いて…。
「おい、シュライン」
ポンと肩に手を乗せ声を掛けると。
パッと顔を挙げ、ポロポロと涙を零しながら。
シュラインは叫ぶ。
「酷いわ、零ちゃん!零ちゃんが来る前から武彦さんに惚れてたわけだけど、
  零ちゃん来てからは、零ちゃん込みで好きなのに!
  零ちゃんは私込みの武彦さんは嫌なのねっ。もれなく付いてお徳なのに!」
…長っ。台詞、長ぇよ。
しかも意味わかんねぇよ。
何だよ。もれなく付いてお得、って。
苦笑する俺。
腕にしがみ付きながら、零が返す。
「独り占め禁止!」
おいおい。会話おかしいって。
心の中でツッコミを入れると、すぐさま。
「ずるい!ずるいわ!武彦さん!零ちゃんを返して!」
いきり立って叫ぶシュライン。
だから。会話おかしいって。
何でそうなるんだよ。
「…はっ!」
口元に手を宛がい叫ぶシュライン。
今度は何だ。
「どした?」
俺が問うと。
「私、単品でも好きなのよね…」
「は?」
「零ちゃんは目に入れても痛くないし…武彦さんはいっとう大切だし…うー…うーん…」
額を押さえながら考え込むシュライン。
はいはい、そうですか。
空になったグラスにワインを注いで悩む姿を見物。
さぁ。零。悩むシュラインに、お前は何て返す?
「私も!私もシュラインさんが大好きです!」
「ぶっ」
思わずワインを吹き出す。
何それ。丸く収まっちゃった。
あっさりハッピーエンド?
つまんね。

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3.

私の膝の上に頭を乗せてスヤスヤと眠る零ちゃん。
「ふふ。可愛い…」
髪を撫でながら、微笑む私。
「まぁ、俺の妹ですから」
クスクス笑って言う武彦さんの肩に頭を預け。
「シスコン?それともナルシスト?」
目を伏せ笑いながら問う。

「大丈夫か?飲み過ぎたんじゃねぇ?」
耳元で囁かれる言葉と、ライターの音。
「大丈夫よ。まだまだ…」
目を伏せたまま、頷き返せば。
「嘘つけ。あんなに恥ずかしげもなく 愛してるって連呼したくせに」
クッと笑って武彦さんが言う。
私は武彦さんの顔を見やり。
「酔った勢い、だと思ってるの?」
小声で問う私から目を逸らし、煙を吐きながら武彦さんは言う。
「じゃあ、何か。本気だとでも?」
ペチッ―
「いて」
武彦さんの頬を軽く叩き。
ジッと目を見つめて。私は返す。
「いつだって態度で示してるじゃない。もう…」
その言葉が返ってくるのを理解ってたかのように。
武彦さんは、満足気に笑う。
ズルイわ。貴方も酔ってるはずなのに。
また、そうやって避けるのね。
ズルイ。
「ねぇ、武彦さん」
「ん?」
「私も、ここに住んじゃ…駄目?」

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4.

ブーーーーーン…―
カチッ―
「…ふぅ」
額に滲んだ汗を拭い、一息。
やっと片付いたわ。
掃除機を運びながら 時計を見やる。
やだ。もう13時じゃない。
お昼御飯の支度、しなきゃ。

「おー…すげぇ。見事に片付いてる」
背後からの声に振り返る。
扉の前で頭を掻く、髭面の武彦さんと。
眠そうに目を擦る零ちゃん。
「おはようございますぅ…」
トタトタと私に駆け寄り、掃除機を受け取ろうとする零ちゃんに、
「おはよう。大丈夫よ。もう、終わったから」
微笑んで返す。
「はう。すみません…」
申し訳なさそうな零ちゃんの頭をポンと叩いて。
「顔、洗ってきたら?」
そう言うと、武彦さんは眉間にシワを寄せて。
「ん〜…」
何かを思い悩む。
「うん?」
ニッコリ微笑んで首を傾げると、
「シュライン。あの〜…昨日の件だけどよ…」
目を逸らしボソボソと言う武彦さん。
お財布を持って、すれ違い様。
「軽く食材、買ってくるわね」
私が言うと。
「あ?あ、あぁ…」
少し戸惑う武彦さん。
その姿が可笑しくて。
私は、クスクス笑い。
わざと大きな声で言う。

「部屋は、2階の突き当たりが良いわ」

「おっ…。おう」
ギョッとする武彦さん。
覚えてるわ。当然じゃない。
忘れるわけ、ないでしょう?


14時35分 ―

通い慣れた興信所の扉を開けて。
まだ、ほんのりと甘い香りの漂う所内に。
響く。
「ただいま〜」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦

NPC / 草間・零


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           ライター通信          
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こんにちは。遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます^^

シュラインさん、興信所に住まう事になりました(笑)
どうしようかな。と思っていたのですが。
プレイングが、あまりにも可愛かったので。
幸せにしてあげたい!という感情が どの想いより勝りました(笑)
住まう事になれば、更に楽しいかな。とも思ったので^^

気に入って頂ければ幸いです。
今年も どうぞ宜しく御願いします^^

2007/01/16 一檎 にあ