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<東京怪談・PCゲームノベル>


Birth Day


 一時間後。
 来るのがずいぶん遅くなった。
 途中から電話が繋がらなくて心配していたのだが、まだ啓斗と北斗が無事なようでホッと胸をなで下ろした。
 動きがないのは、からくりによって攻めあぐねているからだろう。
 ここにいて貰って本当に良かったと思いつつ、中に入り絶句する。
「………」
 何があったのかは敢えて問うまい。
 聞きたくもない。
 それでも言葉をかけてしまうのは親族だからこそだ。
「何があったんです」
「いや、うん。予想外だったね。罠だらけだしここ……奥行くなら気をつけた方が良いと思う」
 玄関から数メートルの位置で、宙づりになりつつ手を振ってくる。
 そこに至るまでに発動した罠は五、六個。
 距離と歩数から考えると、何処を踏んでも罠が発動する状態にあったのは確かだ。
「……忠告感謝します、他は?」
「二人目がもう少し先の電話までいったんだけど、結局駄目だったらしい」
 詳しく話を聞けば、奥に行けないなら近くまで来て貰おうとして泣き落としに出たものの……たどり付くまでの課程で一人目と同様の結果に至った訳で。
 何とも情け無い話だが、全て回避されても困る。
 今年こそはゆっくり過ごしたいのだ。
 向かう前にもう一つ。
「くれぐれも邪魔だけはしないでください」
 うかつにも引っかかった親族には、忠告だけしてから見なかったことにする。
 引っかかった方は何とも情け無いとは思うが、引っかかる方が悪い。
 このまま放って先に進ませて貰おう。
 電話の所までは既に罠が発動していて楽に進めるが、難しいのはここからだ。
 何処をどう進んでも、何かが起きる危険を冒さなければならない。
「………」
 スッと息を吸い、最初の一歩を踏み出した。
 大小様々な歯車がかみ合う音が鳴り響き、一斉に罠が発動する。
 傾きかけた木の床を駆け抜け、飛んできた矢を素手で叩き落とし回避。
 更に前へと踏み込むと左右の壁から微妙に位置をずらした槍がつきだして来た。
「……っ!」
 とっさに前へと踏み込みすぎるのを狙っていたかの様に、滑り止めが置かれていた。
 危うくバランスを崩しかけた所へ前方から勢いよく木の板が振り下ろされてくる。
 あわや顔面をかすめた所をなんとか体を捻り、後ろにあった槍を掴んで転倒だけは回避した。
「………」
 普段のからくりとはレベルが違う。
 確かに籠城しろと言ったがいくら何でもこれはと思ったが……何かが違う。
 全ての罠は特定の相手を想定して仕掛けられているのだ。
 罠の高さ位置、癖などからそれを物語っている。
「狙われてるな……」
 誰がしているかなんて、考えなくても解ってしまう。
 作った相手、つまりは北斗の仕業だと思うと何が何でも無傷でたどり着いて見せたくなる。
 絶対に無様な姿をさらしてなる物か。
 気合いを入れ直し、勢いを付けようと槍を握り直すと槍ごと壁から外れた。
 これも予想していたらなんて質の悪い罠だろう。
「……!」
 更に折れた箇所から煙幕のように吹き出してくる大量の小麦粉。
 廊下が真っ白に染まるより早く、再度軸足を滑り止めの上に置く。
 一度は踏んだのだからここだけは確実だ。
 かろうじて足場を確保し耳を澄ませる。
 視界がゼロになったからには、音と気配だけが頼りだ。
 目を閉じ、前から来る何かを脱いだ上着で払い退けつつ進んでいく。
 たどり着くのは、まだまだ先になりそうだ。




 騒がしくなったのはこれで三度目。
「また誰か来たみたいだな」
「頑張るなー」
 内容こそは普通だが、口調と表情が楽しげなのは仕掛けた罠が相当の自信作だからだろう。
「一体どんな罠をしかけたんだ」
「え? まあ色々?」
「……まったく、仕方ないな」
 からくりの騒々しさからやり過ぎだとは思っても、いつになく嬉しそうで止めるに止められない。
 いつまでたっても子供のような事ばかりをして、本当に困った物だ。
 幸いけが人は出ていないようだし、もう少しこのままで良いだろうと今はゆっくりお茶でも飲みながら待つことにする。
 現在の状況は思っていたより落ち着いた物だった。
 流石に職業柄、派手に動くようなことはしないのだろう。
 一人目が正攻法。
 二人目は電話での泣き落とし。
 殆どの親族一同は身内だけでしか騒げないのだと切々と語られ、危うく引っかかりそうになって携帯の電源を落としたのだ。
 申し訳ないとは思ったが、今年は先約が入っている。
 ゆっくりしたいという意見には同じように頷いたからこそ、何とかこの騒ぎをやり過ごさなければならない。
「真剣なところ悪いんだけどさ」
「……?」
「携帯切ってたらあいつが来たかどうかも解らないんじゃ」
 降ろしかけていた湯飲みが、机すれすれで動きを止める。
 不自然な程の静けさを感じたが、実際にはからくりの音が大きく響き渡っていた。
 少しずつ近づいてくる気配。
 間違いなく夜倉木だ。
 罠にかからなければ、あと一分もかからない内にたどり着くだろう。
 一度はあきらめた筈の正攻法を誰が他に試すというのだろうか。
「………」
 一度は切ったはずの携帯に視線を落とす。
 今から連絡を取るのはあまりにも遅すぎるが、確認だけでもしておこうと電源を入れたものの……起動の時間が長くて落ち着かない。
 普段は気にならないのに、待ち時間がやけに長く感じる。
「そんな心配そうな顔しなくてもあいつなら来るだろ」
「いや、そうじゃなくて……」
 確かに来るだろうが、突然繋がらなくなって驚いたかも知れない。
 怒ってないと思いたかった。
 ここに来た時に落ち着いて対応すればきっと……多分。
 けれど後どれぐらいで来るか耳を澄ませている内に、今何をしているかが解ってしまってなんだか楽しくなってきた。
 真剣さがここにいても伝わり、自然と笑みがこぼれる。
 後、もう少し。
 3、2、1……、
「……来た」
 0。
「……―――っ! げほっ、ごほっ!」
 勢いよく襖が開き夜倉木が転がり込んで来る。
 服は真っ白で、ネクタイもほどけかけていたりと、ここに至るまでの出来事をはっきりと表していた。
「………」
 無言で携帯を握りしめている前で立ち上がり埃を払う。
「お待たせしました、もう平気ですよ」
「何処も何とも無さそうで良かった、服は凄いけど」
「ありがとうございます」
 怪我はないようだし、なによりも何時も通りの反応である事にホッと胸をなで下ろした。
「で、平気って何がだ」
「………」
 側により服を払うのを手伝っていると、北斗がため息を付きつつ聞いてくる。
 確かに外に出れば親戚がいることには変わりない、平気と言うからには何か状況が進展したと言うことだろうか。
「その様子だと何気付きました?」
「まーな、イヤでも気付くだろ。で、納得させられると思ってるんだろうな?」
「そうですね、好きな単車一台でどうです?」
「……そう来るか」
 深々とため息を付き、くしゃりと髪をかき回す。
 状況が読めない。
 それ以上に、解っている事前提で話をしているのがとても悔しい。
「一体……」
「こいつ俺だけおいて行く気なんだよ」
「えっ、えええええ!?」
 問いつめるより早く北斗があっさりと答えを口にする。
 確かに言われてみれば理解できてしまった。
 抵抗した分テンションが上がって、何かしらの手は打たないとどうにもならないだろう。
 おまけに夜倉木がこうしてここまで来てしまったからには、幾らかの努力をすればここまで来るのも難しくはなくなっている。
「そ、そうなのか夜倉木」
「ゆっくり過ごすためですよ、それに借りは返すつもりですし」
「だからって北斗を置いていくのか」
 さらりと言ってのける夜倉木にはっきりと眉をひそめて見せた。
 置いていくぐらいなら三人で過ごした方がいい。
 不機嫌な物が混ざりかけたのを見計らったように夜倉木がテンションをさげる。
 何を言うつもりだと身構え、思惑通りに流されて堪るかと思いかけたのだが……。
「こうなったことは謝罪しますが、二人で過ごしたいと思うのはいけませんか?」
「………」
 搦め手には騙されまいと思って身構えていただけに、こうもはっきり言われると……弱い。
 こんな時に限ってなんて卑怯な。
 どうするかなんて選べないに決まっているのに。
 本格的に悩み出した横で、このままでは話が進まないと踏んだ夜倉木が北斗に話を切り出す。
「向こうでは好きなだけ飲み食いできますし、バイクも付けます。そう悪い条件ではないと思いますけど」
 身勝手きわまりない内容であるにも係わらず、真剣なのだとも解ってしまうから質が悪い。
 グッと奥歯を噛み沈黙すること数秒。
 勢いよく指を突きつけハッキリと言い切った。
「……別にあんたに譲った訳じゃねぇからな、兄貴の為だ。そこん所しっかりわかっとけよ」
「もちろんです、感謝します」
「北斗……」
 良いのだろうか?
 不安になってなんて言おうか思いつかずに口ごもっていると、北斗が苦笑しながら手を左右に振って見せた。
「まあ、兄貴にゆっくりして欲しいってのは同じ意見だしな」
 普段の北斗からは驚くほどに控えめな意見と口調。
 既にどうするかはハッキリと決めてしまっている。
 人を他所に勝手に話を進めて困った物だけれど、どうしてこうなったかを考えると怒るに怒れない。
「夜倉木……次は、こういうの駄目だからな」
「はい」
「北斗との約束ちゃんと守るんだからな」
「はい」
 優しくなんてしてないのに、嬉しそうにするのもやっぱり反則だ。
「ほら、さっさと行けよ、後はやっとくから」
「助かります、ではまた」
「よろしくな北斗、埋め合わせはするから」
 軽く手を振り抜け穴を通り家を後にし、近くに止めてあった車へと乗り込んだ。
「それで、何処に行くんだ?」
「ゆっくりと言ったら温泉に決まってます」
「温泉? え、ええ?」
「着替えなら啓斗の分も持ってきてますから安心してください」
「何時の間に!?」
 しっかりと聞き返す間もなく、上着だけ着替えた夜倉木は車を発進させてしまっている。
 着替えまで持っていたなんてなんて手際の良い。
 いや、そうではなくて。
「それから、言っておかないとですよね。誕生日、おめでとう啓斗」
「……ありがと」
 どうやら、深く考えずにゆっくりした方が良さそうである。
 シートに体を預け、同じように微笑み返した。



 二人が行くのを待ってから、同じように外へと向かう。
「さーってと……どうすっかな」
 素直に言うことを聞いたのは、回避不可能な罠を張った夜倉木に対する意趣返しのために他ならない。
 対処法を知っていそうな人には今から山ほど会えるのだ。
 この企みが想像以上の成果を上げることが解ったのは、もう少し後のこと。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。

誕生日おめでとうございます。
ちょうどいい時期に納品できて何よりです。
窓を開けるペースが不定期になりがちですが、開いているのを見たらまたよろしくお願いします。