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<ホワイトデー・恋人達の物語2007>


ビター・スイート@武彦

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オープニング


「お兄さん、具合でも悪いんですか?」
妹である零に顔を覗きこまれ、男は我に返る。
バチッとぶつかる、視線。
男は苦笑しつつ、サッと "何か" を隠し。
「や。大丈夫だよ」
零の頭をポンと叩いて言った。
「なら良いんですけど…。それ、何ですか?」
男が隠した "何か" を、零が詮索すると。
「内緒」
男は 一言そう言って、視線を逸らす。
久しぶりに兄の慌てる姿を見た零は、
デスク上の卓上カレンダーを見て、ハッと気付く。
もうすぐホワイトデーだという事に。


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ただ一言。 "変"だわ。いつもと違う。
ねぇ、煙草。灰、落ちるわよ。あっ…ほら…落ちた。
あっ。うわぁ。そんなに勢い良く飲んだら。
「ぅあっちィ!!」
ほら…火傷しちゃう。…熱いからね、って言い添えたのになぁ。
ねぇ、さっきから同じページ、ずっと見てるけど。
その記事に食らい付いてるの?
"あなたの街のメイドカフェ情報" に…?まさかねぇ。
うんうん。やっぱり"変"だわ。明らかに、いつもと違う。
普段は "はーどぼいるど" でキメてるのに。
どうしちゃったの。さっきから、らしくない姿ばっかり。
それで "はーどぼいるど" だなんて言ったら、笑われちゃうわよ。
誰にって?うーん。色んな人に…。

あぁ、心配だわ。心配で心配で仕方ない。
…なぁんて、ね。本当は、わかってる。全部。
どうして、あなたが "変" なのか。
鈍くないのよ。私。むしろ鋭いんだから。あなたの変化には、特に。ね。
「零〜」
ソファに寝そべって、クッションに顔を埋め、零ちゃんを呼ぶ武彦さん。
その弱々しく篭った声に、私はクスクス笑う。
武彦さんに呼ばれた理由を瞬時に悟った零ちゃんは、少し呆れて準備を始める。
目の覚める。冷たいアイスコーヒーを。
私はパタパタと零ちゃんのもとへ駆け寄り、微笑み小声で言う。
「私が やるわ」
零ちゃんは、私を見上げてフフッと つられて笑い。
「よろしく御願いします」
と、小さく呟いた。
ねぇ、武彦さん。零ちゃん、気付いてるわよ。確実に。
そりゃあ、そうよね。明らかにおかしいもの。今日の武彦さん。
本当にもう…あなたって、こういうの…とことん苦手よね。
うん。まぁ、そういう不器用な所も大好きだけど。ね。
「武彦さん」
依然クッションに顔を埋めたままの武彦さんの頭をポンと叩き、声をかける。
けれど、無反応。無視してるわけじゃないの。うん。わかってる。
「ミルク、入れる?」
テーブルにアイスコーヒーを置いて問えば。
「ひとつ」
ポツリと、あなたが呟く。
まるで、拗ねて…ふてくされている子供のような、その姿。
やぁだ。可愛い…。
私はクスッと笑い、ミルクポーションを開ける。
パチン―
「…はぁ」
ポーションのツメが折れたと同時に漏れる、武彦さんの溜息。
トロリと落とすミルク。黒に溶ける白。黒を染める白。
「何か、悩み事?」
マドラーで、コーヒーを混ぜながら、私は問う。わかりきった事を。
「悩み事っつーか、何つーか」
仰向けになり、腕で目元を隠す武彦さん。
何だか、不思議な図ね。まるで、駆け引き。
互いの心中を探るような駆け引き。
ふふ。私が優勢だけどね。
「あーぁ」
なぁに。それ。呆れてるの?自分に?
目元を隠したまま、悶え…てる訳じゃないけど、必死な武彦さんを見つつ。
私は微笑む。ねぇ、武彦さん。
私はね、御返しが欲しくて、チョコレートを渡したんじゃないの。
感謝の気持ちを込めて。世界に、ただヒトツの想いを捧げたのよ。
一ヵ月後の、今日。ホワイトデーという日だという事は理解っているけど。
正直、この雰囲気、私だって苦手なのよ。
御返しを貰うのが当然な日。って感じがね。
何だか、がめついっていうか。ふてぶてしいっていうか。そんな感じがしちゃって。
そんな事ないのかもしれないけどね。
ほら、ね。友達が言うのよ。今年の御返しは期待できるの〜!とか。
あのバッグが良いってアピールしてるんだけどさぁ。とか。
最近、そういう話ばかり聞くから、妙な感じがしちゃって。
私も、御返しに期待してます!って思われてたら、ちょっと嫌だなぁ、とか。ね。思うのよ。
別に、要らないのよ?御返しなんて。
私は、自分の想いを捧げただけだし。
そりゃあ、ね。御返しを貰えたら、嬉しいわよ。
一方的じゃないんだ、って証明になるような気がするから…。
ううん。そんな事よりも、ただ、素直に嬉しいから…。
あっ。でもね、本当に要らないのよ。
欲しい!だなんて、思ってないの。
むしろ、心配しちゃうもの。経済状況的に、御返しの出費は痛手だしね。
…でもね。
ごめんなさい。
物凄く、気になってる自分がいるの。
だって、バレバレなんだもの。
"何か"を用意してくれている事。
そして、それを、どうやって、どのタイミングで渡そうか、ずっと考えてくれてる事。
仕方ないじゃない?そこまでバレバレだと、気になって当然よ。
うん。武彦さんにも責任あるのよ。
なんて…ちょっと勝手かな。悩んでるのに、ね。


「武彦さん」
名前を呼びつつ、そっと近寄る私。
「ん〜」
私が近寄った事に気付いているのかいないのか。
それは定かではないけれど、未だに目元を隠す武彦さん。
私は笑って。
「えぃっ」
武彦さんの腕を掴み、顔を、表情を露わにさせる。
「…ちょ。何だよ…」
慌てて視線を逸らす武彦さん。
中学生じゃないんだから。こんな事で照れないでよ。
こっちが恥ずかしくなっちゃうじゃない。
クスクス笑いつつ、私は武彦さんの眉間に ピッと人指し指をあてる。
「…何だ」
目を逸らしたまま、ポツリと呟く武彦さん。
何だ、はないでしょう。
そんな怖い顔して。らしくないったら。
「嫌なの」
ジッと武彦さんの眉間を見やりながら言う私。
「何が」
一問一答のように、ボソリと返す武彦さん。
「そんな顔、しないでよ」
「………」
「いつもどおりの武彦さんじゃないとね。嫌だし、心配なんですよ。私は」
少々偉そうな口調で言うと。
武彦さんは何も言わずに数秒間黙りこくって。
「…ははっ」
突然、笑った。
つられて笑う私。
端から見れば、それは滑稽な、可笑しな図。
「…もういいや。めんどくせー」
何かから解放されたかのように、武彦さんは そう言って。
ガバッと起き上がると、そのままスタスタと、どこかへ歩いて行ってしまった。
「…?」
解決されたのかしら。それとも、自暴自棄?
苦笑しつつ、お皿を拭いている零ちゃんと顔を見合わせる。
バタン、と扉の閉まる音と。
ドカドカッ、と響く足音。
まるで、出兵のような武彦さんの行動に微笑みつつ、おもむろに窓の外を見やる私。
青い空に、何だか優しい気持ちになっていると。
ガサッ―
目の前が、突如、白く染まった。
「えっ…」
三回瞬きをして、視界を染めた"白"の正体を把握。
ほのかに香る、優しい香り。春の、香り。
それは、コーヒーに溶ける白よりも、もっと。
遥かに白い。セリルアの花束。
フッと顔を上げて。
頬を掻きながら花束を差し出す武彦さんを捉えた私の目に。
温かな水が篭る。
「くれ、るの…?」
「おぅ」
ぶっきらぼうに言い放つ武彦さん。
私は、差し出された花束を受け取ると当時に立ち上がって。
ギュッと武彦さんに抱き付く。
「ありがとう」
「いや、それ、こっちの台詞。その花の…」
「知ってる。知ってるわよ…。知ってる…ありがとう」
武彦さんが言い終える前に。何度も何度も。負けじと告げる。
セリルアの花言葉。

"感謝"

ねぇ、武彦さん。
御返しなんて要らないよって思ってたのは、本当よ。
傍にいられれば。それだけで、私は満足なんだから。
でもね。今は。あなたからの贈り物が、素直に嬉しい。
ありがとう、って。何度言っても足りないくらい。感謝してる。
ねぇ、武彦さん。
これからも、ずっと。あなたの傍で。あなたの為に。
何が出来るかを、考えさせてね。
「…ねぇ。これも、武彦さんが入れたの?」
花束に埋もれるように在ったカードを見つつ、私が問うと。
武彦さんは、気恥ずかしさを隠すように、気だるそうに首元を掻いて。
「おぅ。まぁな」
チラチラと私の目を見ながら言った。
「…ふふ」
「何だよ…」
「…何でもない」
思わず零れた笑みが。何を意味するかは。
教えてあげない。


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━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

シュラインさんは、今まで何度も描写させて頂き、勝手ですが、
尽くす・デキる女なイメージで、全体的に柔らかいイメージが確立されているので(笑)
その雰囲気を大切に紡ぎました^^ こんな女性、嫁に欲しいに決まってるだろう。
と、思うように、いつも書いています(笑) 
ラストでシュラインさんが意味深に微笑んでいる理由は、
後日、発注頂いている別ノベルと一緒にお贈りするアイテム「セリルアの花束」の、
説明を拝見していただければ、御理解頂けるかと思います^^
このノベルと一緒に渡せればベストなのですが、このノベルには、
アイテム付加が出来ないので、追ってお渡しします。御了承下さいませ。

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/03/14 椎葉 あずま