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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


怪しい仮面の怪しい男!?

 ネタないんでしょ、と碇編集長に渡されたのは、一枚のコピー。アトラス編集部に寄せられた読者体験談だった。

 投稿者名:匿名でお願いしやーっす!(≧▼≦)
 件名:怪しい仮面の怪しい男!?
 本文:十三日のジェイソン、現代版ってとこかな?
 オレの連れがミクモ通りってとこで見たってーの。
 別に危害加えられたわけじゃねぇけど、他の奴は怪我させられたって噂。
 時間は丁度丑三つ時ってハナシ。
 実際生きてる奴がやってたとしても、それはそれで怖いよなぁ!?(爆笑)
 オカルト編集部の皆さーん、ネタなくったら調べてみてよ☆

「こ、こ、これで僕しし死んじゃったりしたらっ」
「骨は拾ってあげるわ」
 既に碇の視線は手元の原稿に向いていた。オロオロと編集部内を見渡す。
「あ、あ、あののののっ! だだ、誰かついて来てくれませんかっ??」

 さっと視線を逸らす中、奇特にも上がる手が一つ──。


●月刊アトラス編集部にて
「文字数はこれだけですね」
「ええ、このページ抜けるとキツイからよろしくね」
 わかりました、と。
 必要以上に穏やかな雰囲気を漂わせた功刀・渉(くぬぎ・あゆむ)が碇に確認作業を行ってる中、三下忠雄は戦々恐々と怯え、震えていた。
 どうしてなんだろう何故なんだろう? 三下は上がった掌にくっついていた満面の笑顔を見た瞬間、終わった、と両肩を落としてしまった。
 自分でも何が終わったのかよく分からない。ただ渉の顔を見た瞬間、自分が被捕食者の立場に立たされたような──そんな気が物凄くしたのだ。
「ふふっ、無能な部下を持つと碇編集長も大変ですよねぇ」
 あ、下僕でしたっけ?
 なんていう嫌味ったらしい言葉がフロア全体に聞こえるせいかもしれない。失笑する編集者達。
「では、行きますか三下君‥‥おや?」
 まだアトラスを出ていないというのに既に顔面蒼白で脂汗だんだらな三下を見て、そのもの言いたげな目に気付く。明らかに自分に怯えていた。
「あー‥‥」
 まぁ落ち着けよ、と伸ばした手が届く前にびくっ! と飛び上がり、カサカサとゴキブリのように小賢しく逃げた。5メートル程離れた先で、こちらを伺っている。お前はプレーリードッグか?
「‥‥三下君は相変わらずですねぇ」
 懐かしさのあまり思わず同行を申し出てしまいました。

●まずは噂の情報収集を
「匿名希望の思いつき‥‥か、本当に噂になっているのか。これだけだと判然としませんね」
 アトラスを出た後、自分の車で直行した先はミクモ通り。とは言っても怪しい男が出没するのは丑三つ時らしいので、時間になるまでもう少し噂を知ろうと手近な飲食店に入っている。
「いらっしゃいませー、ご注文はお決まりですかっ?」
 小さな店内に、オーナーと思われる男と娘と思われる若い店員。それとダベっている数人の客がいた。
 店内を確認して席についた渉は、マニュアル通りの言葉で近づいてきた若い店員にニッコリ微笑みかけた。ひっ、と何故か向かいの三下が悲鳴を上げる。
「ありがとう。ちょっとお腹が減ってるんだけど、オススメの料理はありますか?」
「お、オススメですかぁ?」
 まだ十代だろう少女は、くせっ毛をかき上げながら訊ねる男に頬を染めた。
「ビーフストロガノフなんかが美味しいと思いますけど‥‥」
「それじゃあ、それを二つ。お願いします」
 にこっ。
 邪気の全く見えない顔で笑いかけられ、年上男の魅力にうっかりヤラレかけた女の子はパタパタと父親の元に駆けていく。顔が赤いままなのか、常連客にからかわれていた。
「あ‥‥のぉぉ〜〜〜」
 胃痛歴十五年です、みたいな顔をしている三下が渉に物言いたげにしている。何か? とさっき女の子に見せた笑顔と180度は違うだろう笑みを見せた。
 ──怖い。
 三下は渉がアトラスに来る度に慇懃無礼な態度と怪しい微笑みでチクチクチクチク嫌味を言われている。この脂汗と年々白くなっていく顔は碇編集長と渉二人の賜物と言っていい。
 だというのにさきほど見せた気持ちが悪いほどの爽やかな微笑みは何であろうか?
「何か言いたげですねぇ?」
 丁寧な日本語を喋っているのに、『文句あるなら言ってみろよコラ』と脅されている気になるのは何故なんだろう。彼は言葉以外のオーラで喋っている。
「いえ、やっぱり‥‥いいです」
「おや、三下君は相変わらず遠慮がちですねぇ。今回は仕事仲間なんですし、遠慮をしていてはとてもいい原稿を書く事は出来ませんよ? ああ、そういえば碇編集長がそろそろ三下君はお払い箱にしようかと悩んでらっしゃるようでしたねぇ。いやはや、本当に今回がアトラスでの最後の仕事になるかもしれませんね残念だなぁ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥うぅっ」
 胃を押さえて卓に沈む三下に情け容赦ない。その状態が数分続いた後、そろそろ三下が死んだ魚のような目になったかなという辺りで料理が届いた。
「お待たせしましたーっ♪」
「ありがとう、本当に美味しそうです」
 きらりーん、と光り輝くその笑顔は女の子にとって眩しいものであったようだが、三下にとっては死期を早めるだけである。
「ああ、そうだ。店員さんはこの辺りで怪しい仮面を被った男が徘徊しているとか、噂を聞いた事が‥‥あるようですねぇ」
 みるみるうちに青ざめていく店員を見、更に背後でぴたっと会話が止まった常連客を見て、渉は確信した。
 さっきから三下を追い詰めている笑顔のまま、店員の少女を下から絶妙なアングルで見上げる。
「教えていただけませんか?」
 もうダメ、と向かいの三下が早々に脱落した。

●丑三つ時の怪しい邂逅
「さて、何が出るのやら‥‥」
 ジャリ、と靴が立てる音ですら今は響く。
 渉はただの暗闇に怯える事などないと言いたげに、背広の内ポケットをなぞった。
 投擲用の鉄針は8本。万が一の有事の際には最低限の事は出来ると踏んでいる。
 ──足を引っ張る人間が居なければ、ですけどねぇ?
 しらっとした視線を向けた先には、三下が今にも気絶せんばかりの形相でカメラを握っている。夜間撮影でもOKのカメラは高いと聞くが、こいつに持たせて大丈夫なのだろうか。
 ──まぁ、僕の知った事ではありませんけど‥‥むしろその高性能カメラでおさめたい映像が期待出来るかもしれませんし?
 例えば碇のハイヒールに踏んづけられる三下とか、激怒した碇に熱いコーヒーをぶっかけられる三下とか、確実に妖怪が住む洋館に放り込まれる三下とか。
「にににににににに」
「‥‥に?」
 突如意味不明の言葉を発し出した三下がわけわからず、渉が真顔で訊き返す。
「にに人間、ですよねっ! 仮面を被った男は足音立てて近づいてくるそうですし、攻撃の傷跡も地面に残っていますしっ!」
「まぁ、ねぇ‥‥」
 その方が危険だと思わなくはないのだろうか。
 渉は飲食店で聞いた実際男が暴れた跡だという地面の傷跡をなぞる。確かに斧のような鋭利な刃物で切られたと思われる。物理攻撃なら深夜の怪しいジェイソンは人間と考えられなくもないが。
 ──怪我を負った被害者以外も精神がヤラレているらしい、ていうのが、ねぇ?
 それは物理攻撃以外の攻撃をしたという事ではないだろうか?
 念のためにと対魔の文言を思い出そうとしたが、ご無沙汰な為かやけにおぼろげだ。試みない方が正解かもしれない。
「あああ危なくなったら逃げましょうねっ。ねっ。ねっ?」
 さっきから愉快なほどキョドっている三下は沈黙が辛いのか、やたら話しかけてくる。にっこり、と微笑んで見せた。
「ま、手に負えない程の奴なら逃げるしかありませんが。僕も人間ですからねぇ。脆弱ですよ」
 脆弱、という点については激しく同意出来なかったが、三下はこくこくと頷いた。
 ‥‥‥‥ジャリ‥‥‥‥
 深夜のミクモ通りに、二人以外の足音が響く。ハッと息を呑み、暗闇の中を見つめる。
 ‥‥‥‥‥‥ジャリ、ジャリ‥‥‥‥‥‥ジャリ
 人の足音のように聞こえる。左右の足を使う音。重量も人並みにあるらしい。
 ──人間‥‥か?
 恐怖の絶頂にいる三下(早いな)をよそに、切迫した様子のない渉が近づく足音を分析する。間違いない、誰かがこちらに近づく足音。
「三下君‥‥カメラ」
 小さな声でも響く。そっと口だけ動かして注意すると、真っ青になった三下が震える指でカメラを構えるのが視界の端で見えた。
 ‥‥ジャリ‥‥‥‥ジャリ‥‥ジャリ‥‥ジャリ
 こちらの会話が聞こえたのか、俄かに歩きが早くなった。獲物と取られたか、それとも。
 雲が邪魔をして、月明りではよく見えないシルエット。それでも徐々に近づく体躯が少しずつ明らかになる。
「お、お、男っ」
 ひぃ、と噂通りの怪現象(かどうかはまだ不明だが)に三下は既に泡食っている。撮るまで落とすなよ、と心中で呟きながら渉はやはり冷静な目で見守った。
「‥‥‥‥誰か‥‥いるの?」
 ──の?
 かすかな音だったから、その音は男が発したものか、女が発したものか、咄嗟には判別がつかなかった。だが、言い回しに違和感を感じる。
「‥‥‥‥‥‥誰?」
 ジャリ、ジャリ、と音を立てて近づくシルエットは完全に自分の体躯よりでかい。暗闇に溶け込んでいた体がじわりとその闇から現れるのを理解出来たのは、思いもよらぬほど近づいた頃だった。
 ──そうか、服だ。
 漆黒と言っていい色合いだったから、見分けがつき難かったらしい。のっそりと現れた筋肉質のそれに驚くと同時に、全体を包む服の違和感に一拍遅れて気がついた。
 ぎぅ、と自分の腕を掴むのは居合わせた人間からいって三下以外ありえなかったが、咎める気も虐める気も起こらなかった。
 ──変わった服‥‥‥‥いや、男?
 どっちだろう? と渉の脳裏にクエスチョンマークがひしめき合う。脳が理解を拒絶した。
「おとこ‥‥の子?」
 ここまで近づかれると、小声であってもある程度聞き取れるようになってきた。
 闇に慣れた目で判断するに、自分が高熱を出して判断能力が落ちているのでなければ彼は男性。声が高いと思ったのは事実。そして聞いた言葉の内容も聞き間違いではなさそうだ。
 ──気のせいであって欲しい。
 しかし、対象者は喋る。
「まぁ‥‥みどりの目の、男の子? 珍しい」
 ずぉん、と擬音がつきそうな体格の男が目の前にいた。三下が気を失ったのか、突然右腕が重くなったが振り払うのも忘れていた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥失礼ですが」
「まぁ。なぁに?」
 怪現象、と思われる人物は目の前にいて、そしてそれはまだ自分に攻撃をしかけたわけでも何でもない。そしてかけてきた言葉は非常に愛らしいものだ。‥‥それなのに、この激しい頭痛は何であろうか。
「失礼ですが‥‥」
「あら。なぁに?」
 くすくすくす、と。笑い声が一月の深夜に木霊した。寒い、と渉はこの時初めて思った。
「その、服‥‥‥‥は‥‥何、ですか?」
 深夜に筋肉ムキムキにソプラノ声。確かにツッコミはそちらが優先すべきところかもしれない。だが、渉は先ほどから痛みを訴える原因になっているだろう『黒いひらひら』を見て訊ねた。

●恐怖の真相
 2メートルはありそうだ、と渉は腕に三下をぶら下げたまま思った。
 自分の太腿はあろうかという二の腕がムキムキで気持ち悪い。それに反して、目の前の怪現象‥‥いや、男はやたら声が高かった。その上、言葉使いが完全に女。
 まだそれだけならいい。深夜に徘徊してようが高音域のソプラノで森のくまさんを歌おうが、どうだっていい事だ。
 だが、それは。それだけは。
「ふく? このドレスの事?」
 ぴらん、とぶっとい指先でつまんだ黒い布は、下半身を覆うスカート、であった。
 ──しかもただのスカートではありませんね‥‥。
「いえ、見せて頂かなくて結構ですから‥‥‥‥」
 吐き気までもよおしてきて、渉はそろりと視線を外した。脳裏にこびりついた筋肉質な両足が気持ち悪い。
「やけに‥‥フリルが多いような‥‥気がしますが」
 一度そらした視線を戻す事が出来ず、渉は真正面に立つぬりかべ‥‥もとい、筋肉男を何とか視界から追い出そうとあらぬ方向を眺める。
「ふりる‥‥可愛くなぁい?」
 今にも泣きそうな声に反応して視線を戻してしまったが、視界に映ったのは謎の白仮面である。
 ──素顔が見たいとは思いません。全然全くこれっぽっちも思いませんよ? ですが顔面を覆う白仮面が何なのか、物凄く気になります。
 黒のゴスロリ服に包まれた巨漢。中途半端に見え隠れする両足と二の腕が目に沁みる。白仮面で表情が分からないのがまた一層釈然としなかった。
「似合わないかはともかく‥‥その、こんな深夜に何ですし」
 視線を落とした先には黒フリルからにょっきり伸びた頑健そうな足が見えた。あ、お揃いの靴。
「よるじゃなきゃ、マリアンヌがだめって言うから」
「マリアン‥‥ヌ?」
 思わず視線を戻してしまった。あ、前葉頭辺りに衝撃が。
「そぉ。この子」
 可愛いでしょ? と屈託なく笑いかけられ(たのだと思う)両手で何かを差し出される。
 ──人形‥‥ですね。
 何ら怪しいところはないマリアンヌ。青い瞳に白い肌、ベロア生地の真っ赤なドレス。非常に愛らしい表情をしているのに‥‥なぜ。
 ──そんなに巨大なんですか。
 出来る限り不必要な部分は見ないように人形を見つめる。サイズにして、恐らく1.5メートル弱。普通に男子中学生サイズだ。しかも。
 ──鉈ですね‥‥。
 どうやら道端に出来た鋭利な傷跡はこれのせいかと思われる。しかしなぜ鉈なのか?
 深夜に筋肉ぬりかべにゴスロリに巨大人形に鉈。月明りで目にするには少し刺激的。
「うふっ、マリアンヌは優しいの。いじわる言う子におこってくれるのよ」
 これで、と振り上げられる鉈には血痕が付着していた。
「‥‥‥‥‥‥」
 逃げよう、と思ったがこの場に固定されたように立ったまま気絶している三下が邪魔だ。こいつを振り払ってから逃げて間に合うだろうか?
「きょうは満月だから、良いことがあるのよ」
 ニコリ、と謎の白仮面ゴスロリジェイソンに笑いかけられ、三下をくっつけた渉は。
 ──満月は人をおかしくさせるって言いますね‥‥。
 自分も被害者だ。

●明け方五時のネットカフェ
「ふふ、随分協力的なジェイソンで良かったですよねぇ、しかも一緒に写真撮影までして下さるなんて」
 アハハフフいや全く。
 功刀渉は徹夜の証、クマを目の下に作りつつ真顔で笑い声を上げていた。
 ──こっ、怖いィいいい!!!!!
「おや手が止まってますよ三下君? おかしいですねあれだけ徹底取材出来たのに。ああそれとも君は直接取材で軽く五時間ばかり拘束されても一行たりとも書けないほどに文章能力がないと?」
 他の客が怯えて遠く離れていっている。
 三下は思った。なぜ僕はあんな怪情報に騙され取材に赴いたのか。なぜ僕はこの人と組んでしまったのか。
「また意識がどこかへ飛んでしまっているようですねぇ? おかしいでしょう気絶していたのは君であって僕じゃない。睡眠時間が足りないようならば僕が一足先に眠らせて差し上げますが?」
 背広の内ポケットから鉄針が出た。
「おやおやようやく書く気になりましたかそうですか良かった、まあどっちみち原稿を書き上げ次第眠る事になりますのでどうぞ思う存分頑張りなさい?」

 ──碇編集長。僕はアトラス編集部に戻れるか本気でわかりません。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2346 / 功刀・渉 / 男性 / 29 / 建築家

 NPC / 三下・忠雄 / 男性 / 23 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員


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■         ライター通信          ■
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功刀・渉さま、ご依頼ありがとうございました!
こちらの都合で二日遅れの納品となってしまいました。本当に申し訳ありません。

シナリオの方は如何だったでしょうか?
忘れられぬ五時間を過ごしたらしく、功刀様に何かがご降臨なさってます。三下気絶した挙句足枷にしかなりませんでしたからね‥‥。
武器も間違えた方向に大活躍した模様。
この後の事は他の誰より功刀さまがご存知の筈ですので、無粋な解説は控えさせて頂きました。
記事はもちろんその後雑誌に掲載されたようですよ。素敵な写真と一緒に。

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、またぜひよろしくお願いしますね。
ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより