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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


恐怖!戦慄!三下忠雄の愛ラブYOU!

「あなたに‥‥アイツを何とかして欲しいの‥‥」
 もう私には手におえないのよ、あなたじゃなきゃあ。
 そう言われた時には全く、これっぽっちも‥‥そう、事態の深刻さを理解していなかったのだ、自分は──

 急遽呼び出された棗・響(なつめ・きょう)はぐったりとソファに沈み込む碇を前に、言葉を詰まらせた。
 ──え、えぇーっと‥‥?
 アトラス編集部全体の空気が淀んでいる。暗い、と棗は思った。
 目の前の碇は怒りで憔悴しているのではないらしい。これ以上ないほど暗く深刻な雰囲気に、棗は黙って出されたコーヒーを飲んだ。
 そこへ。
「HeyHeyHey! 一体どうしたんだいマイハニー!? いつになく沈みがちだねハニィ!」
 ──三下だった。
「お〜いおいおい、こんなところで休憩かい!? HAHAHA冗談はよせよこんな狭苦しい中じゃ息もつけないよ!」
 ──疑ったが、三下だった。
 いつもの眼鏡、いつものスーツ、いつもの髪型。しかしこのテンションは一体。
「ぐっ‥‥うぅっ」
 呻いた。口に入れたコーヒーが脱出を試みる。
 口を押さえたまま涙ぐむ棗に止めを刺したのは、三下だった。
「キミ‥‥美味しそうだね?」
「ぶっ!?」
 げほげほげふぉっ!
 飲んだ五割が気管に入り、軽く生死をさ迷った。いやいやいや、俺こんな事で死んじゃさすがにマズイでしょ?
「さっ」
 三下くん!?
 ギョギョッと目を見開く棗の前に迫る三下。軽く顎を上向けさせられた。
 光る眼鏡。唇舐める舌。
「ボクは今世紀最後の吸血鬼なんだ‥‥お願い、キミの生き血を頂戴?」
 やっぱ受けるんじゃなかったこの話。

●美味しく頂かれちゃって下さい
「い、碇サン? 一体何でこんな状態になったのさ!?」
 むせながら引きつるという高度な技を披露した棗を、どこか遠い目をした碇が言い返す。
「分からないから貴方を呼んだんじゃない」
 犠牲は一人でいいでしょう?
 ──今さりげに酷い事聞こえたんですけど‥‥。
 ソファの上でにじり寄る三下を精一杯仰け反って拒否する俺。え、何このツーショット?
「まずは、落ち着いて話しよう? キミ誰? 何で三下さん乗っ取ってんの?」
 遂にはソファから転げ落ちそうになりながら飛び降りる。向かいの碇が生ぬるい笑顔を向けてるのが気になった。
「ふふ‥‥照れ屋なキミ」
 すそそそそ。
「ひっ!?」
 素で魂が口から出そうになる。完全に棗を上回った動きで、三下に尻を撫でられたのだ。
「ウン‥‥いいね♪」
 何が!?
「美味しそう♪♪」
俺食べられちゃうの!?
 捕食される恐怖に青ざめ、碇に視線を移す。
 ──これ、絶対幽霊憑いてるよね。三下サンにこんな事出来るはずないし。
 ──あんまり考えたくないが、幽霊の気が済むまで付き合わなきゃならない‥‥のか、な?
 にこっ、と。普段ならありえない全開の笑みを浮かべた碇編集長が。
「任せたわよ♪」
 いつの間にやら手にしたのか、校正中の原稿を持って軽やかに逃げた。

「えー‥‥」
「ウン、二人っきりになったね☆」
 ぞわっ!
 全身の毛穴という毛穴から冷ややかな汗が噴き出し、鳥肌が立つ。お願いだから誰かこの腰に回った腕を離して。親しげに頬の隣で喋るのもヤメテ。
「いっ、いっ、生き血はいくらでも出すけど、」
「ありがとう、美味しく頂くよ‥‥」
 何かすっごく! それ以外の事されそーな予感が! するんですが! てゆかまたこのパターン!? ねぇっ!?

 ──頑張れ、棗。

●フルコース
「あんた達本当に現場行った? 文章に真実味がないわよ」
「はぁ‥‥」
 碇が通常運転に戻った頃、アトラス編集部自体もここ数日混乱が続いていたのも嘘であるかのように火種は鎮火していた。それもその筈、その元凶がいないのだから。ついでに碇が依頼したあの人どこ行った?
「あ、あの編集長? 三下と‥‥棗さん、は?」
 部下の質問に、厳しい目つきで原稿をチェックしていた碇の表情が止まった。真顔で見つめ返す。
「あんた達‥‥感謝しなさい」
 きぃ、と椅子が軋んだ。
「ま、‥‥さか」
「危険だと、この依頼は分かっていた筈よ。でも彼は、逃げなかった」
 しん、と。アトラス編集部は静まり返る。誰もが沈痛な面持ちで、それぞれの思いを堪えた。
 ──彼が来てくれなければこのアトラスはどうなっていた事だろう?
 ──彼が来てくれなければ、あの幽霊を自分達で追い出す事が出来なかったんじゃないか?
「感謝しなさい」
 威厳のある碇の声が、響く。それから、
「ICレコーダーの用意」

「‥‥はぁ、では貴方は日本の幽霊ではない、と?」
「そ〜うなんだYO! 分かってくれたかいマイスウィート?」
 きゅっ。
 どさくさに紛れて両手を握られた棗は、アトラスを出て5分のちょっと小洒落たレストランに食事にきていた。和食は嫌だというので、フランス料理店である。‥‥マイスウィートとか言ってるくせに。
「さてとりあえずワインで乾杯しようかハニー?」
 心労で倒れそうなのでハニー発言は総無視する事にした棗は、店員の物問いたげな視線にそっと視線を逸らした。お願いだから見ないで下さい。
「僕達の薔薇色の未来に、カ・ン・パ・イ☆」
 がちゃっ、と隣のテーブルのご婦人が水を倒した。

「──三下さん?」
 レストランの後連れ込まれた紳士洋服店でさんざん馬鹿高いスーツを選び放題選んだ後、二人は連れ立ってあちこちの店に出向いた。
 流行の店はどこだと言うので連れて行ったし、このダサイ髪型を変えたいと言うので美容院にも連れて行った。おかげで現在の三下は
「HUHUHUHUHU‥‥びゅーてぃほー‥‥びゅーてぃふるガイ‥‥」
 ショーウィンドウで金髪を乱し身を捩るナルシスナル君の完成である。元がいいだけに、シャレにならない事になってしまっている。
 ──碇編集長、これを見たら腰抜かしそうだよね‥‥。
 止めなかったんじゃない、止められなかったんだ。
「ん? おや、アレは」
 美しいもの、ヤバイもの、アレなものばかりに関心を示し、棗の胃をぎりぎりまで引き絞っていた三下がふと一点を見つめる。棗も追いかけると、そこは女子高生がたむろっていたゲームセンター。
 一瞬脳裏に、黒スーツで金髪で美形なナルシストが太鼓の達人でバチを振るっている姿を想像した。怖い。
「HU‥‥美しくも切ない甘美な一時を残そうか」
「え?」
「棗‥‥おいで」
「は?」
 女子高生をそのルックスでかき分け、棗の腰を取って中へ突き進んでいく。
『ちょっ、何今のオトコ二人!? やばくない!? ホスト!?』
『見た!? 攻め男と受け男! 腰抱いてたって!』
『リサに写メしよ、写メー!』
 勝手放題にさざめく女子高生の言動に意識が若干遠のく。その隙に連れ込まれたのは、
「うわあああ待って! 待って三下さん何してんの!?」
「HUHU‥‥さあ棗、恥ずかしがらないで? 自分を曝け出して」
「何を曝け出せと!? いや、待って、お願い、それだけは、ちょっとちょっと、ちょっと待ー!!!!!」
「U〜HUHUHUHUHU‥‥」
 プリクラ機械の中は個室だし台座あるし明るくてイロイロ便利。

●明け方5時
「そう、無事に浄霊出来たの」
 言葉少なな報告を終えた棗の虚ろな顔を見、碇は頷いた。彼が引きずってきた三下は金髪という陸サーファーのような髪色にタキシードという意味不明の変貌を遂げていたが、まぁそんな事はどうでもいい。
「それじゃ、俺はこれで‥‥」
「ああ、待って。今回の件を身近に起こったオカルト事件として次のトップ記事にするから、もうちょっと詳しく教えて欲しいのよ」
「‥‥‥‥‥‥」
 眉間に皺を寄せ露骨に嫌そうな顔をする棗に何が起こったのであろうか。昨日に比べ断然口数の少なくなった(顔つきも変わったのは気のせいか)彼自身も気にかかったが、正直落ちそうになっている原稿の方がもっと気になった。
「ねぇ、何があったのかは分からないんだけど‥‥ん?」
 相変わらず挙動不審な三下が動いた瞬間、何か小さな紙片が落ちた。何気に拾ったそれに棗が今日初めて動揺した顔を見せたが、ちらと見て‥‥
「‥‥なるほど」
 納得した。
 三下は乙女のように頬を染めていたが、棗は何かを失った者の目をしていた。
「これ、雑誌に載せるとまずい?」
「「月刊アトラスにですか!?」」
 それはちょっと方向性違うんじゃないの、と衝撃を受ける二人に、予め用意させていた取材班を指パッチン一つで呼び寄せる。にや、と口角が上がった。
「交換条件。文にするか、ビジュアルにするか。どちらが信憑性を増すかは決まりきったものだけれど?」
 すっかり意気消沈から甦った女王様に容赦はない。ちら、と三下を見ると何故か女子中学生のように視線を逸らされた。
「さあ、どっち?」
 すっかり物証と成り果てたプリクラの顔面蒼白な自分が哀れだ。
 
 ──やっぱり、受けるんじゃなかったこの話。

 自分のなくしたものを返して。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 4544 / 棗・響(なつめ・きょう) / 男性 / 26 / 『式』の長

 NPC / 三下・忠雄 / 男性 / 23 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員


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■         ライター通信          ■
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棗・響さま、ご依頼ありがとうございました!
こちらの都合で遅れに遅れて申し訳ありませんでした。シナリオはお気に召して頂けると良いのですが‥‥。

棗さま、お話の方は如何でしたでしょうか?
え? なくしちゃったじゃないか? 大丈夫、人生いつハプニングが起こるか分からないものですよ!
それにしても棗さま、結果的にどちらを選んだのでしょうね‥‥赤裸々にあんな事もこんな事も碇に白状(ゲロ)ってしまうのか、それとも憶測と推測オンリーで書かれた文章と共に例のプリクラを雑誌一面に載せてしまうのか。ううん、気になります。

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、またぜひよろしくお願いしますね。
ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより