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<PCあけましておめでとうノベル・2007>


着物ポスターモデル大募集☆

●モデル不在のスタジオにて
「‥‥やっぱり、この企画はなかった事には出来ません。この際素人でもいい、スカウトしてポスター撮りを終えましょう」
 とある撮影スタジオで、こんな会話が交わされていた。
「馬鹿言え、事務所が軒並みバックレたんだぞ。素人がこの仕事を完遂出来るか!」
「いや、分かりませんよ。正月のこの時期、東京の街のどこかで、ポスター撮りを良しとしてくれる子がいるかもしれません」
「む。公開は元旦に合わせたいしなぁ──」
 モデル不在の中、数人のスタッフが額を寄せ合って打開策を練っている。
「とにかく、街へ出よう。それからだ!」
 飛び出した数人を見送り、唯一人の人間はホッと溜め息を吐いた。
 ──良かった。
 モデル事務所のありとあらゆるツテを頼っても断られたポスター撮りは、この人物のコピーから生まれている。
「さて、僕も探そうかな。着物を着こなしてしまう男の子」
 完全なる美は性別を越え、何を着ても似合う。

『性別を超えて受け容れられる着物──平和堂の和服は美しく、華麗に』

 コピーライター。それが彼の職名だ。


●モデルスカウト
 街がざわざわと騒がしいのは、きっと『日本のお正月』前だからだろう。
 見慣れた筈の東京が違って見える様子にわくわくと胸躍らせるのは、イスターシヴァ・アルティス。青い瞳から察せられるように、日本人ではない。
 ちなみに言うと地上の人間ですらないのだが、水どころか食べ物も生活習慣も馴染んでしまっているシヴァにとって、天界に帰ってしまうよりこの街の人間として生きる方が楽しかったりする。
 ──あ、『かがみもち』だ。
 年末の掃除用具を大量に買い込んでいる人もいれば、年明け準備を始めてる人もいる。そうかと思えば大量の年賀状を持って慌ててポストに突っ込んでいる人もいて非常に面白い。
 ──『はつもうで』に行って、『はまや』を買うんだっけ。家族で『おせち』を食べてー、子供は『おとしだま』をもらうんだよね。
 教会に属す以上和装して初詣、なんて事はしないが興味はあった。
「おせちに挑戦してみようかなぁ?」
 年末年始にバタバタし始めた人達を見ていると、何だか自分もそれらしい事をしたくなってきた。
 着物の着付けは出来ないし、高そうだからおせちで手を打とうかな? なんて思いながら歩いていたのだから‥‥その出会いは、運命──と言えるのかもしれなかった。
「み、み、みみみ」
 それは昆布巻きで包む鰊(にしん)に思いを馳せていた時だった。
 ──み? みって何?
 どこからともなく聞こえてきた不気味な呟きに、シヴァの足がぴたりと止まる。
 腰砕け状態になったとしか思えない体を無理矢理近くの店頭人形で支え、こちらを指で指している若い男がいた。
「みっ、みみっ、みみみみみー!」
「‥‥僕、みって名前じゃないですけど」
 そう、この人物こそがコピーライター、着物ポスターのモデルを探している一人であった。


●スタジオ入り
「ここがポスター撮りに使っているスタジオだよ」
 街中で勧誘されたシヴァが連れて来られた先は、幾つもの照明機材の下に設けられた何もない空間、そして反対にカメラに繋がれたコードがとぐろ巻く床。見るもの全てが初めてで、新鮮だ。
「あなたが着物モデル? 着付け担当の皆川エリよ、よろしくね」
「イスターシヴァ・アルティスです、よろしく、エリ」
 にこ、と挨拶を交わすシヴァに、スタッフの間から声が上がった。
 さすが天使、と言うべきだろうか。純真無垢な笑顔を見せるシヴァにスタッフが好感を持つ。
 嘘くさいない笑顔。整った顔立ち。モデルとして、申し分なし。
 そして何より乗り気のモデル。出だしは完璧であった。

「‥‥‥‥‥‥はい?」
 わーい着物が着られる☆とはしゃいでいたシヴァの顔面が固まったのは、その僅か五分後。
 事件は更衣室で起こった。
「ん? えと?」
 着物が広げられるようにだろう、先ほどのスタジオとは違い、床一面に敷き詰められた絨毯の上に次々と色とりどりの反物が並ぶ。
「ん? あれ?」
 キョトキョトと挙動不審になるシヴァに着付け担当エリが真っ白い襦袢を差し出した。
「まずはこれから着てもらうわね。とりあえず襦袢を着てくれるかな?」
「‥‥‥‥‥‥えっと、えっと。これって女物じゃなかったっけ?」
 控えめに言ってみた。差し出された襦袢といい床を埋め尽くす着物といい、男物が見当たらない。
 やだなぁ、ひょっとしたら僕女の子に間違われてる? うん、僕天使だから性別不定だしね、女の子にも変身出来るんだけど。
 でも、僕‥‥今、男の子だよ?
「あら、まぁ」
 エリが口を掌で覆って、目を見開いてる。
「あなたをここに連れて来たコピーライターから聞いてない? 『性別を超えて受け容れられる』がテーマなのよ」
「はい? はい? はいぃ〜〜〜???」
 目の前に突きつけられているのは、『振袖』。未婚女性しか着てはいけません。 


●撮影本番
「はいっ、それじゃあまずライトの下に普通に立ってくれるかなー?」
 良いモデルをゲットした、と浮かれているカメラマンが更衣室から出てきたシヴァに向かってのたまう。
 ──誰も何も突っ込まない。ねぇ、コレでいいの?
 振袖を着、黒髪に鈴のついた髪飾りがつけられ、動くたびにちりちりと可愛らしい音を奏でる。
 元々の肌は白いからと薄っすらとファンデを施され、口紅は濃い目の赤、アイラインまでリキッドでかっちり引かれ、睫毛カールまでされた。
 ──ね、ホントにこれでいいの? 何か間違ってなくない?
 天使だから女性の格好をする事も違和感はない。だけれども今の自分は間違いなく男性形だった。
「か‥‥かぁわいぃ〜〜〜‥‥! 萌え!!」
 スタッフ的に問題はないようだ。

「あつ‥‥」
 まだ一着目の筈なのに、ライトに当たっているせいだろうか? 異様に汗をかく。
「あはは、女性の和装は色々着込んでるからね〜」
 額に浮かんだ汗を軽くガーゼで叩いてやりつつ、エリが笑う。
「胸に補正タオル突っ込んでるしウエスト部分だけでも帯枕やかったい帯板、帯揚げ突っ込んで更に帯紐でも縛ってるしねぇ」
 そう、必要性を見失うほどの量であった。
 ──着物、って‥‥綺麗なんだけど、ちょっと苦しい、かも。
 少し安易にバイトを受けてしまった自分が悔やまれる。その表情に気付いたのか、エリが苦笑した。
「でもこの場合、原因は1月ポスターって事になるかもね」
 はいOK、と着付け担当が離れる。マスカラで目元がはっきりしたシヴァが目を瞬く。
「関係あるんですか?」
「あるよー。そもそも長襦袢からして冬仕様だから」
 気付かなかった。
「そうだったんですか」
「袷(あわせ)、て言ってね、裏地の付いてる着物の事を言うの。11月初旬から3月末頃の寒い時期に着るのね。初夏と初秋に着るのが裏地のない単衣(ひとえ)」
「へぇ‥‥」
 洋装に馴染んだシヴァにとって、それは新鮮な情報だ。着物は着物、と単純に一括りで見ていたから。
「着物の素材も夏物があるのよ。真夏には絽や紗、上布(じょうふ)っていう素材の透ける薄い着物を着るの。帯も絽や紗の単衣帯にしてね」
「着物の生地‥‥色々あるんですねぇ」
 何故だろう? 洋装だと当然のように理解していた常識が、着物に当てはめるととても不思議だ。この触り心地そのままに。
 指で辿った銀色の部分は、銀箔を使って織り込まれているからだという。
「次はこの風呂敷持って。足先を揃えてこの椅子に掛けてくれる?」
「はい」
 かたい帯部分を押さえながらやっとの事で腰掛ける。足幅を開けてられないし帯でウエストが締め上げられているから、自然、姿勢がよくなった。和服女性にしおらしい動作が多いのはこういう事情だったらしい。
 こんな感じ、と姿見を引きずってきたエリが正面から自分の姿を見えるようにしてくれた。
 アメジストのような瞳に合わせたのか、振袖の地は濃い紫から薄い紫へとグラデーションしている。
「綺麗な色でしょう? この色が何色か分かる?」
「‥‥パープル?」
「そう。でも一色じゃないの。この部分が京紫、古代紫、棟色(おうちいろ)‥‥」
「ええっ!?」
「この辺が菫色。ちょっと青みの冴えた紫でしょ? 紫にも色々名称があって、自分好みの帯や帯紐に合わせるの。着物のオシャレってやつ」
 ──それは楽しい。
 窮屈、と感じていた着物が、今は自分で自分を彩ってみたいと思える。天界にはない楽しみ。
「次は打掛を着てみる? 振袖と違って3尺あるから重いし引きずるけど」
 でも、とエリの瞳が悪戯っぽく輝いた。
「一枚の絵みたいに模様が全体にあるから、すっごく豪華で華やかよぉ〜」
 今は男性形だ。それでも。
「はい! 着てみますっ」
 ぜひどんな着物なのか見てみたい。


●ポスター、完成!
「みんなこれから初詣に行くのかな?」
 街中を助祭用の黒い衣装で歩くのは、無事正月を迎えたシヴァ。年末前に見た東京より三が日の東京の方が人混み激しくて、ちょっと酔っている。
「あ、着物だ」
 年末には皆無だった目立つ和装が、人の流れの中ちらほら見えた。男性が優しく手を引いていたり、歩幅狭く歩くのは今は実感をもって理解出来る。
「ペンギンみたいになっちゃうんだよねぇ」
 くすくす、と笑いが止まらない。更衣室からスタジオまでの僅かな距離も、足袋と下駄で非常に歩き難かったものだ。
 それでも金銀刺繍に見た事もない色柄を重ね合わせるのはなかなか楽しくて、女性形になった時にぜひまた着てみたいと思う。
「わ、わ、わわわ」
「‥‥ん?」
 何か聞き覚えのあるどもった喋り方が聞こえた。ぴた、と足を止めると初詣へと流れていた人混みが一部ショーウィンドウ前で固まっている。
「すっ、すごっ、すごぉぉおいー!」
「ん? 何かな?」
 興奮冷めやらぬ口調の女性がすごいすごいと喚きたて、
「なっ、なぁ、この芸能人誰なんだ!?」
「知らねぇ、見た事ねぇよ! こんな芸能人いたか!?」
 と男性の必死そうな疑問が飛び交ってる。
「寝顔可愛いぃぃいーーーーーっっっ!!!」
 絶叫する女の子達もしっかりファー付の振袖を着ていて十分可愛いのだが。はて? と小首を傾げながらシヴァがショーウィンドウを見上げると、そこには。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ん?」
 黒髪を散らせ、花嫁衣裳のまま寝込む一人の着物少女。CGなのか、紫の羽根がはらはらと舞っている。
「ん? んんん〜?」
 目を閉じているが、はっきり見覚えのある顔。めちゃくちゃ見覚えのある‥‥着物。
「かっわいいよねぇえーーー!!??? 白雪姫みたーいっ!!」
「どこの事務所の子かなぁ? まだ新人かも」
「‥‥‥‥」
 新人どころか芸能人ですらない。
 そろ、と人の輪から離れ、一人歩き始めるシヴァ。
「このポスター一枚もらってこー♪」
「ずっ、ずるいぃぃいい!!!!!」
 ポスター一枚の奪い合いが始まった会話を背中で聞きながら、
「そういえば着替え疲れて寝ちゃったんだっけ。あはははは☆」
 次は男性物の袴も良いかもしれない、いややっぱり女性形でしっとり着物を着こなしてみようか?
 人混みに酔っていたとは思えない足取りで。
「日本のお正月、って言ったらやっぱり着物だよねっ♪」
 ウキウキと、シヴァは人混みに戻る。


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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2007★┗━┛

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 5154 / イスターシヴァ・アルティス / 男 / 20歳 / 教会の助祭


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■         ライター通信          ■
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イスターシヴァ・アルティスさま、ご依頼ありがとうございました!
納品〆日の納品、すっかりお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。

普通素人モデルなんてキマらないと思うのですが、イスターシヴァさまの神秘的な紫の瞳は着物によく合って、着物を楽しいと感じる心もあり随分とポスターモデルを楽しんで頂けたようです。
着付け担当のエリさんから色々着物の知識を得たようですし、今後の依頼のお役に立てるかもしれませんね。
個人的には、街中で奪い合いが始まってるポスターが気になるのですが‥‥(笑)

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、
またぜひよろしくお願いしますね。ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより