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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


アスラローネ・1906

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0.オープニング

アスラローネ。それは禁断のワイン。
中でも1906年ラベルの それは、もはや兵器。
一口飲めば。
普段 どんなにクールでも。
普段 どんなに淑やかでも。
普段 どんなに真面目でも。
普段 どんなに天然でも。

崩壊。

そんなワインが今。1人の男の手に渡った。

「…どーすっかな。これ」

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1.

「くだらん」
バッサリと切り捨てると、草間は苦笑して。
「今年も残忍だな。お前は」
ポツリと呟いた。
パコッ―
手元にあった煙草の空き箱を投げつけ、私は返す。
「今年もヘタレだな。お前は」

くだらないだろう。
たかがワイン一本で。そんなに悩むなんぞ。
男らしくない。
まぁ…金欠なのは理解するし、同情もする。
だが、お前の論点は少しズレている。
生活費の為に悩んでいるのではない。
お前が見据えているのは、煙草代だ。
レアなワインを売って得た金を。
全て煙草に費やす事しか考えていない。
あんまりだ。
必死に遣り繰りしている零が可哀想だ。
うん。やっぱり。
今年も、お前はヘタレだ。

ポンッ―
「ちょ!おぃぃ!!!!」
「うるさい」
ワインを開栓した私。
フワリと漂う良い香りにスッと目を閉じる。
「うん。これは…なかなか…」
「あ〜あ〜あ〜…開けちゃったよ…」
抜かれたコルクを掌で転がしながら文句を言う草間。
女々しい奴め。
私はキッチンで夕食の支度をしている零を手招き。
「あは。開けちゃったんですか」
微笑みながら駆け寄ってくる零。
私はテーブルの上にあったマグカップに、
ダブダブとワインを注ぎ、それを零に差し出す。
「おい。ちょっと待て。冥月」
すかさず止める草間。
「良いではないか。たまには」
「良くねぇだろ。零は未成年だ」
「うるさいな。黙れ。ほら、零。飲んでみろ」
私が促すと、零は戸惑いつつ。
クッとワインを喉に通す。
「ふわ…甘い」
予想外の味に、驚く零。
ほう。甘いのか。どれどれ。
立ち上がり、キッチンに向かいワイングラスを用意。
ヘニャッと笑う零を目の当たりにして、
ガックリと肩を落とす草間。

コトン―
「さ。乾杯といこうか」

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2.

一口飲んだだけで、意識が朦朧とする。
その伝説の酒に、
悪魔、という異名が付いていた事を。
目が覚めるまで。
私は忘却していた。

「冥月さん、お兄さんの どこが好きなんですかぁ?」
トロンとした目で、頬を紅くし問う零。
私は草間の肩に頭を預けたまま、小声で返す。
「零。勘違いだ。私は、こいつの事なんぞ何とも思っていない」
私の その言葉にハハッと笑い。
草間が言う。
「じゃあ、離れろよ」
「そうですよぉ。離れて下さいっ」
クッと笑い、私は返す。
「それとこれとは、話が別だ」
頭では理解っているんだ。
何て矛盾。
言ってる事とやってる事が別物。
支離滅裂だ。
頭では理解っているんだ。
けれど。どうにも。
言葉が勝手に。溢れるのだ。

「お兄さんは、素直な女性が好きなんですよ?ねっ。お兄さん?」
そうなのか?
「いや…どうだろ。わかんねーな」
自分の事だろう。
「あ、でも…勝気な女性も好きですよね。お兄さんって」
誰でも良いんじゃないのか。
「んー…。まぁ、淑やかなのよりは天真爛漫な方が良いな」
天真爛漫…か。
要するに、無邪気な女…という事か。
ふむ…。
目を伏せたまま思い更ける私に、
零がポツリと言った。
「じゃあ、冥月さんはアウトですね」
「心臓、抉られたいか?」
微笑み、返す私を見て。
零は楽しそうに笑う。
あぁ…こういう笑顔を無邪気、というのだろうな。
なるほど。
草間。お前はシスコンなんだな。

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3.

ソファでグッスリと眠る零を見やり、溜息。
私の、その仕草を見て トイレから戻ってきた草間は、
「人の妹見て、溜息つくなよ」
そう言いながら 近寄ってくる。
「悪い溜息ではない」
私が言うと、草間はクスクス笑って。
「良い溜息なんて、あるのか?」
ツッコミを入れる。
「………」
言葉を失う私。
確かに、そうだ。
意味がわからない。
溜息とは気落ちしている時に漏れるものであり。
幸福な時には漏れぬ。
いや、待て。
でも恋煩いの時には溜息を漏らしたりするではないか。
あの溜息は何だ。
良い溜息ではないのか。
いや、待て。
思い悩んで漏れているのだ。
決して良いものではなかろう。
「冥月」
突然、視界に飛び込んでくる草間の顔。
「…うっ」
無意識に漏れた声。
まるで、みぞおちに蹴りを喰らった時のような声。
何だ。今のは。
無様な。
目を逸らしつつ、私は言う。
「何だ」
「大丈夫か?飲み過ぎたんじゃねぇか?」
「要らぬ世話だ」
フイッと顔を背ける私。
「顔、真っ赤だぞ」
冷たい草間の手が、頬に触れる。
「………」
ゆっくりと顔を戻し。
微笑んで首を傾げる、草間の顔を見やる。
私は今。
どんな顔をしているのだろう。
自分で思いながら、
想像してみると妙に気恥ずかしくなり。
俯き舌打ち。
「おいおい。何で舌打ちすんだ」
クスクス笑う草間。
お前の所為だ。
全て。
何もかも。
グイッ―
「おっ?」
草間の襟を掴み寄せ、至近距離。
戸惑う事なく落ち着いて構える その姿に。
私の心は荒れる。
「…お前の事が、大嫌いだ」
ジッと見つめ、そう言った私。
知ってるよ、と言わんばかりに 何度も頷く草間。
お前を見てると、あの人を思い出すんだ。
彼の方が百倍格好良いし、百倍強いし。
同じ日本人なだけで、顔も全く違うのに。
纏う雰囲気が とても似ていて…。
「……っふ」
襟を掴んでいた手が緩み、
同時に頬を。水が伝う。
思い出す事を避けようと。
必死だというのに。
私は、いつでも必死だというのに。
お前は、いとも簡単に。
その意志を砕く。
お前の所為だ。
全て。
何もかも。
お前の事が。
大嫌いだ。
殺めたい程に。

甘い香りの立ち込める所内。
薄暗い所内。
必死に顔を背け、
無様な顔を見せまいと試みる。
もがく。
遠い過去に縛られた心。
温かい腕の中。
その懐かしさに。
想いを馳せる。

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4.

バコッ―
「いっ…てぇ!!」
大声を上げて、飛び起きる草間。
腕を組み、見下ろしながら私は言う。
「いつまで寝てるつもりだ」
「っつー…。何時。今…」
「16時だ」
「げっ」
ギョッとする草間。
私はツカツカとデスクに向かい。
電話の上に置かれた書類を草間に投げやる。
「仕事だ」
「…マジかよ」
「感謝しろ。電話番してやったのだからな」
「………」

昨晩の涙と、弱音。
電話番をしていたのは、私ではなく零である事。
つい先刻まで、
お前の隣で 心地良く眠っていた事。
全て。
内緒だ。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


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           ライター通信          
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こんにちは。遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます^^

少しずつ少しずつ、クールな冥月さんが 素直になっているような…(笑)
結末は 面白可笑しくしようかな、と思ったのですが。
すみません。やはり、甘くなってしまいました(笑)

気に入って頂ければ幸いです。
今年も どうぞ宜しく御願いします^^

2007/01/17 一檎 にあ