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<東京怪談・PCゲームノベル>


深雪の中を駆けて 〜Auberge Ain〜にて



「ねぇ、武彦さん。私、神社にお参りして帰るところだったわよね?」
 思わず隣にいる草間武彦に確認を取るシュライン・エマ。
 ハーフコートにマフラー、手袋を填めた手には、お参りした神社で頂いてきた御神酒の入った紙袋。
 至って普通の姿だ。
 いま居る場所を除けば。
「その筈だけどな……」
 どこか遠くを見るような視線で、草間が見るのは眼前に広がる風景。
 びゅうびゅうと吹き付ける雪。
 辺り全体、見渡す限り雪景色、そして猛吹雪。
 ぶるっと身体を震わせて、草間は襟を立てマフラーをきつく巻く。
 それでも服の中に入ってくる雪に、顔を顰めた。
「今更、多少の事じゃ驚かないけどな……。お参りした時に、甘酒飲んでおいて良かったな」
「そうね……。まさか、神社の鳥居から違う場所に、私達だけ飛ばされるなんて思わないもの」
 甘酒を飲み過ぎて、酒気で軽くなった身体をふらふらさせていた草間を引っ張って鳥居をくぐったのは夕刻前。
 鳥居をくぐれば、その先は歩道で、横断歩道があった筈なのだ。
 だが今は。
 はぐれないようにと草間の腕を掴み、何処か建物がないかと視界の悪い中、シュラインは目を細めながら見ていると、時折生き物が横切っていくのが見えた。
「私達だけじゃなさそうよ、ここにいるのは。動物……だと思うけど、吹雪の中を移動していたもの」
「移動?」
「そうよ」
「それはやばくないか? 雪の中移動するってことは、避難してるんじゃないのか?」
「もしかして、山の上……?」
 さくさくと雪に潜ったブーツを見下ろす。そして、その下では雪が硬くなっているのに気付く。
 怖い思考がふと過ぎり、シュラインは自分のマフラーを外し、草間の手首と自分の手首を結びつける。
「雪崩れの可能性か」
 シュラインが結んで居るのを眺め、草間が呟く。
「……というか、吹雪で聞こえにくいんだけど、多分、現在進行中よ」
「怖い事いうなよ……」
「だって、段々と音が大きくなってきてるのよ。武彦さん、何か……木とか探して」
「木ってたってなぁ」
 雪に埋まっているのか木の形が見えない。
「風の流れから、下はこっちね」
 シュラインの動きに合わせて草間も移動する。
「……っ、くしゅんっ」
「大丈夫か?」
「……大丈夫。でも、いつまでもこのままじゃ雪に埋もれちゃうし、避難できる山小屋ないかしら」
 雪に足を取られつつも山を下りながら、少し不安そうに呟く。
「ま、なんとかなるだろ。どーも来た事のある場所に雰囲気が似てるんだよな」
 楽観的な草間に、シュラインは苦笑する。
「それは私も思うんだけど、雪の降るような所だったかしらと」
「あの生意気な馬、呼び出せば分かるんじゃないか?」
 草間は攻撃的な一角獣を思いだし、微妙に嫌そうな表情を浮かべ提案する。生意気でも、あの世界の住人の様だった事だし。
「あの子、召喚書から出てきたから、本がないと出てこないかも」
「懐いているから出てきそうだけどな」
「うぅ〜ん、そうだといいけど」
 大丈夫かしらと内心どきどきしながら、思い浮かべるのは白くて小さい獣。草間にはちょっぴりいじめっ子な小さな一角獣。
 ぱたぱたと動く尻尾が、崇高そうなイメージを柔らかくしている。
 助けてという現実の思考と、今居るこの場所が前に出会った一角獣のいる世界なのか確かめる為に思考を定めていたせいか、現れたのは大きくなった一角獣だった。
 動きに合わせてふぁさりと尻尾と鬣が揺れる。
 と同時に、シュラインと草間の間に入って妨害しようとする。
「どぅわぁぁ!?」
 勢いに流される草間。背中が雪まみれ、腕が伸びて為すがまま。
「大丈夫!? 武彦さん」
「大丈夫じゃない!」
「ちょっとまってね」
 ずりずりと引きずられているのは、馬上にシュラインが居るからだ。
 素早く乗せることが出来て満足なのか、一角獣はヒヒンと声をあげる。
 どうみても馬鹿にされている。そう感じた草間は恨めしげに見上げた。
「この焼きもち焼き馬め!」
「一角獣は女性が好きなんだもの、仕方ないじゃない」
 言い方変えると、女好きな獣じゃないかと草間はごちる。
 シュラインは自分と草間を繋いでいたマフラーを外す。どさりと雪の上に人型の穴が出来た。その形の穴に嵌っているのは勿論草間だ。
 小さい子どもがすると可愛い物だが、草間がしてもあまり可愛くない。穴をがさがさと崩し、立ち上がると草間と馬の対決が始まる。
 ガンの付け合いだ。
「武彦さんったら。……この子の名前、まだ付けていないのよね。何が良いかしら?」
「馬に名前か〜? バカ馬で十分だっ!」
「ヒヒンっ!」
「真っ白で艶のある毛並み、真珠のようね……、ペルルってどうかしら」
 一角獣にお気に召すかと、長い首をぽんと押さえる。撫でる手が心地よいのか頭を下げた。
「気に入ってくれたみたいね」
「それはそうと、だ。そろそろ逃げたいんだが、真面目に」
 草間が目をやったのは山上から怒濤の勢いでやって来る雪の波だ。
「ペルルは空を駆けることが出来るから大丈夫よ。ね……?」
 じーっと見つめ合う、草間とペルル。
 間にあるのは友情ではなく、敵対。
 ペルルの中では、草間はちょっとむかつく相手だが、危険が迫ってきている状況で、召喚主であるシュラインを巻き込む訳にはいかないと、しぶしぶといった様に首を振り、背に乗るように示す。
「ありがとう、ペルル」
「ヒヒンっ」
 仲睦まじい一人と一頭を見て呟く草間。
「……ありがたいが、何か素直に思えん」
 振り落とされないかと内心びくびくしながら、ペルルの背に乗ると助走も無しに加速をかけた。
「っておいっ!」
 首ががくんと後ろにのけぞらせたまま、避難できそうな場所にまで移動して貰う。
 ちなみに草間は雪まみれだが、シュラインは雪からは守られている。ペルルがシュラインの周囲に暖かな風を纏わせているからだ。
「武彦さん、大丈夫?」
「……」
 がちがち歯をかち合わせている草間に、シュラインは自分が守られている範囲へと草間を引き込んで寒さから遠ざけようとする。
 その様子を背で感じたペルルは意地悪はこの辺りで勘弁してあげようとでも言うように、範囲を拡大した。


 雪崩れていく雪を真下に、吹き付ける吹雪の中を暖かな風に守られながら駆ける。
 暫く、流れゆく雪を背景にして、辿り着いたのは造りのしっかりとしたログハウスだ。
「明かりが漏れているわ」
「行くぞ。この寒さから解放されるのなら、何が出ても構わん」
「いつもの用心深さは何処にいったの」
 思わず突っ込むシュライン。
「あら、誰か此方をみているわよ」
「決まりだな」
 二人と一頭はログハウスの前に降り立つ。
「何処かで見た事のある人ね……?」
 Auberge Ainの支配人に似ているが、髪型が若干違う。
「いきなりで悪いが、泊めてくれ。二人と一頭だ」
「お待ちしておりました、草間武彦様、シュライン・エマ様」
「ということは、此処も?」
「はい、その通りです。別館ということになります。雪の中ですので、あまりお越しになる方も居られないのですが」
「じゃ、私達だけなの?」
 ぶるんと身体から雪を払い飛ばし、ペルルが手乗りサイズになる。
「お一人いらっしゃいます」
「そうなの。誰かしら、前に会った事のある人なのかしら」
「食事の前に、草間様」
「何だ?」
 そっと手渡されたのは一風変わった猟銃だ。
「狩りをお願いします」
「狩り?」
「はい。ご覧の通り、この世界はずっと雪に閉ざされております。獣の数も少なく、世界に必要な数の獣しか存在しません。私たちも普段狩りをしているのですが、既に私たちに必要な分の狩りは済んでいます。……ですので、宿泊されるお客様に、必要な分の食糧を狩ってきて頂く必要があるのです」
「この雪の中を……?」
「頑張って、武彦さん」
「雪崩などはこの辺りは起こりませんので、ご安心下さい」
「安心ったってなぁ……、まぁいい。行ってくる」
 草間を見送ると、入れ替わりに人が現れた。
「ブラッドさんだったのね、もう一人の宿泊客って」
「久しぶりだな」
 ブラッド・フルースヴェルグは手にした獲物を支配人に手渡すと、シュラインの前に立った。
 中へと誘いながら、着ていたコートを脱ぎ、サロンへと足を運ぶ。
 吹き抜けになった天井が開放感を感じさせる。
「暖かい。ほっとするわ。今までと違った来訪の仕方だったから」
「此処は、時間軸が微妙にずれているから、位置が固定できないのだ」
 二度訪れたAuberge Ainは必ず同じ場所に降り立っていたのに気付く。
「ということは、ブラッドさんも、雪の中に突然現れたの?」
「そういうことだ」
「来るのは大変だけど、こういうのもたまにはいいわね」
「雪に閉ざされている分、中で過ごす時間も貴重に感じられる所が良いのかもしれないな。外へ出かける事が出来れば、外に出かけるだろうし。外へと出る手段を排除すれば中で過ごすしかなくなるからな。ま、そこまで考えて、このログハウスがあるのかは読んではいないが。静かに仕事もなく過ごせるのなら、私は何処でも良い」
 用意されたココアを黙って口へと運ぶ。
「仕事嫌いなの?」
「好きではないな」
(素直じゃないのねぇ)
 シュラインは少し笑みを浮かべると、添えられたビスケットを手にした。


 銃を扱うのは何げに得意な草間は、猟銃も容易く扱えたらしく、二人がお茶を楽しんで終える頃に戻ってきた。
「獲物と銃な」
 2羽のウサギと猟銃を手渡す。
「可愛い。でも、食べるのよね。……頂きます」
「ん?」
「だって、ウサギの姿なんだもの。お礼っていうか……」
「あー……、そういうことか。ま、ありがたく頂くってことで」
「どんな料理を作ってくれるのか楽しみにして待つことにしましょ」
 厨房へと入っていった姿を見送る。
 シュラインの思考は既に食事のメニューに向かっていた。
「獲物を狩りに行く前にキッシュパイをリクエストしておいたんだが、他に希望があれば言っておくといい」
 ブラッドが手にした本から目を離し、シュラインにいう。
「そうね………、料理は楽しみにしてるからいいの。美味しいワインのホットワインが飲みたいわね」
 美味しいっていう所がポイントらしい。
 そう答えると、夕食までに身体を綺麗にしておこうと、サロンを後にした。


「もう、いっぱいよ……」
「何がだ?」
 シュラインが口にした言葉に草間が疑問を投げかける。
「パイよ……って、武彦さんも食べたじゃない」
 たっぷりと夕食を堪能して、ホットワインも飲んで満足してベッドに入った所まで向こう側に居たのだ。
「そうだったか……?」
 食べたものも忘れたの? とシュラインが苦笑する。
 食べた事は覚えているが、どうも夢のようで実感がないらしい。
「美味しかったのに」
「じゃ、美味しそうな屋台に寄って帰るか」
「屋台……、武彦さんらしいわね」
 慎ましやかな食事を思い浮かべる。
 ちょっと貧乏くさいかもしれないが、それはそれでいいのだと思う。
「今の時期なら、おでんあたりか」
「そうねぇ……」
 人混みの中を二人は歩き出し、何処の屋台にするか選び始めたのだった。



END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【公式NPC】
【草間・武彦/男性/30歳/草間興信所所長、探偵】

【NPC】
【ブラッド・フルースヴェルグ /男性/27歳/獄が属領域侵攻司令官代理・領域術師】

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■         ライター通信          ■
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>シュライン・エマさま
こんにちは。竜城英理です。
〜Auberge Ain〜にて、参加ありがとう御座いました。
何か雪の中から始まっています。冬だし、という単純さから来ているのですが。
可愛らしい名前をありがとう御座います。気に入っているようです。
獣なので話はしないのですが、ちゃんと分かっているので。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。
依頼や、シチュで又お会いできることを願っております。