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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>



理科室の太郎くん

オープニング

神聖都学園、ここに一体の人体模型が存在する。
彼の名は『太郎くん』
学園創立から設置されているという古い人体模型だ。
しかし、古すぎるため廃棄処分にしようという話が最近出てきた。
…そして、その話が出てきたと同時に、夜中に『太郎くん』が廊下を走り回っている、という噂も出始めた。
「ふむ、夜中に走り回る人体模型か、どうもありがちだね」
繭神・陽一郎は噂を聞いて、呆れたようにため息をつく。
こんな話、響先生が聞いたら卒倒だろうなとも思い、少しだけおかしくなる。
「響先生の耳に入る前に、きちんと調査しておいたほうがいいかな」
陽一郎は一言呟いて、時計を見た。
時間は午前二時を少し過ぎたところ。
噂によれば一時〜三時までの間を走り回っているのだと聞く。
 ―カタン
「……何をしてるんです?こんな時間に、こんな所で」
懐中電灯で照らしながら、ため息交じりに陽一郎が呟く。
「まぁ、例の噂を聞きつけて―…という所ですかね?仕方ありませんね。一緒に調査しましょう」
離れて邪魔をされても困りますし、と嫌味を付け足しながら夜闇の校舎を歩き始めた。


視点→馬渡・日和



「多くの想いを受けたモノには魂が宿るわ」
 日和が陽一郎に言うと「そんなモノですかね‥」と呆れ気味に呟かれた。
「ここから、二人で行動しましょう。一人で大丈夫ですか?」
 陽一郎の言葉に「大丈夫よ、日向がいるもの」とにっこりと笑って答えた。
「‥‥‥‥‥日向?」
 誰の事だ?と疑問に思ったが、口にする前に日和は向こう側へと走っていってしまった為に、問いかける事が出来なかった。
「‥ま、いいか‥」
 陽一郎は首を傾げながら、日和が向かった方向とは逆の方へと歩いていった。


「太郎君もきっと私たちと同じなんじゃないかしら?廃棄される話を聞いて怖くなっちゃったのかもしれないわね」
 夜の校舎の中、日和は一人で話している‥ように他人なら思うだろう。しかし日和にはもう一つの自分とも呼べる『日向』という男性と体を共有しているのだ。
『で、またご親切にも学校に忍び込んでまで慰めにいくのか?凶暴な奴だったらどうするつもりだよ?』
 日向は少し呆れながら日和に問いかけるが「だって‥」と言葉を返してくる。
「私達も通った道だわ。その時‥どんなに不安か分かるでしょう?」
 日和の言葉に『それは‥そうだけど‥よ』と口ごもりながら返事をした。
「私達は邪な想いに当てられ続けて魔という形になってしまったけど、今こうして幸せでここにいる。きっと、彼にも幸せになる糸口があるはずなの」
 日和の懸命な説得で日向は『分かったよ』とため息混じりに返事をした。
『‥危なくなったら、俺が代わるから。無茶すんじゃねぇーぞ』
 日向の言葉に「うん、ありがと」と答える。日向は『ったく‥』と呟いているが結局は日和に甘いのだ。
「それで太郎君はどこかしら‥」
 噂で太郎君が現れる場所を先程からうろついているのだが、それらしい気配は全く感じられない。
「今日は現れないのかしら、ねぇ‥日向、どう思―‥」
 う、そう続くはずだった言葉は日和の口から発せられることはなかった。何故なら、振り向いた階段の影からこちらを見る人体模型がいたのだから。
 普通に怖い登場の仕方である。
「た、太郎君?」
 日和がそう話しかけると、人体模型‥太郎君はビクッと大げさな反応を示して全力で逃げ出してしまった。
「ちょ、待って!」
 日和も慌てて追いかける。こんな姿を誰かに見られてしまったら、また噂が広がって今度こそ廃棄処分にされかねない。
「僕は死にたくない!」
 突然、太郎君が叫ぶと、近くにあった棒を持って日和に襲い掛かってきた。咄嗟の事で反応できなかった日和は殴られると覚悟し、目をつぶってしまう。
「だから気をつけろって言ったのによ」
 パシ、と太郎君が振り被ってきた棒を受け止め、日和‥いや日向が少し怒ったように呟いた。
「おい、誰に襲い掛かってきてんだ、お前は」
 ジロリと太郎君を見やり、低い声で呟く。
「日和はお前を心配して、お前を助けようとここまで来た奴だぞ。そんないまどき珍しいお節介を殺そうというのか、お前」
 日向の迫力に負けたのか、太郎君は棒から手を放し「うわああん」と啼き始めた。いや、もちろん人体模型なのだから涙が出るはずもないのだが‥。
「はぁ‥とりあえず何でこんな騒ぎを起こしているのか話してみろ‥」
 階段に腰掛け、日向が呟くと「‥僕は‥」とポツリポツリと太郎君が話し始めた。
「僕はせっかく話せるようになったから、皆と話がしたかっただけなんだ‥それなのに、皆逃げていくし‥」
 突然、人体模型が動き出したのだから皆が怖がるのも無理はないだろう‥とはとても日向はいえなかった。
「でもよ、だからと言って暴れたり生徒を怖がらせたりしたら『廃棄してください』って言ってるようなモンじゃねぇか」
「‥でも、僕だって誰かと話したいし、皆みたいに遊びたい」
 太郎君の言葉に「はぁー‥」と盛大なため息をついて日向は「ちょっと待ってろ」と呟く。そして次の瞬間には日和になっていた。
「じゃあ、私と日向が貴方の友達になってあげるわ。毎日は無理だけど、ココに来るから、その時に一緒に遊べばいいじゃない」
 日和がにっこりと笑うと太郎君は少し驚いたような顔をして日和を見た。
「でも‥僕は人体模型だよ?人間じゃないよ?」
「私と日向も似たようなものだもの、気にする理由にはならないわ」
「でも、僕は―‥」
「あーもう!お前は俺と日和と友達になりたくないのか!」
 突然、日向に変わる。それと同時に叫ばれる。
「トモダチ‥」
 太郎君はその言葉を初めて聞いたかのように不思議そうに呟いた。
「僕なんかのトモダチになってくれるの?」
 きっと、生物だったら涙をぼろぼろと零しているのだろう。今の太郎君はそんな雰囲気をしていた。
「きっと、これで太郎君もおとなしくなるわよね」
 学校からの帰り、日和が日向に問いかける。
『そうだな、大人しくしてたら廃棄処分になる事もないだろう』


 その日から、太郎君が夜中に走り回るという噂はなくなり、太郎君の廃棄処分の決定もナシになった。
 そして、日和と日向は太郎君のところへ週に一度遊びに行っているらしい。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2021  /馬渡 日和/女性 /15歳/神聖都学園中等部三年(淫魔)

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■         ライター通信          ■
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馬渡 日和様>

こんにちは&初めまして
今回『理科室の太郎くん』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
締切ぎりぎりになってしまい、申し訳ございませんでした。
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと感じてくださっていたら、幸いです。
それでは、またお会いできる機会があることを祈りつつ失礼します。


       −瀬皇緋澄