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〜Secret pulse〜
‥‥‥‥この状況を、一体どのように形容すればいいのだろうか?
戦闘が行われた高速道路のアスファルトには所々に穴が穿たれ、通り掛かった不運な車があちこちでクラッシュ、そして爆発と炎上を繰り返している。その地獄はほんの数秒前まで行われていた銃撃戦に巻き込まれ、粉々にされた無関係な人々の成れの果てだった。奇跡的に生き残った人々は悲鳴を上げながら助けを求め、一秒も早く元凶から離れようと逃げ出していく。
(ぁ‥‥‥あれ‥‥?)
そしてここに、元凶にもっとも近付いている者がいる。マシンドール・イレブンと呼ばれるそのヘビードールは、重装甲が自慢の右腕が粉々に砕かれるのを認識した。
(ぁ〜‥‥‥これってまずいかな?)
戦車の上から飛ぶイレブン。それは自分の意志による跳躍ではなく、体に撃ち込まれた無数の弾丸の衝撃によるものだった。
吹き飛んでいく体。まだ腕の破片は中空を彷徨っており、イレブンの意識だけが妙にスローとなって状況を傍観している。
まるで出来の悪い映画でも見ているようだ。イレブンは自分の腕が砕かれたショックよりも、まず自分がこれから辿る道を模索し、放心に近い感情に入ってしまっていた。
ガンッ!ガシャンガラガラ‥‥
まず真っ先に、イレブンの体が道路の上に叩き付けられた。片腕を失っているにも関わらず、通常の規格よりも重く作られているイレブンの体は余分に盛大な激突音を立て、そして破片となった腕は後を追うように騒々しい音を立てて道路上に散らばった。
‥‥‥続いて、イレブンが数秒前まで戦車に突き立てていたバトルチェーンソーが、これまた盛大な火花を散らしながらアスファルトに突き立ち、停止した。
(左腕‥‥動く。なら、まだやれることもあるよね)
左腕を伸ばして、バトルチェーンソーを握ろうと懸命に地面を這う。足にも被弾をしているのか、動かないわけではないが、しかしもはや戦闘に耐えられる状態ではない。‥‥‥いや、よく見ればバトルチェーンソーも同じような状態だった。軍用の分厚い特殊合金を相手に無理をさせたからだろう。刃の所々は焼け焦げて弾け飛び、回転させるチェーンも千切れて動こうとはしなかった。
戦車の脳殻を露出させることには成功させていたが、既に詰みの状態だ。
それを分かっているのだろう。いつでもトドメを刺せる状況にもかかわらず、こちらを見下ろすようにしてゆっくりと方向を転回させている。だが向こうもノンビリとここに止まっていられるような状況ではないはずだ。こっちを狙える角度に入れば、再び弾丸を吐き出してから駆けつけてくる警察を片付けに向かうだろう。
タイヤを切り裂かれたトラックは道路を塞ぐようにして停止しているが、乗っていた者達が既にタイヤの交換と修復に入っている。角度が悪くてイレブンからは見えないが、向こうとてゆっくりしているつもりはないだろう。
ゴシャッ!
ズンッ!ッと、イレブンの体が道路に亀裂を入れてめり込んだ。トラックへの跳弾を避けるためなのか、戦車はチェーンソーを構えようとしているイレブンを蹴り飛ばし、その上に自分の足を乗せてきたのだ。
イレブンよりも先にアスファルトの方がギブアップしたのは驚愕だが、それも長くは保たないだろう。多脚戦車の足は、一本とっても数tはある。力を籠めればさらにいくだろう。いくらイレブンが丈夫さ自慢と言っても、それでも限界というものはある。
『対外装甲に亀裂を確認。SIGNALRed・至急、状況から脱して下さい。損傷度30%を突破。至急・状況から脱して下さい』
(う、動け‥‥‥)
耳元でAIからの警告が鳴り響く。だがイレブンにはそれを止めることも、そしてこの状況下から脱するだけの性能を保持していない。これが五体満足な状態ならばまだ打開策ぐらいはあっただろうが、現時点での脱出策など皆無だった。
‥‥‥‥既に装甲は悲鳴を上げている。もう、イレブンが潰れ、拉げるまで数秒もないだろう。
「ごめ‥‥‥姉さん」
イレブンの意識が途切れる。危険信号を発し続けていたAIも半ばまで停止し‥‥‥
ズガァァアン!!!
盛大な爆発音によって、強引に叩き起こされた。
‥‥暗い、暗い海の中にいるようだった。
本来ならばあり得ない。“海の中のように”と言っても、それが人間ならばまだ“眠っているから夢でも見ているのだろう”とでも思える。しかし、海の中を漂っているマシンドール・セブンの思考はAIであり、完全に停止させられたセブンにとっては死したも同然。ならばこれは臨死体験か?否、そもそも停止した思考では、臨死も何もありはしない。
(――――‥‥――!)
一瞬だけ、まるでラジオにノイズが走るかのように耳鳴りがした。
誰かが悲鳴を上げている。助けを求めている。そして自分は、心地のよい眠りから覚めていく‥‥
トク‥‥‥ン
そして聞いたことのない音を聞く。心臓など存在しないはずのセブンの体の中から、何かの鼓動音が響いてくる。
(――――‥‥‥!!)
半身が痛む。既に“体”からは切り離されて止まっているはずなのに、不思議な痛みが存在する。誰も自分を傷つけていないはずなのに、何か‥‥‥大切な半身が傷ついている。
トク‥‥ン。トクン。トクン‥‥‥
鼓動音は反響するかのようにして響き続ける。だがだんだんと遠く、そしてだんだんと小さくなり‥‥‥‥
(――――姉‥さ)
誰かの声が聞こえ‥‥‥‥
ドクン!
一際大きく跳ね上がったと同時に、セブンの体が反転した‥‥‥‥
『AI停止解除・停止解除エラー・該当AIを一時破棄・予備AIよりデコイAIプログラムを起動・外部干渉接続・完了・主AI再起動・外部接続エラー・フォース集束による疑似圧縮ボルト形成・完了・外部接続エラー・フォース発動許可申請・警告:装甲排除による装甲率低下及び接続端末損壊・承認認識・強制排除開始』
「な、なんだ!?」
トラックの中では異変が起きていた。
セブンのAIを完全に停止させていた拘束具が弾け飛ぶ。それも火花を上げ、小さな煙を上げながら、だ。トラックの中に入ってセブンの拘束具が外れてないかを見に来た工作員は、それこそ度肝を抜かれていた。
彼が驚愕のあまり、体を硬直させているのも仕方のないことだろう。
様子を見に来た時、拘束具は外れていなかった。厳重に固定してあるのだから当然だ。万が一にでも事故に遭い、そのショックで復活されては堪らない。
だが‥‥‥‥目の前の光景は何なのだろうか?人間とて眠っている間はまず何も出来ない。それも外部からの干渉によって眠らされているのならば尚更だ。だと言うのに、目の前のマシンドールは――――
「ひ、ひあっ」
「‥‥‥‥‥」
AIを停止させるために端末に取り付けられていたコードが接続端末ごと焼き飛ばされ、体を拘束していた拘束具がブチブチと千切れていく。
‥‥ここまで来て、ようやく工作員は走り出した。こんな光景は見ていてはいけない。それこそ肉食獣が飛び掛かってきているというのに、呑気に見学しているようなものだ。
だが、それはあまりにも遅かった。
ガンッ!
工作員の体が吹き飛ぶ。拘束が解けると同時に跳躍したセブンは工作員との擦れ違い様にその顔面を横から殴りつけ、それだけでその意識を狩り取った。そしてそれを確認することもなく、扉を吹き飛ばし外に飛び出しイレブンを踏みつけている多脚戦車の足に拳をぶつける。
カッ!
目映い閃光。続いて盛大な爆発音が夜に木霊した。
ズガァァアン!!!
まるで爆撃でも行われたかのような音と衝撃波だった。足の下にいたイレブンは衝撃でゴロゴロと転がり、殴りつけられた戦車の足は爆散し、今では破片の雨となって道路中に降り注いでいる。
「よかっ‥‥姉さ‥」
「喋らない方が良いわよイレブン。すぐに片付けるから、そこで待ってて」
一方、爆発の張本人であり、一番近くにいたはずのセブンには異常らしい異常はまったく見られない。あまりに不可思議で理不尽な光景だったが、イレブンは心のどこかで、あれが本来のセブンなのだろうと理解した。
『――――!』
バランスを崩して道路上に倒れ込む多脚戦車。もはや移動することも敵わないであろうソレは、備え付けられた砲塔を転回してセブンに狙いを付けた。
ダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!
長く聞いていたら、それだけでも気が触れそうな程の銃声が響き渡る。一分間で千発近い弾丸を吐き出す、小型機関銃が唸りを上げたのだ。
「‥‥‥‥」
弾丸がセブンの体を貫いた。‥‥‥そう、イレブンにもそう見えた。
思わず声を上げそうになる光景だったが、すぐに異変に気が付いた。真っ直中にいればそれこそ秒を保たずしてズタズタになるはずのセブンの体には傷一つとして存在しない。それどころかゆったりとした動作で拳を構え、再び必殺の攻撃に移ろうとしている。
「確かに機関銃は脅威ですけど、あくまで戦車の上に備え付けられている砲塔‥‥‥回転の角度には限界がある。まして、自分の体の下に撃ち込む状況は想定外。‥‥‥と言うより、そうなる前に決着させるのが戦車の目的ですからね」
イレブンはセブンの言葉を聞いて、ようやく状況を飲み込んだ。
セブンは破壊してバランスを崩した戦車の足下にいる。だが、もはや倒れ込んでいる方とは真逆の方へと回り込んでいたのだ。あまりの素早さにいつ動いていたのかも分からなかったが、あの場所は安全地帯だ。いくら多脚戦車と言えど、自分の腹の下には攻撃出来ない。
「さよならです。妹の借りは返させて頂きます!」
拳が唸り、今夜最後の爆音が響き渡る‥‥‥
その爆発は今までのどの衝撃よりも大きく、まるで花火を間近で見ているかのようだった‥‥‥
「‥‥‥派手にやられたわね」
「うん。でも姉さんもすごいことになってるよ?」
「そうみたいね。私には見えないけど‥‥」
セブンはイレブンの半身を指摘し、イレブンはセブンの体を指摘する。
イレブンは言うまでもないが、セブンの状態も酷いものだった。戦闘によるものではなく、拘束を取り払った時だ。体に取り付けられているコードをフォースで形成した圧縮ボルトで吹き飛ばし、挙げ句に装甲に取り付けられていた金属の手を強引に引きちぎった。‥‥‥‥それによって、セブンの体は一部装甲が剥がれ落ちている。
セブンで視認出来る部分は少ないが、イレブンが言うにはかなり酷いらしい。事故スキャンを行うと、それこそ目を覆いたくなるような損傷度が確認出来た。
「‥‥まぁ、こっちは後でなんとかしましょう。それより、こっちの状況を何とかしておかないと‥‥‥」
そう言い、セブンは自分の周囲を見渡した。
破壊された高速道路には、現在はパトカーの赤灯に覆われている。未だに炎を燻らせている多脚戦車からは煙が上がり、どさくさに紛れて工作員達のトラックは姿を消していた。
「納得いかないなぁ。私達は警察に捕まりかけたって言うのに」
「こっちにはもう、足はなかったんだから。どうしようもないわよ」
トラックは、セブンが戦車を破壊した爆発の瞬間に発進し、その姿を眩ませた。あれだけボロボロになっていればすぐに見つかりそうなものだが、数q先でトラックが自爆するのを監視カメラが捕らえている。
‥‥‥乗っていた者達は見つかっていないため、恐らくデータを持って逃げたのだろう。
「あ〜あ。これから事情聴取とか、色々受けるんだよね〜」
「あれだけ大暴れしておけば仕方ないでしょ。今のうちに、ちゃんと言い訳を考えておきなさい」
「大暴れしたのは私じゃないよ〜!ほとんど戦車と姉さんが広げ‥‥いや、ごめん。睨まないで」等とゴニョゴニョと愚痴を言い続けるイレブンから目を外し、セブンはほんの数分前までの自分を振り返った。
(‥‥‥帰ってみたら、聞いてみた方が良いんでしょうか)
セブンは自分の体から発せられた力を思い起こし、確認するようにして、自らの手を見つめていた‥‥‥‥
☆☆☆参加キャラクター☆☆☆
4410 マシンドール・セヴン
4964 マシンドール・イレブン
〜WT通信〜
お久しぶりです。最近すっかり目立たなくなってしまったライターのメビオス零です。
今回の作品は‥‥‥‥セブン大活躍です。そしてイレブンは、前回の大活躍はどこ行った!ってぐらいにやられっぱなしです。でも責めないで上げて下さい。機関砲の銃弾を浴びて、まだ活動している辺りが凄いんですから!!
最近は活動がかなり控えめになっていましたが、これから書く時間が増えてくるので、他の作品でもお目にかかれるかも‥‥・その時にはよろしくお願いします。
では、ずいぶんと手短になりましたが、これからもよろしくお願いします。
作品についてご指摘などがおありでしたら、是非とも送って下さいませ(・_・)(._.)
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