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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


オファー・アルテナ

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0.オープニング

「…おいおい。シャレになんねぇぞ」
零の額の熱さに呟き、そっと手を離す。
参ったな…。久方ぶりの状況に、若干戸惑いつつ頭を掻く。
何が起こってるか、どういう状況か。先ず、それを説明しようか。
まぁ、簡単で理解り易い状況だよ。
零が風邪をひいた。そんだけ。

そんだけ…なんだけ、ど。

ちょっと厄介な風邪なんだ。
説明?面倒くせーなぁ…。
あー…。何て言えばイイんだろうな。
ただの風邪じゃないんだよ。
こう、妖魔の悪戯っつーか…。
あぁ、そうだ。憑依。憑依してんだよ。
妖魔が、零に。

深刻なのか、って問われるとな。そうでもないとは言い難い。
厄介な事に、憑いてる妖魔の根性が半端なくてね。
体育会系っつーか、スポ根系っつーか…。
とにかく、しぶといんだよ。
無理くり剥がそうと思えば、出来ない事もないんだけど。
それをやっちまうと、零がシンドいからな。出来ないわけだ。
じゃあ、どうするんだ?ってか。

術は一つだけ。
あー…。あんま頼りたくないんだけどな…。

RRRRR―
RRRRR―
カチャ―
『お電話ありがとうございます。アルテナで御座います』
「…毎度〜」
『あら。草間さん。お久しぶりですね。祓儀ですか?』
「話が早くて助かるよ」
『かしこまりました。では、いつも通り。祓納を御願いします』
「了解。あ、俺 行かないから。っつーか行けない」
『では、代理の御方が?』
「そ」
『はい、かしこまりました。御待ちしております』
ガチャ―

はぁ…。さて。どーすっかな。誰に頼もう。

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1.

RRRRR―
鳴り響く携帯。
ディスプレイに表示される名前の意外さに思わず微笑み。
同時に、ある意味「覚悟」を決めて。電話を取る。
ピッ―
「はい」
『おぅ』
「ふふ。どうしたの?」
『いや〜…何つーか、な。いつ、帰って来るんだ?お前』
まるで喧嘩の末、奥さんに逃げられて必死な旦那のような言い草に思わず笑う。
数日前から、私は興信所を出て別件の仕事にあたっていた。
その「仕事」が、まさに。つい先刻片付いた所。
うん。タイミング、良いわね。こういう時は、特に。ね。
「今から戻ろうと思ってたところよ」
上着を羽織りつつ返すと、武彦さんは即座に。
『マジで?もう片付いたのか?例の仕事』
「えぇ」
『さすがだな。…っと、じゃあ、待ってっから』
「はいはい。すぐ向かうわ」
『悪ィな。気ィ付けて帰って来いよ』
「はいはい」
ピッ―
携帯を閉じて、目を伏せ淡く微笑む私。
いつだって、そうだけど。いつだって、思うけど。
これが、普通にデートの 御誘いだったら嬉しいのに。ね。


興信所に踏み入って、すぐに気付く。
いつも片付いてる所内が、荒れている。いいえ。荒れ始めてる。
それが何を意味するか。長い付き合いですもの。すぐに理解るわ。
「よぉ。お疲れさん」
ソファに凭れて煙草をふかす武彦さん。
伸びっぱなしの髭、どことなく感じ取れる「疲労」
私はマフラーを外しつつ問う。
「風邪でも ひいたの?」
「それ、どっちに聞いてんの?」
苦笑する武彦さん。私もつられて苦笑し、返す。
「両方」

「ふぅん。なるほどね…」
ベッドで苦しそうにしている零ちゃんの額を撫でつつ漏らす言葉。
「昨日の夜から、だな」
頭を掻きながら溜息混じりに言う武彦さん。
…凄い熱ね。普段冷たい自分の手が即座に熱くなる様に、覚える危機感。
急いだ方が良さそう。なんだけど…。
武彦さんが、随分と冷静に構えてるのが気になるのよね…。
「私、こんな状態の零ちゃん、初めて見るんだけど?」
立ち上がり接近して問うと、武彦さんは欠伸して返す。
「四回目だよ」
…そんなに?初めての事じゃないとは思ってたけど。
結構多いのね。あんなに頻繁に、ここに出入りしていて。
最近は一緒に住まうようになったっていうのに。全然知らなかった。
言う、言っておく必要がなかったって事?
「いつも、何を持って行ってるの?」
ポツリと問う私。だって、そうじゃない。
私が、まったく知らないって事は、それだけ早くに解決させてきたって事でしょう?
その、アルテナさんへの祓納?それが鍵だと思う訳よ。
「…内緒」
返ってきた言葉に、苦笑しつつ眉を寄せる私。
「何よ、それ。もしかして、体で払ってるとか?」
冗談交じりに言うと、武彦さんはガシガシと頭を掻く。
うん。ハズレではないのね。何となく理解ったわ。
時々、死人のように眠っていた事があったわね。
ゆすっても叩いても目が覚めない位。本当に、泥のように眠ってた。
そんなに疲れるような事なんて、何やってたのかしらって、その度に思っていたのよ。
うんうん。つじつまが合うわ。繋がるというか。理解するには十分。
「私も、体で払った方が良いのかしら?」
微笑んで言う私。それが一番早い方法…最高の祓納になるのなら、躊躇しない。
だって、本当に苦しそうなんだもの。零ちゃん…。
「や。無理だな。止めとけ」
苦笑しつつ即答する武彦さん。でしょうね。そう言うと思った。
別に、私は構わないんだけど。過酷な労働、なんて。慣れっこよ?


ガタン ガタン―
部屋の棚を漁り、見つけ出すそれは、大切に保管していた古書。
手放すのは、ちょっと惜しいけれど。こんな状況だもの。
勿体ない、なんて思ってる余裕も暇もないわ。
これと…そうね、あとは。これ。
棚上に置いていた、お気に入りのペーパーウェイトを手に取る。
十分かしら。…どんな人かわからないから不安なのよね。
一応、出先で作ったお菓子も持って行こう。かなり自信作。
皆で食べようと思ってたんだけど、零ちゃんが あんなに苦しそうにしてちゃ、
そういう訳にもいかないしね。いつだって作れるし。問題ないわ。
よし、これで行こう。大丈夫かな。何度見直しても拭えない不安。
武彦さんもイジワルよね。教えてくれないんだもの。
どんな物を持って行けば確実なのか。
こんな状況でも、私を試すみたいな真似するんだから。
本当にもう、困った人。

「それじゃあ、行ってくるわね」
零ちゃんの看病にあたっている武彦さんに小声で言う。
「おぅ。いってらっしゃい」
…何だろう。この慣れない雰囲気。変な感じ。
まるで、武彦さんが夫を見送る妻みたいな。
苦笑しつつ、辛そうな零ちゃんの表情に背中を押され。
私は、足早に興信所を後にする。

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2.

………ここ?
思わず首を傾げる。二度目の地図確認。
合ってるわね。合ってるのね。でも、これ…どうなの?
目の前の建物の悪趣味加減に自然と顔がひきつる。
意図的なんだと思うけど、"ツタ"が絡まっている外壁は、一言。不気味。
何だか中も薄暗くて様子は伺えないし、どこからか変な臭いがするし…。
極めつけは、この扉ね。
どうしてドクロマーク?
怖いわよ。まるで呪いの店みたいじゃない。
苦笑しつつも、笑ってる場合じゃない、と私は扉に手をかける。
カラン カラン―
扉についていたのであろう大きな鐘が揺れて響く音。
雰囲気に負けているのか、ささやかな それにさえも、少し驚く。
「こんにちは〜」
探るように薄暗い室内へ放つ挨拶。
ガツッ―
「いっ…たぁ」
ちっとも足元が見えないが故に、何かに躓く。
何だろう、としゃがんで見れば。
「きゃ…」
思わず悲鳴。玩具なんだけど、リアルなネズミ…。
気持ち悪ぅ…。それだけじゃなく、店内は悪趣味な物で溢れ返っている。
あまり見たくないんだけどな…嫌でも視界に入るわ。
これだけ溢れ返ってると。どこを見やっても、変な物ばっかりなんだもの。
それらにつまづきつつも、店内を徘徊していると、
「いらっしゃいませ」
奥から声がした。姿は見えないけれど、確かに。
んもう、いらっしゃいませっていうのはお客様の顔を見て言うものよ?
少しだけ不愉快になりつつ、私は声のした方へ歩いていく。

「あら…初来店ですね」
私の顔を見て淡く微笑む女性。
この人が、アルテナさん…か。変わった人ね。
装束…っていうのかしら。ローブっていうのかしら。
アルテナさんは、とにかく妙な格好をして、これまた妙な壷を愛おしそうに撫でている。
「武彦さん…あ、草間武彦の代理で来たんですけど」
歩み寄りつつ言うと、フッと視界に飛び込んだ。
彼女が撫でている壷の中で不気味にうごめく蛇を。
「あぁ。貴女が代理の御方でしたか。ご苦労様です」
「………」
無言のまま微笑む私。…笑えてるのかしら、私。
ひきつってるような気がして仕方ない。でも、こんな状況ですもの…。
そういう反応になってしまうのも、また仕方ない事だと思うわ。
「では、祓納を」
スッと両手を差し出すアルテナさん。
私はハッと我に返り、持ってきた品全てを渡す。
「なるほど…」
アルテナさんは、渡された品を ひとつひとつ見定めるようにマジマジと見やる。
どうかしら…。その古書もペーパーウェイトも、宝物なのよ。
お菓子は、上出来だし、味は保障するわ。絶対に美味しい。
もしも、これで不満だというのなら…。
「気に入らなければ、満足いく物を必ず用意しますから」
アルテナさんの目をジッと見やり、言う。
だから、御願いします。一刻も早く。お祓いを。零ちゃんを助けてあげて下さい。
そう、心の中で祈りつつ…。
見つめあって、どの位経っただろう。
何を言うわけでもなく、ただ。アルテナさんは、私の目をジッと見た。
まるで、そう。何かを探るように。試すかのように。だから。
決して逸らさずに、私も見ていた。アルテナさんの目を。ただ、ジッと。
「…わかりました。すぐに、向かいましょう」
ポツリと呟かれた言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
良かった…。目を伏せて微笑んでいると、
「これは、不要です」
「えっ?」
キョトンとする私。アルテナさんは、渡した品の内、ひとつだけ。
私が作った お菓子だけを要らないと押し付ける。
「でも、これ凄く美味しく出来たので…」
本当にね。自信作なのよ。
今まで焼いたアップルパイの中でも、きっと、ううん、絶対。
一番綺麗に焼けて、一番美味しく出来たの。
嘘なんかじゃないのよ。味見だってしたんだから。
あなたは、いつもの元気な零ちゃんに戻してくれるんだもの。
あなたにしか、それは出来ない事なんでしょう?だったら。
「是非、貰って下さい」
軽く頭を下げ、微笑みながら再び差し出すものの。
アルテナさんは目を伏せ首を左右に振る。
祓納なんて関係なしに、心から、貰って欲しいな、と思ったが故に。
差し出したものを、要らないと言われると正直、寂しいわね…。
まぁ、そこまで頑なに拒むのなら、もう止めよう。
これ以上やると、押し付けがましくて。それこそ迷惑だものね。
頷いて差し出した お菓子を手元に戻す。
アルテナさんは、スッと立ち上がり。
スタスタと扉に向かって歩き始める。
「あっ…。ちょ、ちょっと待って」
それを慌てて追う私。
一目見た時から、何となく不思議な人だとは思った。
うん。本当に、掴み難い人。
でも何だかんだで仕事はしっかりこなす。
そういう所、ちょっと似てるかもしれない。武彦さんに。
だからかしら。だから、二人は仲が良いのかも?
クスクスと笑っていると。アルテナさんはフッと振り返り。
「気が変わった」
ボソッと、そう言った。
「へ?」
何だか間抜けな声で、そう返すしかない私。
気が変わった…って。えぇ…?
もしかして、やっぱりあの品物だけじゃ祓儀は出来ない、とか?
そうだとしたら、間抜けな声を出してる場合じゃなくて。
何か、用意しなくちゃ。何か…あったかな。うーん…。
慌てて、捧げられる物を脳内で必死に捻出しては並べる私。すると。
「それ」
アルテナさんは、私が手に持つ紙袋を指差した。
この中には、先程差し出した、お菓子が入っている。
「あっ。どうぞどうぞ」
気が変わったって、そういう事ね。驚いたわ。
ホッとしつつ笑顔で差し出す私。
けれどアルテナさんは再び首を左右に振って。
クスクス笑って言った。
「そうではなくて。それを食す席に、同席したい、という意味で」
「同席……」
「あぁ、いや。迷惑であれば…」
「あっ。いいえ。是非」
私が返すと、アルテナさんはニコッと嬉しそうに微笑んで、扉を開けた。
やだ。そういう所も、似てるのね。
バタン―

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3.

お祓いにあたる「祓儀」は、驚く程早く迅速に行われて。
私と武彦さんは、黙って見守る事しか出来なかったけれど。
紅潮していた零ちゃんの顔色が、みるみる元に戻っていく様や、
苦しそうだった息遣いが、元に戻っていく様を目の当たりにして、
武彦さんがさりげなく言っていた通り、この人は凄い人なんだな、と実感した。
顔を見合わせて微笑む、私と武彦さん。
うん。本当に良かった…。


「お腹…空きました」
ベッドの上で少しだけ恥ずかしそうに、
躊躇いがちに言った零ちゃんの一言が、問題が解決した事を告げる。
「アップルパイ、焼いたのよ。食べる?」
頭を撫でながら微笑んで言うと、
「はい」
零ちゃんは嬉しそうに言った。
「武彦さん。お湯、沸かしてくれる?それと…」
「了解了解。レモンティーで良いか?零」
以心伝心?言わずとも伝わる、私の想い。
武彦さんに問われて、ベッドを抜けながら零ちゃんはコクリと頷いた。

「あっ。駄目よ。そんなに茶葉入れちゃ」
「ん。そうなのか?」
「苦くなっちゃうじゃない。もう」
「良薬は口に苦し、って言うだろ」
「駄目。美味しくないんだから」
「…へいへい」
キッチンで遣り取りする私と武彦さん。
滅多に見ない、キッチンでの私達の姿を、
物珍しげに、不安そうに見守る零ちゃん。
その隣で、微笑むアルテナさん。
「あら。何、笑ってるんですか?」
私がクスッと笑って問うと、アルテナさんは一つ、咳払いをしてから。
「いや。何。尻に敷かれているな、と思い」
呟くように言った。
「だって」
言われた台詞で追い詰めるように、武彦さんを見やる。
武彦さんは苦笑して。
「うっせー」
ぶっきらぼうに、そう言いながら一生懸命、紅茶をいれる。

アルテナさんと武彦さんは、結構長い付き合いで。
私の知らない武彦さんの一面も知っていて。
それが、とても新鮮で面白くて、私は根掘り葉掘り。
アルテナさんに色んな話を聞いた。
ささやかな武勇伝から、みっともない失敗談、
今まで祓儀の為に祓納していたものが、
本当に武彦さんの体で、その過酷な労働内容には同情を覚えた。
美味しく焼けたアップルパイは、
零ちゃんに一番美味しそうに食されて。
あっという間に、なくなってしまう。
いつもの談笑が、妙に大切なものに思えて。
同時に、アルテナさんに。
深く深く。感謝を。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀

NPC / アルテナ・アルス / ♀


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

シュラインさんの優しさが伝わってくるプレイングに、凄く癒されました。
零の事を、凄く凄く大切に思っているんだなぁ、と思い、
何だか、それが嬉しくて、終始ニコニコしつつ書き上げました^^

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/02/23 椎葉 あずま