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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


燃える写真の謎

 投稿者:かおる
 件名:燃える写真の謎(?_?)
 本文:これ、本当なの! 嘘じゃなくって、アタシの友達が体験した事なんだけどね。
 公園トイレで写真撮ったらフィルム燃えるって怪談あるじゃん?あれ、本当だったんだよー!
 友達の手ぇ火傷したもん。写真は残ってないけど‥‥これ、マジもんの話だからね!
 雫ちゃんは信じてねー!!(>▲<)ノシ

「ああ、これですね‥‥見つけました」
 鍋島・美寝子にとって友人であるシルビェート・ザミルザーニィから電話があったのは、丁度仕事を終えた頃の事だった。
『何やますます噂になっとるようやねぇ』
 確かに。シルビィから教わった投稿ページには、写真炎上の書き込みが連続している。
『まずは写真に何が写っとったんか。写真に撮られとうないモンでもおるんかもしれへん。調べものやったらミネコの得意分野やろ?』
「ええ、この公園の近くの物件の販売に差し障りが出ても困りますし、調査するのはやぶさかではありませんけれど」
 水妖怪である彼女がこの事件に首を突っ込むのは分かるのだが。でも、と首を傾げた。
「あの、水のある場所ですから、シルビィさんなら透視出来るのでは?」
 自分の調査を待つでもなく、一発で真実を言い当てられる能力を持つ彼女が、協力を求める理由が分からない。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥何があったんか視れん事もないけど」
 物凄く重い沈黙の後に嫌そうな声が返ってきた。はたと脳裏にトイレで透視する彼女が過ぎる。
「あっ、あっ、やややっぱりわたくしが調査致しますにゃっ!!」
 自分はひょっとしたら物凄く嫌な事をやらせようとしてたのかもしれない。

●事前調査
「今夜はまだ誰も来てはらへんみたいやね」
 一月のこの寒さのせいだろうか? 美寝子と共に仕事後落ち合ったシルヴィが、公園の出入口で中を伺う。
 静寂に包まれた空間。ここは同じ東京でも、繁華街とは違うのだ。
「夜の公園で起きた事なら、近所の猫さんからお話を伺えそうです」
 美寝子がじっと夜道を見つめる。‥‥真っ暗な中に息を潜めている猫は野良だろうか。
「猫さん、少しお時間を頂けませんか? 聞きたい事があるんです」
 野良との距離を図りながら、そっと問いかけてみる。
 ボサボサの毛並みに鋭い瞳。臆する事なく近づいた美寝子に、何かを感じ取ったのか野良は逃げない。
『人間がアタシに質問? 珍しい事もあるもんだ』
「ありがとうございますにゃ」
 正体を探ろうとするかのようにフンフン鼻を鳴らす彼女に、ホッとしてつい猫語になったが誰も突っ込まなかった。
「あの公園で怪事件が頻発しているようなのですが」
『ああ。ありゃ‥‥楽しいねぇえ』
 くっくと馬鹿にするような笑み。美寝子は困惑したが、どうやら彼女が馬鹿にしているのは公園に度々やって来る人間の事らしい。
『人間ってのは飽きないね。どれだけ脅されても何度だってやって来る』
「脅され──」
 ではやはり例の炎は誰かしらの意図するもの──。
 息を呑む人間の形をした仲間に、寛いでいた体をぐっと伸ばしてみせた。誇り高い野良猫のしっぽがピンと立つ。
『悪い事は言わないよ。怪我したくなきゃあ夜の公園には立ち入りなさんな。またきっと人間が面白半分にやって来るからね。そんな連中に情けは無用だよ』
 くわ、と欠伸をした野良はタッと塀の上に登った。そのまま駆けていこうとする彼女に、美寝子は慌てて声をかける。
「ま、待って下さい、貴女はあの公園で何が起こっているか、知っているんですか‥‥!?」
 一度興味が失われた背中が、ぴたりと止まった。きゅっと細められた目が向けられる。
『あんたにだけは言っておく。あの場所はね──‥‥』

「あ、美寝子」
 一人公園前に置いてきぼりにされたシルヴィが、怒るでもなくショールを手繰り寄せながら手を上げた。
「何か情報‥‥美寝子?」
「シルヴィさん‥‥」
 闇の中から抜け出してきた美寝子は、やや青ざめていた。それに気付いたシルヴィが真剣な眼差しに変わる。
「シルヴィさん‥‥私達は暴いてはいけないものを暴きにきたのかもしれません」
 そう言う友人の目は、ふざけてなどいなかったから。

●水と炎と作戦と
 シンとした二人の間の緊張を破ったのは、思いもよらぬ方向からだった。
 ──くすくすくすくす‥‥えー? マジでやるのぉ〜?──
 少女達のざわめきに、二人がハッと顔を上げる。
 反対の方から入ったのだろう、十代と思われる少女達が公園の中に佇んでいた。
「いつの間にっ?」
 水妖の力をもってしてその未知なる力に対峙しようとやって来たシルヴィの前で、明らかに面白半分にやって来ている少女達がお互いをつつき合いながら目的の場所に向かっていく。
 それはもちろん、ゴーストネットOFFでも頻発している燃える写真の事件現場で‥‥。
「い、いけませんっ!」
 美寝子が蒼白になり怒鳴る。けれどその言葉は彼女達に届く事も理解される事もなく──
 パシャッ!
 一瞬だけ、暗闇の中にトイレが浮かび上がった。下からの明かりに、不気味な建物が見える。
 公園のトイレなどいつもは気にした事もないのに‥‥何故、こんなに見ると不安で、ホーンテッドハウスのような不気味さを醸し出すのだろう?
「写真、どうどうっ!?」
「待ってってば、ええと、あ、何か浮か」
 瞬間。
 ボォオオオッ!!
「きゃああああっ!?」
 錯乱したような少女達の悲鳴が上がる。シルヴィがさっと水を召喚した。
 バシャッ!
「あ、ああ、ああぁ」
「大丈夫ですか!? 怪我はっ!?」
 暗闇に慣れた誰もが、その鮮烈とも言える炎を見た。
 ガスコンロで火をつけたかのように一瞬にして燃え上がったのは、少女の手の中にあった写真。覗き込んでいた少女達の頬や額が少し火傷している。
「やっ‥‥何でぇ?」
 手の火傷を美寝子のハンカチごと包まれ、カタカタと少女が震える。面白半分で怪奇現象に手を出した報いだったが、今はそんな説教をしている場合でもない。
「彼女を病院へ。早くしにゃさいっ!」
 通常だったら笑っていただろう猫語の美寝子にも、少女達はガクガクと頷いて立ち去った。
「どうやらうちが来て正解やったみたいやねぇ?」
 並んで立ったシルヴィは、毅然とした顔で目の前のトイレを見上げている。その手には彼女達が置いて行ったインスタントカメラ。
「‥‥いきますえ」
 パシャッ!
 撮影した直後にカメラを手渡し、即座に水を呼ぶ。ゆっくり出てきたフィルムを水の膜で包‥‥もうとしたその時。
「ッ!?」
「シルヴィさん!?」
 ガシャン、と少女達から借りたインスタントカメラを取り落とした。
「どう‥‥あっ!?」
 銀色の輝きを放つそのカメラが、一部焼け焦げていた。シルヴィが水を呼ぼうとした事によって、フィルムを吐き出す前にカメラ本体に火がついたのだ。
「つッ‥‥先手打たれたな」
 よく見るとシルヴィが触れていた部分が焦げるどころか溶けている。道理で取り落とした筈だ。水で応戦する間もない。
「ふふ、やってくれますなぁ?」
 緑の瞳があの野良猫のように誇り高く輝く。ショールを羽織り直し、ついでに美寝子の耳元で二〜三、囁く。
「‥‥え?」
「さーもういっちょ撮ろかー!!」
 唖然とする美寝子をよそに、トイレに向かって宣言するシルヴィ。今度は完全なる戦闘態勢でもって。
 一度取り落としたカメラを構え、撮影ボタンを押す。
 ボッ! ボッ! ボッ!
 人の怒りのように増えたその炎がシルヴィに襲い掛かる。取り囲まれたその様子に美寝子は焦ったが、流された視線は余裕なもの。そしてその瞳の意味は──
「‥‥はい、お任せ下さい」
 この場にはわたくし達二人しかいないのだから。

「ほらほら、まだ撮るでっ!」
 カメラと自分の体だけを守るよう水を召喚し、シルヴィが挑発するように叫ぶ。
 パシャッ! ジー‥‥ボッ!
 パシャッ! ジー‥‥ボボッ!
 カメラから吐き出される度に、炎にフィルムが飲み込まれていく。
 シルヴィに炎を生み出す相手は見えないから、こちらから攻撃を仕掛ける事は出来ない。自然防戦一方となったように見えるが、シルヴィは慌てる事もなく自分とカメラに被害が及ばないよう防御壁を編む。
「‥‥っと、危ない危ない!」
 軽くステップ・ターンを繰り返すように炎から逃れるシルヴィは、目の端で確認しながら炎の注意を自分に寄せる。それに引きずられるように、炎の勢いも増していた。一向に撮影を止めないシルヴィに苛立つように。
「何や‥‥ほんまにトイレ撮られんの嫌なんやな」
 激昂した人間のような炎に、馬鹿にした動きを繰り返すシルヴィも申し訳なくなってきた。
 ──シルヴィさん‥‥私達は暴いてはいけないものを暴きにきたのかもしれません。
 完全には聞けなかった美寝子の言葉も気にかかっている。
 フィルムに何が写るのかは知らないが、もしそれが自分でも暴かれたくはないようなプライベートな光景だったなら‥‥?
 幾度目かの攻防を繰り返した後の事だった。
「シルヴィさん、撮れました!」
 デジカメを持った美寝子が公園の外から叫んだのは。

「ハッ!」
 最後の水と炎の攻防をすると、シルヴィが公園から飛び出す。
「作戦は成功したみたいです、やはり炎はトイレに固執する幽霊か妖怪か、あるいは想いが原因‥‥」
「‥‥そうみたいやな」
 公園を出たとたんに攻撃はパタリと止んだ。動けないという事は自縛霊に近い存在かもしれない。
「そういえば、写真どんなんやった?」
「さあ、わたくしもまだ見ていなくて‥‥あ、デジカメだからすぐ見れますよ! こうして、こっち側の液晶、画、面、で‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
 未だ暗いままの路地裏で。
 事件の真相を知った二人は言葉を亡くし、沈黙した。

●燃える写真の真相
「プライバシーは守られなあかん」
「そうですね」
 とある昼下がりの“ヴェッターハーン”にて。
 衝撃の写真を見事デジカメに収めた二人は、申し合わせたかのように同じタイミングで茶をすすった。
「いくら霊相手やからと言って、プライバシーの侵害はあかんわ」
「その通りです」
 デジカメの持ち主である美寝子は救いを求めるようにシルヴィを見、彼女は無言で頷きパソコンにそれを接続した。
「フィルムになんか残す必要ない」
「肖像権を侵害しますから」
 カチ、カチ、カチ。‥‥送信。
「後はゴーストネットOFFを運営してる雫に任せてもええやろ」
「任せてもいいですよね」
 そうしてPCの電源を落とし、再び茶を啜る。
「‥‥場所が」
 事前に野良猫に情報を貰っていたという美寝子は、今回の依頼に悔いが残るのか。緑の瞳の友人は、目を細める。
「場所が公園のトイレだった、という事にもっと早く気付いていればこんな事には」
「美寝子。現に被害者は出続けてたやろ? ‥‥うちらがやらんかったら、もっと傷つく人は増えてた」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 再び、沈黙。
 今年は暖冬なのだろうか? 真昼の日差しが妙に心地よい。
「‥‥でも」
 暖かな陽だまりの中、ティーカップの縁をなぞりながら美寝子は呟く。あの炎の主にごめんなさい、という思いも消えなくて。
「わたくしには、彼らの気持ちもわかるんです‥‥」
「‥‥そう、やな」
 シルヴィにも経験のある事だったから。緑の瞳がカップの中、たゆたう紅茶をただ見つめる。
 美寝子は同じ唯一の目撃者として、懺悔するように呟いた。
「どうしても途中で下車出来ない電車、とか‥‥」
「‥‥‥‥」
「渋滞に巻き込まれたタクシーの中、とか‥‥」
「‥‥‥‥」
「朝から調子が悪いのにもう家を出なくちゃいけない日、とか‥‥」
「‥‥‥‥」
「誰だって経験ありますよね‥‥」
「あったな‥‥」

 遠い目をする二人が紅茶を飲みきる頃、瀬名雫は早い調査結果を送ってきた匿名のメールに驚いていた。
「あれっ!? これ今凄く注目されてる怪奇現象だ! え、誰か証拠写真でも撮ってきてくれっ‥‥あああぅっ」
 慣れた様子で添付ファイルを開いた雫は、乙女として、開いてしまった画像に目が点になった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥そっか。公園のトイレだもんね。この近くに駅もあったし」
 不自然なほど爽やかな微笑みで、今日のHP更新は中断した。
 だって、誰が責められるだろう? あの炎は多分、きっと、いや間違いなく、羞恥の表れだったのだ。
「‥‥‥‥忘れよう。この投稿スレッドは明日終了させよう。うん、もう誰も撮影に行っちゃいけないんだわ」
 うんうん、とこの東京で写真の真相を知る三人は脳内から例の映像を押しやった。

 ──半透明の人間達がトイレの前で羞恥に打ち震えながら涙する写真。
 ──誰がこの事件の真相を知った上で責められる?
 ──だってここは、個室が一つしかない公園トイレなんだから‥‥



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 4696 / 鍋島・美寝子 / 女 / 72歳 / 土木設計事務所勤務

 4036 / シルビェート・ザミルザーニィ / 女 / 105歳 / 輸入雑貨店主


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■         ライター通信          ■
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鍋島・美寝子さま、ご依頼ありがとうございました!

あえて何が写っていたか、はぼかして表現させて頂きました。
けれどきっと‥‥美寝子さまもシルヴィさまも、知った上で誰にも口にしないと思うのです。決して「リテイクくらう内容だから」じゃあないんです。‥‥本当ですよ?

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、またぜひよろしくお願いします。
ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより