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<東京怪談・PCゲームノベル>


闇の羽根・竜胆書 T < 運命 >



◇◆◇◆◇


 進路を塞ぎ、上から突然現れた人物は、思わず背けたくなるほどに鋭い赤色の瞳をしていた。
 胸から下がったゴシックのシルバークロスが重たげに揺れ、頼りない蛍光灯の光を強く反射する。
「人違いで殺っちまったんじゃぁヤバイから確認させてもらうけど、お前、吉良原 吉奈だよな?」
「人違いです・・・と言って、解放されるのならそう言いますが」
「本当に人違いなら解放するところだが、どうやら本人らしいな」
 良く見れば、彼は端正な顔立ちをしていた。
 殺意を宿した瞳さえなければ、なかなかの好青年に見えないこともない。
「闘争は、私が目指す『平穏な人生』とは相反しているから嫌いだ」
「俺も嫌いなんだが、これも仕事でね」
「・・・まあ、闘ったとしても、私は負けませんがね」
 そう言いつつ、手袋を外す。
 目の前に立つ人物の瞳には、一切の感情は表れていない。
 この先如何出てくるのか・・・
 しゃがむのは得策ではないと判断を下した吉奈は、ポケットに入っていたビー球を掴むと投げつけた。
 吉奈の能力により、爆弾へと変えられたビー球が真っ直ぐに男性の元へと飛んで行き・・・
「点火・・・」
 爆発する直前、地面を蹴って避けられる。
「反射神経はなかなかなんですね」
「へぇ、爆弾・・・ねぇ。おもしれー能力じゃねぇか」
「あなたの能力もなかなか面白いとは思いますが・・・」
「おっと、名乗ってなかったな。俺は神崎 魅琴って言うんだ。魅了の魅に楽器の琴って書く」
「変わった字を書くんですね」
「画数が多くて俺は嫌いなんだけどな」
 くだらない世間話をする魅琴と吉奈だったが、2人の間に横たわっている緊張は少しも緩和される事はなかった。
 相手の出方を探るため、冷ややかな沈黙が訪れ・・・
 魅琴の瞳がすっと細くなる。
 首筋がピリリと痛む。吉奈は全神経を魅琴の次の一手に集中させた。
(次は確実に避けないと危ないですね・・・)
 ふっと、魅琴の周囲の空気が動く気配を感じ、吉奈は右手に体を回転させた。
 魅琴の持っていた透明な刀が真っ直ぐに振り下ろされ、切っ先から無数の氷の粒が作り出される。
 吉奈は咄嗟に地面を蹴ると、魅琴の背後に回りこむように走り出した。
 先ほど作り出された氷の粒が、一瞬の間を置いた後に四方八方へ飛び散る。
 鋭い切っ先に幾つか掠り傷を負わされながらも、吉奈は何とか魅琴の背後近くまで回りこみ、それほど大きな負傷はしないですんだ。
 ほっと安堵するのも束の間、地面に転がっていた小さなゴミを拾い上げると、魅琴へ放り投げる。
 まだ背中を向けていた魅琴が、刀でゴミを振り払い・・・
 爆発で刀の一部が欠け、爆風で欠片が魅琴の頬を切り裂いた。
 鮮血が白い頬を伝い・・・刀が再び元に戻り、鋭い切っ先が吉奈の前に突きつけられる・・・
「すぐに戻るんですね」
「まぁな。驚いたか?」
「戻る事は想定範囲内でしたが、欠ける事は想定範囲外でした」
「強度はそれほど高くはないさ」
「そうですか?でも、幾ら欠けてもすぐに元に戻ってしまうんでは無意味ですね」
「あぁ。で、無意味って知ってどうする?大人しく殺されるか?」
「いいえ。それなら別の策を考えるまでです」
 武器が立派でも、使い手がその能力に敵っていなくては武器の力は半減する。
 けれど、魅琴は武器以上の力を持っている・・・と、吉奈は見ていた。
(さて、困りましたね・・・)
 魅琴の氷の刀はヘタな魔術よりも強力な力を持っている。
(刀としての能力だけならばどうとでも対処の使用があるのですが・・・氷の粒が難題ですね)
 あの力を使われては、吉奈の逃げ場は魅琴の背後しかなくなる。
 それはかなり危険な賭けと言って良い。
 先ほどは素早く動いた結果、魅琴がこちらを振り向く前に何とか対処が出来たが・・・2回目はないと言って良いだろう。
 考え込む吉奈の前で、魅琴が動く気配を察知し・・・走り出す。
 背後で魅琴が刀を振り上げる気配を感じ、体を左に回転させるとそのまま地面を転がる。
 どうやら今回は氷の粒は出さないらしい。
(この状態であの攻撃を喰らえば、危険でしたね)
 立ち上がり、魅琴の背後に行くまでには時間が掛かりすぎる。恐らく、魅琴に近付く事無く全身に氷の粒が突き刺さり、命が危うかっただろう。
 ポケットの中のビー玉を1つ、アンダーで魅琴の方へ投げる。
(そうか・・・あの刀は、1回振り下ろしたあと、立て直すのに時間がかかるんですね・・・)
 まだ振り下ろした状態で固まっていた魅琴の背中にそう悟ると、吉奈は直ぐに策を立て始めた。
 魅琴が振り向き、吉奈が「点火」する前に避ける。
 吉奈が立ち上がり、再び魅琴と向かい合う ―――――
(刀を振り下ろし、体勢を立て直す前に何とか爆弾を投げられれば良いのですが・・・)
 ギリギリまで魅琴の前で粘り、振り下ろす直前に回避し、素早く背後に回りこんで爆弾を投げる。
(振り下ろすタイミングを計るのが難しいですが、出来ない事はないでしょう)
 ただ・・・それだけでは、背後に回りこんだ直ぐ後に魅琴が立て直している可能性が高い。
 先ほども、爆弾が当たる前には問題なく回避していた。
(刀が振り下ろされる前に、なるべく彼に近付かなくてはなりませんね)
 魅琴が刀を振り上げた時に地面を蹴って懐に飛び込み、すれ違い様に爆弾を投げる。
 勿論、タイミングを外せば振り上げた刀はそのまま吉奈に振り下ろされるだろう。
(チャンスは1度・・・ですね)
 2度目はない。
 そして、このまま闘い続けていては、吉奈にとって不利になる。
(大技を使って相手を動かし、体力を消耗させる・・・)
 荒くなって来た呼吸を整え、吉奈はポケットに手を入れた。
「随分お疲れのようですが、大丈夫ですか〜?」
「そんな心配をしてくださるんでしたら、家に帰してもらいたいものですね」
「家じゃない場所になら帰してやれるんだけどな」
「・・・あの世なんて冗談、笑えませんよ」
「じゃ、天国にしとくぜ?」
 ニヤリと微笑み刀を振り上げる魅琴。
 鋭くなるった赤い瞳に、吉奈は息を整えると地を蹴った。
 突然懐に飛び込んできた吉奈に驚きつつも、魅琴は躊躇なく刀を振り下ろした。
 吉奈がそれを右に避け・・・あっと思った時にはもう遅かった。
 刀の先から氷の粒が作り出され、それが四方八方へと狂ったように襲い掛かる。
 至近距離で切り裂かれ、吉奈は痛みに顔を歪めながらもポケットからビー玉を取り出して投げつけた。
「点火!」
 鋭く裂かれた太ももから鮮血が流れ、吉奈はその場にしゃがみ込むと爆音と爆風から自身の体を守るべく小さくなった。
 押さえた手の向こうから、何かが砕ける音が聞こえ・・・
 爆風が収まった後に、吉奈はゆっくりと耳から手を放すと目を開け、顔を上げ ――― はっと、息を呑んだ。
「随分大暴れしてくれるじゃねぇか」
「・・・生きてたんですね」
「おかげさまでな」
 そう言いつつも、魅琴の左手からは夥しい量の血が流れていた。
「爆発する前に、刀を盾に変えたんだけど・・・強度を上げる間もなかったな」
「強度が上げられるんですか?」
「まぁな。でも、それをしちまうと体力を消耗するからな」
 魅琴の言葉が途切れ、場に沈黙が流れる。
(あの腕では、先ほどのように自由自在に刀を振り回す事は困難だとは思いますが・・・)
 吉奈の足も、逃げ回れるほどの力は残っていなかった。
「・・・『幾ら』欲しいんですか?」
 真っ直ぐに魅琴の瞳を見て、吉奈はそう問いかけた。
 魅琴の赤い瞳が大きく見開かれ、暫く口を閉ざした後で首を振る。
「金じゃぁねぇんだよ」
「つまり、あなたはお金で雇われているわけではない、そう言うことですね」
「まぁな。察しが良いじゃねぇか」
「それでは『何で』雇われているんです?信頼関係と言うわけではなさそうですが?」
「・・・何だか、当ててみろよ」
 先ほどまでとは違って、怖いくらいに無表情になった魅琴が、感情の篭っていない口調でそう呟く。
(信頼関係はなし、対価はお金ではない・・・それならば、残る可能性は・・・)
「・・・何か、大切な物・・・いいえ。人、ですね?」
 魅琴の微かな表情を読み取った吉奈がそう答え・・・魅琴が笑い出す。
「あはは!お前、ただのガキかと思ってたら随分スゲーじゃねぇか」
「お褒め頂き光栄です・・・それで、その大切な人とは?」
「・・・俺の妹だよ。まぁ、俺は兄貴だと名乗り出てねぇし、あっちもまさか俺が兄貴だとは思ってないだろうけどな」
「妹さんですか・・・」
「唯一の肉親だからな」
 優しさの宿った瞳に、吉奈はこの状況を打開する策を見出せたような気がした。
「つまり、あなたは妹さんを盾に取られ、私の命を狙っている・・・そう言うことですか?」
 吉奈の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
「ふふ、それならば取引をしましょう。極めて明快かつ公平な『取引』ですよ」
「取引・・・ねぇ、聞くだけ聞いてやろうじゃねぇか」
「あなたの大切な人を守る手助けをする代わりに、私を見逃して欲しい。共倒れと言うのは、そちらも本意ではないでしょう?」
「つまり?もっと簡単に言ってくれよ、俺はお前みたいに頭が良いわけじゃない」
 嘘ばっかり・・・そう思いつつも、口には出さなかった。
「要するに、依頼主を消せば良い・・・そう言うことではないんですか?」
「まぁ、そう言うことだな」
 拍子抜けするほどにあっさりと同意した魅琴だったが・・・吉奈は先ほどまで浮かんでいた不敵な笑顔を引っ込めた。
「でもな、そいつが絶対に殺せないヤツならどうする?」
「どう言うことなんですか?」
「・・・お前は、現実を殺す事が出来ると思うか?」
「現実を、殺す・・・?」
「現実と言う世界そのもの・・・ある意味、神と同じ力を持っているのかもな・・・」
「その依頼主とは、いったい・・・」
 魅琴が微笑み ――― 見れば腕の傷は完治していた。
 浮かんでいた月が、毒々しい紅に変わり ―――――
「ここは、俺達の領域だ。お前になら分かるだろう?不思議なこの場の空気が」
 周囲の空気が張り詰める。
 現と夢、夢と現・・・不思議に混ざり合った場の雰囲気は、この世のものとは思えないほどに禍々しく甘美で・・・むせ返るほどに強烈な血の匂いを孕んでいた。
「あなたは、ただの暗殺者と言うわけではないんですね」
「そう。ただのボディーガードだ」
(また、嘘・・・ですか・・・?)
 吉奈は自嘲気味に微笑むと、ポケットの中のビー玉を全て取り出した。
 すっかり治っている魅琴の傷とは違い、吉奈の傷は広がっているような気がする。
 魅琴が刀を振り上げ・・・吉奈は覚悟を決めると、ビー玉を魅琴に投げつけた・・・
「点火」


◆◇◆◇◆


 至近距離で爆弾を投げられては、魅琴も避ける事は出来ないだろう。
 そして、刀が振り下ろされた場合、吉奈の命はない。
 それは、どちらかが倒れるか・・・もしくはどちらも倒れるか、最後の賭けだった。
 ・・・しかしその賭けは、意外なほどあっけなく無効になった。
「こんな真夜中に、騒々しい人達だね」
 通りの先の暗がりから姿を現した漆黒の衣装を纏った男性は、驚くほどに美しい顔をしていた。
 凛と響く声と良い、整いすぎた顔立ちと良い・・・普通の人間でない事は一目瞭然だった。
「いくら結界を張ろうと、この場を管理しているのは俺と美麗だ。分からないはずがないだろう?」
「お前が俺の刀を消したんだな?」
「そうだけど?ちなみに、壁も消したよ。あと・・・君の爆弾も、消させてもらった」
「どうやって・・・?」
「空間の歪に消したって言えば、納得してもらえるかな?」
「あなたは、誰・・・?」
「普通、人の名前を聞くときは自分から名乗るものだと思うけれど。・・・まぁ、君の名前に興味はないから別に良いけど」
 素っ気無い口調でそう言い、吉奈に手をかざす。
 ポワリと白い光が吉奈を包み込み ――――― 傷が、ゆっくりと塞がっていく・・・
「一応傷は治したけど、心配なようなら病院に行った方が良いかもね」
「あ、ありが・・・」
「お礼は必要ないよ。うちのバカが迷惑をかけただけの話しだし」
「麗夜、お前・・・」
「お前もバカだよな。例えその子の命を奪った所で、また次から同じ要求をされる」
「でも・・・」
「永遠に人殺しを続けたいなら、勝手にやるが良い」
 麗夜と呼ばれた少年はそう言うとクルリとこちらに背を向け、再び漆黒の闇の中へ姿を消した。
「・・・また、やるんですか?」
 呆然と麗夜が消えた方を見詰めている魅琴に声をかけ・・・
「やらないって分かってるから声をかけた。違うか?」
「絶対とは言い切れませんが、恐らくもう闘わないだろうとは思ってました」
「緊張の糸も途切れたしな」
「・・・先ほどの人は誰なんです?」
「夢宮 麗夜。依頼主に一番近い人物・・・ってとこかな?」
「彼と依頼主とは違う人物なんですか?」
「あぁ。まったく違う・・・とも言い切れないんだけどな」
「随分曖昧なんですね」
「アイツの体を使って、依頼主は俺達の前に姿を現す」
 夜風が強く吹き、吉奈は肩を抱くと小さく震えた。
 魅琴が着ていたコートを吉奈に放り投げ・・・
「しっかし、神とは俺もよく言ったもんだ。あんなのが神になったら世界が崩壊するな。最も『対の神』がいる限り安全・・・か」
 どうやら複雑に絡み合った事情を孕んだ面倒ごとに巻き込まれてしまったらしい。
 吉奈が少し迷った後でコートを肩にかけ、仄かな温かさにほっと息をつく。
「私はまた、襲われる危険がある・・・違いますか?」
「さぁな。分からねぇよ。でも、ないとも言い切れない」
「・・・次は、負けませんよ」
「それはこっちの台詞だ。・・・次なんて、ない方が良いんだけどな・・・」
「私も、そう願います・・・」



E N D


◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


 3704 / 吉良原・吉奈 / 女性 / 15歳 / 学生(高校生)


 NPC / 神崎 魅琴


◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『闇の羽根・竜胆書』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座いました(ペコリ)
 魅琴との初対面&初戦闘は如何でしたでしょうか。
 最後、麗夜が治療しましたので両者無傷と言う結果になりました。
 実年齢よりも少し大人っぽい雰囲気のする吉奈ちゃん
 しっとりとした吉奈ちゃんの雰囲気を壊さずに描けていれば良いのですが・・・
 ・・・それにしても、麗夜が強烈に嫌な性格になってますね(笑)


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。