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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


五つの封印石〜第三話〜

オープニング

「学園内のフィギュアスケート部、ですか」
 がやがやと煩い教室の一角で、吉良原 吉奈と大森、斉藤が話していた。大森と斉藤には学校に異変が起こったときの報告を義務付けていた。
 どうやら最近一つ気にかかる異変があったようで、彼らは吉奈に報告しに来ていた。
「はい、なんかフィギュアスケート部で万年補欠だった二年の木島 真崎先輩がいきなりテレビの取材も受けるぐらいの技術を身に着けたって俺のダチが言ってました」
「ちょっと気になる噂ですね」
 吉奈は唇に手を当てて考え込むようなしぐさをした。
 それから二人に顔を向けるとにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。また、よろしくお願いしますね」
「は、はい」
 圧力をかけるようなその笑顔に、大森と斉藤の顔が引きつった。
 去っていく二人の後姿を眺めながら、吉奈は笑顔を引っ込めると、真剣な顔で考え込んだ。


***

 
 神聖都学園の部活はすばらしい設備の元で練習することが出来る。マンモス学校ならではのお金の使い方だ。吉奈はその設備の一つである室内スケートリング場の前へと足を運んだ。
 フィギュアスケート部はここで練習を行っている。
「ここが、スケートリング場……か。よくない雰囲気がする」
 びりびりとする首筋をさすりながら、吉奈は自分の勘が正しかったのだということを確信して、歩き出した。
 吉奈が室内スケートリング場へと足を踏み入れると、冷たい空気が彼女に襲い掛かって来た。外は秋のためにそれほど寒くは無かったが、さすがに氷を維持するために内部の空気は少し外よりも冷たくなっていた。大きなスケートリングの上で二十数名の生徒が練習を行っている。吉奈は客席のほうを眺め、テレビカメラらしきものがあることを確認すると、ひときわ目立つ人物を確認した。
 リングに近づくと、彼の顔がよく見えた。
 黒く短く切りそろえられた髪を持つその少年のすべりはとても美しく、素人目にも彼がすばらしい実力を有しているということがわかる。
 吉奈は彼の技術に簡単の溜息を吐き出しているカメラマンたちを尻目に、観客席の一つの席に腰を下ろした。
 木島の技術には何かよくないものを感じる。それは吉奈の勘だった。だが、吉奈は鋭い自分の勘を信じていた。
「夜、かな」
 吉奈はしばらく木島の演技を眺め、つぶやくと、その場は帰ろうと立ち上がった。


 夜、すっかり暗くなった空の下、室内スケートリング場へと入った吉奈はライトのついているリングを眺めた。そこでは木島が一人練習を行っていた。
 いや、一人ではない。
 吉奈は目を細めた。木島に寄り添うようにして、こうもりのような翼を持つ化け物も居ることに気がついたからだ。二人は滑りながら何か言葉を交わしているようだった。
「ああ、やっぱり…」
 吉奈は表情を険しくしてリングへと近づいていった。
 吉奈の姿に気づいた化け物は目を見開くと、つばさを使い高く飛び上がり逃げ出した。木島の視線も吉奈を捉える。彼女は木島にはまったく注意を払うことなく化け物を追いかけようとするが、それを一つの声が制した。
「待って」
 それは木島の声だ。吉奈は足を止めると溜息を吐き出し、木島へと視線を向けた。
「何ですか、木島先輩」
「あ、僕の名前を」
「知ってますよ。いきなり補欠からテレビに出るまでの技術を会得した有名な先輩ですから」
 にっこりと微笑み、吉奈は一度言葉を切ってからもう一度口を開いた。
「その技術会得の秘密が、真っ当な努力ではなくとしてもね」
「……」
 木島は息を呑むと、唇をかみ締め視線を下へと向けた。吉奈は腕を組むと、言葉を続ける。
「あの化け物を倒したいんですけど。何か問題でも」
「それは困る」
 吉奈のその言葉に木島は顔を上げ、必死の形相で彼女を引き止める。
「頼む、あいつを倒さないでくれ」
「何でです?」
「それは……」
 木島は拳を握り締めると、吉奈に詰め寄った。
「次の大会で絶対に入賞しなくてはならないんだ。手術を控えた妹にその姿を見せるって約束したんだ。だから、頼む。大会まであいつを倒さないでくれ」
 吉奈は彼の言葉に対して溜息を吐き出した。彼女はうんざりしたという態度を崩すことなく、木島に言葉を投げかけた。
「知ってます?悪魔と取引すると、地獄に落ちるんですよ…」
「……ああ」
 吉奈は固い決心を持っているような木島に対して、眉をピクリと上へ上げ、それから無言で彼のことを眺め続けていた。


***


 フィギュアスケートの大会は大勢の観客の中、華やかさを伴って行われた。フィギュアスケートに注目が集まっているためか、テレビも二台ほど中継を行っていた。
 木島は化け物からもらった技術を駆使して、すばらしい演技を披露した。彼の心の中には妹のことしかなく、そして、それと共に優勝しか要らないという気持ちも育っていた。
「今年度大会の優勝者は木島 真崎君です」
 放送によりアナウンスが行われ、木島は自分が優勝したということを知った。それと同時に、吉奈の言葉を思い出し、沈んだ気持ちになった。
『知ってます?悪魔と取引すると、地獄に落ちるんですよ…』
(わかって、いるさ)
 表彰台へと上りながら、賞状を貰いトロフィーを手にしてもすべて空しいことのような気がして、木島は晴れない自分の心を感じていた。
「これで、いいんだ」
 言い聞かせて舞台の奥へと向かう。
 すると、吉奈が木島の前に現れた。突然花束を片手に持ち現れた吉奈に木島はたじろいだ。
 彼女は微笑を顔にたたえながら、花束を木島に手渡した。
「おめでとう、先輩」
「あ、ああ、ありがとう」
 木島はその花束を受け取った。そして、吉奈の顔をあまり見ようとせずに、彼女の横を通り過ぎた。
 そんな木島へ向かって後ろから吉奈が声をかける。
「ああ、そうそう。大会が始まる前にあの化け物は殺してしまいました」
 木島は、目を見開くと振り向いた。驚きを隠せない木島の様子に吉奈は笑みを強くすると、彼に背を向けて歩き出した。


エンド

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3704 / 吉良原 吉奈 / 女 / 15 / 神聖都学園高等部全日制普通科に通う高校一年生、キラープリンセス】

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■         ライター通信          
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吉奈様
どうでしたでしょうか。
木島は予想外にもしっかりした男の子になってしまいましたが(汗)
 次回もよろしくお願いいたします。