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理科室の太郎君
オープニング
神聖都学園、ここに一体の人体模型が存在する。
彼の名は『太郎くん』
学園創立から設置されているという古い人体模型だ。
しかし、古すぎるため廃棄処分にしようという話が最近出てきた。
…そして、その話が出てきたと同時に、夜中に『太郎くん』が廊下を走り回っている、という噂も出始めた。
「ふむ、夜中に走り回る人体模型か、どうもありがちだね」
繭神・陽一郎は噂を聞いて、呆れたようにため息をつく。
こんな話、響先生が聞いたら卒倒だろうなとも思い、少しだけおかしくなる。
「響先生の耳に入る前に、きちんと調査しておいたほうがいいかな」
陽一郎は一言呟いて、時計を見た。
時間は午前二時を少し過ぎたところ。
噂によれば一時〜三時までの間を走り回っているのだと聞く。
―カタン
「……何をしてるんです？こんな時間に、こんな所で」
懐中電灯で照らしながら、ため息交じりに陽一郎が呟く。
「まぁ、例の噂を聞きつけて―…という所ですかね？仕方ありませんね。一緒に調査しましょう」
離れて邪魔をされても困りますし、と嫌味を付け足しながら夜闇の校舎を歩き始めた。
視点→柴樹・紗枝／白虎・轟牙／団長・Ｍ
「最近の団長って少し変だと思わない？」
紗枝が問いかけるのは轟牙というホワイトタイガーで、紗枝のベストパートナーだ。
「‥ウゥゥ‥（訳：確かにな‥）」
轟牙も思い当たる所があるのか『そうだな』と言っているように見える。
「毎夜、抜け出してどこかに行っているみたいだし‥今日は団長の後をつけて見ようか」
紗枝の、この言葉がきっかけとなり最近おかしな行動を取る団長を尾行する事となった。
「ここって‥学校？」
夜中、団長の後をつけてきた紗枝と轟牙が見たものは‥不気味にそびえる夜の学校だった。
「あ、見失わないようにしなきゃ‥」
紗枝が呟き、轟牙と一緒に校舎へと入って行った‥所で繭神とぶつかってしまう。
「うわっ、何で校舎内に虎がいるんだ‥！？」
轟牙を見て驚く繭神に「いきなり驚かせてごめんね？」と紗枝が謝る。
「君たちも例の噂を聞きつけてやってきたのですか？」
例の噂、つまりは人体模型が動く事を言っているのだろう。
「えぇ、そうよ。貴方も？」
半分以上は団長を探してなのだが、それは言う事なく、紗枝が問いかけると「そうです」と短く繭神は答えた。
「固まっての行動よりは分かれて捜索した方がいいでしょう、僕はあちらを見ますので、あなた方はあっちをお願いします」
そう言うと繭神は向こう側の校舎へと足を進めて行ってしまった。
「じゃ、私達はこっちを探しましょうか。それにしても人体模型と団長って何か関係があるのかしら‥」
紗枝が首を傾げて呟くと、突然轟牙が「‥ウゥゥゥ‥（訳：何だ、お前は‥）」と唸り始めた。
「轟牙？」
轟牙が睨みつけている先を紗枝も見ると―‥そこには二人の黒子に操られて陽気に踊る人体模型の姿があった。
「これが噂になってる‥夜中に動く人体模型の正体ってワケね‥」
紗枝が呟くと、人体模型は紗枝と轟牙を挑発するかのように二人の前で踊りだす。
しかし、二人はまだ気がついていないが、この黒子の内の一人の正体は団長なのである。もう一人の黒子はサーカスの団員の一人。
「‥轟牙‥何か‥あの踊りには腹が立つわね」
人を馬鹿にするかのように踊る人体模型に紗枝は苛立ちを感じて鞭を手にする。それを見て『ヤバイ』と感じたのか、黒子は人体模型を操りながら天井へあがり、そのまま二人の前から逃走をしようとする。
「待ちなさいっ！轟牙っ」
「ガアウッ（訳：任せろ）」
紗枝の言葉で轟牙がダッと走り出し、人体模型を追う。紗枝もその後を追い続ける―‥が、奇妙なものが耳に聞こえてき始めた。
「‥何、この音楽は‥」
どこからともなく聞こえてくる音楽に紗枝は動かす足を一旦止める。轟牙もそれに気がついたのか動きを止めた。
「‥ガウ‥（訳：紗枝）」
「ん？何？」
轟牙に呼ばれて、目の前を見ると人体模型がバレエを踊っている姿が視界に入ってきた。その踊りときたらもう‥そこらのバレリーナでも適わないのではないかというくらいの軽やかな動きを見せる。
しかし、どんなに綺麗に踊れていても目の前にいるのは人体模型、感動も何もあったものではない。
「追いますよ、轟牙！」
半ばヤケになったかのように見える紗枝に不安な気持ちはあったものの、人体模型と黒子を捕まえるのが先だと判断した轟牙は全力で走り出した。
あれからどのくらいの時間が経ったのだろう？
夜の校舎内をばたばたと騒ぎながら紗枝と少し疲れてきたような気もする轟牙は走り回っていた。
バレエに続いて、コサックダンス、ガイコツ踊り、挙句の果てにはドジョウ救い、阿波踊りまで見せられたのだ。
そして、辿り着いた先は体育館、広さはあるものの校舎内を走り回られるよりはずっと良いと紗枝と轟牙は心の中で呟く。
「ガアウ！（訳：危ない！）」
一瞬の気の緩みを見せた瞬間、人体模型は紗枝に襲い掛かってきた。しかしやはり操られているだけの人形だけあって攻撃を避ける事はたやすかった。
「もう怒りました！」
そう言って紗枝はピンと鞭を鳴らせ、天井にいる黒子目掛けて鞭から電流のようなものを放った。それが黒子二人に直撃をして悲痛な叫びをあげながら天井から落ちてきた。
「イタタ‥年寄りを酷い目にあわせるのぅ」
そう言って所々が破けた黒子を取った人物、それは―‥。
「団長！？」
「ガウっ（訳：団長っ）」
二人がそう叫ぶと「バレてしまっては仕方がないわい」とため息混じりに呟いた。
「どういうつもりですか？理由によっては許しませんよ？」
紗枝が団長に詰め寄ると「待ってください！」と一人の男が体育館に入ってきた。
「‥貴方は？」
「‥私はここの教師をしている者です。今回の事は私が全て悪いのです‥」
何か事情がありそうな雰囲気に「何があったんですか？」と紗枝は優しく問いかける。
「‥この人体模型‥もうすぐ廃棄処分になるんです‥。創立以来からずっとあるもので廃棄処分にしてしまうのは酷いと思い、団長さんに‥」
そう言って教師は団長を見る。続いて紗枝も見ると「かわいそうじゃろ？」と団長が言葉を返してきた。
「‥ガゥ、ガウウゥ（訳：でも夜中に操るのは意味があるのか？）」
轟牙の言葉にハッとして、紗枝は団長を見ると「タダの悪乗りじゃ」と悪びれた様子もなく答えた。
結局、人体模型はサーカス団で引き取る事になった。
（それにしても‥人体模型にあんな上手に色々な踊りをさせられる団長って‥）
紗枝は未だ解けぬ疑問を心の中で呟いたが、口にする事はなかった。
その人体模型のショーがあるのかどうかは‥三人と三人のサーカスを見た者にしか分からない―‥。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
６７８８ ／柴樹・紗枝 ／女性 ／ １７歳／猛獣使い
６８１１ ／白虎・轟牙 ／男性 ／ ７歳 ／猛獣使いのパートナー
６８７３ ／団長・Ｍ ／男性 ／２０歳 ／サーカスの団長
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■ ライター通信 ■
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初めまして、今回『理科室の太郎君』の執筆をさせていただきました瀬皇緋澄です。
納品が遅くなった事をお詫びします、すみません‥。
柴樹・紗枝さま＞
初めまして、可愛いＢＵにやられました（笑
上手く表現できていると良いのですが‥。
白虎・轟牙さま＞
初めまして、普段は動物の方を書く機会があまりないので、上手くキャラを出せていたか心配です‥。
人体模型事件を解決できたのは轟牙さまの脚力があってこそですね＾＾
お疲れさまでした。
団長・Ｍさま＞
初めまして、楽しい話を書かせていただき、ありがとうございました。
サーカス団の方を書く事が普段はないので、ちゃんと楽しい話に出来ていたか心配です。
何か御意見・ご感想がありましたら遠慮なくどうぞです♪
今回はありがとうございました。
またお会いできる機会があることを祈りつつ失礼します。
―瀬皇緋澄
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