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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


学級崩壊!子供霊を導け!!

「──では皆さん、今先生の後に続いて歌った曲、歌詞はもう覚えましたね?」
「先生、もう授業やってる場合じゃ‥‥ってぐおっ!」
「たっ、田中! 田中ああああーーー!!!」
「音楽なんかやってる場合じゃっ、へぶぅっ!!」
「きゃっ、きゃあああああ!!!!!」
 阿鼻叫喚の地獄絵図、というのだろうかコレは。
 気の弱い少女は授業もままならない現状と半透明の代物達に、涙ぐんだままハンカチを噛んだ。
 ──なぜ? どうして? 高校の教室に子供の幽霊がいるのっ!?
 それは分からない。分からないが、学級崩壊とはかくもおそろしいものか、と──現役高校生達達は半透明の子供達に翻弄されながら戦慄した。
 うおー、きゃー、と悲鳴が乱れる教室で、唯一の大人は──
 ばたっ。
「せっ、せんせぇえ!?」
 気絶した。
 どうやら何を見ても聞いても授業を推し進めようとしていたのは、彼女なりに正気を保つために必要だった事らしい。
「やっ、やっ、役に立たねぇぇえええ!!!」
 生徒の叫び、ごもっとも。


●混沌の学・級・崩・壊!
 銀の瞳が鋭く黒板の字を読み取り、すぐに手元のノートへと書き写すために顔を下に向ける。
 ひゅっ、と鋭い音と共に何かが自分の髪を揺らした気もするが、『平静、平静。心頭滅却すれば火もまた涼し』などと呪文を唱え、彼女は手を止めなかった。
「さっ、刺さったー! 刺さってるよ鈴木ー!!」
「がっ‥‥ふっ。お、恐るべ、し‥‥さんか、く定っ規‥‥」
「すずきぃぃいぃーーーー!!!!!」
 ぱき、と板書をしていたシャープペンシンルの芯が折れた。無言で再度芯を押し出す。
「おっ、おい、そこは掃除用具のロッカー‥‥あああああっ!?」
「痛ッ! 痛タタタタッ!」
「俺の頭を掃くなあああっ! 禿げる禿げる禿げるーっ!!」
 カチカチカチ‥‥ぺキ。カチカチカチぺキキッ。
「‥‥‥‥」
 いっその事ボールペンで書いてやろうか、と──那智・三織は思った。背後の、左右の、前方のクラスメイトの悲鳴は止まない。
「えっと、ここまで試験範囲ね。それじゃあ国坂くん、次のページ読んでくれるかな?」
「先生、国坂脱がされてますぅうううっ!!!」
「そっか。それじゃあ古賀さん読んでくれるかな?」
「そっか!? そっかって先生! 現実見て下さいよこの半透明の」
「いやあああ見えない私は見えない全然全くこれっぽっちも見えてないんだからーっっ!!!!!」
 現実逃避の言葉を叫び、音楽教師が倒れた。周囲からむせび泣く女生徒の声がする。
 授業開始から僅か十分。三織はついにシャーペンを真っ二つにした。
「‥‥いい加減に‥‥しろ‥‥」
 低い、低い地鳴りのように響く声は激しい怒号にかき消され、彼女のノートが机の上から消えて窓から飛んでいく。
 びしっ、と俯く三織の額に青筋が浮かんだ。
「いい加減にしないか貴様らっ! そこになおれっ!!」

●てめぇら全員そこになおれ
 しぃん、と一瞬だけ授業中である静けさが戻った。だが再び半透明のガキどもが騒ぎだす。そしてそれに翻弄されるクラスメイト達。
「‥‥保健委員、先生を保健室へ」
 座った目の三織に命じられ、ガクガクと女生徒二名が首を振って頷く。それを確認すると、机を揺すっていた半透明のクソガキの前に立つ。
 だんっ!!
 両手で机を押さえつけると、ピタリと振動が止まった。不愉快そうに見上げる少年と睨み合う事数秒。
「良いか貴様ら」
 無邪気どころ邪気たっぷりに暴れ放題暴れる半透明の子供を見回し、睨みつける。それでも怒る三織を無視して机を蹴飛ばしたり気の弱い女生徒にちょっかいをかけ始める。
 ──い〜い度胸だ、テメェら‥‥。
 三織の中のスイッチが完全ONになる。すっ、と足を浮かせた。
 ガッ! ガタタターン!!
「聞け、クソガキ‥‥」
 足で払った机が、見事に吹っ飛ばされる。流石に子供達も注目した。説教するなら、今しかない。
「良いか貴様らそうやって何も叱られないと思うなよ仏の顔も三度までというがそれにも限度がある貴様らの場合は可愛いを通り越して行き過ぎだ人の悲鳴を聞いて良い気分になるのも良いがその場合自分がやられた時の事を考えろと教わらなかったのかそうかそうか教わらなかったかそれならば教えてやろうとっくりとなってそこ私が話している時はしっかり聞け逃げるなっ!!」
 この間、ノンブレス。同級生は感心したが、子供は蜘蛛の子を散らすように逃げた。
「逃げるなっつーの、オイコラ待て、チョーク粉砕するな、それで女生徒に化粧すな、追い回すな、嫌がらせするなっっつぅに!!!」
 およそ一クラス分はいたと思われる半透明小学生が、三織中心に放射状に逃げてゆく。
 ──が、甘いぞ小学生。今ここで私が目上の者に対する尊敬を教えてやる。
「委員長、そいつ捕まえろ! 手っ取り早く拉致れ!」
「えっ、ははははいっ!」
 黒板消し片手に生徒を追い回していた子供の首根っこを捕らえる。
『やめろおおお!』
 じたじたとあがく少年を右手に、はしゃいでいた半透明の少女を左手ですくい上げる。
『やああああんっ』
「やめて下さい。だろう?」
 とっ捕まえた二人の目線に合わせ、有無を言わせない笑顔でにっこり笑ってやる。額とコメカミの浮いた血管がチャーミング。
『ヴッ』
「まずは敬語だ。いいか貴様、やめて欲しけりゃやめて下さい、返事をする時ははいいいえ、それから」
 ガツッ!
 三織に触発され、周囲の騒ぐ子供を捕まえようと泥鰌すくいをしていたクラスメイトが、ゲ、と絶句した。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 さんざん説教をしていた三織が機能を停止した。恐る恐る女生徒が三織の肩を叩く。
「あの‥‥三織ちゃん?」
「ふ、ふふ‥‥はは、あははははっ」
 ひぃ、と声をかけたクラスメイトは飛び上がった。三織が壊れた。
「はは‥‥ははははは、ふぅー‥‥っ」
 仲間が攻撃をしかけたのに乗じて逃亡を試みようとしていたクソガキの頭をわしっ、と掴む。
「貴様ら一人一人に目上の者に対する口の利き方ってものを教えてやる」
 覚悟しろよ?
 三織の背後で武器を持ち上げていた少年が、椅子を取り落とした。

●そして授業は
「先生、大丈夫?」
 意識もようやく無事戻った響カスミは生徒と共に、自分の受け持ちクラスに戻っている。
 ──また授業中に意識をなくしてしまうなんて。教師失格だわ‥‥。
 ここのところ半透明のアレとかアレとかアレが騒ぐから、ろくに授業も出来ていないのだ。校長や教頭、学年主任にどう言い訳すればと思い悩んでしまう。
 それ以前に今後授業が出来るかどうか、が問題だが。
 はあと盛大に息を吐いたところで、教室に辿り着く。那智さんがリーダーシップを発揮して場を鎮めてくれた、と聞いたけれどまだ半透明のアレは教室に居残っているという。自分がしゃんとしなければ。
「‥‥よし、いくわよ。みんな、授業止めちゃってごめん、ね‥‥!?」
 ガラリ、と教室の扉を開けると。
「敬語というものはな、聞き手や話題にのぼっている人物や事物に対する話し手の敬意を表す言語的表現の事だ」
 カツカツカツ、と那智三織が丁寧に板書していた。
 尊敬語、謙譲語、丁寧語。国語の授業に習ったアレである。ちなみにこれは絶対音楽じゃない。
「尊敬語が相手を高めて言い表す場合。謙譲語が自分側をへりくだって言い表す場合に使う。わかるな?」
 ぐるりと教室内を見渡し、私語がないのを確認する。
「まぁ小学生のお前達には難しいだろう。ですますを付けたり接頭語おを付ける事から始めればいい」
「‥‥‥‥那智さんが」
 先に教壇に立っている。
「お弁当、お茶、お酒といった言い方だな。他にこれは丁寧語だ! と思うものがあったら言ってみろ」
 しかも物凄く先生らしい。
『はあい!』
 高校生の膝上にちょこんと座る小学生達は、先ほど教室を出る前にさんざんイタズラしていた連中と同一人物だろうか?
 目の前の光景が信じられず、本物の教諭である響は教室に入れない。
「よし、言ってみろ」
『ぬかす! ほざく! こく!』
「それは侮蔑語だこのヤロウ」
 カーン!
 見事なまでのコントロールで白いチョークが小学生の額を狙い撃ちする。
『いっ‥‥いってぇええええ』
「当然だ。痛みは愛の鞭だと思え」
 手の中でチョークを遊ばせ、またざわつき始めた小学生達を見渡す。
「いいか? 次に分かっててそういったふざけた事を言ったら‥‥」
 ごくり。
 静まり返る室内。
「私が明日の朝までノンストップマンツーマン敬語授業をしてやるから覚悟しろ」

 鬼、とうっかり呟いた子供はもれなく補習授業を受けさせられたという。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 4315 / 那智・三織 (なち・みおり) / 女性 / 18 / 高校生

 NPC / 響・カスミ / 女性 / 27 / 音楽教師


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■         ライター通信          ■
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那智・三織さま、ご依頼ありがとうございました!

情熱の鬼軍曹説教、お疲れさまでした‥‥(他にかける言葉がない・笑)
ほとんどの生徒が嫌がらせに翻弄される中、よくぞご無事で、という感じですが、子供も自分が敵わないと思ったからこその態度でしょうね。
仕舞いには敬語の授業まで受けててびっくりです。
この後ちゃんと成仏したかは謎ですが、今後校内で彼らを見かけても以前のように悪さをしないんじゃないかと思います。
いえ、正確に言うと三織さんが在学中の間は‥‥(笑)

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、またぜひよろしくお願いしますね。
ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより