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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


SHABUSHABU


 しゃぶしゃぶ。
 煮えたぎらせた湯、もしくは出汁の中に、薄切りにした豚肉や牛肉、少し厚めにきった魚の刺身、あるいは、火が通りやすい葉物の野菜をくぐらせて、ある程度熱を通した時点で引き上げる食事方法。
 煮込むのでなく、潜らせる。熱して底から味を引き出しながら、素材本来の新鮮な旨味も同時に両立させる、ものの食い方にしては上級的な、しかして、庶民にも楽しめる一般的な調理法である。
 同じものを囲んでわいわい言いながら食うのは楽しい。というわけで、今日はあやかし荘の管理人室で、呼ばれた数名が食材持参でしゃぶしゃぶパーティーとなったのだけど、ただ一つ誤算だったのは、
 この鍋が、例の不可思議ショップ経由で入手した、不思議系鍋だったのである。さーて先陣を切りますかと、ちんちんと沸いた出汁のはった鍋に橋で(もしくはしゃぶしゃぶ用網で)食材をしゃぶしゃぶでしゃぶしゃぶしようとした瞬間、
 鍋は、
 飛んだ。
 ――その鍋、中華四千年の歴史あり。人々に酷使させられてきた現実は、やがて、世界中同じ憂き目にあった鍋たちの怨念を吸収し、今必殺の大反逆を始めるという。
 確かに熱湯を満載した鍋が、人々の上を飛んでいく事態は、地味にやばい、というか本当にやばい事だ、だが、
 それよりも、駆け出す理由がある、そう、俺たちは、
 俺達はしゃぶしゃぶしなければならない!
 Do! Do! Do! と叫んだかは知らないが、ともかく管理人室に集っていた鍋☆戦士達は出撃するのである、あらかじめ出来ているのではない、そのお湯に、自分の食材をしゃぶしゃぶしなければならない、鍋ミッションの中でも高度なレベル、
 だが、それでも、しゃぶしゃぶは諦めないから――
 どう考えてもオチが、別の鍋用意すればいいんじゃ、とか、飛んでいるうちにお湯の温度が下がるとか、決まっていようと諦めないから――


◇◆◇


 いきなりだんごであるが、これが熊本名産として知れ渡ったのは某将軍だったりする両生類のアニメで有名になったものである。まぁそれはさておきいきなりであるが、時間は鍋がインザスカイする一時間くらい前に巻き戻る。
「ゼーット!」
 意味もなく、絶叫した訳ではない。少なくともガソリンスタンドの店員とは違って、明確な理由があったのである、それは、
「鍋ゼーット!」
 と、嬉しさを示す単位として、龍の玉よろしくゼーットと叫んでいるのである。ちなみにZとはこれ以降はもうないよという意味らしく、もうちょっと続きすぎた作者の気持ちを代弁しているのかもしれなく。
 なんにせよ、この必殺の単語を唱えられるのは、アニキと同じく熱い魂を持つ必要があるのだが、彼の場合、その資格は十分に有していて、なので、叫ぶ、叫ぶ、
「下準備ゼーッ」「やかましいわお主、決めポーズ取ってるなら手伝え」
「お茶漬けの元ゼーット!」「何鍋のつもりじゃ」
 体を竹とんぼのような姿勢にして、お前それじゃTやないかと、調理人の童女につっこまれはしていない青年が一人、黒スーツにグレーのシャツそして黒いネクタイ、ベルトを模した襟のブラウン以外はメンインブラック、はてさて20くらいの精悍な顔つきであるこの男、場所が場所なら朝の特撮番組イケメン主人公として採用されそうな、
 でも、実際そうなのである。しかし、実際そうではない。
 里見勇介はどこからどーみても某特撮映画、主演の青年であるのだが、そんなはずはない。何故なら今その主演の青年は、生放送の番組に出演中だからで、じゃあ彼は双子か、他人の空似か?
 実際は、人形なのである。某特撮映画の撮影用に作られた、本人そっくりの人形であり、そして、
「俺、里見勇介は、この青く美しい星、地球の平和を守る為に、野を超え山超え宇宙からやってきた、宇宙生命エネルギーなんです!」
「その自己紹介は既に聞きましたよ、というか、宇宙から来たのに野山を越えるのは」
 と、湯飲みをすすりながら冷静につっこみをいれる一人の尼に、「いやお主もまったりせず手伝えと」と童女がつっこんだ。
 里見勇介の正体は彼のおっしゃる通り、では、無い。
 確かに彼は、森羅万象だいたいの物と合体して、無理矢理ロボットに変形して稼動するという特技があるのが、それが融合合体という子供が喜びそうな名前、では、無い。里見勇介、その正体は、
「更に俺にはプラズマという、強力な火の玉攻撃がこの通りにあり、しかも融合を解除してエネルギー体に戻れば――この通り、物質透過、非実体化、透明化、浮遊等の何処かの誰かを守る為に使う正義の力が!」
 ぶっちゃけ幽霊で、融合合体じゃなく幽合合体ていうか単に物に憑いているだけなので、効果があるかは解らないが塩をぶちまけたのが童女で、なんみょーなんとかと適当に唱えたのは尼である。
 さて、その童女の名前は、「全く、鍋は簡単に見えるものじゃが、おでんの出汁と一緒で深いものじゃぞ」
 本郷源、おかっぱ頭の着物の元気娘。この容姿でおでん屋台を引きずり日本酒も嗜む人物。このあやかし荘にもよくやってくる娘っ子、今日は鍋をやるというので喜び勇んでやってきたのだ、そして、台所を借りて今日の材料を薄くスライスしているのだが、ここで、源じゃないもう一人の和服娘が、
「いんや、源。おぬしが豚しゃぶを作ろうというのはいいんじゃが」
 はぁ、っと溜息をつきながら、嬉璃、
「このあやかし荘の台所で、豚一頭からおろすというのは流石におかしいじゃろ」
「なんじゃ嬉璃どのー、マグロの解体も客の呼び水になる昨今ではないか」
「いくら汚れ対策は抗菌シートで完璧とはいえ、お主のせいでここに来た住人呼び水どころか、惨劇にあてられ逃げたり気絶したりしおったわ!」
 まぁ確かに、皿の上にででんと豚の頭が乗っているのはスプラッターである。これ見てひゃひょうと叫んで逃げ出さないのは、熱血というか天然ボケの幽霊くらいであろう。塩塗れな。
 ともかく、源が提案した鍋は豚しゃぶであった。
「けして牛の代用品ではないぞ嬉璃殿、豚肉の美味さはオンリーワンじゃ」
 さて、既に丁寧にスライスしているのはさつま黒豚の極上部位、一体どこで覚えたのか、慣れた手つきですっかり二十人前を用意、量が多いがそこはそれ、獣人の源であるからにして。まぁ余ってもここの管理人に、頭ごと進呈すれば良いんだし。
 そして供にするのはほうれん草、「こいつをさっとくぐらせて、タレに豚肉と一緒にくぐらせてほうりこむと、豚の濃厚な具合と、ほうれん草の甘い爽やかさが相まってのう。口の中がIT革命やー」「時事ネタはやめい」「今更何を」
 さて、タレはポン酢かゴマダレかー、ピリッと辛いチリ風味もあり、変り種でトマトペーストで、っと、
「ふふ、それでじゃ嬉璃殿! わしのしゃぶしゃぶ秘訣はこれだけに留まらぬのじゃ!」
「へー」
 もっそいどうでもよさそうだが、源の力説は続き、
「ちんちんと鍋に煮えたぎらせる湯なのじゃが、半分日本酒を使うのじゃ! 後は生姜を一欠けら! アルコールは飛び残るは純粋な日本酒のみ、とびきり辛口の酒を使う。それに肉をしゃぶしゃぶ泳がせる内に、香りをいい塩梅にうっすら纏ってのう、これが豚か、豚なのかと、ああもう味覚の海で溺れる心地で」
「で、じゃ、源。その日本酒は?」
 ……あれ? 確かここに置いていたはずなのに、「おーいお主ら、誰か」
 視線を泳がすと、酒盗(カツオの塩辛でなく)はあっさりと判明、
「何かおっしゃいましたでしょうか?」
 彼女は湯飲みでずずずとすすって、一升瓶をすっかり空にしていた。ちなみにつまみは、幽霊をとおりこしてテーブルについた塩である。まぁ抗菌シートだし。


◇◆◇


 鍋離陸三十分前。
「日々の事、これ全て修行。御仏に近づく為の道なり」
 という訳で、源の怒りを買ったので、酒もとい般若湯を買出しにいったこの尼の名前は妙延寺しえん、字面で頭をまるめているのかと想起されていたかたがたも多いだろうが、実際はふさふさ、というか川のように綺麗な、腰まで伸びた長髪である26歳。
 さて、一升瓶を五六本下げ一路帰路の、袈裟を纏うがこの彼女、絶世と奏でていい程に美しい。物語の登場人物、だいたいなべて美男美女、さてこの年でこの若さで、この道を歩もうと思ったのは一体どのようなドラマがあったのだろうかと思うだろう。実際彼女の実家は切った張ったのヤクザ家業、女だてらに生まれながら、三代目すら襲名の危機であった、ので、彼女は、
 《家出》をしようとした所“いえで”と“しゅっけ”を間違えた、と。
 実は美人じゃなかったかもなクレオパトラの、鼻が低ければ、と同じノリで、彼女がもっと国語を勉強していれば、という事になるかにみえて、もっと根本的な部分で駄目だと思う。
 でも、家業が嫌でこの身なのに、好きな人は仁侠映画俳優と、まだまだ尾を引きずっているというか――あ、例のテーマで携帯が鳴る。
「もしもし」
 本郷源からだろうと、ろくに画面を確認せず通話ボタンを押して、
『あーあんたかい? 私、蓮』
 ブチリ。
 ……。
 チャーチャー、チャチャチャー、ピ、『何もそんな邪険に』
 ブチリチャーチャピ「じゃからしいんじゃおどれぇ!? 何用じゃこら!?」
 尾を、引いているというか、袈裟からコルトを持ち出し己の通信機器に向ける程任侠であった。本人は否定するのだけれども。
 ともかく、目の前に居なくとも声だけでこれ程の行動に出させる相手は、アクティーックショップのあの女主人である。しえんにとっては因縁浅からぬ相手で、疫病神の類だった。
 またか! また私を地獄の一丁目に送る気かと、むきーと吼えていたのだけれど、
『いやいや、今日はそういう用件じゃないよ。あんたがあやかしん所で鍋をすると聞いてね? 忠告』
「忠告、でございますか?」
 しえんに冷静さが戻る、危うくドスが画面にキズをつける前だった。
「その鍋なんだけどねぇ、あやかしん所の客が来た時、ろくすっぽよくわからない品物だからほいってあげたんだが、よくよく調べてみればろくな鍋じゃなくてね」
 自分の店にまともな品がある訳なかろうボケェと、いちいちネットで調べる必要がない関西弁を心中に穏やかに浮かべるしえん。で、一応聞く。じゃあどんなんかなー? と、
『アトランティス、ムー、それに並べる世界三大謎文明の一つ』
 レムリア。
『まぁ……他の二つに比べてなんで有名じゃないかってぇと、単純に、実在の証拠が乏しいんだよ。人類発祥の地とすら言われてるんだけどね、どうだか』
「ともかく、あの鍋がレムリアの物という事でしょうか」
『レムリアっていう夢想が結実した、異界の落し物かもしれないさ、ま、どっちでもいいが』
「それで」
 もうとっくに、あやかし荘には着いている。だが、話は済ませておこう。
「それで、そのレムリアの鍋とやらが、何か問題があるのでしょうか?」
 あの鍋に一体何が。
『いや単純に高いもんだからさ、使ってはいいけど明日には返しておくれと言っておいて』
 はいはーいと言ってしえんは電話を切った。まさか、鍋が空を飛ぶなんて非現実的な事が起こるはずもない。
 ならばとっととしゃぶしゃぶやろうぜ、ひゃっほー肉だ酒だ祭りってもんじゃー、あ、どうも源さんお酒買って来ました。おおよいのを選んできたのう、もう鍋の準備は整っておる。はい解りました、今向かいます、あ、そうそう、
「材料はもってきてませんが、しゃぶしゃぶの作法についてはお教えする事が出来ます」
「「な、何ぃ!?」」
 源と嬉璃は、戦慄した。


◇◆◇


 鍋テイクオフまで五分前。
 しゃぶしゃぶである。で、しえんはヤクザの娘である。で、これをプラスに繋ぎイコールを置くと、その後に埋まる文字は、
「ど、どうするんじゃ嬉璃殿! どう考えてもああいうネタに走るのは明白!」
「まぁお約束みたいなものじゃしのう……」
 管理人室を借りて既に準備は万端である、大皿には華のように、油のキメも美しい豚肉が並んで、何より、レムリアの鍋はしゅーしゅーと、熱い湯気をたててい。で、今回の参加者は源と嬉璃にそしてしえん、後、例の幽霊里見勇介なんだけど、まだ来ていないみたいである。
 そんな事はどうでもよいくらい、モストワフクムスメコンビは頭を悩ましていた。
「いやいや、あやかし荘においてもしそのネタに走られたら、この不思議なアパートも警察の手入れがあるかもしれぬぞ嬉璃殿や」
「なんだかんだいって国家権力じゃからの、依頼になりそうな勢いじゃが、多分誰ものってこんじゃろうし」
「う、うむ。ここはどうにか穏便に」
「しゃぶしゃぶですが、まずゴムを腕に巻き静脈を浮き上がらせて」
「待てーい!?」
 普段つっこみ役じゃない源がつっこんだ。
「やめぬかしえん殿! 世の中でそんな血管から食べる物なぞなかろう! あったとしても栄養薬剤な西洋おつゆくらいじゃ!」
「それは、確かにそうですね」
 ああ、やっと解ってくれた。明るい鍋パーティーがあからさまにやばいパーティーになる所に、
「では折角火もありますし、アルミホイルにのせ舌から炙り、その煙を鼻から」
「ストーップ!」
「ではいっそそのまま微粒状にして鼻から」
「ではしゃぶしゃぶ始めるかのう、しえん殿箸もてーい!」
「ほうれんそうも早くしゃぶるのじゃ!」
 それ以上はいけない! とばかり相手に箸を持たせて、流れを無理矢理断ち切って、三人目を待たずにしゃぶしゃぶは開始される――
 ちょうど、その時、鍋は飛んだ。
「「「え?」」」
 そして浮かび上がる鍋から聞こえてきたのは、

「ポットマーックス!」


◇◆◇

 ポット! ポット! ポットマーックス!
 おお、幻の大地、大人達が忘れたー、ふるさとー。
 兎美味しいって思ってなかった? かって、
 そんな話題で合コンは盛り上がりやしない!
 ポット! ポット! ポットマーックス!
「融合合体!」
 ポットマーックス!

◇◆◇


 里見勇介が同化していたようなので、とりあえずしえんはコルトを撃った。あ、かわした。
『くう! 食べようとするだけじゃなく、撃ちまでするなんて、貴方達は愛を忘れたんですか!』
「うわー鍋が喋っておる」
「まぁそもそも先に歌っておったんじゃが」
 説明しよう! 里見勇介は宇宙生命体エネルギーと勘違いしている、記憶喪失の幽霊である! そしてこの勘違いと特殊能力が、レムリアのお鍋というレアアイテムと出合った事により、“これはプレシャス! お湯を入れた状態にすると宇宙から来たエネルギー生命体と融合合体する機能をもつ、レムリアの宝!”という設定になったのだ、勿論その時点で湯は滾っていたので、融合しないはずがない!
 で、そんな感じで身も心も鍋になっていたのだが、自分にむかって生肉や生ほうれんそうを押し付けてきたから、当然鍋は飛んで逃げたのだった。
 窓から、出て行くそれを見て、残された彼女の反応その一。
「……ふ、くくく、はは、……はーははっはははは! あんのボケェェェェエッェ!」
 絶叫の後憤怒。
「何が、何も起こらない鍋じゃ、空とんどるやないかボケ! ああ、無事返す!? 知るかぁ!」
 理不尽っぽいがさんざん蓮に煮え湯を飲まされてきた彼女にとっては、コルトとドスを振るうには十分な理由であり、そして窓から飛んでいって、
 あやかし荘の範囲を飛び回る鍋に、低い声をあげながら、阿修羅が如く戦った。鍋と。
 で、もう一つのケースの場合、
「おーい嬉璃殿、この鍋でよいかの」
「源、どうせわしと二人だけじゃ、小さいほうが」
「後で臭いにつられくるものもおろう。……よいしょと、セット完了」
「酒と水、あと生姜いれて、火」
「うむ、では滾るまで酒でもやるとするか、ほれ、三日前つけたスルメイカの塩辛じゃ。そろそろこなれてきておろう」
「それより和菓子が食いたい気分じゃのう」
 源は現実主義なので、飛んだ事はスルーした。で、嬉璃もこの程度茶飯事なのでそれに付き合った。


◇◆◇

 そんなこんなで、里見勇介VS妙延寺しえんである。
「ちょこまかぁ! しよ、……!?」
 鍋が逃げるだけでなく、攻撃すら仕掛けてくる。まだ冷めぬ熱い湯を携えたまま、しえんの後頭部を狙ってきた。俺の正義が死なない為の、やむをえない緊急行動なのであろう。しかし、
 しえんの唇が、ドスの流線型が如く歪んだかと思えば、
 おおよそ人間の速度でなく、彼女の振り返りは完了し、
 二丁のコルト。
「往生」
 何弁だろうと変わらないその単語一つもって、鍋の完全成仏を、が、

◇◆◇


「おお、よし沸騰開始、しゃぶしゃぶ開始じゃ」
「はぁ、やっと有りつけ」
 どすんと大地が真下に引っ張られて――
 ――その反作用によりバネが如く部屋が波打つそれの繰り返し
「な、なんじゃ地震、あー!?」
 地鳴りと振動の中で鍋はコンロから落ち、源が何も出来ない内その土鍋はがしゃんと、よりにもよって具材の上で割れた。
 声にならない悲鳴をあげてる中、いまだ納まらぬ揺れに小柄を供にさせながら、嬉璃、
「なんじゃあれ」
 驚いていいのか呆れていいのか、全く、

「ブレイブセーット!」
 巨大ロボットが、降臨していた。

 しえんには全体が見られない、余りにも間近であるために。肥大化途中のその形体に、顎にいいの一発くらったゆえ、彼女はロボの足元にいてしまう。質感は、まさに鍋の地肌である。これコルトとドスでどうにかなるものじゃない。
 そのデザインは全て鉛色で、顔は鍋が巨大化した。なお、中身に詰まってるのはパイロットでなく、今だたっぷりのお湯である。
「俺、参上!」
 こら。
 とにもかくにもナリがでかければ声もでかい、窓際の嬉璃が指で耳栓をする程である。流石にまずい事になってきた、里見勇介、ロボットに変形出来るのは知っていたがまさか巨大化までとは。
「伊達に、アンティークショップ経由の鍋じゃないという事かのう、源……」
 その時、源は、
 アフロだった。
「えー!?」
 素で嬉璃が驚く程である、せっかくの鍋が台無しにされた彼女は、まさに、怒髪天を突く! その紫色のアフロは、彼女の長い息吹と供に、ゆっくりと色を変え量も増え、
「えー!? 黄金色じゃとー!?」
 しかも彼女自身全てが発光していた。着物が脱げると既に仕込んでいたか解らぬアフロンジャースーツであった、いやもはやこれはアフロンジャーではない、鍋の無念は世界の無念、明日の為に戦うこの戦士の名前は、
「スーパーアフロンジャーじゃあああ!」
 吼えた彼女は窓から飛び出すと、まず、巨大な鍋ロボの足元にいるしえんを救出、「あ、あらま」そして彼女を後ろに座らせると、燃え上がる怒りとアフロと供に、
「帰ってきた! 戻ってきた! 今この地に何時振りか! 遠からん物はネット中継! 近くば携帯ムービーで保存!」
 アアフウロオンウジャア、
「超必殺!」
 指をつきたて源はそして、
「スーパーアフロンジャーロボォ!」
 それ、技じゃなくて兵器。
 しかし源の呼びかけは、SPA(温泉でなくスーパーアフロンジャーの略)のAP(アシスタントプロデューサーでなくアフロパワーの略)三万の(麻雀でなく数字)力によって、あらゆる時空を超えて届き、
「な、あれは、仏像!?」
 いやしえんさん、ロボットの髪型はパンチでなくアフロである。ていうか何処かのロボットにアフロをのっけただけである。
 しかし今回はスーパーとだけあって、金色にピカピカ光っていた。源はそれがここに着地するのを待ちきれず、垂直に飛び上がり、下部から一気にコントロールルームへ、操縦桿を握り、スイッチを押して、モニターにポットマックスを映す、
 対して、鍋は叫んだ。
「……貴方の、正義は間違ってる!」
 里見勇介、「争いでは何も、解決しない!」
「やかましい!」
 本郷源、「言うて解らぬ輩には、アフロの鉄拳をお見舞いせねばならぬ!」
「譲れないんですか!」
「譲れぬ!」
「ならば俺は、自分の正義を信じる!」
「お主如きが正義を語るな!」
「行くぞぉぉぉぉ!」
「来んかあああああい!」
 なおこの口喧嘩で、あやかし荘住民の二割が気絶した。なのにこれから暴れようとしてみれば、「ちょっと待てい源!? お主あやかし荘を潰す気か」
「く、悲しいですけど、これって戦争なのでございます」
 しえん、ふっと流し目になってるけど、多分、戦争の意味間違って解釈してる。ともかく、今巨大な二対の正義は、
「おおおおおおお!」
「あああああああ!」
 駆け! 飛び! 激突して!

 お湯が零れた。
「お」
 アフロが外れた。
「あ」

「「おあああああああああ!?」」
 説明しよう! ポットキングはお湯が沸騰する事によって里見勇介と融合合体するのである! なので零れたので変身解除。
 で、スーパーアフロンジャーロボとは、ぶっちゃけどこぞの巨大ロボにアフロを被せただけっぽいので、外れるとモザイクかけるだけでは間に合わなくなるのだ、なので、強制消滅!
「俺は、負けたんですかあ!」
「だからアフロは地毛だけじゃあ!?」
 どしーんと、
 地面に激突したのは、一人。
「……俺の特殊能力、浮遊!」
「早く降りてこんと、しえん殿にお経唱えさせるぞ」
 別に幽霊ではない自分なのだが、何故か身体が引きちぎれるような想いなので、既に唱えている彼女の前に行った。ああアフロ解けて逆ギレ気味の源さん塩やめて塩。


◇◆◇


 後日談。
「全く、お主が融合とかなんとかかましておかねば、今日のように鍋が食えたのじゃ!」
「……だけど、俺は止まれない」
「いやそこかっこつける所ではない」
 例のしゃぶしゃぶをやりなおししているのは四人、面子は源、勇介、嬉璃、そして、
「まぁしかしうまいもんだね、やっぱ鍋は普通が一番かねぇ」
 アンティークショップの主人、レンである。
「にしても蓮殿があやかし荘に来るとはのう」
「ん……忙しくなった奴の代わりだよ、なくなくじゃないか」
「何処かでまた、悪の気配があるんですか?」
 もぐもぐ食べながら器用に会話をする三人、さて、レンは食べる為じゃなく応答する為に口を開き、
「例の鍋にコルトで銃弾あけたら、レムリア異界の奴ら怒ったみたいだから、本人に詫びいれさせにいってんだよ」


◇◆◇

「あ、あのアマァ、」
 捨てたはずのヤクザ家業、けど今日もこうして仏の名の下、ドンパチ爆発雨霰、
「ぶっころしちゃるぅ!」
 インド洋上で彼女の髪と、二丁拳銃ドスと輝く。
 勿論この後、妙延寺しえんと女主人の関係が、龍と虎並に悪くなったのは言うまでもない。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 1108/本郷・源/女/6/オーナー 小学生 獣人
 2352/里見・勇介/男/20/幽者
 6833/妙延寺・しえん/女/26/尼僧【比丘尼】

◇◆ ライター通信 ◆◇
 やっほー(ろくな挨拶が思いつかなかったらしい
 いやでも本当に思いつかないので方々にトーキングナウします、早い。
 本郷源のPL様、おひさしゅうございます。相変わらずのアフロラブっぷり堪能致しました。豚しゃぶ、いいですよねぇ……。行儀悪いですけど鍋にのこったスープごはんかけてずるずる食うのも、ラーメンいれてずるずる行くのも! ……でも今日の昼ごはんはカップラーメン78円の予定です。えーん。
 里見勇介のPL様、始めまして、今回の発注ありがとうございました。まさか鍋役をかってでてくれるとは思いませんでしたので凄いなと。ただ、先週始まったばかりの戦隊ネタをいれなかったのが心残りですワキワキ。
 妙延寺しえんのPL様、依頼では始めましてです。直接的に蓮たんとは絡ませられなかったので、ちょっと物足りない部分があったかもしれません。でもオチに使えて助かりました。(えー)あと例のネタはこれが限界ですいません。
 では短いですがこれにて、またよろしゅうお願いいたします。