コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


オファー・アルテナ

------------------------------------------------------

0.オープニング

「…おいおい。シャレになんねぇぞ」
零の額の熱さに呟き、そっと手を離す。
参ったな…。久方ぶりの状況に、若干戸惑いつつ頭を掻く。
何が起こってるか、どういう状況か。先ず、それを説明しようか。
まぁ、簡単で理解り易い状況だよ。
零が風邪をひいた。そんだけ。

そんだけ…なんだけ、ど。

ちょっと厄介な風邪なんだ。
説明?面倒くせーなぁ…。
あー…。何て言えばイイんだろうな。
ただの風邪じゃないんだよ。
こう、妖魔の悪戯っつーか…。
あぁ、そうだ。憑依。憑依してんだよ。
妖魔が、零に。

深刻なのか、って問われるとな。そうでもないとは言い難い。
厄介な事に、憑いてる妖魔の根性が半端なくてね。
体育会系っつーか、スポ根系っつーか…。
とにかく、しぶといんだよ。
無理くり剥がそうと思えば、出来ない事もないんだけど。
それをやっちまうと、零がシンドいからな。出来ないわけだ。
じゃあ、どうするんだ?ってか。

術は一つだけ。
あー…。あんま頼りたくないんだけどな…。

RRRRR―
RRRRR―
カチャ―
『お電話ありがとうございます。アルテナで御座います』
「…毎度〜」
『あら。草間さん。お久しぶりですね。祓儀ですか?』
「話が早くて助かるよ」
『かしこまりました。では、いつも通り。祓納を御願いします』
「了解。あ、俺 行かないから。っつーか行けない」
『では、代理の御方が?』
「そ」
『はい、かしこまりました。御待ちしております』
ガチャ―

はぁ…。さて。どーすっかな。誰に頼もう。

------------------------------------------------------

1.

ガチャッ―
扉を開け、先ず第一声。
「無用心だ」
盗られるような物は、何もないだろうがな。
零という女子が居るんだ。戸締りは、しっかり行っておくべきだと思う。心から。
「え?俺じゃねぇよ」
即答する草間。私は腰に手をあてて、溜息混じりに返す。
「煙草を買いに出たのは、何時だ?」
「……あ」
痴呆症か。もはや、救いようがないな。
向かいに腰を下ろすと、草間は笑って言った。
「真っ先に俺を疑う辺りが、お前らしいよね」
「靴だ」
「は?靴?」
「靴が濡れていたんでな」
今日は雨。靴の濡れ具合、また、その渇き具合で理解る。
おそらく、貴様が外出したのは十五分前、だろう。おおよそだが。
というか、貴様以外ありえないだろう。根本的に。
「やー。すげぇすげぇ。名探偵だわ」
肩を竦めて手を叩きながら言う草間。
「………」
その様をジッと見やる私。
「もう、あれだね。俺の出る幕なしっていうか?参ったね」
「………」
「さすがだわ。さすが冥月っ」
「…気色悪い」
ボソリと呟く私。褒め過ぎだ。普段、褒める事なんてしないくせに。
まったく。わかりやすいな。貴様は。
「言え」
足を組んで言うと、草間はニッコリ微笑んで。
「やっぱ、さすが」
そう言うと、ピシッと私を指さした。…本気で気色悪い。何だ、そのキャラ。
「早く言え。蹴るぞ」
ポツリと言うと、草間はハハッと笑い、紙切れをテーブルの上に置いた。
それを手に取り、私は首を傾げる。
「アルテナ…。何だ、これは」
「御祓い師だよ。マイナーだけど、すげぇ有能」
「…憑かれたのか?」
「零が、ね」
「………」
そういえば、零の姿をみかけないな。
いつもなら、興信所に入るや否や、元気に挨拶してくるのに。
所内も、汚い…いや、これから、どんどん汚くなりますよ。的なオーラが…。
「まぁ、状況は把握した。…で?」
紙切れをテーブルに置いて問うと、草間は煙草に火を点けて言う。
「行って来て。極上の祓納持って」
「………」
「あ、マジで極上じゃないと駄目だからな。アルテナは目が肥えてっから」
堂々たる偉そうな態度に、
「私が零を見ててやるから、貴様が行け」
眉を寄せて私が言うと、草間は苦笑して、
「おいおい、冥月ぇ〜。そりゃないぜ〜」
深夜に一度だけ観た事のある、異国の買物番組の司会っぽいオーバーアクションで言った。
「………」
冷めきった目で見やる私。
「あれ?似てなかった?ポールに」
「…誰だ。ポールって」
「ファンタスティックショッピングの司会」
「………」
あの番組、そんな名前だったのか。
って、そうじゃなくて。そこじゃなくて。
馬鹿だ。今更だけど。こいつは馬鹿だ。
草間は、依然 可笑しな動きを交えながらペラペラと喋る。
らしくない雄弁加減。それに吐気さえ覚える。
「冥月、ノリが悪いな。ツッコみくらい入れろよ。入れ所、満載だったろ」
「…呆れて何も言えん」
「とまぁ、そんな訳でな。事態は一刻を争うんだよ」
どんな訳だ。明らかにポールのくだりは、要らないだろう。


「ん」
至近距離で、差し出す手。それにキョトンとする草間。
「え?何?」
「祓納とやらを出せ」
「そんな!もう勘弁して下さいよ。家には、まだ小さな子供が…」
ヒュッ―
ドカッ―
「いってぇ!!!」
「茶番は良いから、とっとと出せ。零が可哀想だろう」
蹴りをくらった右腕を さすりながら、草間はブツブツと呟く。
「…ったく。…それがないから頼んでんだっつーの」
「あぁ?」
低い声で、そう言い放ち 再び構えをとる私。
草間は慌てて、それを押さえる。と、同時に満面の笑みで。
「そうだ、相手は女なんだから、口説けよ。お前みたいな男前に口説かれちゃあアルテナも…」
ヒュッ―
ドスッ―
「ぐふ…ぉっ」
ドサッ―
ソファから転がり落ちて、フルフルと肩を揺らす草間。
「おま…みぞおちは…やばいって…」
遺言の後、私はハッと思い付き。デスクから紙と朱肉を取り出す。
グリグリと草間の掌に塗りたくる朱肉の紅。
染まり上がった その手を、紙にグッと押し付けて五秒間静止。
「よし」
見事鮮やかに紙に乗った巨大な手形。私は頷いて、その横に記す。
― 草間武彦 一月無料使用権 ―


------------------------------------------------------

2.

正直、微妙だったかな…。
チラシを頼りにアルテナの店先まで来たものの、私は躊躇う。
あいつをタダでコキ使う権利なんて、大した価値ないような気がしてきた。
あいつの事だ、言われた通りにする、なんて奴隷のような真似が、巧く出来っこない。
参った。もっと早く気付くべきだった。何をやってるんだ、私は…。
己の不甲斐なさに、ガックリと肩を落とす。
仕方ない。出直すか。いくらなんでも、祓納がコレだけってのはマズイだろうからな。
とはいえ、何かあったかな…あ、部屋に上等な酒があったな。
あれで満足するかどうかは わからないが、コレだけ持って行くよかマシだろう。
ウンと頷き、回れ右。引き返そうとした時。
「あら?」
高い位置で黒髪を結った長身の女と目が合う。
まるで巫女のような女の姿を見て、私は即座に気付く。
こいつがアルテナか。
確かに、ちょっとクセの強そうな女だ…。色んな意味で。
「祓儀依頼ですか?」
アルテナはニコッと微笑んで言った。
私は手に持ったままの「即興祓納品」を見やり苦笑して返す。
「草間に頼まれてな」
「まぁ。貴女が。ごくろうさまです。では、早速 祓納を…」
ツカツカと歩み寄ってくるアルテナ。
豪速で迫ってくるような感覚に、思わず一歩退く私。
アルテナの視線は、私が 手に持っている権利書に集中している。
「あぁ、いや。これは、ちょっと手違いで。別の物を今…」
少し慌てて、隠そうとすると。
バッ―
「あっ」
アルテナは、物凄い速さで、それを取り上げた。
「ふむ…なるほど。草間さんを奴隷化する権利、ですか」
頬に手をあてつつ、権利書をマジマジと見やるアルテナ。
何なんだ、こいつ。がめついっていうか…貪欲というか。
何というか…とにかく、苦手だ。
「別物とは、どのような物ですか?」
首を傾げて問うアルテナ。一応、人の話は聞いてるんだな…。
「酒だ。部屋にあるんでな。今、取って来る」
私が苦笑しつつ返すと、アルテナは とても残念そうに。
「ごめんなさい。私、お酒飲めないんですよ」
私をジッと見つめながら言った。飲めない…のか。じゃあ、駄目だな。
参ったな。どうしよう。他に何か…。
真剣に考えて数秒、妙な苛立ちに苛まれる。
…何故、私が こんなに悩まねばならんのだ。
元凶は全て、あいつだ。あいつが、しっかりと祓納を用意していないから。
こんな目に遭うんだ。人に物を頼むのなら、それなりに準備しておくべきだろう。
まぁ…そんな暇もなかったのかもしれないが。事が事だしな。
暫らく黙りこくって そんな事を考え込んでいたが、視線に気付きハッと我に返る。
私の顔を覗き込み、ジッと見つめる視線。
「何だ?」
問うと、アルテナはポッと頬を染める。
…いやいや。何故、そこで頬が染まるんだ。
突っ込むのと同時に、背筋を悪寒が走る。それは、嫌な予感。
残念な事に嫌な予感というものは、ほぼ確実に…。
「貴女のような美しい御方、久方ぶりですわ」
詰め寄り至近距離で言うアルテナ。私は後退りしつつ返す。
「それはどうも」
近い。近い近い近いっ。
退いても退いても、ズイズイと詰め寄ってくるアルテナ。
「貴女を捧げて下されば、すぐにでも祓儀を行いますわ。いかがです?」
「捧げるって…」
「いかがです?」
「ちょ…」
何なんだ。その一方的な提案。
というか、アルテナが、この手の女だったなんて聞いてない。
重要な所だろうが。何故、言わない。草間ぁぁぁぁ…。
RRRRR―
普段、滅多に鳴らない携帯の着信音が響き渡る。
至近距離で今にも喰らい付きそうなアルテナをググッと押しやりつつ、私は携帯を取る。
「誰だ」
『おいおい。確認してから出ろよ』
電話越しにクスクス笑う草間。私は荒々しい口調で返す。
「そんな暇 ない」
『だろうね』
だろうね…?サラリと言われて、私の苛立ちは更に増す。
「貴様…」
『あー。冥月。ちょっと聞け』
言葉を吐き切る前に言う草間に、怒り倍増。
「貴様こそ、人の話を聞け」
依然、詰め寄るアルテナをググッと押しやりながら返せば、
草間は、まるで その場に居るかのように、今の私の状況に苦笑しつつ言った。
『ちょっと…やばげ?』
「うるさい」
確かにな。やばいというか、不快な状況だ。貴様の所為でな。
『何つーか、こう…容体悪化?』
ピクリと動く眉。瞬間、悟る。会話が噛み合っていなかった事に。
「…どんな状態なんだ」
私が眉を寄せつつ返すと、草間は数秒沈黙。
おそらく、零の様子を伺っているのだろう。
『顔が青白くなってきてる。あと、咳が酷い』
「………」
何故、そんなに冷静なんだ。貴様は。笑い事じゃないだろう。ちっとも。
実際に、この目で見たわけではないが、まずいという事は十分理解る。
しかし、先ず…この状況を何とかしなくては。
『冥月』
「何だ」
『その条件を、飲め。承諾するんだ』
「はっ?」
『頼む。零の為に』
「くっ……」
こいつ、最初っから理解っていたな。私が、アルテナに何を要求されるか。
理解った上で、私を向かわせやがった。それが、一番手っ取り早いと踏んで。
冗談じゃない。こんな女の言いなりになるなんぞ。
というか、この女。目がマジだ。気色悪い。
こんな女の要求を飲んでみろ。どんな目に遭うか…。
しかし。
「っ…零が治ったら、お前から私に最高の貢物をさせるからな!」
突っ返す権利が、今の私にはない。
零の為。仕方なく。条件を飲んでやる。お前の言うとおり。
『さすが冥月』

------------------------------------------------------

3.

ソファに寝そべり、目を伏せてグッタリとする私。
溜息ばかりが零れる。同時に、怒りと、吐気も…。
「大丈夫…ですか」
フッと目を開けば、視界に映る。零の姿。
ゆっくり起き上がり、差し出された紅茶を受け取る。
「正直、微妙だな」
私が返すと、零は申し訳なさそうに御盆を胸に押し当てて。
「すみません…私の所為で…」
何度も頭を下げる。
その誠意溢れる行動に、私はクスッと笑い。
頭を軽く撫でてやり、返す。
「お前は悪くない。うん。治って、良かった」
「冥月さん…」
パフッと抱きつき、胸に顔を埋めて。
今度は何度も感謝の言葉を告げる零。
そんな零の背中をポンポンと叩きながら、
私は、向かいで優雅にコーヒーを飲む男を睨みつける。
「良かったなぁ。零。安心したよ」
微笑んで言う草間。
草間は、テーブルの上の新聞を取りながら、私に問う。
「で、何されたの?アルテナに」
やたら笑顔。興味津々な、その様。苛つかない訳がない。
私は低い声でボソリと告げる。
「それはそれは、濃厚な口付けをな」
私の口調に、草間は顔を引きつらせて言う。
「そ、そりゃあ…ご苦労さん」
ドカッ―
「うぉぁ」
テーブルを蹴り飛ばして、私は言う。
「で?お前は、何を貢いでくれるのかな?」
「………」
苦笑するばかりの草間。
忘れたなんて言わせない。なかった事になんて、しない。
して たまるか。
零の為、とはいえ。一瞬だけでも。お前の言う事をきいたんだ。この私が。
こんなに不愉快な事、そうそう ないぞ。
「期待してるぞ」
零の頭を撫でながら、不敵に笑う私。
草間は頬をポリポリと掻きながら、苦し紛れにポツリと。
「ドライブでも…行くか?」
そう言った。
ドライブ…。私が苦笑していると、即座に零が言う。
「私、お留守番してますっ!」
「いや…病み上がりだろう。一緒に行った方が良いんじゃないか?」
冷静に私が言うと、零は微笑んで首を左右に振る。
…という事は。何だ。
「二人で」
草間が言った。
二人で。
ドライブ。草間と。
「………」
脳裏を過ぎる、様々な不安。
大丈夫なのか…こいつの運転。見た事ないんだけど。
「御不満なら、別のものを用意しますが」
新聞をバッと開き、言う草間。
私は草間の顔をジッと見やりつつ、言う。
「…どこ、行くんだ」
「そうだなぁ。海とか?寒いか。まだ」
ハハッと笑う草間。海、か。…まぁ、嫌いじゃない。
というか、割と…好きだ。最近、行ってないしな。
私はフイッと顔を背けて返す。小さな声で。
「…まぁ、いいけど」

------------------------------------------------------


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀

NPC / アルテナ・アルス / ♀


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
           ライター通信          
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
粗暴で手荒な行動から始まり、最後は乙女チックに…。
何だか、もう。絶賛お決まりのパターンと化しております(笑)
貢物返しというドンデン返し(?)さすが、冥月ちゃんですね(笑)

気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/02/27 椎葉 あずま