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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


『水に映った姿』

投稿者:runrun 20:11

 こんばんは、runrunです。初投稿しちゃいます!
 うちの近くのお寺のね、手押しポンプで汲んだ井戸水には不思議な霊力が宿ってるって話があるんだけど、友達がこの間の満月の夜に、バケツに汲んだ井戸水を覗いたらたら、そこに自分じゃない人が映ってたんだって〜!
 お寺の住職さんに話してみたら、それは貴方の心の姿だとか言われたんだって。悪い心を持った人が覗き込むと悪魔が現れて、井戸の中に引きずり込まれちゃうんだとか。ホントかな〜?

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「なんか、嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれるって話と同類っぽいね」
 言いながら、瀬名・雫はカーテンを開けて空を見上げる。
「満月まであと数日ってところか。誰か、行ってみる? もしかしたらぁ、素敵な悪魔さま☆にお会いできるかもしれないし。ああ、となると、腹黒な人誘った方がいいかな〜。いや、腹だけじゃなくて性根腐り果てた極悪非道な人の方がぁ〜」
 既に雫は夢心地であった。

********

「へっくしょい! さすがにこの時間は寒いねー」
 真冬の午前0時。
 街外れの小さな寺の境内に現れたのは、ゴーストネット管理人瀬名・雫と、高校生の櫻・紫桜であった。
「は、は、へっくしょん!」
 雫の2度目のくしゃみは、紫桜の顔にクリティカルヒットした。
「大丈夫ですか?」
 顔に掛かった唾をハンカチで拭いながら、雫を気遣う紫桜。
「だいじょーぶ。もうじき、寒さなんか吹っ飛ぶんだからっ! おおっ、湧き水発見!」
 雫は幼い子供のように、湧き水に突進していく。
 二人の他に、人の姿はない。
 意気揚々と投稿者に連絡をとった雫に、紫桜が同行を申し出たのは数日前のことだ。
 投稿者の話によると、満月の夜の深夜がいいということだった。二人はギリギリ終電に間に合う時間として、この時間を選んだ。
 公道が近いせいもあり、時折トラックが通る音が聞こえる。
「こっちの湧き水じゃないかー。じゃ、あっちかな!」
 駆け回る雫とは対照的に、紫桜は冷静に辺りを見回してみる。
 付近に背の高い木や建物がないため、月の穏やか光が、境内を厳かに照らしている。
 境内の片隅に、屋根のついた水場が設けられていることに気付く。側には手押しポンプらしきものがある。
「雫さん、あそこ……」
「きゃーーーーー!!」
 言い終わらないうちに、雫が駆けてゆく。
「よおおおーし。どんな姿に映るかな映るかなっ☆」
 紫桜が歩み寄った時には、雫は既にバケツに水を汲み終えていた。
 明るい場所にバケツを運び、二人で覗いてみる……。
「……子供?」
「…………」
 映っていたのは、二人の姿ではない。
 幼い子供が2人だった。
「ええー!? なにこれ? 私の心の姿が子供ー!?」
 明るい笑みを浮かべた、双子のような子供が映し出されている。
「て、ゆーか! 一緒に映ってるのって……っ」
 くるっと雫は振り返る。そこには、無表情の紫桜の姿が。
 紫桜は今時珍しい、外面は礼儀正しい高校男子だなのだが。
 黙って水を見つめていた紫桜が口を開き、雫の好奇な瞳にこう答えた。
「……ま、こんな感じか」
「え、ええええええー!! ホントにそんな風に思ってる? でもそうか、紫桜ちゃんって大人びて見えるけど、心は子供なんだ。なんかおっかしー。あはははははっ」
 雫の言葉に、紫桜は思わず眉根を寄せる。
 しかし、これが自分の心の姿だというのなら、否定はできない。
 要するに、自分の心は子供の頃から成長していないのだろう。
「あははっ、心は同い年だね、あたしたち〜。ふふっ」
 とはいえ、この能天気娘と同じ精神年齢だとは思いたくはないのだが……。
 その時。
 二人以外誰もいないと思われていた境内に、鈍い音が響いた。
「変な音聞こえたよね。なになに!? お化け!?」
 普通の女の子なら怖がりそうなものだが、雫は目を輝かせている。
 寺を囲む木々の陰から、ゆっくりと人が現れた。
 月明かりに映し出されたのは……血に染まった少女の姿である。
「うっわーーーー」
 驚きの声を上げる雫。
 さて、これはどういった状況なのだろう。
 紫桜は注意深く少女を見る。
 淡い光の中の少女からは、不思議な魅力を感じる。
「お怪我を、されているのですか?」
 紫桜は冷静に、遠くの少女に声をかけた。
「ううん」
 少女はにっこりと笑った。
 手についた赤い血をあどけない仕草でなめている。
「じゃなに? 何があったのー!?」
「別に、食事してただけだよ」
 雫の問いに、少女……ロルフィーネ・ヒルデブラントは無邪気な笑顔で答えた。
 冷たい突風が、木の枝を揺らした。
 少女の足下。僅かな間、月の光が降り注いたその先にあるのは……無残な人の姿のようであった。
 ずたずたに引き裂かれたその様は、既に人の形ではなかった。
 人ではない。そう思いたい。
「うっ……」
 流石の雫も、紫桜の腕をつかんで、背後に隠れた。 
「……吸血鬼、でしょうか」
 紫桜は対処に迷う。
 無邪気に笑う少女は、悪人には見えない。
「キミ達こそ、ボクに何か用かな? 今日はもうお腹いっぱいだよ」
「お、おおおおーし、ぐっどタイミーング! 極悪、極悪だよ紫桜ちゃん!」
 彼女の言葉を聞いて、恐怖で隠れていたと思われた雫が、勢いよく前に飛び出す。
「ね、ね、体汚れてちゃ、帰りにくいでしょ? あそこの井戸で顔洗いなよ〜」
 雫がロルフィーネに近付いて、手押しポンプを指差してみせた。
「ん〜? そだね」
「やったーっ! 行こ行こっ」
 逸る気持ちを抑えられないらしく、雫はロルフィーネの手をとって走り出した。
 紫桜は用心しながら、二人の後を追う。
「水汲んであげるからね〜」
 雫がバケツに水を汲み、ロルフィーネの前に運ぶ。
 ロルフィーネが手を前に差し出し、バケツに顔を近づける。
 雫と紫桜はすかさず、背後から水を覗き込む。
 二人が見た彼女の心の姿は……。
「おっさん」
「男性ですね」
 ロルフィーネ自身も目にした。水に映った自分の姿を。
「え、ええっ!? なにこれっ!」
 ロルフィーネの姿は鏡に映らない。普通の人間より自分の姿を見慣れていないとはいえ、これは……あ・り・え・な・い!!
「あはははっ、この水はね、心の姿を現すんだって〜。そっかそっか、おっさんか〜」
 バンバンとロルフィーネの肩を叩く雫。
「う、うそうそうそうそ! ボク、こんな顔じゃない! 女の子だよ!」
 これを認めてしまったら、いつか愛する旦那に捨てられてしまう!
 これが外見であっても、心の姿であっても。
 危機感を募らせ、ロルフィーネは首をぶんぶん横に振った。
「こんなの嘘だー!」
 そして、思い切りバケツを蹴り飛ばす。
 勢いよくバケツは宙を舞った。
「あははは、そういうところ、おっさんだ〜」
 笑い続ける雫を、睨みつける。
「危なっ」
 落下してきたバケツを、紫桜が頭上で受け止める。
 しかし、中身はこぼれてしまい、ロルフィーネの顔に降りかかった。
 気にもせず、ロルフィーネは雫につかみかかる。
「嘘だもん。ホントはボクのこと好きな人とか、美味しい食事とかが浮かぶんでしょ?」
「嘘じゃないんだな〜。ふふふ、でも、心はともかく、外見は可愛いよ。水も滴るいい女だー」
「嘘嘘嘘嘘ーっ!」
 ロルフィーネは紫桜からバケツを奪うと、今度は自分の手で水を汲み始めた。
「外見だけじゃダメなのーっ!」
 半泣きで、水を覗き込むロルフィーネ。
 笑いながら、雫が後ろから覗き込む……。
「あ、あれ?」
 映っていたのは、先ほどの男性ではなかった。
「子供?」
「女の子、だね」
 紫桜も上から覗いてみるが、そこには確かに可愛らしい女の子が映っていた。
「や、やっぱり間違いだった〜。よかったー」
 水に映った女の子は、とても幼かった。頬を赤く染め、目をキラキラと輝かせている。愛くるしい少女だ。
 隣にも同じように輝いた目をした、同じ年頃の子供が映っている。雫の姿だ。こちらは外見では性別がわからない。
「わー、皆同じ年頃の子供だね!」
「そうだね。でも、なんでさっきは変な人が映ったんだろ?」
「なんでだろうね……は、ハックション! ううっ、寒〜っ」
「クシュン!」
 雫につられたかのように、ロルフィーネもくしゃみをする。
 水を被ったせいで、余計に体が冷えていた。
「では、そろそろ帰りましょうか。終電がなくなります」
「そだね〜。ね、キミ、名前なんていうの? 吸血鬼なんでしょ! 耳の形はエルフっぽいよね。家族なんかにも会いたいなあぁぁぁーっ」
 映った姿は期待外れだったようだが、雫はすっかりロルフィーネに興味を持ってしまったようだ。
「ボクはロルフィーネ。キミは?」
「あたしは、瀬名・雫!」
「んじゃ、雫、今からうちくる?」
「うん、いくいく〜」
 二人はすっかり意気投合したようだ。
 紫桜は吐息を付きながら、置きっ放しのバケツを持ち上げた。
 二人はともかく、自分までも同じ年頃の子供というのには……どうも、蟠りが残る。
 バケツを片付けながら、再び覗いてみるが、やはり映っているのは雫と同じ子供の姿だった。
「ハックション!」
 再び雫のくしゃみが響く――。
 そういえば。
 紫桜はあることに気付き、水を掬い上げて顔を洗った。
 そして、もう一度、バケツの中を覗いてみると……。
 そこに映っていたのは、先ほどの子供ではなかった。
 映っていたのは、自分の姿。そう、見慣れた自分自身の姿だった。
 ロルフィーナには、血が。自分には、雫の唾液が顔の表面についていたため、他の人物の心の姿が現れていたといいうことか。
 紫桜はほっと胸を撫で下ろす。
 しかし、これはどういうことだろう。
 水に映った姿は、どう見ても自分そのものだ。
「外見どおりの自分、ですか。もしくは心の姿が、外見に表れている……そう考えていいのでしょうか。それとも……」
「紫桜ちゃんも一緒に行こうよー! 早く〜!」
 雫が振り返って手を振っている。
「1人で行かせるわけには行きませんね」
 水を捨てると、紫桜は二人の後を追った。
 冷たい風が吹き抜ける。
 月の光に、僅かな暖かさを感じる。
 明日の自分は、今日とは違う。
 次の満月の晩には、また違った自分の姿が見られるのかもしれない。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4936 / ロルフィーネ・ヒルデブラント / 女性 / 183歳 / 吸血魔導士/ヒルデブラント第十二夫人】
【5453 / 櫻・紫桜 / 男性 / 15歳 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
ロルフィーネさんの水に映った姿は、外見年齢よりさらに幼かったようです。直前のお食事さんの内面はどうやらおじ様だったようですー。
雫とはたまに喧嘩をしながらも、気が合いそうに思えますっ。
この度はご参加ありがとうございました!