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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


恐怖!戦慄!三下忠雄の愛ラブYOU!

「あなたに‥‥アイツを何とかして欲しいの‥‥」
 もう私には手におえないのよ、あなたじゃなきゃあ。
 両手で疲れたように顔を覆う碇編集長に、フォローの言葉が見つからない。
 ──彼女がこれほどまでに憔悴するというのは、一体どういった理由なのだろう?
 その時だった。
「HeyHeyHey! 一体どうしたんだいマイハニー!? いつになく沈みがちだねハニィ!」
 ──三下だった。
「お〜いおいおい、こんなところで休憩かい!? HAHAHA冗談はよせよこんな狭苦しい中じゃ息もつけないよ!」
 ──疑ったが、三下だった。
 いつもの眼鏡、いつものスーツ、いつもの髪型。しかしこのテンションは一体。
「しかしキミ‥‥美味しそうだね?」
 碇の言葉に被さるように、ソファに座るあなたの横に滑り込む三下。軽く顎を上向けさせられた。
 光る眼鏡。唇舐める舌。
「ボクは今世紀最後の吸血鬼なんだ‥‥お願い、キミの生き血を頂戴?」


●美味しく頂かれちゃって下さい
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 記憶(メモリ)にある三下とあまりに違い、人型退魔兵器・R−98Jは感情の篭らぬ目で黙って三下を見つめ返した。
「「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」」
 至近距離で見つめ合う三下とロボット少女、それを見守る碇・麗香。違和感しか醸し出してない雰囲気に呑まれるアトラス編集部。
 ──目が故障しているのでしょうか。
 目の前で潤む瞳に、誤作動を起こしそうなボディを必死に押さえつつ、R−98Jはやはり黙って見続けた。いけません、ロボット三原則です。
「AH‥‥その瞳、恋に揺れてるね」
 耳に飛び込んできた言葉に、一瞬制御不能に陥りかける。ぎし、と若干ぎこちない動きで向かいに座る碇を見た。
「何か悪いモノに憑かれているようです」
 断言した。
 一見少女にしか見えないR−98Jに、碇が真顔で彼女の意見を聞き入る。
「これは私達よりも、より除霊などの心霊技術に長けた‥‥」
「小さなレディ。君のハートは今、ボクに対する憧れで溢れているんだろう? 愛に‥‥年齢は関係ないよ」
 ボディに、からみつくように腕が巻きついた。ヒューズが飛ぶような感覚を覚え、
「や、やああっ!」
 叫ぶ。

 ところで、このどっからどう見ても人間の可愛らしい女の子に見えるロボット、実は戦闘ロボである。
 90年代にとある御国が退魔用に作った兵器で、銃火器から軍刀、大口径の榴弾砲、ロボットならではの高初速砲なども実装する。
 要するに、成人男性一人に取り押さえられても平気、むしろ叩きのめす事が出来るわけだ。
 が、一番の問題は彼女が『量産型』という点にある。その事実を知る碇は、

「ちょ、ちょっと三下! 止めなさい、離れっ‥‥」
 慌てて三下を引き剥がしにかかったが、時既に遅し。
「全軍緊急出撃! 繰り返す全軍緊急出撃!」
 パニックを起こした彼女は、『R−98J』を呼び出していた。

 ズドーン、ズドドドーン!
 と凄まじい音と爆風が巻き起こる中、珍しく動転した碇は天井を突き破って下りてきたそれらに眩暈を起こしそうになる。
「三下ぁあああああっ」
 一人しか呼んでないR−98Jが徒党を組んでやって来たその様子は実に怖い。
 全く無表情だからか、それが何十体もあるからか? 違う、彼女達が手にしているものが紛う事なき敵殲滅目的の『武器』だったからである。
「はわ、はわわ、状況開始!!」
「ちょ、待」
「はは、こんなにたくさんの子に愛されるなんてモテる男は辛いね。愛のハーレム‥‥だな」
「寝ボケたこと言ってんじゃないわよこのボケナス!」
 ああ、ああ、あああ〜‥‥
 あちこち駆けずり回って集めたオカルト資料が。血反吐を吐く思いで終わらせた原稿が! 風に舞って飛んでいく!
 ついでに言っちゃうと場所を考えず呼び寄せたロボット達は、何人かの人間(アトラス編集部員)を巻き込み多くの悲鳴を生んだが、こんなのは序の口である。
 ガチャン、と銃口が三下の首を絞めていた碇の方に向いた。
 ──え? ちょ、ちょっとR−98J? じょ、冗談でしょう?
 ひく、と碇の顔が引きつる。そんな緊張感溢れる場を崩すのも、やっぱり三下であった。
「フフ‥‥しょうがないね、一人ずつだよ?」
 寝言に激鉄は落ちた。

●愛の営み、ある意味ハーレム
「R−98J! 落ち着いて! お願い、次の発売は明後日なのよぉおおおっっ!!!!!」
 取り乱した碇の慌てっぷりが、更に集団でリンクしているR−98Jに伝播した。
「あ、う、発売が明後日、明後日、明後日‥‥」
 言いつつ少女の手が素早くカートリッジに手が伸びている。どうやら情報がパニックのせいで処理しきれてないらしい。
「三下の阿呆! ちゃんと詫びて! 雰囲気を読め! 謝れこの馬鹿たれ!」
 碇のピンヒールをまともに食らうどころか自らハーレム、もといR−98Jの群れの中に飛び込んでいく三下。いつもより流れる髪は、恐らく十四日間お試ししたからと思われる。
「HAHAHA、キミ達は本当に積極的だね? オーケイ、もちろんボクも積極的な子は大好きさ!」
「ひああっ、特攻! 特攻! 標的を押さえ込め!」
 完璧に碇の声が耳に届いていないR−98Jは、ずんずんずんと近づいてくる嬉々とした男(何故スーツが乱れていない?)に対し特攻を呼びかける。
「Ohっ‥‥」
「はわわわーっ!!」
 別のR−98Jの相手をしてる隙にと腕を掴んだR−98Jを、ぎぅと抱きしめる三下。どよよっ、とまたも混乱が伝播する。
「このアホがーっ!!!!!」
 スカーン! と脱いだヒールが三下の後頭部を直撃したが、彼は笑顔だ。びくり、と一斉1メートル退くR−98J達。
「あ‥‥う、ぜ、全軍‥‥」
「こんなにボクを愛してくれてるんだね‥‥嬉しいよ」
 びし、と衝撃に揺らぐのは建物だろうかロボ含む人だろうか。

「さんしたあああ!!!」
 激怒する碇の声すらもう砲弾の音に紛れて聞こえない。気のせいだろうか、遠くから聞こえてくるサイレンの音は?
「ひゃああっ、ひゃあ、ひゃあ、ひゃああーっ」
 ロボには聞こえない少女の悲鳴が、あちこちから聞こえている。ただの人である筈の三下をどのR−98Jも足止めする事も敵わず、結局彼を仕留めるための方策がとられていたが、全てに於いてリンクしているこのパニックのせいか、上手く仕留められない。
「やあ、ハニー。待たせたね」
「ぴっ」
 服についた埃を軽く払うと、とっておきの笑顔で最初にこの部屋に来ていたR−98Jに手を差し伸べた。咄嗟に銃口を向けるが、弾が出ない。
「ああ、こんなに汚れてしまって‥‥いけないよ、レイディ? キミはいつも美しくいてくれなくっちゃ」
 意味不明、理解不能、制御不可。
「はわ、はわっ、はわわわっ」
 ぶぅん! と重い空気を切り裂く音がした。何とか隅に這って逃げたアトラス編集部員は、見た。少女が軍刀を振り回すのを。
 ‥‥もちろん、一体目が始めればそれが全体に伝わるわけで。
「わああああそれはそれだけはっ! 切らないでぇええええ!!」
 一斉に軍刀を振り回すR−98Jの集団に、アトラス編集部の生き残り達があわあわあわと舞い踊る。
 切り裂かれていく原稿。ヨダレのついたメモ。ああ、それはルポライターの緊急連絡先‥‥!
「お、終わった‥‥」
 三下のせいで、この月刊誌が。

●ハーレム解散、主行方不明
「で? それで、犯人は誰になるんですかいのー?」
 ピーポーパーポーと鳴り響くサイレンの中、一番現場の被害状況が酷かったアトラス編集部に足を踏み入れた刑事は『こりゃあ酷い』と眉をしかめた。
 金庫が狙いか? いいや、これは愛憎が絡む事件? 或いは無差別テロか‥‥。
「はんにん‥‥?」
 無表情で崩れつつある建物を眺めていた碇が、救急車に搬送されていく部下を背景にぽつりと呟く。
「そう、この建物をこんなにしちゃった犯人だよ」
 可哀相に、きっと衝撃にまだついていけてないんだな。
 哀れみを込めた目で見ると、中途半端に髪留めが外れた髪が風に流れる。普段きつめの美人なのだろう彼女は、今日は魂が抜け切ったかのように呆然としていた。
「はんにん‥‥」
「そう、見たんなら指名手配するから」
「軍用兵器をハーレムにしようとした三下が犯人よ、ええ絶対確実にあいつが犯人よっ!」
「は?」
「柿澤! 三下はどこ!?」
 ハッと瞳に光を取り戻した碇が刑事を押しのける。
「三下さんならR−98Jの集団と海辺を走るって微笑みながら駆けていきましたけど」
「刑事さん! 海岸通手配して下さい! ハーレム罪と幼女誘拐罪と職場暴動罪で!」
「は、はーれむ罪? よっ、よよよ幼女誘拐!!???」
 事態がやけに大きくなっている。真相は知らんが、目の前の妙齢の女性は本気で怒り狂っていた。
「わ、わわわ分かった、そんな大層な凶悪犯なんだな? 新渡戸! 本部に連絡しろ!!」
「三下‥‥戻ってきたらただじゃ済まさないわよ‥‥」

 その頃、とある海岸で。
「全軍配置! ひょ、標的を」
「AHAHA、AHAHAHAHAHA来てご覧よ仔猫ちゃ〜ん!」
 ざざ〜ん、ざっぱーん。
 茶の間を騒がせているとは露知らず、波打ち際を走っていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 6691 / 人型退魔兵器・R−98J / 女性 / 8 / 退魔支援戦闘ロボ

 NPC / 三下・忠雄 / 男性 / 23 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員

 NPC / 碇・麗香 / 女性 / 28 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長


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■         ライター通信          ■
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人型退魔兵器・R−98Jさま、ご依頼ありがとうございました!
こちらの都合で遅れに遅れてしまって、本当に申し訳ありませんでした。シナリオの方は如何でしたでしょうか?

三下が以外に手強いですね(笑) R−98Jさまが可愛らしいのでヒートアップしたようです。
混乱に告ぐ混乱でしたので、実際のところ三下がどうだったのかは分からず、解明シーンはありません。
ですがこうなると、我に返るのはあまりにも可哀相な気が‥‥。

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、またぜひよろしくお願いしますね。
ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより