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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


五つの封印石〜第四話〜


オープニング

「だから、裕也様よ、二年三組に居た。覚えてないの!?」
 ストレートの黒髪を持つ少女、牧原尚美は必死になって友人に訴えていた。数人の友人の怪訝そうな表情を見て、彼女は息を呑む。
「尚美、大丈夫? そんな人、二年三組に居ないよ」
 友人は心配そうに尚美の顔を覗き込んだ。
「そんな、皆あんなに騒いでたのに」
「熱でもあるんじゃないの?」
 脱力して椅子に座り込んだ直見に対して、友人たちはまるで腫れ物でも扱うかのように尚美のそばから離れていった。
「おかしい、おかしいわ」
 尚美は、友人が離れていったことにも気づかないで机にひじをついて頭を抱えた。
 しばらくそうしてぶつぶつ何かを言っていたかと思うと、突然、ひらめいたかのように彼女は顔を上げた。
「あの女」
 尚美は立ち上がる。
「あの女なら何か知っているかも」
 尚美は、あの女こと吉良原吉奈に会うために、教室を飛び出した。



「吉良原さん!」
 帰り支度をしていた吉奈は、いきなり入り口付近に居るクラスメイトに名前を呼ばれ、その方向を見た。
 視線を向けた瞬間、クラスメイトの後ろに居るある人物が瞳に入ってきて、げ、という言葉を飲み込まなくてはならなかった。
「あの女の子は、たしか」
 裕也の事件のときのことが、吉奈の頭の中を掠める。気の強そうな顔に、黒いストレートの髪のあの少女のことは良く覚えていた。
 だが、彼女が今更吉奈に何の用だというのだろうか。あのときの記憶はすべての人間の中から消えてしまったはずだ。吉奈は思わず考え込んだ。
 その少女は吉奈の姿を見つけ、彼女が少女に近づこうとしないのを見て、己から吉奈へと近づいていった。
「ちょっと、あんた!」
「なんでしょう」
 ヒステリックに声を荒げる少女に対して、吉奈は冷静だ。そんな吉奈の態度が火に油を注いだらしく、机を叩き、少女は吉奈に詰め寄った。
「裕也様は、一体どうしていなくなったの? あんたなら何か知ってるんじゃないの?」
 吉奈は軽く目を見開いた。
「……覚えてる?」
 そうつぶやいてから、吉奈はしまったと、口を押さえる。少女は確信を瞳に宿し、身を乗り出す。
「やっぱり、あんた、知ってるのね!」
「……」
 吉奈は微妙な表情で、少女を見つめる。
「何かいいなさいよ!」
「名前」
 ポツリと吉奈は少女に向かっていった。
「?」
「貴方の、名前は?」
「そんなこと」
「言わないと教えられませんね」
 やれやれといった感じで吉奈は肩をすくめ、鞄を持ったまま立ち上がった。
 それに焦ったのは、少女だ。歩き出した吉奈の背に言葉を投げかける。
「ま、待ちなさいよ! 私は、牧原尚美よ! 一年一組の、牧原尚美!」
「尚美さん、ですね。覚えておきます」
 吉奈はそういいながら、扉の外へと出て行った。尚美は、はっとすると慌ててその後を追い扉を開け廊下へと視線を走らせるが、吉奈の姿は他の生徒の影にまぎれて、見つからなくなっていた。


「牧原 尚美、能力者、ですね」
 自分の希薄な存在を探そうとしている尚美を見ながら、吉奈は面倒くさいことになったと溜息を吐き出しつつ、帰路についた。



「今日は、逃がさないわよ!」
「……」
 翌日、再び尚美が吉奈の前に現れた。その執念深さに溜息を吐いて、吉奈は鞄を持って立ち上がった。今日は逃がすまいと、気を入れている尚美に対して、呆れたように吉奈は言葉をつむいだ。
「今日は逃げませんよ。人気の無い場所へ行きましょうか」
「……わかったわ」
 尚美は未だに納得していないような表情で、吉奈の言葉に頷いた。
 二人は共に体育館裏へと向かった。
 雑草を踏みしめながら、前を歩いていた吉奈が尚美のほうに振り向いた。
「尚美さん、貴方はどこまで覚えてるんですか?」
「どこまで、って全部覚えてるわよ、馬鹿にしないで!」
「彼のこと、全部ですか」
「そうよ、あのね、さっさとこの事態を説明して頂戴!」
 吉奈は急かす尚美に対して、溜息を吐き出し、話そうと口を開くが、その瞬間、上から何かの気配がした。
 思わず吉奈は腕を上に向け、頭をガードして飛びのいた。すると、その腕に軽い痛みが走っり、吉奈の視界を赤く染めた。鮮血が飛び散ったのだ。
 尚美はその様子に声にならない悲鳴を上げ、吉奈は眉をゆがめると、目の前に下りてきたその男を見た。その男はカッターを手にしており、どうやらそのカッターで吉奈を攻撃してきたようだ。
 男は吉奈をながめ、笑った。
「貴様が三人の同胞を葬った奴か…まさかこんな小娘とはな!」
「ちっ」
 吉奈は舌打ちをすると、腰を抜かす尚美に対して言葉をかける。
「下がっててください」
「あんた、怪我を」
「邪魔なんです」
 吉奈はそういってから腕を押さえ、男を見据えた。
「貴方が、四人目か」
「そうだ。俺は、刃物の扱いに卓越しているんだ。貴様の体を一瞬で切り裂くことも出来る」
「へぇ、でもさっきは失敗、だったんじゃないの?」
 一度の失敗を指摘されて、男の顔から笑みが消えた。
「可愛くない小娘だな」
「お褒めに預かり光栄です」
 吉奈はそういうと、血の流れる腕を抑えながら、男のそばへと駆け出した。男はいかにも不愉快だといった表情の仮面を貼り付けて、吉奈を切り裂こうとカッターを振り上げた。
 吉奈の頭の上をカッターが掠める。彼女は難なくカッターを避けると、男の腹と右肩に手を触れた。その際、男のカッターがすばやく吉奈の足を捉える。寸前のところでそれを避けたが、それでも刃物の先が吉奈の太ももを捉え、彼女の太ももからも血が飛び出した。
「ははは、馬鹿め! 俺に触れただけでどうしようと思ったんだ!」
「馬鹿は、お前だ」
 吉奈は、痛む体を抑え、口の中で「点火」とつぶやいた。
 すると、すさまじい爆発音と共に男の腹と右肩が爆発して、男が一瞬で事切れたのがわかった。
 吉奈は男を倒せたことに安堵したが、自分の体の状況が笑えないことに気づき、がっくりとその場に倒れこんだ。
 生命の源が、自らの体から流れ出ていくのを感じた。熱い血潮とは逆に、体は冷たくなっていく。
 己の失態に舌打ちしたい衝動に駆られる。
 吉奈が拳を握り締めたそのとき、不意に太ももの痛みが和らいだことに気がついた。視線を向けると、そこには尚美が座って、吉奈の太ももに手を当てていた。
「何を」
「わからない。でも、あんたに死なれたら困る」
 尚美はそういって、吉奈の太ももの傷をすっかり治してしまった。
 吉奈は次は腕だというように、触れる尚美を見て、彼女は『触れたものを何でも直す』力を持つ能力者だということを確信していた。尚美は、吉奈にじっと見られていることを感じたのか、頬を染めて弁解するようにまくし立てた。
「あなたが死んだら、裕也様がどうなったかわからなくなるからね……。 話してもらうわよ?」
「やれやれですね……」
 吉奈は溜息と共に苦笑をもらし、彼女にはすべてを話す覚悟を決めた。

エンド

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3704 / 吉良原 吉奈 / 女 / 15 / 神聖都学園高等部全日制普通科に通う高校一年生、キラープリンセス】

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■         ライター通信          
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吉奈様
発注ありがとうございます。
黒髪の少女をまた出していただけて嬉しかったです。イメージどおりでしたでしょうか。また次回もよろしくお願いします。