コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Birth Day

 二月某日。
「……?」
 不意に視線を感じた啓斗は立ち止まり振り返るが誰もいない。
 何とも不思議な感覚。
 周囲に見知った顔はないし、声をかけてくる様子もないのだ。
 気のせいと言うにはぬぐいきれない不安感。
 何とも言えない嫌な予感がするのだ。
 これから何かが起きる。
 経験あっての直感だから外れてはいないだろうが、すぐには対処のしようがなかった。
 既に視線は感じなくなっていたし、これ以上何が起きる様子もない。
 なにより視線には殺気も何も感じないのだ。
「………」
 あまり長く立ち止まっているのも不自然だと、ほんの少し首をかしげてから何事もなかった風を装い歩き出す。
 視線はもうどこからも感じない。
 家に着くまで注意はしてみたが結果は同じだった。
 気になり北斗に聞いてみたがそっちは何もなかったとのこと。
 ……何かを忘れている気がする。
 結論から言えばその予感は見事に的中していた。
 これはそう、やがて来る出来事の……本当にささやかな始まりに過ぎなかったのである。
 この時から啓斗と北斗の身の回りで色々なことが起き始めたのだ。
 それも啓斗が想像したことよりも……ずっとあからさまで、大胆に。



 何かが起きている。
 少しでも情報を得ようと何かを知っていそうな相手、つまり夜倉木に電話をかけてみたが繋がらない。
 この時間ならアトラスにいると思ったのだが、急な用でも入ったのだろうか?
 録音機能に切り替わった所であきらめ電話を切った。
 こうしておけば気付いたらかけくる筈。
「あの、すみません」
「……?」
 携帯をしまいかけた啓斗のすぐ側を宅配便の大型車が横切ろうとしている。
 声の出所はその運転手が窓越しに身を乗り出して発した物。
 先に進むのを邪魔をしてしまったかと思ったが、そうではないらしい。
 道に迷いでもしたのだろう。
 案の定車を止め、困ったような表情で地図を片手に降りてくる。
「すいません、まだここに来て日が浅いので道に迷ってしまって、道を教えて貰っても良いですか?」
 何故自分にと思わないでもなかったが、周りに人が居ないのだから選択肢は無かった様だ。
「解る所で良いなら」
「助かります」
 仕方ないと一緒に地図を覗き込もうとしたその瞬間。
 何かを感じた。
「………っ!?」
 形にならない感覚に距離を開け、相手の全身を上から下へと見渡す。
 急には特徴を言うことが出来ないような、何処にでもありふれた顔立ちや体格。
 けれどどこかで見たような……。
 今の今まで解らなかったが、夜倉木と同じ独特な気配を感じてしまったのだ。
 ほんの僅かだが、間違えたりする筈がない。
「関係者? いったい……」
「それじゃ、また」
「あ!」
 尋ね終わるより早く逃げ去っていく男。
 まさに一瞬の出来事だった。
「どうなってるんだ……」
 一度はしまった携帯を取りだし即座にかけ始める。
 今度は夜倉木ではなく北斗の方に。
『兄貴?』
「今何してる、何か変わったことは?」
『まあ、あるっちゃあるけど……偶々やったくじ引きで食事券が当たった』
 やっぱりと思うと同時に、想像以上に事態は進行している様だ。
 一度家に戻った方が良さそうである。
「すぐに帰ってこい」
『え、でも……』
「今すぐにだからな」
 念を押してから電話を切ると、表示画面にメールが来ているのを見つけた。
 話している間に届いたのだろう。
 確認すると夜倉木からで、文面はため息の出るような物だった。
 親戚が迷惑をかけている様だから、その対処をするので二人揃って家に帰って待ってて欲しいとのこと。
 短い文面だったが、ようやく何が起きているか解ってきた。
「……まったく」
 物騒な事件ではない事と、目的地の変更はしなくて済んだ事だけが、せめてもの救いだろう。



 夜倉木関係者は年末年始は特に多忙が重なる時期であり、それが落ち着く時期が一月後半から二月頃。
 その結果、旧正月を夜倉木家の正月にしようと決まったそうだ。
 もう一つの理由は彼らにとって真新しい関係者、啓斗と北斗の誕生日が重なっている事。
 その結果より一層騒ぎが大きく、啓斗と北斗の二人が巻き込まれやすくなったとは……夜倉木の談である。
「まあ面白いっちゃ面白いんだけどな」
「言うな北斗」
 ごく一部を除いて、あまり目立てないという決まりからか騒げる時にはとことん騒ぎたいらしい。
 その結果、酷い事になったのは身をもって体験済みだ。
 何かにつけて騒ぎたい面々に主役として扱われたら結果、翌朝どころか三日は頭痛やら何やらが続いたのである。
 逃げればもっと追い掛けたくなるのでは、という意見は考えないことにした。
 要は止められ人間が来るのを待って、逃げ切ればいいのである。
 もっとも、夜倉木一人で止められるかどうかは全くの別問題な訳なのだが……。
 何か秘策でもあるのだろう。
「けどよ、いいのかこれ?」
「ん? 夜倉木からは遠慮は一切するなと聞いてる」
「じゃあビシっと気合い入れていくけど……兄貴は?」
「このメールで確認したらすぐに手伝う」
「電話じゃダメなのか?」
「何か細工されててメールしか使えないそうだ」
「……あっそ、今はなんて」
「夜倉木が行くまで出るなとか、泣き落としも演技だから出て行かないようにだそうだ」
 電話で話していても同様だろうが……ああも真剣に携帯を見ていると微妙に面白くない。
「言われなくても……なぁ?」
「全くだ、心配性だな」
 軽くため息を付きながらも、ほんの少しだけ笑みが混ざっている。
 なんだか面白くない。
 出来るだけその表情を見ないようにしつつ、からくりの数を増やす事に集中しながら奥へと進すむ。
 家中の罠をさらに強化して守崎家で籠城作戦と決めたのだが、気になるのは罠のレベル。
 いくら向こうの腕に覚えがあるとは言っても、本気を出しては危険すぎる。
 念のために聞いておいたのだが……メールでの打ち合わせをしている所を見ていると、手加減という物を忘却したくなってきた。
「あれとかも試してみるかなー……」
「北斗、何する気だ?」
「いや、ちょっとな、はは、ははは……はー」
「北斗?」
「なんでもない、なんでもない」
 乾いた笑いで誤魔化しつつ火薬やなにやら物騒な物を仕込んでいく最中、思いついてしまったのである。
 後から来る夜倉木ごと、からくりの餌食にしてやれないか?
 もし出来たらどんなに気分が良いだろう。
 一度閃いてしまったからには実行に移さずにはいられなかった。
 向こうも楽しんでいるのだから、こっちだってこのぐらいしても構いはしない。
 明らかに目的がずれ始めてきているが、この場にはそれを止める者は居なかった。
 唯一それが出来そうな啓斗はメールで連絡を取っている最中である。
「今の内……だよな」
「ん、何か言ったか?」
「別に。ほら兄貴、メール来てる」
「ん」
 着信音に反応し画面へと視線を押した啓斗がため息を付く、この時もまたイヤそうな様子ではなかった。
 止めておけばいい物をついつい聞いてしまう。
「……なんだって?」
「たいしたことじゃ、無い。ゆっくり過ごせるようにするから応援してろって」
「ゆっくり、ねぇ。出来ると良いな」
 ヒラヒラと手を振り、啓斗の意識が他所へと移るのを待つ。
 何しろこれから啓斗には見せられない様な仕掛けを組むつもりなのだ。
 打倒、夜倉木有悟!
 グッと拳を握りしめ、北斗は気合いを新たに罠を仕掛け始めた。
 この決断が普段にもまして強力なか罠となり、からくり屋敷として名を轟かせる切っ掛けになったのは……北斗だけが知ることである。
「……って、あれ?」
 何かとても大事なことに気付きかけたのだ。
 言葉や形にならない不安。
 この手の事は大抵気付かなければ後でろくな事にならない。
 からくりを仕掛けつつ必死で考え……頭の中で幾度か啓斗の言葉を繰り返し。
 唐突に気付いてしまったのだ。
「………あ」
 夜倉木が用意しただろう、とんでもない落とし穴の存在に。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。

誕生日おめでとうございます。
ちょうどいい時期に納品できて何よりです。
窓を開けるペースが不定期になりがちですが、開いているのを見たらまたよろしくお願いします。