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<東京怪談・PCゲームノベル>


初詣は山神様へ

「これでよし、と」
 洞窟の入り口に「ちょっとした細工」をして、「山神様」は微かな笑みを浮かべた。
 こうした形で力を使うのは実に久しぶりのことだったが、出来の方は予想以上だ。
「後は、これを乗り越えてこられるようなやつがいるかどうか、お手並み拝見だな」





「……む?」
 暇に任せて日本のあちこちを放浪していた大鎌の翁(おおがまのおきな)は、不意に感じた強い力の反応に首をかしげた。
 彼の感覚が確かならば、反応があったのは人里離れた山奥で、しかもこれまではほとんど何の反応もなかったような場所だ。
「何がおるのか、見に行ってみるのも悪くなさそうじゃな」
 そう考えると、彼はさっそく反応のあった方へと向かった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ここですね」
 美津に送ってもらった写真と目の前の洞窟を見比べて、振袖姿の少女――榊船亜真知(さかきぶね・あまち)は小さく頷いた。

 一言で言えば、特に人の興味を惹かないような、何の変哲もない洞窟。
 それが、この場所の正直な印象であった。
 こんな所にわざわざ入ってみようという物好きも少ないだろうし、いたとしても奥まで行こうなどと考えるものはそうはいないだろう。
 そう考えれば、人目を避けて隠れ住むにはうってつけの場所と言える。





「おぬしもこの洞窟に用があるのかの?」
 誰かが亜真知に声をかけてきたのは、ちょうど彼女が中へ足を踏み入れようとした時だった。

 声の主は、二十代後半くらいと思われる作務衣姿の男。
 その姿は彼女のよく知る友人の一人に似ていたが、彼が「見た目通りの存在」でないことを、亜真知は敏感に感じ取っていた。
 おそらく、彼の方も亜真知が「見た目通りの存在」でないことに、すでに気づいていることだろう。

「ええ。ここに知り合いがいるものですから」
 今の時点では「山神様」が自分の知人である確信はないが、だとしても美津がいる以上嘘にはなるまい。
 ともあれ、男はその答えに納得したような表情を浮かべた。
「ふむ。わしは強い力を感じてここに来てみたのじゃが、よかったら何が行われているのか教えてもらえんかの?」





「なるほど、そういうことじゃったか」

 この奥に、「山神様」と名乗る神様がいること。
 面倒くさがりの彼を世間と関わらせるべく、彼に仕える少女が「初詣」に来る人を募っていたこと。
 そして、おそらくその「山神様」が、中に何らかの細工をしているであろうこと。
 
 亜真知がそういったことについて説明すると、その男――大鎌の翁はこんな事を言い出した。
「わしもその二人に会ってみたくなったな。わしも一緒に行っても構わんか?」

 もちろん、亜真知にそれを拒否する理由は何もなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 二人が洞窟の最深部に辿り着いたのは、それから十分ほど後のことだった。

「山神様」はここを訪れた「初詣客」が簡単には諦めないように、さりとて簡単には突破できないようにと、「願いの内容に応じた試練が発生する仕掛け」をしておいたのだが、この二人は特に「願い」があってきたと言うより、ただ単に「会いに来た」だけだったので、ほとんどその仕掛けが機能しなかったのである。
 唯一発動したのは、「決まった順番で通らなければいつの間にか元の場所に戻ってしまう」という迷い道の仕掛けだったが、翁が空間をねじ曲げて迂回するまでもなく、魔力の痕跡からあっさりと亜真知が正解を探り当ててしまったため、ほとんど何の障害にもなりはしなかった。

「ようこそいらっしゃいました」
 嬉しそうな顔で、巫女服の少女が二人を出迎える。
「美津さんですよね? 亜真知です。約束通り来ましたよ」
 亜真知が名乗ると、彼女は少し驚いたような顔をした。
「亜真知さんですか? こんな可愛らしい人だとは思いませんでした。
 多分、もっとお姉さんな感じなのかなーって勝手に思いこんでました」

 と。
 そんなことを話していると、洞窟の奥の方から、着流し姿の長身の男が姿を現した。
「あー、初詣客ってよりは、むしろご同輩が俺を訪ねてきてくれた、ってとこか?」
 おそらく、彼が「山神様」なのだろう。
「わしは大鎌の翁と申す。何やら面白そうなことをやっておるようなので、ぜひ挨拶にと思っての」
 翁の自己紹介に、男は軽く苦笑しながらこう応じる。
「俺は、まあ一応『山神』を名乗ってる。本名はいろいろあって明かせないが、まあ好きに呼んでくれ」
 それから、亜真知の方に目を留めて、やがてぽつりとこう言った。
「アマチ……亜真知? ひょっとして、あの亜真知か?」
 その言葉に、亜真知もにこやかな笑みを浮かべる。
「ええ、サ……」
「おっと、待った待った。その名前はもう捨てた……というか、今は使わないことにしてんだ。
 とりあえず、できれば他の呼び方で呼んでくれると助かる」
 亜真知に名前を呼ばれそうになり、少し慌てた様子でそれを遮る「山神様」。
 どういう事情があるのかは知らないが、彼は「昔の名前」、もしくは「本当の名前」を呼ばれることを嫌うらしい。
「では、山神様と呼びましょうか。
 それにしても、お久しぶりですね。だいたい千年ぶりくらいでしょうか」
「もうそれくらいになるか。懐かしいな」
 そのやりとりを聞く限りでは、二人は旧知の仲であるらしい。
「なんじゃ、知り合いじゃったのか」
「ええ。最初にそう言ったじゃありませんか」
「わしは、てっきり美津のことかと思ったのじゃが、まさか両方じゃったとはな」
 翁がそう言うと、亜真知は小声でこう答えた。
「実は、私もあの時点では確信はなかったのですが、顔を見たら思い出しました」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 そして。

「おせち料理と御神酒を用意してきましたので、一緒にどうですか?」
「それなら、わしもとっておきの酒を用意してきておるぞ」
「おっ、二人とも気が利くじゃねぇか。
 新しい年の始まりと千年ぶりの再会、そして新たな出会いを祝して、ぱーっと行くか」

 そんなこんなで、中はすっかり宴の場となってしまっていた。

「せっかくだし、ちょっと窓でも開けてみるか」
 そんなことを言いながら、山神様が何もない岩壁に大きな「窓」を開ける。
「窓」の外にはなぜか水平線が広がり、その向こうから今まさに太陽が昇ってこようとしていた。
「おお、初日の出じゃな。めでたいことじゃ」
「でも、もう外はとっくに明るくなっているんじゃないですか?」
 素直に感心する翁に、隣で酌をしていた美津が不思議そうな顔をする。
 そんな彼女に、亜真知がこう説明した。
「このすぐ外ではなく、『これから日が昇ってきそうな所』と空間をつなげたのでしょう」
「流石は亜真知、正解だ。どうせなら、この方がいいだろうと思ってな」
 楽しそうに笑いながら、山神様がこう続ける。
「しかし、美津があんなことを言い出した時はどうなることかと思ったが。
 おかげで亜真知にも再会できたし、面白い知り合いも増えた。
 今回ばかりは美津をほめてやってもよさそうだな」
 そう話す彼はえらくご機嫌であったが、美津の方はまさかこんな事になるとは思わず、ただただ首をひねるばかりであった。
「うーん……なんだか本来の目的と違ったような……?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ちょうどその頃。
 洞窟の前に、一人の青年が姿を現した。
 守崎啓斗(もりさき・けいと)である。
「……ここか、そのなめくさった神様とやらがいるのは」
 えらく不機嫌そうな様子で、彼は洞窟の中へと歩みを進めていく。

 さらに、だいぶ山を下ったところに、先ほどの青年とそっくりな青年がもう一人いた。
「あー、この感じだとだいぶ先行ってるな……仮にも神様にケンカ売ろうなんて何考えてるんだよ……」
 げんなりしながらも先を急ぐ彼の名は守崎北斗(もりさき・ほくと)、先ほどの啓斗の弟である。

 この二人の登場で、事態はますます予想外の方向へと転がっていくのであった……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1593 / 榊船・亜真知 / 女性 / 999 / 超高位次元知的生命体・・・神さま!?
 6877 / 大鎌の・翁  / 男性 / 999 / 世界樹の意識
 0554 / 守崎・啓斗  / 男性 /  17 / 高校生(忍)
 0568 / 守崎・北斗  / 男性 /  17 / 高校生(忍)

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

・このノベルの構成について
 このノベルは「前編(亜真知さん、翁さん中心)」と「後編(啓斗さん、北斗さん中心)」の二部構成となっています。
 また、最初のパートにつきましては、同じ「前編」でもそれぞれ個別のものとなっておりますので、よろしければ他の方に納品されているノベルの方にも目を通してみて下さいませ。

・個別通信(大鎌の翁様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 ノベルでの描写の方ですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 亜真知さんとの面識の有無については、ざっと見た限りでは判断出来る材料がなかったため、特に面識はないものとして書かせていただきました。
 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。