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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


占い師のジレンマ



1.
 今日、草間興信所へやってきた者の姿を見た瞬間、草間・武彦は嫌な予感を覚えていた。
 間違いなく厄介な依頼を持ち込んでこられるという予感だ。
 そしてその予感というのは、悲しいことに滅多に外れることがない。
「何がありました」
 とりあえず椅子を勧めて依頼人らしき女性を不躾にならないように観察してみる。
 ここに来る者に時々ある、何かを恐れているような不安げな目つき、服装は少々華美な装飾品も付けてはいるが嫌味になる程度ではない。
 そっとシュラインがお茶を差し出したところで、その女性は口を開いた。
「殺されるんです」
 その単語に、草間の顔が真剣なものに変わった。
「殺される、ですか」
「はい」
「いったい誰が」
「私です」
 ここまでは、まだ良い。
 これならばまだ草間の希望している『まっとう』な依頼の流れだ。
 固い表情を作ったまま、草間は更に問いかけた。
「あなたが、というと誰かに殺すぞと脅迫されているということですか?」
「いいえ」
 女性はそう言って首を軽く振ってから言葉を続けた。
「『知って』いるんです」
 その言葉に、草間の脳裏にまた嫌な予感が甦った。
 この流れは非常に覚えがある。デジャヴュという意味ではなく、馴染みになりたくもないのにやたら持ち込んでこられる類のときに感じるそれだ。
「……知っている、とは?」
 それでも顔はまだ真剣なものを崩さずに草間が尋ねれば、女性は自分が占い師であるということを明かした。
 この時点で、草間の事件への関心は薄れ、またこんな依頼かという気持ちのほうが占め始めており、その気配に気付いたシュラインは苦笑してしまった。
 占い師(というものにあまりろくな人間はいないと草間は思っているのだが)が言うには、数日前にそのことを『知った』のだという。
 はっきりした日はわからないがそう遠くはない日──おそらく、この数日の間に自分が殺されるということを絶対の自信を持って占い師は告げた。
 何故そこまでの自信を持ってそう断言できるのかといえば、彼女の占いはいままで一度も外れたことがなく、またそのために多くの客が彼女の元へ訪れるのだという。
 自分の占いは、だから決して外れない。
 だから、自分が殺されるという占いも外れることはない。
 それが彼女の主張だった。
「……じゃあ、なんでここへ?」
 半ばげんなりしながら草間がそう聞いたところで、初めて彼女が口ごもった。
「殺されるのは間違いないんです。そう、占いに出ているのだから。けれど……」
 そこから先を言わない彼女に、草間は「あぁ」と気付いたように口を開いた。
「死ぬのは、やっぱり怖いと」
 その言葉に彼女は頷いた。
 殺されるとわかったからといってそれを素直に受け入れるだけの肝の据わり方は流石にしていなかったらしい。まぁ、自分の命となればそれが当然だろう。
「なら、ちゃんとしたボディガードとしての依頼ということですか?」
 それならまだ『まっとう』(今頃といわれてもやはり草間にとってこの単語が使用できる依頼というのは望んでしまうのだ)な依頼だ。
 だが、そこでまた彼女は口ごもる。
「何か問題でも?」
 煮え切らない彼女の態度に焦れながら草間が問えば、彼女は躊躇いがちに口を開いた。
「私は、今まで一度も占いをはずしたことがないんです」
「そうらしいですね」
「でも、死にたくはない」
 人としては当然の気持ちだろう。
「だから、ここへ助けを求めに来た」
「えぇ、そう。そうです。けれど──私がこれで助かってしまえば、占いが外れたことになるわ」
 はぁ? と草間は怪訝な顔で彼女を見た。
「外れてしまったら、私の占いには意味がなくなってしまうの」
 とりあえず、草間は彼女の主張を整理してみた。
 占いで、彼女は自分が殺されることを知った。
 勿論命は惜しい。
 けれど、自分が助かるということは占いが外れたということになり、いままで一度も外していないから人気がある彼女の占い師としての地位は危うくなってしまう。
 要約すればこのような考えらしいと気付いた草間は、完全にげんなりとした顔になっていた。
 そんな状態でここへ来て、いったいどうしてくれと言うんだ。
 助けてほしいらしいが、自分の『占い』も大事。
 助かりたいが、外れては困る。
 勘弁してくれ。
 そう草間は心の中で呟いて大きく溜息をついた。


2.
「確かに、助かりたいのか結果を見届けてほしいのか曖昧で困るわね、武彦さん」
 苦笑しながら、肩を落としている草間をぽんぽんと労わるように叩いてから、シュラインは依頼人のほうを向いた。
「確か、占い師が自分のことは占うのはタブーじゃなかったかしら」
「そう、なんですけど……」
 暗い顔のまま依頼人が説明するには、自分のことを占ったわけではなく、他の者を占ったときにその光景が見えたのだという。
 占った相手が人を殺してしまった姿、そして横たわっている人間の姿が『視えた』とき、依頼人は心底驚愕した。
 倒れている人間は、間違いなく自分だったからだ。
「それは、本当に死んでいたの?」
「相手は銃を持っていました。そしてその弾が当たっているということもわかりました」
「血は流れていたの?」
 その問いに、依頼人の顔が一瞬固まった。
「……血、ですか? でも、殺されていたんですから、それはやっぱり」
「血は見えていないのね?」
 やや強めの口調でそう確認すると、依頼人はこくりと頷いた。
「じゃあ、あなたは誰かを占っているときに、その相手が何か凶器を持っていてそれを使った後、そしてその近くにあなたの身体が横たわっていたものが視えた、ということなのかしら」
「そうですね……」
 どうやら、依頼人が本当に殺されるのかどうか疑わしい点があると、いまの話を聞いてシュラインは考えた。
 死体に見えていたそれは、実は倒れているだけなのかもしれない。
 危害は加えられたかもしれないが、死には至っていなかったのではないだろうか。
 それを依頼人が早合点をしてしまい、自分は死ぬのだと思い込んでいる可能性がある。
「相手の凶器がなんだったのかはわかるかしら」
「確か、拳銃です」
「あなたが撃たれた場所は?」
「そこまでは……あくまで、わたしが見ていたのは相手の未来ですから」
 銃ならば、当たった箇所によっては即死に至らない場合もある。
「正確な場所はわからなくても、服の上か肌が出ている部分か、それはわからない?」
 尚もそう尋ねてみると、依頼人は少し考え込み口を開く。
「多分……胸か腹じゃないかと。服を着ている部分です」
「ねぇ、武彦さん」
「なんだ?」
 突然話を振られた草間は怪訝な顔をしてシュラインたちのほうを見た。
「銃で相手を確実に殺そうとする場合、狙うのは何処かしら」
「まぁ、頭か?」
「そうよね。けれど、相手は服を着ている部分を狙っていた……ということは」
 しばらく何事かを考え込んでいたシュラインは、ゆっくりと依頼人のほうを見た。
「ちょっと危ない賭けかもしれないけれど、試してみる?」


3.
 それから数時間後、ありがとうございました。と礼を言って依頼人は草間興信所を後にした。
「大丈夫なのか?」
「助からなくても、自分の占いの結果を絶対だと思っているなら苦情は言わないんじゃないかしら?」
「おい──」
「冗談よ」
 くすりと笑ってからシュラインは依頼人が出て行った先を真剣な目で見つめていた。
「じゃあ、武彦さん、警察関係の手配はお願いね」
「任せておけ。とばっちりで怪我するようなことはないようにな」
「あら、心配してくれるの?」
「大事な事務員なんだ。心配するのは当たり前だろ」
 照れ隠しのような草間の言葉にシュラインは笑顔を返し、興信所を出て行った。
 依頼人の姿はすぐに見つかった。彼女の姿を見失わないように注意しながら周囲を警戒して後を追う。
 前もってあまり人のいないところ、もしくは人が多く相手が警戒心を抱かないような場所を歩くように指示しておいたが、彼女はそれを忠実に守り、あまり人の行き交いの少ない道を歩いていた。
(服の部分が当たっていて、彼女は血を見ていない。だったら──)
 シュラインがそう考えていたとき、ひとりの男が彼女のほうへと近付いてきた。
 擦れ違いそうになった瞬間、パァンと派手な音が辺りに響き、彼女が倒れた。
「武彦さん、彼女が撃たれたわ。とりあえず警察に連絡をお願い」
 そう携帯で連絡をしてからシュラインは急いで彼女の元へと近寄った。
「大丈夫?」
 しゃがみ込んで彼女の様子を見る。
 腹の部分に銃で撃たれたらしい痕があるが、血は流れていない。
 それはそうだ。
 興信所を出るときに、前もって彼女には防弾服を身につけてもらっていたのだ。
 だが、それでも至近距離で銃を撃たれればその衝撃はかなり大きい。
 苦しそうに呻いてはいたが、命には別状はないようだとシュラインは判断した。
「待ってて。いま救急車を呼ぶから」
 まだ呻いている彼女を力づけるようにシュラインはそう声をかけた。


4.
「犯人はいまだ逃走中らしい。何があってあんたを狙ってたのかはだからまだわからない」
 数日後、再び草間興信所へ訪れた彼女に草間はそう言った。
「でもまぁ、こうしてあなたは生きていて、実際撃たれて倒れてはいたんだから、あなたの見たものが完全に外れていたというわけじゃあないみたいね」
 お茶を差し出しながらシュラインはそう言った。
「それで、無事に生きていられたんだから聞きたいことがあるんだけれど」
「なんでしょう」
「あなたは、何のために占いをやっているの?」
 シュラインの問いに、彼女は困惑した顔を向けた。
「占いを当てることより、占った相手に対してどう良い先をアドバイス出来るかのほうが重要なんじゃないのかしら。今回だって、占ったときに相手に何か言っていればこんなことにならなかったかもしれないわよ?」
「それは、そうですが……」
「占いの結果ばかりに囚われて、ひとりが人間を犯罪者になることを止められなかったんですもの」
 少々厳しい口調でそう諭すと、彼女は黙って下を向いた。
「才能があるのかもしれないけれど、それの驕りに囚われていたら、また同じようなことを繰り返すかもしれないわよ。一度、自分のことを見つめ返してみて頂戴?」
 最後は優しくそう教えれば、彼女は素直に「はい」と頷いてから口を開いた。
「……殺されるという占いは、あながち間違いではなかったのかもしれません」
 その言葉に、シュラインも草間も怪訝な顔になった。
「いえ、殺されるというのは少々違いますが、いままでの自分を一度リセットする機会を与えてはもらえたんじゃないかと。そう、思います」
「生まれ変わるきっかけってことね」
「はい」
「なら、わたしのさっきの言葉、忘れないでね?」
 シュラインの言葉に、やはり彼女は笑顔のまま「はい」と答えた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)       ■
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0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 草間・武彦

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■         ライター通信                    ■
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シュライン・エマ様

いつもありがとうございます。
依頼人は死んではいないが死んだように見えたということが書かれていましたので、ある程度ご指定に沿ったものから作らせていただきましたが、お気に召していただけたでしょうか。
草間氏はある程度出番を今回多くしてみましたが、おふたりの関係の書き方が違っていなければ良いのですが。
またご縁がありましたときはよろしくお願いいたします。

蒼井敬 拝