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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


アイシテイマス

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0.オープニング

あの日から。私の心は、あなたに縛られた。
挙げればキリがない。あなたを愛しいと思う理由なんて。
全てが。全てが愛しい。あなたの全てが愛しい。
想いは とめどなく。大きくなるばかりで。
遠くから、見ているだけで良かったのに。
決して告げようとは思っていなかったのに。
満足できない。もう、見ているだけでは満足できない。
今は、切実に。あなたと話がしたい。
聞いて欲しい。叶わなくとも。
私の、想いを。

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1.

身支度を整えながら、暦を再確認。
うん。今日が期日だ。間違いない。
九時二分…。少し早いか…?と思ったが、用は早急に済ませておきたい性分。
草間に連絡を入れ、用件を伝えようと試みる。が。
まぁ、予想はしていたが、やはり奴は爆睡中で。
仕方なく、零に伝言を頼む。
「起きたら、すぐ持って来いと伝えてくれ」
「すぐ、ですか」
「すぐ、だ」
「わかりました」
了解しつつ、クスクスと笑う零。
はぁ。この遣り取りも、もう何度目になる事か。


アンティークショップ・レン。
滅多な事では訪ねない、何とも怪しげな店。
一人で来るなんて、それこそ、一年に一度あるかないか。
それなのに、何故。店先に居るのか?と問われれば。
ただ一言。 ”仕事絡み” そう返す。
カランカラン―
扉を開けば、途端に鼻をつく、甘く妙な香り。
それに若干眉を寄せつつ、私は店内を進む。
「いらっしゃい。おや…珍しいねぇ。あんたが一人で来るなんて」
カウンターに片肘をついて私を見やり、微笑む蓮。
「借りたものを返しに来ただけだ」
ツカツカと歩み寄り、カウンター上に代金を置く。
今更だけどな。少し、高いと思うぞ。
まぁ、直接文句を言うつもりはない。奴の金だしな。
「毎度。確かに受け取ったよ。代金は、ね」
慣れた手付きで札を数え、"代金は"と強調する蓮。
その態度。相変わらずだな。嫌いじゃないけど。そういう性格。
「品は、後で奴が届けに来る。そうだな…」
少し考え物思い。あれから零に叩き起こされて支度を終えた頃か。
一本煙草を吸って、コーヒーを飲んで…。うん。
「あと、三十分くらいだと思う」
私が言うと、蓮はクッと笑って、「はいはい」と肩を竦めた。

奴が品を届けに来るまで。私に課せられるは "退屈"
大して興味のない場所に居るのは、非常に苦痛だ。
例え、それが短時間であっても。耐えるつもりも、ない。
「…店外で待つ」
ポツリと言い放ち、扉に向かってスタスタと歩き出す私。
「あぁ、ちょっと。あんた」
蓮が、それを引き止めた。
「ん?」
振り返り見やると、蓮は怪しげな笑みを浮かべ言う。
「あんまりキツく言うんじゃないよ」
「…はぁ?」
全く意味の理解らない忠告をされ、そう返すしかない私。
キツく言うな?誰にだ?…草間か?それしか浮かばないな…。
何を言い出すんだか。この女は。
今更、奴に甘く接せと?無理だな。
遅刻した分、朝食でも奢らせないと気が済まない。
私は何も言わずクッと笑い、肩を竦めて。店外へ。

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2.

蓮が放った言葉の意味を。
私は店外に出て、間もなく理解する。
それは、唐突に。突拍子もない話。
「ほんの少しだけで良いんです。時間を、くれませんか?」
何度目を逸らしても、視界に侵ってくる男。
今ので五回目。同じ台詞。
顔見知りじゃない。まったくもって初対面。
そんな男に。私は店を出て、すぐ捕まった。
男の風貌は現代から、酷くかけ離れたもので。
ボロボロの袴と結わえた髪から察するに、古人だと把握する。
併せて、生気が感じられない事から、故人である事も理解できる。
「あ…申し訳ない。先ず、名乗るべきでした。私、巳継…佐倉 巳継(さくら みつぐ)と申します」
聞いてない。お前の名前なんぞ。
私は決して目を合わせずに。淡々と返す。
「私は、お前に興味がない。成仏しろ」
本当に、まるで興味がないんだ。態度で察せ。
お前の名前にも、職にも、齢にも、興味がないんだ。湧かないんだ。
ましてや、お前の想いに応える事なんぞ。とうてい無理な話だ。
「冥月さん。私は、冗談なんて言いません」
…腹が立つ。名前を知られている事に。
数日前、草間と店を訪ねた時に。こいつは私を見つけ、そして、惚れた。らしい。
何故だ。何故、気付かなかったのか。こんな不快な想いを垂れ流す無様な男に。
「冥月さん」
「何度言っても無駄だ。私には、もう、好きな…大切な人がいる」
少し睨んで言うと、男は苦笑して。
その場に座り込み、私を見上げて問う。
「ほほぅ。どのような殿方で?」
見上げているにも関わらず、偉そうな男の態度にザワリと揺れる心。
蹴りをくらわそうかと思ったが、暴力で解決できそうもない、と悟り。
私は渋々…愛しき人への想いを馳せる。
「年上で…粗野な男だ。普段は少しダラしないが…」
「私は、几帳面ですよ」
「興味ない。黙って聞け」
空を見上げながら、馳せる。亡き あの人への想い。
普段、決して人前で晒さぬ想い故に。
不思議と…気分が高ぶり、目頭が熱を帯びていく。
「剣術の達人でな…。その立ち振る舞いは…本当、言葉を失う程…美しくて」
「剣術、ですか。それなら、私も…」
「言葉よりも態度で…包み込んでくれるような。大きな男だった。そう、とても…深くて…」
ビュゥッ―
突然、辺りに吹きすさぶ風。春の…暖かい風。
思い出に、想いに浸るが故に。貴方を呼び寄せてしまったのだろうか。
心地良い風に頬を撫でられ、淡く微笑み目を伏せる私。
そうだ。私は、今も。貴方を愛している。とめどなく。とめどなく…。
普段ダラしない分、真面目な表情ときたら。それは、もう…とても魅力的で。
私は、貴方の その表情、眼差しを目の当たりにする度に、胸が痛んだ。
限りなく膨らむ、貴方への想いに。心地良く幸福な。痛みを覚えた。
「冥月さん冥月さん。その殿方の特徴は…?」
目を伏せたままの私の耳に飛び込む、見ず知らずの男の問い。
瞼の裏に焼きついて離れない、貴方を。ひとつ、ひとつ。私は口にする。
「長身で、少し近寄りがたい雰囲気を持っていて…」
「ふむ…。細身、ですか…?」
「そうだな…。でも華奢ではない。むしろ…包容力に長けるというか、な…」
依然目を伏せたまま。見ず知らずの男に、何をノロけているのかと。
覚える恥じらいに、クスクスと笑う私。
男は、そんな私に更に問う。
「煙草は…吸いますか?」
「…あぁ。身体に毒だと、何度言っても聞かなくてな…」
そんな我侭な所も。愛しくて仕方ないんだけれど。
「眼鏡は、かけてますか…?」
「…あぁ。外すと、少し童顔なんだ。少年のようで…」
ん?
眼鏡?童顔?少年?
先程まで心を占めていた愛しき人と相違する、その特徴。
自分の発言に違和感を感じ、私はフッと目を開く。すると。
「なるほど。その人、ですね」
男は少し首を傾げて、私の背後を見やって言った。
その人…?嫌な予感におそるおそる振り返る私。
「よぅ。何やってんだ。こんなとこで」
目が合い、ヘラッと笑う草間に。私は目を丸くして。
「うわっ!?」
思い切り目を逸らす。

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3.

「なるほど…貴方が、冥月さんの…ふむ。確かに、立派な刀をお持ちだ…」
草間に詰め寄り、マジマジと見やる男。
いや、ちが…その刀は、蓮から、仕事の為に借りた物で。
そいつの私物じゃない。というか、こいつが剣士に見えるか?
違うぞ。こいつは、ただの貧乏探偵だ。
そう思っただけで、口にしなかったのは。
違うと否定すれば、また、話がややこしくなる。
それこそ、このしつこい男に問い詰められて面倒な事になる。
そう判断したから。だから。
私は草間の背中を小突き、ボソリと耳打ちする。
「話、合わせろ」
「…ん?」
キョトンとする草間。えぇい。馬鹿め。
状況を察せ。探偵だろうが。…あまり、関係ないかもしれないが。
私は、自然と強張る頬を必死に微笑んで解しつつ、草間の腕に絡み付き、男に言う。
「そ、そうだ。こいつが、私の恋人なんだ」
…声が上ずっている。まずい。バレる…。
それだけで十分 危うい状況。だというのに。
その上、草間が、私の言動にギョッとしている。
マズイマズイマズイ。ひきつり笑いを浮かべつつ、何度も草間の背中をバレぬよう小突く。
駄目だ。このままじゃ。本当…お前って奴は…っ。
草間への怒りが膨らみ始めた時だった。
「やれやれ。あんた、相変わらず鈍いねぇ」
店の窓を開け、その縁に頬杖をついて言い放つ蓮。
あぁ…グッジョブ、蓮…。
蓮の言葉に少し考え込む草間。
「あー。なるほどね」
数秒後。理解したのか、草間は、そう言うと ハハッと笑い。
「そうなんだよな。冥月。お前って、俺の事、すっげぇ好きなんだよな」
「はっ…?」
一瞬硬直。何を言い出すんだと混乱したのも束の間。
そうだ。これで良いんだ。やっと理解ったか。馬鹿め。
「あぁ。も、物凄く好きだ」
自分の発言に鳥肌が立つ…。ちゃんと笑えているのか。私。
そんな不安にかられていると、草間は更に言う。
「常に一緒に居たいんだよな。寂しがりやだから」
「………」
再度硬直。いや。良いんだ。これで。そう。私が望んだ展開。
お前の行動は、それで良い。思い通りだ。良いんだ。そう。これで、良いんだ。
「あぁ。か、片時も離れたくない」
吐きそうだ。非常に不快だ。もはや、笑えていない自信が大いにある。
こいつ、後で必ず潰す。制裁確定。

「アッハハハハハハハハハ!!!」
突如、大笑いしだす蓮。その異様なまでの笑いっぷりに、私と草間は揃って蓮を見やる。
すると、蓮は笑いを堪えながら。
「面白いモン見れたよ」
そう言って、指をパチンと弾いた。
次の瞬間。私の目に飛び込んだのは。
微笑みながら、ヒラヒラと手を振り、消えていく 男の姿。
ポポンッ―
軽快な音と共に、男の姿は影も形もなくなり。
代わりに、地面に小さなガラス玉が転がっていた。
「…どういう事だ?」
しゃがんでガラス玉を手に取り首を傾げて言う草間。
蓮は手をヒラリと振って、答えた。
「三十分の延滞料金さ」
「ははっ。なるほどね〜。つか、これ何?すげぇな」
「だろう?極秘ルートで取り寄せた代物さ。まぁ、幽体が協力的で助かったよ。アハハッ」
「………」
絶句しっ放しの私。理解できないわけじゃない。
むしろ、瞬時に理解できた。全て、蓮の仕組んだ悪戯だったと。
それは良い。延滞料金と言って、蓮が可笑しな悪戯をするのは有名だしな。
それは良いんだ。それよりも。いや。そうじゃなくて。
私…先刻、何…言った?
カッと熱くなる耳。頭を振って、それを払おうとする私に、草間が笑って言う。
「とんだ延滞料金だな。あれ?冥月。耳、どうした?紅いぞ?」
その笑顔が。私の羞恥心を更に掻き乱す。
わけのわからない戸惑いを誤魔化すように。
ドカッ―
いつもより強めの蹴りを背中に かまし。
「煩い黙れ!さっさと返して来い!」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀

NPC / 佐倉・巳継 (さくら・みつぐ) / ♂


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
恥じらいだけが、妙に残る結末にしてみました(笑)
中盤、乙女な感じから、ドタバタしだしてからの執筆速度が異常でした(速かった。笑)
毎度毎度、好き勝手させて頂き、感謝感謝でございます!(笑)

気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/03/12 椎葉 あずま