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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


我侭人形の遊び相手



1.
 汰壱曰くの『嫁さんレーダー』が反応したまま向かった先は、何度か訪れたことがあるアンティークショップだった。
『嫁さんレーダー』というのは将来自分の妻となってくれる汰壱好みの女性がいそうな場所を察知する感覚をそう呼んでいるのだが、7歳ですでに嫁探しというのも随分とマセた考えをしているものだとよく言われるが、それは汰壱の家系にも関係がある。
 陰陽侍の家に生まれ、陰陽侍としての素質を十分に兼ね備え育てられた汰壱だが、陰陽侍というのは男女一組で最大限の力を発揮することができるのだ。
 そのため男の陰陽侍はいまでは早婚と言われるが18歳には妻を娶るしきたりがいまだ続いている。
 しかし、汰壱は18歳まで待てず、いまから『理想の嫁さん』を探しているのだから、やはりマセているのかもしれない。
「こんにちはー!」
 元気よく扉を開くと、そこには店の主の蓮がいた。
 が、もうひとつ『レーダー』に反応がある。
 よく見れば、アンティークショップらしく一体の西洋人形が蓮の脇に置かれていた。
 金髪の巻き毛に青い目、肌は雪のように白いが頬だけはほんのりと赤くなっているのが可愛らしく、服は少し昔の時代がかったベロアのドレスを着ていた。
 西洋の人形と言われて大半の人が思い浮かべるようなものだった。
(どっちが俺の嫁さんなんだ?)
 首を捻ってそう考えている汰壱に向かって蓮は、「助かったよ」と珍しい言葉を口にした。
 そういえば、今日の蓮の顔には少々疲労の色がある。
「蓮姉ちゃんどうしたの?」
 汰壱がそう聞くと、蓮はそれに答えずに人形を抱えると汰壱のほうに見せた。
「あんた、こいつの遊びにしばらく付き合っちゃくれないかい?」
 その言葉に汰壱は驚いた後にむくれた顔になって首を振った。
「この人形と? 冗談じゃないよ、俺だって暇じゃないんだから」
「嫁さん探しにだろ?」
 蓮からかいまじりの言葉に汰壱はむっとするが、何かを言おうとする前に人形が口を開いた。
「ネェ、アンタ遊ンデクレルノ? 遊ンデ、遊ンデ! アタシトッテモタイクツナノヨ!」
「うわっ!」
 人形が喋ったことにではなく、そのあまりの勢いに汰壱は思わずそう声を出してしまったが、蓮のほうはおかしそうに笑った。
「ここに来てからずっとこの調子でさ、あたしもたまには構ってやるけどそれこそ暇じゃなくてね。なのに、こいつときたらそんなことはお構いなしで遊んでくれの一点張りなんだよ」
「いやだよ、こんな人形! 人形遊びなんて女じゃないんだから」
「未来の嫁さんを探してるんだろう? あんた」
 唐突な蓮の言葉に、汰壱は意味もわからず頷くと、蓮はにんまりと笑った。
「じゃあ、少しは女の扱いってものの勉強もしなくっちゃね。ってことで、こいつに特訓してもらいな」
「えー!」
 尚も抗議をしようとした汰壱は無視して、結局汰壱はその日だけという約束で人形を押し付けられてしまった。


2.
 店の中でも外に出てからも、人形はずっと遊んでくれと言い続けている。
「わかったよ、遊んでやるからもっと静かにしてろ!」
 根負けしたようにそう言って、汰壱はとりあえず自宅へ帰ることにした。
 男の自分が人形を持っている姿なんて人に見られるのがあまり良い気分がしなかったので鞄に入れて運んでいたのだが、その間も人形は喚き続けていて余計に通り過ぎた人たちから怪訝な顔をされてしまい汰壱は困ってしまった。
 途中、汰壱はあまり大きな声にならないように人形に尋ねた。
「お前、何して遊びたいんだ?」
 ままごととかならなんとかなるだろうと思っていたのだが、人形の答えはとんでもないものだった。
「着セ替エガシタイ! イツモ同ジ服ナンダモノ! チガウ服ガ着テミタイ!」
「き、着せ替えぇ!?」
 とんでもない言葉に、汰壱の顔が赤くなり思わず人形を怒鳴りつける。
「ば、馬鹿! 俺は男だぞ! そんな着せ替えごっこなんて……」
 が、その抗議は途中で打ち切られた。
「ウ、ウェ、ウェェェ……!」
 人形が泣き出したのだ。しかも、最初はすすり泣き程度だったその声のボリュームは、徐々に大きくなっていく。
 同時に周囲の汰壱を見る目が不審なものに変わっていっていることに気付き、汰壱は大急ぎで人形を宥めにかかった。
「こ、こら! 大勢の中で泣こうとするな! わかった、わかったよ! やるから泣くな!」
 慌てて汰壱がそう言うと、ぴたりと泣き声はやんだ。
 嘘泣きだったことに気付いてまた汰壱の顔が今度は怒りで赤くなる。
「こ、この……」
「ウェ……」
「わかったってば! 泣くなよ、もう!」
 さっさと家に着かないと、このまま辺りから変な目で見られるのは御免だと汰壱は駆けだした。


3.
 自室に戻り、大きく息を吐いてから汰壱は鞄から人形を取り出してベッドの上に置いた。
「早ク! 早ク! 着セ替エ着セ替エ!」
「わかったから少しは待てよ!」
 そう言って、人形を部屋に置くと、そうっと汰壱は母親の部屋に入り込み、箪笥の中を誰にも見つからないように開けた。
「あいつに似合うような服なんてどれだよ……」
 服のことなどあまりわからない汰壱はいままで『嫁さんレーダー』で見かけた自分好みの女性が着ていた服などを思い出しては、あの人形に当て嵌まりそうなものを懸命に探していた。
 最近の服のほうがアイツは着たことがないから気に入るのか?
 そんなことを思いついて、ピンクのキャミソールとブルーのブラウスを選んで部屋に戻る。
 なんだかんだ言いながら『女性』の気持ちはある程度考えるように7歳にしてなっている汰壱である。
「お前に似合いそうな服持ってきたぞ」
 そう言って持って来た服を見せると人形は嬉しそうに喜んで「着タイ着タイ!」と叫びだす。
「わかったから着てみろよ……って、人形だから自分じゃ着れないのか?」
 と、いうことは──
「お、俺が着替えさせるのか!?」
 そのことに気付いた汰壱が思わずそう叫ぶと人形はキャハハハと楽しそうな何処か汰壱を子供扱いしたような声で笑った。
「アタリマエジャナイ、レディーニ服クライ着セラレルデショ? ソレトモ恥ズカシイノ?」
 その言葉に汰壱は顔を赤くさせながら反論する。
「は、恥ずかしくなんかないぞ! お前みたいな人形に服着せるくらい恥ずかしいことあるもんか!」
「ジャア早ク着セテヨ、アナタ」
「あ、あなたぁ!?」
「アナタダカタアナタナンジャナイ、ナンデ赤クナッテルノ? イヤネェ、マセチャッテ」
「こ、このぉ……」
 どうにもこの人形には口で勝てそうな気がしない。しかし、いつ作られた人形かはわからないが外見は汰壱と同じくらいの子供なのだから手を出すわけにもいかない。
「わかったよ! いま着替えさせてやるからな!」
 そう言いながら汰壱は目を瞑り、薄目になって人形の服を脱がせて着替えさせ始めた。
 そんな汰壱の行動に、また人形はクスクス笑っていた。
(我慢、我慢、コイツだって一応女なんだから……)
 薄目なので少々手こずったが、なんとか着替えさせることができて大きく息を吐いて汰壱は目を開いた。
「どうだ?」
「ワカンナイワヨ、鏡デ見タイ! 鏡ハドコ?」
 とことん我侭なことばかり言う人形に、汰壱は「わかったよ!」と言いながら近くにあった手鏡で人形を写した。
 途端、しばらくの間人形が黙った。
「……どうだ?」
 突然の沈黙に、おそるおそる汰壱がそう尋ねながら人形の顔を見ると、人形は満面の笑みで鏡を見ていた。
「ステキ! コノ服トッテモステキ!」
「そ、そうか……」
 どうやら汰壱の選んだ服は人形のお気に召してもらえたようだが、汰壱のほうは先程までのやり取りですっかり疲れ果てていた。
 だが、喜んでもらえたこと自体には汰壱も満更ではない。
 なかったのだが──
「ネェネェ、他ニ服ハナイノ? モットイロイロナモノガ着タイ!」
「はぁ!? お、お前いい加減にしろよ! それだけでも大変だったのに……」
 もう遊び終わりのつもりだった汰壱はその言葉に目を見開いたが、人形は「モットモット!」と言い続ける。
「モットイロイロ着タイノ! 着セテ着セテ! 今度ハオ化粧モチャントシタイ!」
「お、お前我侭もいい加減にしろー!」
 結局その日はずっと人形に振り回されっぱなしで終わり、人形は大満足したようだが汰壱のほうは疲労困憊でギブアップ。布団に入って眠ってしまった。


4.
「蓮姉ちゃーん」
 翌日、寝不足の顔をした汰壱が再び人形と一緒に蓮の店を訪れた。
 蓮のほうは汰壱のそんな様子を見て、愉快そうに笑っていた。
「随分遊ばれたみたいじゃないか」
「ち、違うよ! 俺が遊んでやったんじゃないか!」
 そう言いながら人形を蓮に渡した。
 人形のほうはというと、昨日十二分に遊んだためか、今日はまだおとなしくしていて遊んでくれとは言い出していない。
「で、何して遊んだんだい?」
「な、なんでもいいだろ!」
 赤くなりながらそう言った汰壱の言葉は無視して、人形が蓮に向かって「着セ替エゴッコ!」と叫んだ。
「へぇ、着せ替えかい」
 それを聞いた蓮はにんまりと笑って汰壱を見、ますます汰壱の顔が赤くなる。
「それはそいつがやりたいって言うから付き合っただけだ! べ、別に恥ずかしくなんかなかったし、ただの遊びに付き合っただけなんだからな!」
「わかってるわかってる。苦労かけてすまなかったねぇ」
 くすくす笑っている蓮の横で、人形まで一緒にクスクスと笑ってる。
「もう! ふたりしてなんだよ! 俺暇じゃないんだからもう行く!」
「嫁さん探しにかい?」
「他にもあるよ!」
 むくれたまま店を出ようとした汰壱に対して蓮は「汰壱」と呼び止めた。
 その顔は真剣なものに見えて、つい汰壱は身構えてそちらのほうを向く。
「……な、なんだよ」
「昨日の遊びからひとつだけ忠告しておいてあげるよ」
「忠告?」
 その言葉に怪訝な顔になった汰壱に向かって蓮はにんまりと意地悪く笑って口を開いた。
「あんた、そのままだと嫁さんをもらっても尻に敷かれることになるよ? 気をつけな」
 笑いながらそんなことを言われた汰壱はますます赤くなって店を出て行った。
「あんな我侭な人形となんてもう遊んでやるもんか!」
 そう心の中で叫んで出て行った汰壱を蓮と人形は笑いながら見送っていた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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6334 / 玄葉・汰壱 / 男 / 7歳 / 小学生・陰陽侍
NPC / 碧摩・蓮

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■         ライター通信          ■
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玄葉・汰壱様

この度は、当依頼にご参加いただき誠にありがとうございます。
汰壱様のとても子供らしいプレイングに人形のほうもますます我侭が強まってしまい、かなり振り回されたものになってしまいましたが、お気に召していただけると幸いです。
またご縁があったときはよろしくお願いいたします。

蒼井敬 拝