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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


アイシテイマス

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0.オープニング

あの日から。私の心は、あなたに縛られた。
挙げればキリがない。あなたを愛しいと思う理由なんて。
全てが。全てが愛しい。あなたの全てが愛しい。
想いは とめどなく。大きくなるばかりで。
遠くから、見ているだけで良かったのに。
決して告げようとは思っていなかったのに。
満足できない。もう、見ているだけでは満足できない。
今は、切実に。あなたと話がしたい。
聞いて欲しい。叶わなくとも。
私の、想いを。

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1.

作家としての仕事の為に、数日間 借りていた本をパラパラとめくり微笑む。
うん、さすが蓮さん。いつもながら感謝感謝。
その時折、最も的確な物を貸してくれるから、凄く助かるのよね。
御陰でサクッと片付いちゃったわ。予定より…そうね。三日くらい早く。
感謝の気持ちを込めて。クッキーを焼いたの。今日は、ココアクッキー。
持っていった所で、いつも、迷惑そうな顔するんだけどね。
でも、知ってるから。
要らないよ、って言いながらも。こっそり食べてくれてる事。
蓮さんの、そういう所。好きなのよね。可愛らしくて。
微笑みつつ、借りた本とクッキーを持って。
よし…っと。んじゃあ、行きましょうか。蓮さんの店へ。


これを返すっていうのも、重要な用件だけれど。
本題っていうか、メインは別なのよね。実際。
頼んでおいた品、用意して貰えたかしら。
ちょっと無理言っちゃったかなぁと思うのよね…。
今回のは大きな仕事なだけに、少し不安だなぁ。
夜空に浮かぶ満月を見上げつつ、そんな事を考えていると。
「シュラインさん」
背後から、名前を呼ばれた。
「はい?」
聞き覚えのない声に、クルリと振り返る。
視界に飛び込むは、銀髪青眼で、清潔感のある青年。
多分、同年代…かな。雰囲気で判断しただけだけど。
「こんばんは」
少し首を傾げ挨拶すると、青年は微笑んで。
「…こんばんは」
少し恥らいつつ、言った。
「えぇと。どこかで、御会いしましたか?」
私が問うと、青年はハッと何かに気付き、
「あぁ…すみません。先ず名乗るべきでした」
苦笑して そう言うと、頬を人指し指で掻きながら続けた。
「私は、ノアと申します」
「ノア、さん…ですか。はい。はじめまして」
うん。やっぱり知らない。会った事、ないわよね。
知り合った人の名前は、割としっかり覚えてるもの。私。
そう思ったから。私は"はじめまして"と告げた。でも。
「はじめまして、か…。まぁ、仕方ないですよね」
青年は、少し残念そうに言う。
えっ。初対面じゃないの?嘘だぁ…。
信じつつも疑う、自分の記憶。どこで会ったかしら…。
青年の顔をジッと見つめながら考える。
うーん。思い出せない。ちっとも思い出せない。
…それにしても、整った顔立ちねぇ。
"カッコイイ"類よ。うん。確実に。
「シュラインさん。突然で、申し訳ないんですが…」
「はい」
「私と、お付き合いして頂けませんか」
「…はい?」
突然の申し出に声が裏返る。
目を丸くして首を傾げる私を見て、青年…ノアさんは真剣な表情で告げた。
「一週間前、一目見た時から、私の心は貴女に捕らわれたままなんです」
真っ直ぐに私の目を見て告げる その姿勢から。
冗談ではない事が、ひしひしと伝わると同時に、私は驚きを隠せない。
それって、ねぇ?一目惚れ、って事?私に?貴方が?まさか、そんな…。
頭にポンポンと浮かぶ想い。それは"ありえない"を前提にした想い。
でも、ノアさんは決して私から目を逸らさない。
ジッと、待っている。私の、応えを。
うん…。嬉しいです。そりゃあね、嬉しいですよ。とっても。
だけど、ごめんなさい。私は、貴方の想いに応える事が出来ないんです。
「えぇと…ありがとうございます。ただ、私、意中の男性がいますので…」
ペコリと頭を下げて、目前に在る連さんの店へサクサクと進む。
逃げるようで、申し訳ないけれど。仕方のない事なの。
貴方の想いを、例え一日中聞いたとしても。
私の想いは、変わらないから。
そう。貴方と同じ。私の心も捕らわれているんです。
あの人に。

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2.

カランカラン―
「いらっしゃい…あぁ、あんたかい」
カウンターで、お札を数えながら言う蓮さん。
「こんにちは」
私は歩み寄り、ニコッと微笑む。
それが催促である事を、すぐに悟った蓮さんは苦笑して。
「役にたったかい?それ」
そう言いながら、背後の棚から小さな宝石を取り、それを私に渡す。
「えぇ。とっても」
差し出された品を受け取り、借りていた本を返す。
「そりゃあ、良かった」
クスクスと笑う蓮さんの目の前で、眼鏡をかけ、宝石を確認。
うん。確かに。頼んでおいた品だわ。
本当にもう、さすがね。きっちり用意してくれるんだから。
宝石を懐にしまい、眼鏡を外した私は、カウンターに手を置いて言う。
「ねぇ、蓮さん」
「何だい。追加かい?」
「違う違う。そうじゃなくって。外にいる幽霊さんの事、何か知ってる?」
私の問いに、蓮さんはクッと笑って。
「よく気付いたねぇ。幽体だって」
「そりゃあ、ね。もう、慣れたっていうか。一目瞭然よ」
「ははっ。頼もしいこった」
お札を麻袋にしまい、蓮さんは続けて言った。
「没したのは、つい最近さ。交通事故でね」
「…あっ。もしかして」
まだ、記憶に新しい。この付近で二週間前に起きた交通事故。
テレビのニュースで観て、その酷い光景に心が痛んだっけ…。
あの事故で亡くなった人だったのね。
「資料室、借りても良いかしら?」
「構わないよ」
「ありがとう」


蓮さんの店、カウンターの奥には資料室と呼ばれる書斎がある。
今までも、何度か利用させて貰ったけれど、見事な情報量なのよね。

資料室に入った私は、ファイルや本の背表紙を指で辿り、二週間前の情報を探す。
とても、有り難いのよ。好いてくれて、その想いを告げて貰える事って。
けれどね、私は、あたなの想いに応える事ができないの。うん…永遠に。
感謝はしてる。嬉しかった。だからこそ。成仏して欲しいの。
敢えて、見ないようにしてたけれど、
そんな血の滲んだ服で、憂いを含んだ顔で…歩くなんて悲しすぎるじゃない。
もしかしたら、生前好意を抱いていた人に、私が似ているのかもしれない。
幽体になってしまうと、途端に記憶が曖昧になってしまうって話を聞いた事があるから。
ちょっと、こじつけがましいかもしれないけれど。
その位の理由がないとね。何だか、物好きだなぁ、とも思ってしまうのよ。
雰囲気から、じゅうぶん理解るから。
あなたが、どれだけ素敵な人か、って。
「あっ…あった」
該当するファイルを棚から取り出し、食い入るように即読。
短時間に、脳へ注ぎ込まれる他人の軌跡。
その波乱万丈な人生に、思わず目頭を押さえる。


「蓮さん」
資料室から出た私は、切ない笑顔で蓮さんに声をかける。
「お疲れ様」
私の顔をチラッと見て、すぐに目を逸らして蓮さんは言った。
私はフゥ、と深呼吸して気持ちを落ち着かせると、
「それ、貰えますか」
蓮さんの手元にある花束と、お線香を指差して言った。
同時に、私の目からポロリと涙が零れる。
私を好きだと言ってくれた、あの人の生きた証と。
全てを理解想定して、準備を整えてくれていた蓮さんに。涙が零れる。
「いくら、ですか」
懐から財布を取り出そうとする私。
蓮さんは、私の腕を掴んで、それを止めると、目を伏せ微笑んで言った。
「もう、貰ったよ」

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3.

彼の、ノアさんの命の灯が絶えた場所。
そこは、人気のない十字路で。滅多に車なんて通らない。
私だって、数える程しか来た事がない。
こんな寂しい場所で。あなたは、一人。消えてしまったのね。
どうしてかしら。どうして、あなたなのかしら。
どうして。どうして、あの日、あなたは、ここを通ってしまったのかしら。
考えても仕方のない事を、ひたすら思い。
私は十字路の中心で花と、お線香を手向けて。
空を見上げ、その場に立ち尽くす。

夕暮れ時。オレンジ色の綺麗な空。
近くに来ているかもしれない。けれど、呼ぶ事はしない。
私は微笑んで、想いを馳せる。
好きだと言ってくれて、ありがとう。
少し驚いたけれど、とても嬉しかったです。
まだまだ、私も捨てたもんじゃないな、なんて…。ね。
あなたの想いに応える事はできないけれど。
誓います。
あなたの言ってくれた言葉と想いに恥じぬよう。
また、自分を磨いていく事を。
ザァッ―
突如、辺りに吹く柔らかく優しい風。
その心地良さに目を伏せると。
「…ありがとうございます」
「…!」
耳元で感謝を囁かれて。
背後から、抱きしめられる。
白く、綺麗な腕に、そっと手を添えて。
「こちらこそ」
そう告げると、風に乗って。あなたは 還って行く。

在るべき場所へ。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀

NPC / ノア・サルテハス / ♂


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

いつのまにか、蓮と、すっかり仲良しの設定になっております。
中盤、胸が熱くなっているシーン以外だと、敬語らしい敬語を使っていません(笑)
実は涙もろい、シュラインさんの優しさが表現できれいれば、と思います。

追記:このノベルと一緒に、ホワイトデーノベルの通信でお知らせしていた、
アイテム「セリルアの花束」を お贈りさせて頂きました。御確認下さいませ^^

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/03/14 椎葉 あずま