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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


カリー・カリー・カリー

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0.オープニング

「うわっ…」
テーブルの上に並べられた食材の山にギョッとする俺。
「あ。おかえりなさい。お兄さん」
満面の笑みで迎える零。
何だ…この嫌な予感は。
苦笑しつつ、俺は問う。
「どうしたんだ。これ。もしかして今夜は御馳走か?」
言いつつ考えるが、思い当たる節がない。
俺の誕生日でもないし、何かのイベント日って訳でもない。
記念日…なんて、特にないしなぁ。
考えていると、零は恐ろしい言葉を口にした。
「お兄さん、闇鍋って知ってますか?」
「………」
絶句。
どこで覚えてきたんだ。それ。
「お兄さんの、大好きなカレーでやってみようと思って」
語尾にハートマークが付きそうな勢いの口調。
駄目だな。これは止めても無駄だ。
完全にウキウキしてやがる。
いや、うん。カレーは好きだよ。かなり。大好物さ。
零の作るカレーなんて、特にな。上手いし、あの微妙な辛さが。
けど、それはあくまでも「普通のカレー」の場合だ。

「…はぁ」
テーブルに並ぶ食材を適当に手にとりつつ溜息。
胃薬、用意しておかなきゃな。っていうか。
誰だ。零に、こんな恐ろしい事教えた奴。出て来い。今すぐに…。

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1.

『もしもしっ。冥月さん、今日、暇ですか?』
電話をとった途端、名乗る事もせず、私に問う少女。
聞き覚えのあり過ぎる その声に、私は苦笑して返す。
「何だ。やぶからぼうに」
『一緒に夕飯、いかがですか?』
「…ん?まぁ、構わないが」
『良かったぁ!じゃあ、何か…ひとつ食材を持ってきてもらえますか?』
「…?わかった。あ、そうだ。丁度、上海蟹を貰ったから、それを持って行く」
『蟹!蟹ですか!…いいですねぇ〜!』
私は笑い、「じゃあ、後で」 そう告げて、電話を切る。

食事、か。丁度良いタイミングだったな。
夕飯、どうしようかと考えていたところだ。
着替えを済ませつつ、貰った上海蟹を影内から、三匹取り出す。
そんなにたくさん持っていっても、無駄になるだろうからな。
最高級の上海蟹だ。どんな料理に使われても、味は保障できる。
目に浮かぶ、零の喜ぶ顔に微笑み。ジャケットを羽織って、興信所へ。


電話を切る直前、「鍵は開けておきますから」 と言っていた事を思い出し、
私は躊躇う事なく、興信所の扉を開けた。すると。
ダダダダダダ―
けたたましい足音を響かせて、零が出迎えにやってきた。
「邪魔するぞ」
前屈みでブーツを脱ぎながら私が言うと、零は間髪入れずに。
「蟹っ。蟹を下さいっ!」
そう言って、両手を差し出した。
何だ。珍しいな。こんな、がめつい零…初めて見る。
そんなに嬉しいのか。蟹が。私は微笑んで、蟹の入った箱を渡す。
「ありがとうございますぅ〜!!」
そう言いながら、猛スピードでキッチンへ走って行く零。
珍しいと言えば珍しいが、歳相応のはしゃぎっぷりに、思わず顔が綻ぶ。

「…らっしゃい」
キッチンで、零の手伝いをしながら言う草間。何だ、そのテンション。
「どうした。便秘か?」
ジャケットを脱ぎつつ、冗談を口にする私。
「…いや」
ローテンションな草間の声に、目を丸くする私。
何だ。いつもなら、「その発言 女じゃねぇわ」 とか言うのに。
どうしたんだか…。
「夕飯は、何にするんだ?」
探るような目で見つつ問うと、草間は俯いてボソリと呟く。
「闇カレー」
「は…?」
キョトンとした途端、プツリと所内の灯りが落ちる。
「な、何だ?」
突然暗闇にブチこまれた私は、あたりを伺いながら、若干慌てる。
「闇カレーパーティを始めます〜!」
暗闇の中、響く零の意気揚々とした声。
闇カレー…って。まさか。
「おい、零。ちょっと待っ…」
ドボン―
時、既に遅し。放り込まれた見事な音に、私はガックリと肩を落とす。
まぁ、影内に まだ たくさんあるから、良いけどな。
良いけど…いやいや…良くない状況だよな。これは…。

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2.

「…闇鍋とは。日本には妙な食習慣があるのだな」
うっすらと明かりの灯るリビングで私が呟くと、草間はソファにダラしなく座りつつ返す。
「誰が教えたんだかな…っとに…」
溜息混じりに言う草間を見やった後、何故か、ソファの下に視線を落とした私。
クッションの下に、一冊の雑誌が。雑誌のタイトルは"世界の珍料理"
数日前、私はタイトルに興味をひかれ、その雑誌を手に取った事を思い出す。
「あっ。そういえば…」
クッションの下から雑誌を取り、パラパラとめくる。
中間、何故か厳重に袋とじされているページ。やはり、封が切られている。
私は、該当記事の載ったページを開いて見せ、言う。
「これだな。間違いなく」
「………うわぁ」
闇鍋について面白可笑しく書かれた、そのページを見て苦笑する草間。
その笑顔からは、これは仕方ないな、という思いが滲み出ている。
私も、そう思う。チラッと見ただけだったが、零なら興味を持つ。
楽しそうだと感じるのに、十分な力を兼ね備えた記事だからな。
「手伝った方が、良いか?」
暗がりの中、キッチンで御機嫌な零を見やりつつ言うと、
「是非」
草間は激しく頷いて即答した。
やれやれ。まったく、しょうがないな。
スッと立ち上がり、キッチンへ向かう。
「零。何か手伝…」
「ああっ!いいです!お客様は座ってて下さい!」
レードルを持ったまま、声を張って言う零。
普段、あまり聞かない零の大きな声に、思わず笑う私。
「だそうだ」
肩を竦めながら、リビングに戻ると、草間はボソリと呟く。
「っとに、冥月には甘いよな…」
「ははは。まぁ、悪い気はしないな」
向かいに座って言うと、草間はクッションに顔を埋め、わざと声を篭らせて言う。
「まるで、女に対する扱いじゃねぇか。間違ってる…」
ボフッ―
「いてっ」
投げつけられたクッションを取り、クックッと笑う草間。
「聞こえてるぞ。残念ながら、はっきりと」
「聞こえるように言ってんだよ」
「貴様…」
身を乗り出し、一発殴ろうとした時。
「で〜きましたよ〜〜〜!」
キッチンから、大きな鍋を持って零がリビングへトコトコと歩いて来る。
何の変哲もない、いつもの光景から一転。
辺りに漂う、妙な香りが、これから起こる悲劇を物語る…。


不味い。
その一言に尽きる。何だ、この味は…辛うじてカレーの味はするものの。
様々なものが混ざり溶け合って、後味が不快極まりない…。
それよりも、臭いだ。臭いが酷い。
零め。嫌がらせかのように、生臭いものばかりを入れやがった。
蟹を持って来たのがアダになったか…。
あぁ…最高級の上海蟹が、こんな無残な姿に…。
ガックリと肩を落とす私と、青褪めた顔で放心状態の草間。
ローテンションな私達とは逆に、零はハイテンション。
何が、そんなに楽しいのか…理解に苦しむ。
「えっと〜。今、お皿に昆布が入っている人〜挙手願いまぁす」
突然、仕切り始める零。私はキョトンとして問う。
「何だ?」
「あ。冥月さんのには、ないですね。私のにも…ないです。お兄さんは?」
質問に答えず、仕切り続ける零。何だ何だ。昆布に何か仕掛けでもあるのか?
「…うぉ。俺だ」
ひきつり笑いを浮かべながら、自身の皿の底から ベローンと昆布を掬い上げて見せる草間。
昆布、丸ごとかよ。いやいや、そんなツッコミは置いといて、だ。
「昆布に、何かあるのか?」
改めて問うと、零はフフフッと含み笑いを浮かべて言う。
「王様ゲームちっくな感じです」
王様ゲーム?聞いた事はあるが、やった事はないな。ルールもよく理解らん。
一体、どういう…。
「じゃあ、お兄さん。何でも好きな命令をどうぞ。指名制です〜」
ほほぅ。そういうゲームか。意外と簡素なんだな。
ふむ。残念だ。私のには、やはり、ない。
あれば、草間に屈辱を味合わせてやったのに。そうだな、例えば…。
スプーンでカレー内を探りつつ、少し呆けていると。
「じゃあ、冥月を指名で」
苦笑しつつ、草間が言った。私はハッと我に返り、顔を上げる。
「王様。ご命令を、どうぞ〜」
はしゃぎつつ言う零の言葉に促されて、草間はクッと笑い、告げる。
「セクシーポーズで」
「はっ!?」
ワケのわからない命令に声を張上げる私。
「ほら。冥月。早くしろ。王の命令だぞ」
「冥月さん、王様の命令は絶対なのです」
兄妹揃って私を見やる。貴様等…こういう時は、ここぞとばかりに息を揃えてくるな…。
仕方ない…。私はバッと俯き、髪をかき上げながら、ゆっくりを頭を上げて、
艶っぽい眼差しで草間を見やり、挑発するように 前のめりになって胸を強調して言う。
「こんな、感じ…で。どうだ」
「…グッジョブ」
「あははははっ。やぁだ。お兄さん。やらしい〜」

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3.

「ぁぁぁぁ…うぷ…」
三度目の嘔吐から戻ってきた草間。酷い顔だな。まるで死人だ。
まぁ、見直したよ。というか、再認した。お前が、優しい奴である事を。
何十人分もあった、あのカレーを。お前はバクバクと食った。
残っちゃった…と寂しそうな顔をした零を見て、いてもたってもいられなくなったのだろう。
妹思いと言うか、シスコンと言うか。まぁ、とにかく。少し、無茶をし過ぎだ。
「ちょっと待ってろ」
ソファで眠る零にブランケットをかけて、私はキッチンへ。
折角の上等な蟹だしな。普通に料理してやらねば。蟹が不憫だ。
長い髪を結わいてから、影内から一匹、大きめの蟹を取り出し調理開始。


「ほら。食え」
コトンとテーブルの上に置く、二種類のサラダ。
一つは、大根とカニのサラダ。わさび醤油か、しそドレッシングで。
もう一つは、大根の麻婆サラダ。ピリ辛だが、後味さっぱりだ。
テーブルに突っ伏していた草間は、サラダを見やると目を丸くして言った。
「うぉ。すげ…」
「無理でも食え。大根は、消化を促す」
結わえた髪を解き、向かいに座って、私はテーブルに頬杖をつく。
眼差しに催促されて、草間はフォークを手に取り、サラダを口に運ぶ。
サッと作ったからな。味は…どうだろう。ジッと見つめていると、
「美味い」
草間は、口元についたドレッシングを指で拭いつつ言った。
「それは良かった」
目を伏せ、微笑む私。
「これ、ビールに合うんじゃねぇか?」
もっさもっさとサラダを食べつつ言う草間。物を食べながら喋るな。
「飲める状態じゃないだろう。大丈夫か?」
私が問うと、草間は笑って 「大丈夫」 と頷いた。
ビールは特別、か。やれやれ。
席を立ち、冷蔵庫からビールを拝借。グラスを草間の前に置き、注ぐ。
綺麗に泡立つビールが、テーブルランプの明かりに照らされて妙な輝きを放つ。
ほんの数秒、その不意打ちに見惚れていると。
「いい奥さんになるな。冥月」
草間が、私を見上げて言った。
その言葉も、また不意打ち。私はパッと目を逸らして。
「何を言い出すんだ、お前は。馬鹿か」
眉を寄せて言う。とはいえ、私も女だ。
例え、冗談でも。そう言われて嬉しくないワケがない。
眉は寄っていても、口元は笑っている。笑って、しまう。
「言っとくけどな、冗談じゃねぇぞ。マジで、そう思う」
心を読んだかのように、追い討ちをかける草間。
私はペシッと草間の後頭部を叩く。
「煩い。いいから、食え」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

王様ゲームで、ほんのちょっと遊びました(笑)
ここは、やはりセクシーポーズだろう。と。すみません。思考がオヤジです。
終盤は、例によって…お砂糖で(笑) 家庭的な一面に椎葉がメロメロですとも(笑)

このノベルと一緒に、ホワイトデーノベルの追伸で記していた、
アイテム「ガーベラのピアス」を、お贈りさせて頂きます。御確認下さい。

気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/03/16 椎葉 あずま