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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


山道
●オープニング
 真っ暗な山道。
 腕時計は午後11時32分をしめしている。
 小川真由子(おがわ・まゆこ)は、動かない車を忌々しげに蹴り、逆に痛みで小さく悲鳴をあげた。
「全くもうっ、これだから田舎は嫌いなのよっ」
 母が危篤だ、と呼ばれて実家に戻ってみれば、嬉々とした顔でお見合い写真をとりだした。その笑顔に、安心半分、怒り半分。否、安心1/3、怒り2/3というところだろうか。
 高速を下りてから、山一つ登って下らなければならない。
 怒りのままにお見合い写真を踏みつけての帰り道、車が故障して動かなくなってしまった。
「……お見合い写真の呪いかしら……!!」
 呟いたところへ、ヘッドライトの光が目に入った。
 これを逃したら帰れないかもしれない。
 真由子は非常灯を揺らして、停車を求めた。車はそれが見えたのか、真由子を通り過ぎた少しのところでとまってくれた。
 運転手一人、男性だったが、真由子は背に腹は代えられぬ、と事情を説明し乗せて貰うことにした。
「助かりましたー。夜道で車が故障して、ホントに困ってたんですよー」
「……いえ、こちらも嬉しいですよ……道連れができて」
「え?」
 山道を下り始め、日光いろは坂並のカーブが続く。ここで車がガードレールに突っ込む、なんて話、よく聞いていた為、慎重に運転していた場所だった。
 しかし男性は一向にスピードをゆるめる気配がない。
「え、ええっ、危ないですよ! これじゃ崖に落ちちゃいますからっ」
 後部座席で真由子は慌てて体を左右に動かす。
「……」
 バックミラー越しに、男性が、ニヤリ、と笑った。

 その後、その山道で車が故障し、通りがかった車に乗せて貰うと、何故か女性が一人増えていて、崖下に真っ逆さまに落ちてしまう、という噂が広まった。
 それは本当のようで、幸い命に別状はないが、けが人がでている話しだった。

「ここが、噂のカーブですかぁ〜。……確か、この辺りまでくると車が急に動かなくなって……、あ、あれれれ???」
 車はまるで駅に入る電車のように、すうぅっと一定の位置までくると、とまってしまった。
 三下忠雄が腕時計を確認すると、23:32と浮かんでいた。

●山道
「それじゃ三下くん、よろしくね」
 パティ・ガントレットが、月刊アトラス編集部のドアをくぐると、碇麗香の滑舌のいい声が聞こえた。
 パティは盲人用の杖であたりをさぐりつつ、閉じた瞳を声の方へと向けた。
 いつものように面白い情報はないか、と探しにきて、ついでに三下をもてあそびにきたのである。
「三下様、どこかへ行かれるのですか?」
「あ、ちょっとR県の山奥に」
「それならば、わたくしも同行させていただいてもよろしいですか?」
 パティの言葉に碇が顔をあげる。
「そうね、三下くんだけじゃ頼りないし。お願いするわ」
「了承しました」
 優雅に一礼した。

「三下様」
「はい?」
 後部座席に乗っているパティの顔をバックミラー越しにみる。
「デートみたいですね」
「デデデデデデ……」
 急なハンドリングにタイヤがなさけない悲鳴をあげた。
「そんな運転しては、山道にさしかかる前に事故を起こしますよ」
 しらっとした表情でパティは山道の方へと顔を向けた。
 どこまでいってもかわらぬ景色。
 それでも空気の色と空の色が連動してかわり、それに応えるかのように、木々の色が変化する。
 パティはそれを鋭くなった『四』感で感じる。
「三下様」
「……はい?」
 今度は何を言われるんだろう、という表情で三下はちらりとバックミラーを見た。
「本日の取材の詳細、お聞かせ願ってもよろしいですか?」
「あ、はい……」
 三下は思い出すように前方を見つめつつ、しどろもどろに話はじめる。
 数ヶ月前にこの山道で、心中のような事故があった。
 警察の調べで、後からその二人は全くの赤の他人であった事がわかり、山道に停車していた故障した車の持ち主が、一緒に亡くなった女性だという事が判明した。
 その事件後、この山道である時間になると車が動かなくなり、一台の車が通りかかる。その車に乗ると、崖下に真っ逆さま、という事らしい。実際、その車に乗った人物は、崖におちる寸前に車から突き飛ばされて、多少の怪我ですんでいたらしい。
「ほぉ」
 小さくため息のような相づちをうち、パティは目頭を軽くもんだ。
 辺りはすっかり暗くなっていた。
「ここが、噂のカーブですかぁ〜。……確か、この辺りまでくると車が急に動かなくなって……、あ、あれれれ???」
 アクセルをいくら踏んでも車が動かない。
 三下はチェンジレバーを何度も動かしてみるが、一向に動く気配はない。
「三下様、時計を確認してみては?」
「あ、そうですね!」
 腕時計のライトをつけて、時間を確認すると23:32と浮かんでいた。
「れ、例の時間ですね」
 慌てて三下が車外に出ると、その姿を後続のヘッドライトが照らす。
「あ、ちょうど車が通りましたね!」
 ライトに照らされたせいか、三下はすっかり取材の事を忘れ、後続の車に向かって大きく手を振っている。
 パティは小さくため息をついて、三下に続くように車外へと出た。
「すみません、乗せてくださーい」
 後続車は三下を少し過ぎたところで停車した。
 そして音もなくドアが開かれる。
「タクシーみたいですね」
 純粋に感動を抱きつつ、三下は頭を下げながら後部座席に乗り込んだ。
 それに続き、パティも杖で辺りをさぐりつつ車に乗り込む。その手には何故かカメラとメモが握られている。
「すみません、麓のガソリンスタンドまでお願いします」
「……大変ですね……」
 ボソボソッ、と聞き取れないくらいの声。運転手は男性のようだった。
 パティは安堵の息をつく三下とは対照的に、車の中を感じるように感覚を集中させる。乗車人数は3人。噂できく女性は乗っていない。
 わからない程度にさらさらっとメモをとる。
 前方の暗闇を照らすのは乗っている車のライトのみ。それもどこか心許ない薄暗さを感じる。
「……どうして乗ってきたの……」
「えっ!?」
「……」
 三下とパティの間、後部座席の真ん中に忽然と女性が姿を現した。
 三下は驚愕にピッタリと窓にはりつき、パティは隠したメモ用紙に書き込む。
「実はあなたの取材にきたのです。アポイントが無くて申し訳ありませんが、お話、聞かせていただけたら」
「……取材……?」
 女性は不思議そうな顔でパティを見る。
「小川真由子様、ですか?」
 パティの言葉に真由子は目を見開く。そして膝を見つめるように項垂れる。
「どうしてこんな事をしているのですか?」
「……あの人が……」
 小さく、囁くように呟く声。
 真由子が言うには、一緒に死んだ運転手の妄執に巻き込まれ、夜ごと同じ事を繰り返しているのだという。
 そしてまた、新たな犠牲者を産もうとしている。
 なんとかそれを阻止出来れば、と自分が逃げようとした際に開いたドア、それが同じように繰り返される、だから落ちる寸前に同乗者を車から降ろしている、という事だった。
「元凶は前の男性か……」
 パティは軽く顎をつまみ、思案するようにうつむく。
 三下は酸欠の金魚のように口をパクパクさせつつ、女性と運転手の男性とを交互に見ている。
「とにかく、崖に近づく前に車を停車させなければならないですね。ここでわたくしと三下様が助かっても、小川様が同じ事を繰り返すのであれば、わたくしがここへ来た意味がありません」
「……意味……?」
 ふと、パティの瞳が開かれる。綺麗なアイスブルーの瞳が現れた直後、車はピクリとも動かなくなった。
 真由子が再びパティを見たときには、すでにその瞳はかたく閉じられており、右手の人差し指と親指で両目をマッサージしていた。
 パティが瞳を開いた事で、車に呪いをかけ、動きを封じたのだ。
「き、さま……」
 ぐぐぐぐ、と鈍い音がして、運転手の首だけが後ろをみる。
 それに三下は「ひぃ」と情けない悲鳴をあげて、精一杯後部座席の背もたれにしがみついた。
「怨念ですか。そのようなものをはびこらせておくわけにはいきません」
 パティの本職は魔人マフィアの頭目。これくらいの脅しなど、とるにたらぬもの。もっとも、意識を集中しているパティには、現在どのような状況になっているのか、手に取るようにわかるが、後ろを振り向いた男性の表情まではわからない。
「もうすでに道連れを作っています。これ以上の犠牲者は必要ないでしょう」
「うる、さい……」
 がたがたがた、と強風にあおられるように車が激しくゆれた。
「吼えたところで微塵も恐怖など感じません。これ以上何かをしようというなら、わたくしにも考えがありますよ」
「だま、れ……」
 更に車の揺れは激しくなる。
「何故あなたが死にたかったのか、その理由は分かりませんが個人の問題に他人を巻き込むのは承服できかねます。……お眠りなさい、永遠に」
 再びパティの瞳が開かれた。
 と同時に三下とパティは車外に放り出される。
 車は破裂音をさせて炎上し、砂が風に吹かれるように、粉になって霧散していく。
「……ありがとう……」
 真由子の声が、空からふってきた。
 炎は浄化。
 どんな憎しみも悲しみも、全て浄化し、空へと返す。
 パティは双眸に重い疲れを感じながら、メモ用紙を三下に渡す。
「こ、これは……?」
「三下様は、状況に流されてすぐに本質を忘れるところがあります。気をつけた方がいいですよ」
 もう、車も動くと思いますよ、とパティに促され、三下は転びそうになりながら、パティのメモ用紙を握りしめ、車へと向かっていった。
 小さな風が、パティの銀色のツインテールをゆらした。

「ほんっっっっっっっっとに助かりました!」
 翌日、アトラス編集部を訪れたパティに、三下は米つきバッタのように何度も頭をさげる。
 昨日パティが取材しておいたメモが役たったようだった。
「別にかまいませんよ…」
 また、面白い情報を提供していただければ。
 そう呟いた言葉は、三下の耳に届く事はなかった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4538*パティ・ガントレット*女性*28歳*魔人マフィアの頭目】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、こんにちは夜来聖です。
 この度は私の依頼にご参加くださりまして、誠にありがとうございます。
 私のなりのパティさんを書かせていただきましたが、いかがだったでしょうか?
 もうちょっと三下くんをいじって遊べたら…と思ってしまったり。
 パティさんの能力をどのように使って表現しようか、と迷ってこのような形になりました。
 それでは、またの機会にお目にかかれる事を楽しみにしております。