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【虚無の影】奇妙な死体
●オープニング【0】
「美紅さん、こっち通った方が近道だよっ!」
「そうなんですか?」
新年2日――瀬名雫は非番であった桜桃署捜査課刑事・月島美紅を誘って神社にお参りに行こうとしていた。お参りの後は美味しいパフェでも食べようなんて話もしていて、正月らしくほのぼのとした雰囲気が漂っていた。
けれどもそんなほのぼの気分は、近道をしようと小さな公園を通った時に吹き飛ばされてしまった。
「……え?」
公園の中程で立ち止まり、我が目を疑う美紅。公園の隅、木の陰にだらりと腕を垂らして座り込んでいる男の姿があったからだ。近付いて確かめてみると――シャツの胸元と背中が真っ赤に染まった死体がそこにあった。
「き……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
美紅の後ろからうっかりと死体を覗き込んでしまった雫の悲鳴が、辺りに響き渡った……。
「もうーっ! せっかくのお正月気分がぶち壊しだよっ!! ああ……夢見ちゃったらどうしよぉ」
同日夕方、喫茶店にて雫は正月気分を壊されてしまった怒りをぶちまけていた。一緒に居るのは美紅ではない。雫が改めて呼び出した知り合いや友人たちであった。美紅はそのまま非番切り上げ、捜査へ取りかかることになったからだ。おかげでお参りも、パフェもお流れという始末。
「こうなったら、あたしたちで犯人見付けちゃお!」
ちょっと待て。いきなり何言い出しますか、この娘は。
だが雫は得意げな表情をしてこう言った。
「あたしたちの方が見付けられる可能性あるよ。だって刑事さんたちのお話聞いたもの。明らかに胸と背中を貫かれているのに、シャツのどこにも裂けた所がなかったんだって」
……何ですと?
それはおかしな話ではないか?
わざわざ胸を貫いてからシャツを着せる律儀な殺人犯など居るはずがない。第一そんな真似をしたらよほど上手くやらない限り、すぐに分かるはずだ。
これは……どうも普通の方法で殺されたのではなさそうだ。
「あとね、殺された人って、築地警部補の知ってる人だったみたいだよ。情報屋をやってて、何度か情報をもらったことがあるんだって」
ふむ、情報屋か。とすると、殺されたのはそちらの線からなのだろうか。
犯人を見付けることは出来ないだろうが、何かしら手がかりは得られるかもしれない。正月休みのちょっとした暇潰しに、調べてみるのもいいかな……?
●釘を刺すのは少し遅い【1】
「やっぱりそうなるのですね」
犯人探しする、という雫の言葉を聞いた天薙撫子ははぁ……と溜息を吐いた。事件のことはニュースで流れたので知っていたが、まさか美紅とともに第一発見者であったとは思わなかった。だからその後にかかってきた雫からの電話で知って驚き、急ぎこの喫茶店へ足を運んだという訳である。
「……正直、あんまり関わりたくない件かも」
撫子の隣に座っていたシュライン・エマがぼそりとつぶやいた。軽く眉間にしわが寄っている。懸念を示している……といった所だろうか。
「……おたんぢょうびぃでぇすのにぃ……」
そしてまた、別の意味で眉間にしわを寄せている者が居た。テーブルの上で、ウエハースを操りながらアイスクリームと文字通り格闘している露樹八重であった。八重は今日1月2日が誕生日なのである。昨日から今日にかけては草間興信所に居たが、雫たちがパフェを食べに行くという話を聞き付け、襲撃しようと考えていた矢先に……この事件である。八重が愚痴るのも仕方がない。
「え、協力してくれないの?」
雫の表情が曇った。が、それを否定するように撫子がこう答える。
「いいえ、協力させていただきます。少々……気になることが……」
思案顔になる撫子。気になるのは、雫が語った発見時の状況のことである。胸と背中を貫かれているのに、シャツのどこにも裂けた所がないのは明らかに……変。
「…………」
無言のシュライン。一点を見つめて考え込んでいた。
(とはいうものの、月島さんたちの関わってる怪異は……巡り巡って何らかの形で自分に絡んできそうな予感があるのよね……)
これは経験則である。飛び火という訳ではないが、妙な所で波及してくることがあるからたまったものじゃない。それより何より――。
「心配なのは雫ちゃんよ」
思わず口から出てしまった。えっ、と雫がシュラインへ顔を向ける。
「そんなことがあったんじゃ、その周辺のコンビニとか飲食店なんか行こうとして、近道も怖くて使えないわね」
「う……うん。ちょっと気を付けなきゃダメだよね」
「ちょっとなんですか」
撫子が雫の言葉に、やれやれといった様子でつい突っ込んでしまった。
「あ。十分に、だよね?」
まずいと思ったか、雫が言い直した。
「で……日頃、どんな人を見かける所?」
「普通だよ。いつもだったら近所の子供たちが遊んでる所。鬼ごっこしたり、かくれんぼしたりね」
シュラインの質問に答える雫。
「じゃあ、少しは隠れられる場所がある訳ね」
そう言いながら、シュラインは事件が起きたのが正月期間でよかったなと思っていた。雫の話からすると、普段の時に起きていたならばまともに子供たちが死体を目撃していたことだろうから。
「そうなるのかな? でも物騒な場所じゃないはずなんだけど……。集まった近所の人とかも、そんなこと話してるの聞こえたし」
雫が首を傾げる。それが本当なら、この場所だから事件が起きたのではなく、事件がたまたまこの場所で起きてしまったと考える方がよいのだろう。
「でもぉ……」
アイスクリームとの格闘を中断し、八重が口を開いた。もっともその口の回りは真っ白になってしまっているのだけども。
「築地警部補しゃんが危なくないでぇすか?」
「へ?」
雫が八重の言葉にきょとんとなった。
「あたしたちがしなくてもよいことをして、警部補しゃんバッタリ……なんてことになるかもしれないのでぇす」
「あ」
どうやら雫、そこまで思い至らなかったようである。
「だからでぇすねぇ、警部補しゃんもあたしたちもご用心ご用心♪」
と八重が言った時、撫子とシュラインが軽く顎を上げてはっとした表情を見せた。直後、雫の背後で咳払いが聞こえた。
「そう願いたいものですが……どうやら無駄だったみたいですね」
続いて聞こえる男性の声と、溜息を吐く様子。雫が振り向くとそこには警視庁超常現象対策本部の葉月政人警部の姿があった。座っている4人に向かって軽く挨拶をする政人。
「ど、どうしてここ……が?」
雫の表情が笑顔ではあるが固まっていた。
「月島刑事から雫さんはここに居るんじゃないかと聞いて来たんです」
対する政人は難しい表情。こういうことにあまり首を突っ込まないよう釘を刺そうと思ってやってきたのだったが……どうやら時すでに遅しだったようである。
「え……えーとどの辺から……」
「あたしたちの方が見付けられる可能性ある、辺りからです」
きっぱり答える政人。じゃあ少し前から居たということか。
「どうせ止めても勝手に調査するつもりなんでしょう」
「あ、あははははは……はぁ」
政人の突っ込みに笑ってごまかそうとする雫。その後、取ってつけたように理由を口にした。
「でっ、でも、第一発見者だしっ、巻き込まれちゃったし……事件について知る権利があると思うのっ」
それを聞いて政人は苦笑する。何が何でも調べるつもりらしい、雫は。
「とはいえ、我々だって皆さんを監視するほど余裕がある訳ではありませんですし……。ではこうしましょう」
そこで政人が1つの提案を出してきた。
「僕の携帯の番号とメールアドレスを教えますから、何かあったら必ず連絡してください。それと絶対に危ない真似はしないで下さい。少しでも危険を感じたら必ず連絡すること。いいですね」
「は、はーい!」
元気よく答える雫。返事はいいが、本当にそうするかは謎である。
「……ところで、今日食べられなかったパフェはいつ食べに行くんでぇすか?」
思い出したように八重が尋ねたが、雫はまた今度と答えるだけであった。
●専門分野【2】
翌3日。各自色々と動き出すことになる――が、まずは警察の捜査について見てみることにしよう。
すでに触れたように、雫とともに第一発見者となった美紅は捜査に取りかかっている。もちろん事件の起きた公園が桜桃署管内であったからである。本庁からも捜査員が来て、合同で捜査にあたっていた。美紅などは政人と組んで今頃は聞き込みなど行っているはずである。
「じゃあ次へ行きましょうか」
「はい」
同じく、桜桃署の築地大蔵警部補も本庁の超常現象対策本部・不動望子巡査と組んで聞き込みの真っ最中であった。被害者の男から大蔵が情報を得たことも何度かあったため、今回の捜査においては大蔵の意見も多く取り入れられることとなった。例えば聞き込み先のリストアップなどがそうだ。
「築地警部補は、マル害とは長いのですか?」
ふと頭に浮かんだことを大蔵へ尋ねる望子。ちなみにマル害とは被害者のことである。
「2年……いや、3年。これが長いといえば長いんでしょうし、短いといえば短いでしょう。年に1度か2度顔を合わせる程度でしたが」
そう答え、ふっと笑みを浮かべる大蔵。
「奴とは、ある骨董品盗難事件で知り合いましてね。捜査中に接触してきたんですよ。『いい情報がある、買わないか』と。確かに骨董品、美術品関係の情報は強かった。ほぼ専門にしただけあって」
「以前は違っていたのですか?」
望子が尋ねると大蔵は頷いた。望子の気のせいでなければ、捜査会議の時にはそこまで話は出なかったはずだ。
「昔は他の情報にも手を出してた、とは奴の弁でしたが。あれこれと手を広げるより、分野を絞った方が結構これになるそうですよ」
と言って、大蔵は右手の親指と人差し指で輪を作った。金になる、という意味だ。
「世の中には、被害届の出ていない事件も少なからずあるのはご存知でしょう?」
苦笑する大蔵。決して表沙汰に出来ない事件は存在する。犯罪絡みで起こった事件なら特に、だ。例えば、非合法手段で入手した品が奪われてしまった時、わざわざ警察にそのことを言うだろうか?
そんな時、奪われた品がどこへどう流れたかなどの情報をつかんでいれば、これは金になる。単に被害者に情報を売るだけでもよいし、上手く立ち回れば自身がパイプ役になって奪われた品を取り戻すことによって、さらにその仲介料としての分の金を手に入れることだって出来るのだから。
「なるほど、だから……」
納得したようにつぶやく望子。
「何がです?」
「『これはかなりの金になるネタだ。簡単に全てを渡せるものか』」
足を止め、望子は大蔵に向かって言った。その言葉に、大蔵が怪訝そうな表情を浮かべる。
「似顔絵を描いていると、その相手の考えていることが分かる時があるんです」
それは望子の能力、似顔絵読心能力を試みて分かったこと。被害者の男は、何らかの『金になるネタ』を持ち合わせていたのだ……。
●何故彼女がここに【5】
「現場にもう1度来てみたのはいいけど」
雫はそう言うと深い溜息を吐いた。基本は現場からという雫の提案で殺害現場となった公園へ来たのはいいが、1日経った今日もまだ警察の姿があった。テープも張られ、公園へは立ち入り禁止である。
「これじゃ調べられないかなあ」
「そうでもないわよ」
がっかりとくる雫に対し、シュラインが言った。
「噂話を聞くだけでも、情報になるわ」
ちらりと視界の端に目をやるシュライン。近所の住人たちであろうか、3人ほどが公園の方を見てひそひそと何やら話している。
「物騒よねえ……」
「……何だか夜中に殺されたみたいよ……」
「誰がやったのかしら……」
耳を澄ませていたシュラインにそんな会話が届いていた。……まあ、この会話はたいした情報にはなっていないけれども。
「夜中に殺されたの?」
シュラインが雫に確認した。
「そうみたい。衣服が濡れてたって、美紅さんが」
恐らく早朝に霜が降りたからだろう。だから衣服が濡れていたに違いない。
「夜中にここ通るかしら……?」
首を傾げるシュライン。どこかへ向かう途中に、たまたまここを通ったのだろうか。それとも、何者かに呼び出されたのか……。
「シュラインおねいちゃ……」
シュラインの衣服の胸ポケットから、八重がひょこっと顔を出した。その声はひそひそ声である。あまり周囲に聞かれたくない話でもするつもりなのだろうか。
「ん、どうしたの?」
「なんとなく犯人わかるのでぇすよ」
八重がシュラインを見上げて言った。
「この前、蓮しゃんたちと一緒にお会いした『やねのうえのすとっきんぐ』こと、飛王しゃんて人でぇすよ、きっと♪」
「あ……」
八重がその名前を口に出した途端、シュラインも思い出していた。アンティークショップ・レンの店主である碧摩蓮とともに品物を店まで運んでいる途中、尾行をされていたことがあった。その尾行者の男は、自らを飛王と名乗っていた。
「屋根の上のストッキング?」
何のことだか1人だけ分かっていない雫。それはそうだ、そもそもの事件を知らないのだから。ちなみに『ストッキング』ではなく『ストーキング』だ。
シュラインが簡単に先の事件について説明をする。もちろん、このことも忘れずに――。
「雫ちゃん。その飛王って男はね……オーラ使いなのよ」
「オーラ使い? 気合いとか、そういった類の?」
「そうなるわね。こう、オーラを剣みたいにしたりとか……」
そう説明していたシュラインがはっとなった。
「……オーラの剣」
「だと思いますでぇすよ」
シュラインのつぶやきにうんうんと頷く八重。シュラインが雫の方へ向き直った。
「もう1度確認するけれど、シャツは裂けていないのに胸と背中が貫かれていたのよね?」
「う、うん。ちゃんとこの耳で聞いたし……」
こくこく頷く雫。
「……オーラの剣で貫いたら布地は傷付かず身体のみが傷付く……?」
シュラインが思案顔でつぶやく。この考えが間違っていなければ、一見不可能な殺害状況も一転可能となる。
(月島さんや築地さんたちに知らせておいた方がいいかも)
まだそうと決まった訳ではないが、飛王ならばこの方法での殺害が可能だという話を耳に入れておいて損はないはずだ。違うのであればアリバイで証明されるだろうから。
「1度署に行きましょうか」
「あ、はーい」
雫を促し、桜桃署の方へ向かって歩き出すシュライン。その時だった。耳に、聞き覚えのある足音が飛び込んできたのは。
「!!」
シュラインは即座に振り返った。すると視界の先に、道の角へさっと隠れる女性の姿が一瞬見切れた。その様子は雫も、八重も目にすることが出来た。
「むぅ、だれかいたでぇすよ?」
目を細める八重。長い金色の髪と黒いコートの裾だけが見えていた。
「あの顔……見たことあるような……」
腕を組み考える雫。女性の顔は半分見えたがサングラスをかけていたので、まだ誰とは分かっていなかった。
(まさか今のって……まさか?)
そしてシュライン。今目撃した女性の正体について、思い当たる人物がただ1人居た。
その女性の名は、エヴァ・ペルマネント。別名を霊鬼兵・Ωという――。
●情報交換【6】
夕方、桜桃署に一同が集まっていた。集まるべくして集まったというよりは、各々の用件で動いていたら全員揃ったという方が正確だろう。
「オーラ使い、ですか?」
シュラインから説明を受けた美紅が目をぱちくりとさせる。
「そう。それだと、今回の殺害状況も説明が出来るのよ」
「……傷口はどのような状態だったのでしょうか、築地様」
シュラインの言葉の後、撫子が大蔵へ尋ねた。大蔵はちらと政人の方を見たが、政人が何も言わなかったのでようやく口を開いた。
「綺麗なもんでしたよ。武器うんぬんはおいといて、武道の心得が十二分にある者の仕業でしょう。鑑識が言ってましたから。迷いなく貫いている、均等で余計な傷がない……と」
「手練、なのですね」
そうつぶやき考え込む撫子。
(やはり異能者でしょうか……)
「だから凶器も詳しく絞り込めないんですよ。包丁だ、ナイフだとなれば、各々の癖がある。けれども今回はそれがない。何らかの刃物だろうとしか思えない。現場周辺からも凶器は結局出ていない」
ふう、と小さな溜息を吐く大蔵。もっとも、犯人がオーラ使いとなれば凶器など存在するが存在しない状態である訳なのだが。
「でもどうしてこんなことしたでぇすか?」
素朴な疑問を口にする八重。これについては政人が答えた。
「何らかのトラブルが起こったのではないか、と我々は見ています」
「当分懐が暖かくなりそうだという話を聞いてきました」
美紅が政人の言葉の後で付け加える。となると、金絡みの事件なのだろうか。
「驚きましたね」
大蔵が望子の方を見てぼそっとつぶやいた。今の美紅の補足は、望子が言っていたまさにその通りじゃないか。
「あの。被害者の自宅からは何か出てきたりはしたんでしょうか」
シュラインが大蔵へ尋ねた。が、大蔵は首を横に振った。
「何も出なかったそうです」
「メモの類も……ですか?」
「奴はここに全部入れてるんです。これが一番安全だと言って」
大蔵は自分の頭をとんとんと指先で突いた。なるほど、自分の頭にだけ残していればメモや手帳、パソコンといった物からは決して流出しない。自分が殺されれば情報も同時に消えてしまうのだから、何か情報を得たい者にしてみればうかつに手を出せないということにもなる。
「じゃあ、このくらいの箱で……何か美術品なんかは?」
シュラインは以前の事件の際、蓮が運んでいた箱の大きさを手で示して説明した。
「奴の専門はそちらでしたが、あくまで扱うのは情報のみ。一時的に手元にくることはあったかもしれませんが、基本はないと思われます」
「その美術品でのことなのですけれど……」
思考を中断し、再び撫子が口を開いた。そして例の奇妙な侵入者について話す。
「何か、関係はあるのでしょうか」
撫子はそう尋ねるが、明解にこの場で答えが出るような問題ではなかった。
●妨害行為【7】
その後、撫子の頼みで一同は現場に赴いた。過去見の霊視を行いたいということであった。
龍晶眼の能力により現場の過去の霊視を行う撫子。やがて見えてきたのはこのような光景。
被害者の男が鼻歌混じりに機嫌よく公園を歩いている。その前に突如現れた黒い影が男に向かって突進してゆく。影はがっしりとした背の高い男のようだ。影の手には光の剣が。そして男が避ける間もなく、光の剣が影によって胸から叩き込まれた……。
「……え……?」
そこまで見えた所で、撫子が困惑の声を発した。その先が突然テレビ放送終了後のごとき砂嵐になってしまったのだ。
砂嵐の状態はしばらく続き、再びちゃんと見えるようになった時にはもう夜が明けて、物言わぬ男の死体が残されているだけであった。
仕方なくそこで霊視を打ち切る撫子。とりあえず見えたことを皆へ隠さず話した。
「飛王って男に似てるかも、それ」
黒い影について話すと、シュラインがそう反応した。体格といい、光の剣といい合致する特徴があるからだ。
「急に見えなくなったでぇすか?」
珍しく真剣な表情で八重が撫子へ尋ねた。
「はい。突然ぱっと」
頷く撫子。
「いけませんでぇすねぇ……。これは時間を弄ってかんしょーしているよーでぇす」
それは時間を弄る能力を持つ者であるからこそ分かること。誰か過去を見る可能性を考えて、策を施していったに違いない。
「不動巡査。戻ったらデータベースのチェックを」
「了解しました、葉月警部」
政人が望子へ指示を与える。飛王について調べようというのだろうか。だが、データベースに入っているかは怪しいものである。
(……この様子では、何があるか分かりませんね)
霊視による追跡を行おうと考えていた撫子であったが、今回はそれを断念することにした。多少危険であろうとは認識していたが、策を施されているのであれば下手をすると自ら罠へ飛び込んでゆきかねないことにもなってしまう。また、場合によってはこの場の全員を巻き込んでしまいかねないという可能性もある。それは避けなければならなかった。
「裏で何が動いているのかしら……」
ぼそりとつぶやいたシュライン。何か、妙なことが動いているのではないだろうか。胸騒ぎを覚えていた――。
【【虚無の影】奇妙な死体 了】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 整理番号 / PC名(読み)
/ 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
/ 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
/ 女 / 18 / 大学生(巫女):天位覚醒者 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
/ 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】
【 1855 / 葉月・政人(はづき・まさと)
/ 男 / 25 / 警視庁超常現象対策本部 対超常現象一課 】
【 3452 / 不動・望子(ふどう・のぞみこ)
/ 女 / 24 / 警視庁超常現象対策本部オペレーター 巡査 】
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■ ライター通信 ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全7場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。新年早々の殺人事件の捜査状況についてここにお届けいたします。結論を言いますと捜査継続になるのでしょうか。とりあえずは飛王を探すことが捜査本部としての目標になる模様です。
・『【虚無の影】』とついたお話を高原は去年から始めていますが、しばらくはすっきりとしない終わり方が続くと思います。解決していなかったり、謎が多く残っていたりなどと。それでも事態は、皆さんの行動次第でよい方にも悪い方にも動きます。今年はこの関係のお話が、高原のお話の流れの1つとなりますのでどうぞご注意を。
・ちなみに飛王については、高原のアンティークショップ・レンでのお話『【虚無の影】尾行者』を読んでいただけるとどういった経緯で現れたのか分かるかもしれません。
・シュライン・エマさん、118度目のご参加ありがとうございます。状況からしてやはり飛王を連想しますよね。しかし、『彼女』の登場は予想出来ましたか?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。
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