コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


恐怖!戦慄!三下忠雄の愛ラブYOU!

「あなたに‥‥アイツを何とかして欲しいの‥‥」
 もう私には手におえないのよ、あなたじゃなきゃあ。
「‥‥そう言われると断れねぇなぁ。しゃぁねぇ、引き受けるぜ」
 と──ついついついつい言ってしまう自分を後悔した事は‥‥これ以上に、ない。

 アトラスの碇・麗香に連絡をもらったのは、昨夜の事であった。
 いつも気丈、というよりむしろ女王な彼女にしては珍しく疲れた声で、他に仕事があっても優先して来て欲しい、と依頼があったのだ。
 何でもこなす何でも屋、氷室・浩介は『女性の頼みとあらば』などと頼んでもないのについて来る辰海・蒼磨に引きずられ、こうしてやって来たのである。
「ふむ。確かに麗香殿はお疲れのようだ」
「んなもん見りゃわかるっての。なぁ、一体何があったんだ?」
 目の前の碇は憔悴しきって化粧も落ちかけている。いつもはこういった弱みを見せないのに‥‥。
 気遣うように顔色を覗き込んだ時だ。
「HeyHeyHey! 一体どうしたんだいマイハニー!? いつになく沈みがちだねハニィ!」
 ──三下だった。
「お〜いおいおい、こんなところで休憩かい!? HAHAHA冗談はよせよこんな狭苦しい中じゃ息もつけないよ!」
 ──疑ったが、三下だった。
 いつもの眼鏡、いつものスーツ、いつもの髪型。しかしこのテンションは一体。
 目を点にする二人に、いつもは激怒するであろう碇はコレよ、と指でさす。
「あなたに‥‥あなた達何でも屋に、アレを何とかして欲しいの。もう、手に負えなくって‥‥」
 どうしろと。

●美味しく頂かれちゃって下さい
 ──コレは一体何だ。ていうか誰だコレ?
 目の前の現実が信じられず、浩介がハニワになる。傍らの蒼磨は『ほほう』などと呑気に感心していたが、ここは感心するところなのか?
「へぇ‥‥ふぅン?」
 クイ、と眼鏡を押し上げた三下(だよな?)は浩介の座るソファに滑り込む。
「は‥‥へ?」
「うん‥‥なかなかいいネ?」
 発音は同じ筈なのに何故か脳内で変換される日本語。微妙に似非アメリカ人ぽい。
「お、おい‥‥離れろよ三下さ」
「キミ‥‥美味しそうだね?」
 するりん、と。
 浩介は生まれて初めて男にそんなところをこんな風に撫でられてしまったのだった。

 ずず、と茶を啜る音がする。
 ちろり、と蒼磨が視線を流すと、向かいのソファで死んでる碇、傍らに立ち上がったまま凍りついている浩介、イナバウアー状態で仰け反っている三下がいた。
 ずずずずず。
「はっ!? おぉぅわぁぁあ!? やべえ、思わず本気のアッパー出しちまった‥‥て、避けたのか!?」
 塩の柱になっていた浩介が我に返り、天高く突き上げていた拳に本気で慌てている。
 ──無理もない。浩介は無駄と思えるほどに体力・気力が常に充実しておるからな。
 要するに肉体派、と脳裏でコメントする蒼磨は完全傍観者。近くに妙齢の美女、そして上手い茶、目の前に面白い浩介。
 ──ふっ、やはり陸地とは面白いものよ。
 まさか竜神様に見世物にされているとは露知らず、自分の運動神経と我流で磨いた格闘センスに自信がある浩介は衝撃から未だ立ち直れずにいる。
「三下さんが‥‥俺の拳を‥‥? 信じられねぇ‥‥」
 ぶつぶつ言ってると、背後を取られた。
「ボクは今世紀最後の吸血鬼なんだ‥‥」
「げぇっ! 何時の間に!?」
「ふふふふふ」
 焦る浩介、笑う三下、ウケる蒼磨。
「ちょ、は、離せ! 何だこの馬鹿力はよ!?」
「僕からはそう簡単には逃げられないよ? ふふっ‥‥お願い、キミの生き血を頂戴?」
 首元で喋られぞわぞわと総毛立つ。それでも相手の行動と依頼とを突き合わせ、懸命に頭を使った。
「‥‥まさか本当に伝説の吸血鬼が‥‥いや、ありえねえそんな三下に限って!」
「ホ・ン・ト♪」
 うちゅうっ。

●誰か止めて私を止めて、今夜誰かが死ぬ
「もう、本当にごめんなさい‥‥何てお詫びしたらいいか‥‥」
 はああああっ。
 溜め息を吐く麗香殿は色気も手伝い、より一層麗しくなる。
 ──うむ、いつの時代も女人は心潤わせる美酒よ。
 蒼磨は頷いた。
 ジー‥‥カシャッ、ピッ。カチカチカチ、保存。
「気にする必要は全くないゆえ、今は少し休まれておくといい。真面目な麗香殿の事だ、きっと仕事もいつも通りこなしていたのであろう?」
 気遣う蒼磨に、麗香が感謝の微笑みを見せる。
 ──ああ、まるで花がほころんだようだ。
 うっとりと見つめながら、手に持つ小さな機械を操作する。こんな小さなもので画像が撮れるとは、近代化とは実に恐ろしいものよ。
「で、何か心当たりはありませんかな。例えば三日前に妙な所へ取材に行ったとか、変な遺物と接触したとか、おかしな人物に遭遇したとか‥‥」
「うぅぅん。取材を任せて出て行ったきり、帰らなかったのよね。丸二日姿を消していて‥‥それから出勤してきて、ずっとかしら」
「ふむ、怪しいのはその取材先か」
 さらりと流れる銀髪を後ろにやると、息も絶え絶えの浩介と目が合った。
「て、てめぇ‥‥さっ、きから、何、やって、やが、る‥‥」
「何とは? おぬしが職務放棄しておるから代わりに麗香殿に事情を聞いておるのだろう」
「そんな事聞いてんじゃねぇえええぇぇっ!!!!」
 うるさい、と蒼磨が不機嫌そうに耳を塞ぐ。その仕草がまた浩介を怒らせた。
「てめぇの持ってる、そりゃあ何だっ!!???」
「これか?」
 蒼磨はああと頷いた。
「これはだな、おぬしがどうしても持てと言うから持った近代機械というもので、機種はカ●オだ。月額基本料金が五千八百円でな、オプションとやらが」
「誰が携帯の機種や基本料金なんて聞いてやがるんだこの野郎ぅおおおおお!!!!!」
「おぬしではないか」
 けろん、きぱっ。
 大マジの青の瞳が真顔で見返す。ぎしぎしいうソファのスプリングの限界を試していた浩介は、既に汗が滴り落ちてきている腕で、三下の首を掴んで床に引き倒した。
 ずだだだんっ! ガターンッ!!
 でかい何かが机を巻き込み転がった。
「ち、ちくしょ‥‥こいつ本当に三下か? 俺が珍しく汗かいちまったじゃねぇか」
 よろりと立ち上がった浩介は、滝のように流れる汗を自らのシャツで拭う。そのままギロリと蒼磨を睨みつけた。
「お前! その携帯は何だ!?」
「だからだな、機種はカ●オで」
「違う! 何でカメラ機能使って撮ってるんだ!!!」
 ──それはそこに丁度良い被写体があったから、とは言えそうにない。
 ちなみにその写真でちょっとした小遣い稼ぎをしようと思っていたのも内緒である。
「‥‥まぁ、とにかくだな」
「無視か! 無視なのか!」
「うるさい。腐っても私は神だ、三下殿如きに脱がされるわけにはいかん。まぁ私の写真の方が売れ行きは良いだろうがな、フッ」
「てめぇ! やっぱ見てたんじゃねぇか! なら助け‥‥って待て待て待て、売れ行きって何だああああっっ!!???」
「さて、本当に取り憑かれておるのか、それとも日頃の鬱憤が高じたのか。いずれにしても早く祓わねば三下殿の体に無理がいく」
 ちら、と床とお友達になっているそれは、既に何度も投げ飛ばされ髪も眼鏡もめちゃくちゃになっている。
 ──俺の心配は無しか。無しなのか、竜神。
 浩介の叫びは届かない。

●あらゆる意味で危険です
「おい、じっとしてろよ‥‥」
「Uh‥‥だ、大胆だネ浩介‥‥」
 ジィー‥‥。
「‥‥おい」
「気にするな」
「だからお前は本当に手伝う気あんのかコラァ!?」
 隙あらば襲い掛かる三下の手を引っ掴み、ソファに押さえつけ、怪しげなアクセサリーなど身につけていないか探す浩介の目の前に、蒼磨がカメラ付携帯片手に二人を見守っている。
「しかもテメ、気がつきゃムービーになってるじゃねぇか!」
「動画の方が高く売れるんでな」
 何故知っているのだ竜神様。
 妙なところで人間界に馴染みやがって、と悪態をつく浩介は相変わらず妙な声を上げる三下の体をまさぐっている。
「ねェな‥‥あ、これ、か?」
 三下がしてるベルトに最後になって気が付いた。妙にキンキラキンなそれは、三下が選ぶとも買うとも貰うとも思えないデーハーさだ。
 明らかに三下とは思えないから何かが乗り移ったと推測した。身体に妙な印・紋章がないか、首筋に噛み跡がないか、見慣れないアクセサリーに絞り探していたのだが、恐らくはコレ、だ。
「外すぜ」
「NOOOO‥‥! こ、浩介ったらダ・イ・タ・ン☆」
 ばきっ。
 さぶいぼで死にそうになった浩介は気がつけば三下を蹴飛ばしていた。
「三下──さん、俺な? そういう冗談嫌いなんだ」
 笑った額に血管が浮いている。室内の気温調節はされているのに、服の下は鳥肌。そして止まらない衝動。
「俺が『うっかり』首を絞めちまったり『うっかり』鳩尾蹴っちまったり『ついうっかり』そこの灰皿で殴り殺しても許してくれな?」
 笑ったつもりが口角がしっかり引きつった。
 ──うむ、相変わらず感情がすぐ顔に出る。
 蒼磨は再度一から録画しながら頷いた。
「早く再開してくれ、保存容量にも限界があるんでな」

「くっ、強情だな、三下──さん」
「ボクはどうせならキミの上に乗りたいんだよ。どうだい、リードはボクに任せてくれないかい?」
「お断りだ。どうせ俺のが持久力もあるしな」
「フフッ、それはどうかな? ボクもなかなかの技術だよ?」
「ケッ、俺は我流だけどな、昔っからこれに関しちゃ負けた事はねーんだよ」
「ふふん、それじゃあ楽しませてもらおうかな?」
「望むところだぜ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥浩介」
「あ? 何だ?」
 しーん、と鎮まりかえった室内で、汗をそのままに浩介が顔を上げる。微妙な顔をした碇が視線を逸らし、蒼磨が真顔で言った。
「今のはギリギリ発言だ」
「はっ!?」
「これを呼んでいる十八歳未満の青少年に謝るがいい」
「何言ってんだ、お前も手伝えよ!」
「そんなマニアックな事は出来ん」
「はああああっ!?」
 自分が引き込んだ何でも屋二人の会話を聞きながら、新たなコーヒーを入れるため、碇は席を立った。
 ──不毛だわ。月刊アトラスが別の雑誌になりそうな勢いよ。

●お引取りを
「A‥‥! AHHHHH!!」
「紛らわしい声上げんなっ! ‥‥よっしゃ、これで!」
 ややこしい腰の金具を外した浩介が、会心の笑みを浮かべる。蒼磨も碇も別の意味でホッとした。アトラス編集部に数日振りの爽やかな風が過ぎる。
「AH‥‥残念だよ、もっとキミと遊んでいたかったのに‥‥」
「ケッ、物の怪だか何だか知らんが、さっさと三下さんに体を返せ!」
 ずるっ、と長いベルトを引き抜いた。
 その、瞬間。
「But‥‥お土産はもらっていくよ☆」
「は?」
 三下の両腕が伸び、ぎゅう、と浩介を抱きしめた。
「「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」」
「‥‥?」
 ぱち、と三下の目が開く。眼前に凍った浩介の顔があった。その瞬間、アトラス編集部が南極になる。
「や、やられたっ‥‥」
 最後の最後に血を吸われた浩介はがっくりと肩を落とし。
「え? あれ? ええっ? な、なな何で僕男に襲われてるんですかああああっ!!???」
 編集長ぉおおおぉおお!!!
 と泣く口の端に血をつけた部下に碇は『明日は休もう』と脱力した体で思った。

 そして、竜神様は。
 ──しまった。一番いいところをカメラにおさめそびれてしまった。
 ちょっぴり後悔していた。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 6725 / 氷室・浩介 / 男性 / 20 / 何でも屋

 6897 / 辰海・蒼磨 / 男性 / 256 / 何でも屋手伝い&竜神

 NPC / 三下・忠雄 / 男性 / 23 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員

 NPC / 碇・麗香 / 女性 / 28 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

氷室・浩介さま、ご依頼ありがとうございました! 
こちらの都合により、遅れに遅れて申し訳ありませんでした。せめてシナリオがご希望に沿っていると良いのですが‥‥。

ご依頼の方は如何でしたでしょうか?
悲しいくらいに浩介さまが被害を一身に背負っておりますが、これがいつもの何でも屋組織内勢力構成図なのでしょうか。
私が書くと更に浩介さまの不幸度が増すような‥‥増さないような‥‥いや、やっぱり増してる?

いやあ、氷室さまの貞操が無事で良かったです!(爽笑)

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、またぜひよろしくお願いしますね。
ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより