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新年のご挨拶
●オープニング【0】
2007年がやってきた。当たり前だが、草間興信所にも新年はやってきた。
やってくるのはそれだけではない。年始の客もやってくる。まあ草間のことだから、すぐに酒が入ってそのままなし崩しに宴会が始まるに決まっている。
人数が多ければ多いなりに、少なければ少ないなりに元日の楽しみ方はある。
「お鍋ですか、草間さん?」
「零、鍋から離れろ」
という訳で、鍋は却下。
さてさて、年始客は草間たちにどのような新年の挨拶をするのだろう。
今年もよろしくお願いします――。
●登場の仕方を考えてみる【1】
新年早々に事務所の電話が鳴った。まさか年明けすぐに仕事の依頼という訳でもないだろうから、きっと誰かからの新年の挨拶ではなかろうか。零は台所に引っ込んでいたので、当然ながら草間の手が伸びて受話器を取り上げた。
「はい、草間興信所」
「草間、明けましておめでとう」
よーく知った声が受話器の向こうから草間の耳に聞こえてきた。この声は守崎兄弟の兄の方、守崎啓斗のものだ。
「ああ、お前か。明けましておめでとうだな。しかし電話で挨拶か」
「それがどうかしたのか」
意外そうに言った草間に対し、啓斗が聞き返した。
「いや、てっきり弟と一緒に顔を出すのかと思ってたからな。今日はうちに来るのか?」
「草間。もう来ている」
その瞬間、背後から草間の肩をぽむと叩く者が居た。どきっとして振り返ると、そこには携帯電話を手にした羽織袴姿の啓斗が立っていた。
「携帯は便利だな。こういうことにも使える……」
「そういうつまらんことに使うなよ!!」
携帯電話を切ってしげしげと手の中のそれを見つめる啓斗に、草間は突っ込みを入れた。
「いや……鍋の登場が少し捻りがなかったなと思ってな」
啓斗は涼しい顔でそう言い放つと、ごほんと咳払い。
「とにかく……だ。今年もよろしく」
「よろしくはいいが……」
草間はきょろきょろと事務所の中を見回した。啓斗がこんな現れ方をしたのだ。弟である守崎北斗だってどう現れるか分かったものじゃない。と、不意に入口の扉の方から元気よい声が聞こえてきた。
「やっほー!」
草間ははっとして入口を注視する。今の声は明らかに北斗のものだった。が、少ししても誰も入ってくる気配がない。
「……あいつは何やってるんだ?」
呆れたように兄である啓斗の方を振り向いたその時、草間はぎょっとすることとなった。啓斗の後ろに、同じ格好をした北斗が居たのである。
「勝ったっ」
小さくガッツポーズを取る北斗。何が勝ちなんだ、何が。
「おいっ、さっきのあれは……」
扉と北斗を交互に見て草間が尋ねてきた。
「おみくじってさー……」
しかし北斗はそれを無視するかのごとく、独り言のようにつぶやいた。
「1回嫌なのが出たら、納得するのが出るまで引き続けるのってダメなんかねー?」
「は?」
「別に禁止されてる訳じゃねーんだし、やっちゃったっていいじゃん? ほら? 縁日のくじとか。あれ、いいのが出るまでムキになってやっちゃったりしねぇ?」
などと草間に尋ねてくる北斗。答えは『そんなもん知るか』とか『勝手にしろ』で一蹴出来る気もするが、ふうと溜息を吐いてから草間は答えた。
「縁日のくじと、神社のおみくじを一緒にするなよ。だいたいな、縁日とか駄菓子屋なんかのくじは当たりが除けてあったりするんだぞ? 当たりだけ別になって納品されてたりとかな」
「え、嘘、まじ? やけに当たんねぇなと思ったらそんなからくりがあったのかよっ!」
「もっとも、良心的な所は適度に当たりを混ぜてるんだがな。その辺は向こうのさじ加減1つだ」
「ふーん……ま、それはそれで置いといて。おめでと〜さん草間。この前はドーナツサンキュ♪」
ようやく新年の挨拶をする北斗。
「明けましておめでとう。で……何だ、その手は」
挨拶を返した草間は、喜々として両手を差し出している北斗へ尋ねた。
「えー? 正月だろー。俺は子供で、草間は大人。とくれば決まってるじゃん、はい♪」
北斗はそう言って、ずいと両手を草間の方へ近付ける。これはあれだ、『いいからとっととお年玉出せ』と暗に要求しているようなものである。
「出すのは手がいいか? それとも舌か? 足だけは出す気はないぞ」
しれっと言い放つ草間。
「やー、足出されてもなー」
北斗苦笑い。その横では啓斗が小さな溜息を吐いていた。
「……慣用句か……」
ぼそり啓斗がつぶやいた。北斗さん、後で辞書で『足が出る』を調べてみましょう。
「ほら、年が明けておめでたいんだし食べ放題とか行きたいじゃん? その軍資金をひとつ」
笑いながら言う北斗。そして草間も笑って答えた。
「一昨日来い。参考書とか買うって言ったら、俺だって少しは考えたんだがな……」
「ちぇっ、やっぱダメか」
差し出していた両手を北斗はだらんと戻す。その物言いからして、そもそもさほど期待はしていなかったようである。
「あ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね」
ちょうど台所から出てきた零が、啓斗と北斗の姿を見付けてぺこんと頭を下げた。
●鏡餅とお節と誕生日と【2】
「それにしてもあれだな」
草間が啓斗と北斗を見比べながらつぶやいた。
「馬子にも衣装というか……お前たちに和服は似合ってる気がするな」
「振袖で登場の方が意外性があってよかったかもしれない……か?」
真顔で言い放つ啓斗。北斗がすかさず肘で啓斗を突いた。
「意外性はあるだろうが、弟が泣くぞ」
苦笑する草間。北斗はうんうんと大きく頷く。
「だいたいな、さっきの電話にしてもあれだ。どうせ来るんなら、直接顔を出せばいいものを」
「いや。屋上に鏡餅供えたついでに挨拶に寄っただけなんだが……」
草間のぼやきに啓斗が答えた。
「屋上に鏡餅だって?」
「何だかんだ言って、ここで依頼を受けることが多いからな……」
ふっと笑みを浮かべる啓斗。そして思い出したように草間へ言った。
「飾るか? ここにも1つ」
啓斗がおもむろに鞄から鏡餅を出し、それを手にどこへ飾ろうか無表情でうろうろと。
「……屋上に鏡餅はシュールな絵だろ……」
「まあ縁起物だし」
むう、と思案する草間に対し、北斗はさらっと言った。入口の扉が開いたのはそういった時であった。
「明けましておめでとうございます」
「あけおめなのでぇすよ〜♪」
大きめの紙袋を両手に提げたシュライン・エマと、その頭上にちょこんと座っている露樹八重の登場である。
「ああ、明けましておめでとう。揃ってやってきたのか」
「途中で会ったのでぇすよ」
草間の言葉に八重が答えた。で、ちゃっかりシュラインに乗って運んできてもらった、と。
「シュラ姐、何それ?」
アンテナにピンと来るものがあったのか、北斗がシュラインのそばへやってきた。視線は紙袋の方に注がれているのだけれども。
「あ、ちょっと待ってね」
そう言って紙袋をテーブルの上に置くシュライン。そして中から風呂敷包みを両手で取り出す。
「はい、まずは零ちゃんに。今年のお節よ。今年もよろしくね」
シュラインはにこっと笑って風呂敷包みを零に手渡した。
「わざわざありがとうございます。今年もよろしくお願いしますね、シュラインさん」
受け取りながらぺこんと頭を下げる零。すると八重が抗議の声を上げた。
「あたしもいるでぇすよ?」
「あっ。同じく、よろしくお願いします」
零は慌てて再び頭を下げた。
「それからこれはお客様用」
また1つ、シュラインは風呂敷包みを取り出す。北斗の視線はそちらへ切り替わった。
「……1人で全部食べちゃダメよ?」
視線に気付いたか、少し苦笑しながらシュラインは北斗へ風呂敷包みを手渡した。
「お節ゲットだぜーっ!」
風呂敷包みを受け取るなり、北斗は頭上へそれを抱え上げた。よほど嬉しかったに違いない。
「振り回すのもダメっ!」
慌ててシュラインが付け加える。と、草間がそんなシュラインに声をかけてきた。
「……俺の分は? 零に渡したのに含まれてるのか?」
そう草間が尋ねると、シュラインがやや冷ややかな視線を向けてきた。
「武彦さんは別にいらないわよね?」
「おいおいおい」
草間に驚きの表情が浮かぶ。
「だってまぁ……毎年のことだから、飽きたーとか言われるのがオチだし。これから誰か持ってくるかもしれないでしょう?」
などと、言葉でちくちくと刺すシュライン。そう言われると草間も返す言葉はなく、ついつい肩を竦めてしまう。
「ないんなら、それはそれでいいけどな……んー……」
草間のこの様子からして、どうこう言いつつも楽しみにしていたようである。すると、シュラインはくすっと笑って紙袋に両手を差し入れた。
「でも縁起物だしね」
3つ目となる風呂敷包みを取り出したシュライン。
「去年色々あったし……はい、これは武彦さんの分」
あれこれ口にしていたが、結局シュラインは草間の分もお節を詰めてきていたのだった。
「ありがたく受け取ろう。これでようやく新年って感じだ」
そう言った草間の表情には、ほっとした様子が現れていた。しかしここで風呂敷包みの大きさをよく見てほしい。お客様用のが一番大きく、次いで零、そして草間という順だ。まあ対象とする人数を各々考えれば、納得のゆく話であるのだけれども。
「さ、お節も渡したし、さっそく何か作りましょ」
「私もお手伝いしますね」
連れ立って台所へ向かうシュラインと零。八重はシュラインの頭上からぴょこんと草間の机の上に飛び降りていた。
「さぁ、あたしは1月2日までここで待機なのでぇす♪ えいえいお〜♪」
「どうしてだ?」
気になった草間が八重に尋ねた。
「ふふ、知りたいでぇすか? しょうがないでぇすね、教えてあげましょ〜。何故かというと〜♪」
少し勿体ぶりながら、八重はその理由を口にした。
「1月2日はあたしのおたんぢょうびぃ〜なのでぇす♪ だからこのまま、一気にお誕生会に雪崩れ込むのでぇす♪」
なるほど、だからこうも浮かれているという訳かと草間は納得した。
「いくつなんだろうなぁ?」
未だ風呂敷包みを抱えたままの北斗が草間にこそっと尋ねる。
「さあな。10万8歳とかじゃないのか」
どこぞの悪魔なミュージシャンですか、草間さん。
「……だれでぇすか、そこでいくつになったの〜とか言う命知らずは〜」
2人の方をちらりと見て、ふっふっふと不敵な笑みを浮かべる八重。小声で話したはずなのに、聞こえてしまっていたようである。
「れでぃのおたんぢょうびぃは祝ってもよいでぇすが、お年を聞いたりする命知らずさんには今年も不幸が訪れますように……」
八重は啓斗が飾った鏡餅の方を向き、おもむろになむなむと拝み始めた。
「呪うなよっ」
すぐさま草間は八重に突っ込みを入れた――。
●映像でご挨拶【3A】
愛用の割烹着に身を包んだシュラインが、やれハムで作ったカナッペ風おつまみだ、土鍋で作る茶碗蒸しだと用意している間に、今度は草間の携帯電話の方へ電話がかかってきた。
草間が出ると同時に、液晶画面に動画が映り始めた。映っていたのは1人の少女、ササキビ・クミノであった。背後にはパソコンだかのモニタが少し映っていることからして、何か作業中であったのかもしれない。
「明けましておめでとう」
クミノが開口一番草間に言った。
「明けましておめでとう、今年もよろしく頼むな」
「こちらこそよろしくだ」
互いに時候の挨拶を交換する草間とクミノ。そこから先へ進んだのは、草間の方からであった。
「今何してるんだ?」
「見て分かると思うが……」
クミノはそう言って自分の周囲を映し出す。何やら計算されている画面が映っているモニタやら、プリントアウトの山、それから数冊の積まれた分厚い書籍。
「正月早々からかなり忙しそうだな」
深く納得して草間は言った。
「サンタクロースなどは、いくら望んでもクリスマス休暇を取れはしないだろう? それと似たようなものだからな」
「警察官がカレンダーの赤い日にまともに休もうと考えるな、と言われるようなものだな」
結局どっちも同じことを表現していた。季節イベントなどもそうだが、その日の過ごし方というのは人によっていささか異なる訳だ。
日曜日だから、正月だからということで休暇を取る者はそりゃもちろん大多数だろう。しかし、その日こそ働かなければならない者だって少なくない。書き入れ時という理由もあるし、何か起きた時のために対処しなければならないという理由の者だっているはずだ。商売している者なら前者だろうし、警察や消防なんかは後者に当てはまる。
怪奇現象の類も同じだ。正月だから起こらないなんてことはなく、正月ならば正月なりのやり方で起こるかもしれないのだから。そういうこともあって、今のクミノは結構忙しいようである。
「そっちの様子は?」
今度はクミノが尋ねてきた。
「そうだな、何人か年始の挨拶に来てるぞ。映してやるよ」
そう言って事務所に居る者たちに携帯電話のカメラを向ける草間。
「あけおめなのでぇすよ〜♪」
「明けましておめでとう」
「おめでとー!」
三者三様でクミノへ挨拶する八重、啓斗、北斗。草間は立ち上がって台所にも向かった。
「あら。明けましておめでとう……ね?」
「あっ、明けましておめでとうございます」
そしてシュラインと零も料理を作る手を止めて挨拶をした。
「これで今の所は全員だな」
再びクミノの方で映し出されるのは、机に戻った草間に戻る。
「……だな」
クミノが何か喋ったようだが、よく聞き取れなかった。草間が聞き返す。
「何て言ったんだ?」
「何でもない。あとは……」
そこまで言って、クミノは急に思案顔になった。
「今度はどうした?」
「……いや。考えたけど何もないなと気付いたんだ」
苦笑するクミノ。
「そうか……」
草間はそれ以上何も聞かなかった。
「じゃあまた連絡しよう。まだ今、作業の途中だから」
「手を止めてわざわざ新年の挨拶とは悪かったな」
「気にするな。じゃあ」
そしてクミノは電話を切った。
●そして新年会【4】
料理の方も一通り揃い、ようやく皆で新年会の開始。結局6人で始めることとなった。
皆のコップに飲み物が注がれ、草間が乾杯の挨拶をした。草間のコップにはビールが注がれていた。ちなみにこれ、昨年末の鍋の時の余った分である。
「今年もまあ何だ、色々と迷惑かけるかもしれないが……よろしく頼むな。乾杯」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
乾杯を終え草間がビールを飲もうとすると、寸前でシュラインが止めた。
「待って武彦さん。はい、先にこれ飲んで」
渡したのは胃薬。用意のいいことに、水もちゃんとあった。
「かまぼこ〜、紅白のかまぼこ〜♪」
真っ先に紅白のかまぼこを取る北斗。こんな姿を見ると、早々に紅白のかまぼこはなくなるんじゃないかと思えるから不思議だ。
その一方では、兄の啓斗が事務所の資料ファイルに目を通している。始まる前から読んでいたのだが、どうもまだきりのよい所まで進んでいないらしい。
「くさまのおぢちゃのお年始、てっきりびぃるとたばこだけなんていう寂しいおしょーがつと思ったでぇすけどね。あ、このくろまめあまくておいしいでぇすよ♪」
そう言いながら、ふっくら甘く煮えた黒豆に舌鼓を打っているのは八重である。もちろんお節を持ってきたのはシュラインなのだから、シュライン謹製の黒豆だ。
「色も黒々として綺麗ですね。くわいだって、ほら」
くわいを箸で摘んで、零が草間へ見せた。
「ありがと、零ちゃん。そりゃあ時間も手間もかけたもの」
にこっと笑顔で答えるシュライン。我ながら出来映えに満足だったが、他人から言われると余計に嬉しく思えるものである。
それから少しの間、他愛のない話をしながら食べ続ける一同。
「武彦さん、そろそろ……」
と、シュラインが何やら草間を促した。
「そうだな、そろそろいいか」
草間は頷くと、ぽち袋を4つ取り出した。それは千代紙で折られた物。シュラインお手製のぽち袋であった。
「少ないが俺からのお年玉だ」
そう言って、啓斗、北斗、零へとお年玉を渡してゆく草間。
「……もらえるとは思わなかったな。草間、どうもありがとう」
じっと手の中のぽち袋を見つめる啓斗。さてどう使おうかと考えているのかもしれない。
「草間ありがとー! 俺は信じてたさー!!」
これは北斗の喜びの言葉。いやはや、現金なものである。
「ありがとうございます。大事に使いますね」
笑顔でそう言ったのは零である。そんな零の頭をシュラインが撫でた。
「今年も偉いわねえ、零ちゃん。ね、武彦さん」
「そうだぞ、大事に使うのはいいことだぞ」
シュラインの言葉に同意する草間。
「草間、そこで何で俺を見るのさ?」
北斗が唇を尖らせた。
「お前のことだ、食べ放題の店行って1日で使うんだろ?」
「甘いな! ただになったり賞金出る店なら、かなり持つ!」
いやまあそうかもしれないけれど、そもそも胸を張って自慢するようなことなのかどうか、北斗さん。
「まあいいけどな。そして、だ」
「ほへ? あたしももらえるでぇすか?」
ぽち袋を草間から差し出され、八重が目をぱちくりさせて言った。
「そりゃまあ、渡さにゃいかんだろ」
苦笑する草間。八重がいくつか知らないが、外見だけ見れば渡さざるを得ない訳で。
「要らないなら引っ込めるぞ」
「待つでぇす! しかたのないおぢちゃですねぇ。少し早いおたんぢょうびぃのお祝いとして、もらってあげますでぇすよ」
何やらと理屈をこね、結局お年玉を受け取る八重。
「そのお返しというわけではないでぇすけど、おねーさんからプレゼントがあるでぇすよ♪」
「プレゼント?」
「そうでぇす。おしょーがつでぇすし『りっちっち』な気分を味わわせてあげるのでぇす♪」
そう言った八重が草間に渡したのは、珈琲豆1袋であった。
「珈琲豆か……。これはこれで嬉しいな。ありがとうな」
「ミルとメーカーが壊れているとかなんてことはないでぇすよね?」
礼を言う草間に対し、八重が小首傾げて尋ねた。
「大丈夫ですよ。後でさっそく煎れましょうか?」
零が口を挟んできた。食後の珈琲は美味しそうだ。
「そういや、今年の抱負は何かあるのか?」
ふと思い付いたか、草間が守崎兄弟へと尋ねてきた。
「ん、今年の抱負?」
北斗がくりきんとんを食べかけていた手を止めて、少し思案した。
「そっだなー……兄貴がメイド検定で合格しませんように?」
「何だそりゃ。第一それは願い事だろ」
草間呆れ顔。
「あ、そっか。じゃあとりあえず……んー……食い物に釣られない……」
どういう抱負ですか、北斗さん。
「じゃなくてだ。細かな推理が出来るように……かな?」
「ほう。どうしてだ?」
思ったよりまともな抱負を出してきた北斗に、草間が突っ込んで聞いてみた。
「俺ら双子両方揃わなきゃあまり役に立たない……つーの何か嫌じゃん?」
そう答え、北斗は苦笑する。隣の啓斗は黙ってそれを聞いていた。
「なるほどな。ま、頑張れよ」
草間は北斗の肩をぽむと叩いた。
「で、啓斗の方はどうなんだ?」
「……とりあえず今年は皆和やかに過ごせるといいな」
ぼそっとつぶやく啓斗。
「過ごしたいもんだな。難しそうな気もするが」
草間苦笑い。まあ仕事が仕事だからしょうがない話ではある。
「なあ、冷蔵庫に何かない?」
「お前はかまぼこだー、くりきんとんだーって食ってたろ。先に目の前のを食え!」
唐突に北斗が言った言葉に草間が突っ込んだ。すると北斗はてへと笑って言った。
「やー、種類が多い方が賑やかじゃん? 正月だしー、俺も嬉しいしー」
どういう理屈だ、どういう。
「鍋の時のつまみが残ってる、後でそれ食え」
その草間の口調は完全に呆れ返っているようであった。
これはダメだ、空気を変えよう……と思ったか、北斗はシュラインに話を振った。
「シュラ姐の抱負は?」
「え、抱負?」
急に話を振られても、考えていなかったからすぐには浮かんでこない。で、咄嗟に口に出てきたのは――。
「初詣には晴れ着を着てみようかなって」
シュラインさん、それ抱負じゃなく予定です。
「それだったら、零にも着せてやってくれ。正月なんだしな」
「零ちゃんがよければそのつもりよ、武彦さん」
「わぁ……ありがとうございます!」
草間とシュラインの会話を聞いた零の表情が輝いた。よほど嬉しいに違いない。晴れ着を着る機会なんて、そうそうない訳だから。
「晴れ着でぇすか? じゃあ着替えたらさっそくのぼるのでぇすよ!!」
妙な決意をする八重。今年もまた、八重は登る1年であるようだ……。
【新年のご挨拶 了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと)
/ 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
/ 男 / 17 / 高校生(忍) 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
/ 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
/ 女 / 13 / 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全5場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、2007年正月の草間興信所の模様をここにお届けいたします。まあのんびりとした感じでしたかねえ。
・ともあれ、ぼちぼちと依頼が出てくると思いますので、どうぞ楽しみにしていてください。
・シュライン・エマさん、117度目のご参加ありがとうございます。お正月も相変わらず細々とした事柄でお忙しいシュラインさん。お節は草間はもちろん、皆美味しく食べていました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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