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真夜中のボウリング場
流行というモノ。そして、廃れていくもの。
ボウリングは良い例かもしれない。
一時、大きくはやったモノだが、様々な要素によって廃れた。
立地的なモノもあるが、閉館したボウリング場はたくさんあるだろう。
地域問わずに。
当然、ゴーストネットOFFにも噂が書き込まれるのだ。
記載者:――
俺の知っている場所で、G市のA区X丁目にある寂れたボウリング場があるんだけど。
そこが夜な夜な、誰もいないのにボウリングのボールの音や、ピンが倒れる音がするんだ。
誰か居るのかと、気合い入れた奴が見に行ったけど何もなかったって話だ。
なんかいるんかね?
記載者:BBB
あれって、ほんと? 俺が聞いた話ではたしか……。
あの中にはいると、帰ってこれなくなるって噂だけどさ〜
記載者:XSR
あー、骸骨のチーマーかバンドか知らないけど、自分の頭でボウリングしているって言う噂を聞いたぞ、そこ。
記載者:ななし
ボウリングボールがないから、奴らが迷い込んだ人の首を切り取るんじゃないの?
他……:えー?!
と、色々な伝説を産んでいるようだ。
「うーん」
瀬名雫(SHIZUKU)が唸る。
よくあるモノだが、何となく“ピン”ときたようだ。
「よし! 調べよう!」
あなたもSHIZUKUの隣にいる居ないにかかわらず、
何らかの形でこのうわさ話を耳にしている。
あなたはこの真相を調べるか? それとも……怖いのでたんに近くでジュースを飲んでいるのか?
〈情報〉
「で、結果的に何か忌土地であるとSHIZUKUは睨んでいるのか?」
ネットカフェのオープンルームで、ブラックコーヒーを飲むササキビ・クミノは、目の前にいる、グラサンに短めの鍔帽子をかぶっている少女に訊いた。
「うん、私のネットワークでは、単にその区の人口が少ないとか、立地条件が悪いとかではなく、その土地自体が昔の古戦場か打ち首さらし台とか噂が絶えないの。一時期、此処の地価が暴落したけど、何かの曰くにて……買い手がなかったとか何とか。後バブルもあって……」
「私もそうとおもって、色々は調べたのだが……。確かに、バブル崩壊時は土地を買う気にはならないな。で、話を切ってすまないが、一つ訊いて良いか?」
「何?」
サングラスの少女は首をかしげる。
「その、サングラスと格好というのは何とかならないか?」
「お忍びだもん。礼子さんには内緒だから。あと、」
礼子と言うのは、SHIZUKUのマネージャーである。
つまり、この少女はSHIZUKUその人である。すでに、クミノが名前で呼んでいるわけだが。
「……あと?」
「気分♪」
「……。」
いつものことだが、SHIZUKUの気分には毎度呆れてしまう。しかし、付き合いで、調査してしまうのである。
つまり、SHIZUKUのコミュニティはネット以外でも、オカルト研究者など奥が深い。ネットというのは派生にすぎない(大好きだが)。そして、クミノのほうは、裏社会のつながりが残っている。オカルト的要素はSHIZUKUに、裏舞台では彼女の情報、その報告とすりあわせの最中なのである。そこで判ったことと言うのは些細なことであり、書いた人間は不明(ネットカフェなどでの書き込みらしい)、元ネタになりそうな派生スレッドは確認されていないという、結局足を踏み入れるしか確認はとれないあやふやな話であった。SHIZUKUはこうした、信憑性のない噂などでも、鋭い嗅覚を持つ。
「ほんとう、問題だな。経営責任が問われる良い例だ。」
と、一応のカフェのオーナーとしての、クミノはその場にいない過去の経営陣に苦言していた。
「その数年後に、この噂が流れているみたいだけど。頭蓋骨でボウリングをねぇ……。」
「ボウリングか……。」
と、二人は想像してみる。
二人は別段想像力貧困ではないが、標本骨格を更にリアルにした骨が、華麗なフォームで自分の頭蓋を投げる仕草を。
二人は苦笑した。
「シュールだ……。」
「確かに。でも、見てみたいね。」
「私はそう思わない。」
クミノはコーヒーを飲み干した。
「まず、運営が悪かった事と、他に何らかの因果があるはずだ。」
と、彼女はSHIZUKUと簡単に日時を決めて、カフェを出た。
「うん、詳しいこと合ったらメールで。」
「ああ。」
あまり一般人と、接触を控えるためでもある。
SHIZUKUもそれは理解している。
〈噂は本当だった?〉
深夜。
二人はすでに、ボウリング場に着いていた。
4階建てで、屋上から2階分駐車場がある。
あたりは真っ暗で、感覚距離200ヤード先にしか明かりが見えない。辺鄙なところである。ただ、徐々に都市開発の波が再興されている感覚はあるようだ。
クミノはかなりの武装をしていた。
「暗視スコープとかでるのね。いいなぁ。」
SHIZUKUは、クミノの能力を感心していた。
「好きこのんで手に入れたモノじゃないけどね……。」
と、クミノは苦笑する。
「熱源はなし、か。 SHIZUKU、気をつけろ。」
「うん。」
あらかじめ、クミノのコネクションを通じ、この区域に自由に立ち入りできる権利を得ている。一応私有地であるし、器物破損の可能性も否めないのだ。それに、クミノとしてはもう一つ考えがあるようだ。
「入り口前の駐車場は及第点かもしれない。上を見てみたいが、まあ、後で良いだろう。」
「?」
「否、なんでもない。」
さっそく、レーンのある広い場所に入るため、思い自動扉を開けた。
「……ロビーには異常はないな。」
「うん。ほこりくさいね。」
足下の埃のつもり具合からして、肝試しに入った人物の形跡はない。
「噂だけなら良いのだが……。書き込み元がいないと言うのは何かあるか?」
開けたドアから急に風が入る。
彼女たちは何かを感じたが、ドアが勝手に閉まる……気配はない。
ロビーは今とはかなりデザインが古く、低めのカウンター。シューズボックスなどが、並んで、靴を履き替えるためのソファーが、スポンジとバネをむき出しに放置されている。そして、ショウウィンドウには、ゲーム得点に準じた景品が入っていた跡が残っていた。しかし、トロフィーなどは放置され、埃がかぶっていたり錆びていたりする。
「なんか、お金になるモノだけを持って行っちゃった感じだね。」
「立地条件的に悪くないはずなんだが……。営業の失敗の線が高いな。」
と、近くに転がっていた、ボウリングのボールをクミノは拾った。
「10ポンド……にしては軽いか?」
「クミノちゃん! それ……何か塗られてない?」
「む?」
赤外線では、はっきり見えないこともあるのでライトを当てる。
そのボールは元から橙をベースにした、大理石風のものが、真っ黒に何かが付いていた。
「血? これは……血か?」
「此処に何かがいたってことに?」
「さあ、此処で事件の発生という情報は入っていない……が、こうも見捨てられている感があると……。死体を放置した場所かもしれないか?」
ミステリーになりそうだ。
「それか、此処の霊が、迷い込んだ者を撲殺したと言う考えもできる。」
クミノはそう推測する。
「うわあ。なんかドキドキするね。」
SHIZUKUは楽しんでいるみたいだった。
〈骨ボールと……ピン〉
レーンを見る。
あらかた機材は持ち出され、先ほどのようなボールやピンが、寂しそうに横たわっているのだ。この状態では、ボウリングするどころでもない。
「しかし、妙だな?」
「なぜ?」
この状態でボウリングできないのに、こうして、噂ができる? と。
「ガセか?」
「まだ、1階しか見てないよ?」
「そうだな。」
と、奥まで見てから2階に上がろうとした時だ。
「危ない! SHIZUKU!」
クミノは何か殺気を感じ、SHIZUKUを抱きしめ、跳んだ。
「え? きゃああ!」
横跳びの最中に見たモノ。それは、腕である。人の腕だ。
ごろごろと、その下腕部だけの物体は、まるで、ストライクを決められたかの如く、転げ落ちて、暫くすると、切り口をしたにして、自力で起きあがった。しかし並び方が“何か”に見える。
「……し……よ……。 」
クミノはすぐさま、銃を取り出し、撃つ。
腕達は、それを躱す。
「!?」
「玉! 玉! 何ポンド!?」
腕達は口もないのに合唱する。
「何を言いたい!」
おそってくる手、手、手。
彼女が物理攻撃無効と言っても、SHIZUKUを庇うため、その効果を別能力で緩和してしまっている。故に、“押さえ込み”まれると、少女並みの筋力しかでないのだ。
「SHIZUKU! 逃げて!」
「うん!」
SHIZUKUは彼女から離れる。
障気を制御し、抑え込む腕を障壁ではじいた。
しかし、腕達は壊れない。
腕はまた整列して何かしようと叫んでいた。
「何をしたいんだ、貴様ら……。」
耳を澄ます。
上の階から、カタコトと音がする。
骨が鳴る音だ。
「此処の主人の登場か……。」
その、シルエットは肉が全く付いていない、標本骨格。そして、頭がある部分に有るべき頭蓋は、手に握られていた。
その頭蓋骨が喋る。
「久々のボウリング相手? それとも新しいピン?」
空気が喋ったかのような声である。
「そのどっちでもない……。なぜ此処で留まるのか、教えてもらおう?」
「……新しいピンだな。」
クミノの答えに怒りを込めて骨は喋った。
「無駄だ。」
障壁主体モードになれば、彼女はほぼ無敵である。全て投げつけられる骨や機材など避けることが可能だ。ただ、当たると痛いと言うことは変わりないので躱す。ダメージが行かないだけだ。
腕を力の限り躱わし、骨に迫る。そしてクミノは召還したハンマーで……。
「砕けろ!」
と、骨自体を粉々に砕いた。
そのとたんに腕は灰となり、骨も、あらゆる血のりも、消え失せていた。
〈正体はつかめず〉
「いったい何だったんだろうね?」
カフェで、レポートとにらめっこしているSHIZUKU。電話でのやりとりだ。
「私自身も判らない。とりあえず、判ることと言えば、全ての偶然が重なって、書き込みした事がほぼ事実に具現化したのだろう。」
クミノはそう推測する。
「実際に幽霊はいた。それだけでも儲けモノかなぁ。」
と、真相は分からずじまいの事が悔しい。
「ああ、私の場合は問題ないが、SHIZUKUの場合ならそれが一番良いと思う。」
苦笑するクミノだった。
なにしろ、霊自身が、狂気に走っているなら説得も何もできない。
想像の域しか出ないと言うことが、恐怖とその噂を巻き起こす。
「とりあえず、まだ何かあるかもしれないからあたしは調べるよ。手伝ってくれてありがとうクミノちゃん。」
「あ、ああ。あまり無茶するな?」
と、クミノは電話を切った。
処刑場とかという噂も、あまり信憑性がない。
しあkし、アレを倒した所為で、霊的な狂いはなくなっている。
書き込みによる、相互実現化が正しいかもしれない。
「まったく、不安定な世界だ。まるで鶏が先か卵が先かのような感じだ。」
事務所の机においていたそのボウリング場の権利書や登記をまとめて、アンドロイドに手渡す
謎は残ったが、今後、あの場所に良き経営者が参入することを願うクミノであった。
END
■登場人物
【1166 ササキビ・クミノ 13歳 女 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
■ライター通信
滝照直樹です 。
「真夜中のボウリング場」に参加して頂きありがとうございます。
今回は、単純に現場にそれがいるという話にさせて頂きました。未練があるのか、を聞ける状態じゃないモノの心理は、実際分からないものとおもい、正体ははっきりつかめないように描写しています。
楽しんでいただけたなら幸いです。
ではまた機会があればお会いしましょう。
滝照直樹
20070224
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