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五つの封印石〜第一話〜
オープニング
すっかり空に闇の帳が降り、半分になった月が雲の合間から光を落とす。
神聖都学園の広大な敷地の中の一角に、その場所はあった。
肝試しのスポットともなるそこには、五つの古ぼけた石が置いてある。その石には妙な紋章が彫られていたが、その姿は苔に阻まれて見えなかった。
そこに現れたのは二つの人影だった。
肝試しに来たのだろうか、少年と少女の二人は品のない笑い声を夜空へと響かせながら歩いていた。
「こんなとこに来るぐらい、わけないっつーの！」
「幽霊なんているわけねぇじゃん」
そういいながら、足元に佇むその五つの石を目に入れた。
「これってさぁ、倒すとどうなんだろう」
そういったのはどっちだったのか、それはもうわからない。
ただ、その言葉をどちらかが吐いた瞬間、二人はその五つの石を蹴飛ばしたのだ。
「あはははー」
「祟れるもんなら祟ってみろっつーの！」
言いながら二人は背を向けてその場を去ろうとした。
しかし。
それは突如としてその場に現れたそいつらによって阻まれる。
がっしりと男の肩がつかまれた。男が肩を見ると、それは嫌に爪の伸びた手だった。
「な」
男が驚きに声を上げかけるが、それはもはや声にはならなかった。
「感謝するぞ」
その姿を見た瞬間、肩で息をすることしか出来なくなった。
「われらを目覚めさせてくれて、な」
「そうだねー。えへへー、ありがとー」
「あーあ、久々の外よ。いいものねぇ」
「サンキュー」
その場に現れた五人の異形が口々にそういう間に二人は気を失ってしまっていた。
五人はくすくすと笑いながら、神聖都学園の中にそれぞれ散っていった。
＊＊＊
神聖都学園の前を通りかかった小学生程の年齢の少女はふいに何か違和感を感じて神聖都学園を見つめた。
月夜のキレイな夜に散歩をしていたその少女は瑠守未央という。美しい金の髪を持つ未央は、神聖都学園に何かを感じたのか、にっこり微笑むとそのまま勝手に神聖都学園の中へと入っていった。
未央はトテトテと小走りしながら草の多く生えている裏側へと向かっていった。
「おや？」
未央は二つの人影を見つけ、その二つの背中の後ろまで行くと声をかける。
「こんばんは！」
「「わぁ」」
二人は同時に振り向き、叫び声を上げた。二人の瞳には一瞬怯え色が走っていたが、後ろに居たのが未央だと気づくとほっと息を吐いた。
「何だ、ガキか」
「どうしたんですか？」
「バケモノが、バケモノがあそこから出てきたのよ」
二人のうち男のほうは比較的落ち着いていたが、女のほうは明らかに動転していた。五つの石を指差して未央にまくし立てる。未央はその方向を眺めた。倒れた石を見て、それから女に尋ねる。
「バケモノ？」
「そうなの。五人のバケモノが学園の中に……あの石に封印されていたのに、どうしよう」
未央はそれを聞いて、建物をじっと見つめると、にっと二人に向かって笑いかける。
「じゃあ、ボクが見に行ってあげるよ」
「ちょ……」
さすがに小学生の子供一人で夜中の学園内を歩かせるわけには行かないと思ったのか、男が未央を止めようと手を伸ばしたが、彼女のすばやい動作に不意をつかれ、その手は空を切った。
羽のように軽い足取りで走り出した未央の姿はすぐに視界から消える。
跡に残されたのは唖然とした表情の二人の男女だけだった。
＊
「楽しそう♪けど、ボク封印は苦手だからなにやっても良いよね。」
るんるん、とした足取りで未央は地面を蹴って駆けていた。暗い学園の敷地内は、不気味でいかにも何かが出てきそうな雰囲気をかもし出していた。
未央が十分ほど走った頃だろうか。突然あたりの空気が変わり、未央は足を止めた。
「なんだろ」
本能的におかしさを感じたのか、きょろきょろとあたりを見渡す。
すると、声が上から降ってきた。
「お嬢さん」
その声を認識する前に、すとん、と彼女の目の前に人が落ちてきた。
否、人というには語弊があるかもしれない。なぜなら黒い彼の髪からは白い色の角が突き出ていたからだ。
「あー、見つけたー」
「ん？ 俺をお探しで？」
「鬼だ〜」
「よくわかったねぇ」
「ゲームやろっ」
未央はそういって、いきなり鬼にナイフを投げつけた。鬼はそれに驚愕の表情を浮かべながら、上に飛び退いた。鬼が居た場所にナイフが突き刺さる。
「あぶないお嬢ちゃんだな」
鬼は嫌な笑みを顔に貼り付けると、鋭い爪で未央を攻撃した。未央はそれを身軽な動作で避けると、鬼の頭を踏みつけ、彼の後ろに回りこむ。
「あは！ 楽しいね！」
「子供だと思って手加減していれば」
馬鹿にされたと感じたのか、あまりに飄々としている未央の態度に鬼の顔が怒りに染まる。
鬼は口を大きく開くと、その牙と爪で再び未央に襲い掛かる。未央は今回は避けようとはせずに笑ったまま鬼と対峙する。
「刃物の、風」
未央はそうつぶやくと、腕を振り上げた。すると、彼女の周りで風が吹き荒れ、その風は軌道を変えると鬼に向かっていった。鬼はその風に嫌なものを感じたのか、未央のほうへ行こうとして向かっていた足を止める。
だが、そのときにはもう遅かった。
未央の放った刃物の風は鬼を捕らえ、彼の体を貫いた。
血が地面に飛び散り、目を見開き鬼が口からも赤の液体を吐き出した。
「あーらら」
むごい光景を眺めても、未央はただつまらなそうに口を尖らせただけだった。
地面に倒れこみ、横たわる鬼はしばらく痙攣した後、地面に吸い込まれるように消えていった。
「もうお終い？」
未央は鬼が吸い込まれた地面を見つめ、しばらく名残惜しそうにしていたが、次の瞬間には顔を上げて笑った。
「あと４人と遊ぶことが出来るから良いか！」
未央は夜空に向かってその言葉を放つと、月に向かって歩き出した。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【6786/瑠守・未央（るかみ・みお）/女性/１１/小学生・ハンターネーム【ハーピィ】】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして。
今回は、お話を書かせていただけてありがとうございます。
どうでしたでしょうか。
また次回もよろしくお願いいたします。
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