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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


カリー・カリー・カリー

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0.オープニング

「うわっ…」
テーブルの上に並べられた食材の山にギョッとする俺。
「あ。おかえりなさい。お兄さん」
満面の笑みで迎える零。
何だ…この嫌な予感は。
苦笑しつつ、俺は問う。
「どうしたんだ。これ。もしかして今夜は御馳走か?」
言いつつ考えるが、思い当たる節がない。
俺の誕生日でもないし、何かのイベント日って訳でもない。
記念日…なんて、特にないしなぁ。
考えていると、零は恐ろしい言葉を口にした。
「お兄さん、闇鍋って知ってますか?」
「………」
絶句。
どこで覚えてきたんだ。それ。
「お兄さんの、大好きなカレーでやってみようと思って」
語尾にハートマークが付きそうな勢いの口調。
駄目だな。これは止めても無駄だ。
完全にウキウキしてやがる。
いや、うん。カレーは好きだよ。かなり。大好物さ。
零の作るカレーなんて、特にな。上手いし、あの微妙な辛さが。
けど、それはあくまでも「普通のカレー」の場合だ。

「…はぁ」
テーブルに並ぶ食材を適当に手にとりつつ溜息。
胃薬、用意しておかなきゃな。っていうか。
誰だ。零に、こんな恐ろしい事教えた奴。出て来い。今すぐに…。

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1.

興信所に立ち込めるカレーの香りに苦笑する私。
ドアを開けて、ふんわりとカレーの匂いがした時は、嬉しかったんだけどね。
今晩はカレーか。って。零ちゃんの作るカレーって、凄く美味しいから。
でも、事実を知って。思わず笑っちゃったわ。
ほほぅ、とうとう やっちゃいましたのね。って。
闇カレーかぁ…。まぁ、これだけ面白可笑しく記事になってちゃあ、
零ちゃんが興味を持ってしまうのも、無理ないわよね。
クスクスと笑いつつ、闇カレーの記事が載った新聞をテーブルの上に置き、
ソファで絶望的な顔をしている武彦さんにツツッと寄って私は言う。
「まぁ、でも、ほら、カレー粉って傭兵さんの必需品てくらいだし。何入れても、ある程度の味にはなるものよ」
私の言葉に眉を寄せ、苦笑しながら、武彦さんは言う。
「凄い気休め、ありがとう」
「大丈夫、大丈夫」
私は微笑みながら、武彦さんの目の前に、胃薬を置く。
「お前…何、この矛盾」
ククッと笑う武彦さん。うん。確かにね。私も、そう思うわ。つられて笑う私。

「シュラインさ〜ん」
エプロン姿のまま、薄暗いキッチンから出てきて私を呼ぶ零ちゃん。
「うん?」
振り返って見やりつつ声を返すと、零ちゃんはニッコリ笑って。
「食材、頂戴します」
両手を差し出して言った。
食材。うん。持って来た、というか、買ってきたわよ。
本を買いに行ってた時に、零ちゃんが電話で言ったものね。
何か、食材を一つ買って来て下さい、って。
今晩は、何にするの?って聞いてもフフフって笑うだけで、
全然わからなかったから。だから、私は。
「はい」
零ちゃんに手渡した物を見て、武彦さんはギョッとして言う。
「ちょ…お前、それ…」
「だって、何を作るのか わかんなかったから。とりあえずデザートを…ね」
ヘヘッと笑う私。そう、私が買って来たのは、桃のプリン。
美味しそうだったんだもの。ちょっと高価かったけど。
「桃のプリンだぁ〜。美味しそうですね〜」
嬉しそうに笑う零ちゃんを見て、私は頬を掻きながら言う。
「えへ。多分、とっても ふるーてぃーで、まろやかなカレーになると思うの」
「棒読みだよ。おい」
すかさずツッコミを入れる武彦さん。あはは。バレた?
でも、ほら。実際、カレーに果物入れたり牛乳入れたりするじゃない。
だから、案外いけちゃうかも……ね?
「溶けやすそうですよね。プリンって」
ポツリと零ちゃんが言った言葉に、武彦さんが、すかさず返す。
「溶けるも何も、即効で馴染むだろ。…忍者の隠れ身みてぇに」
面白くて的を得た武彦さんの例えにクスクス笑う私。
確かに、そうね。いつ入れても良いかも。
でも、折角買って来たからなぁ。
食べる直前に入れてみて欲しい、っていう気もするような?
「うーん。入れるタイミングは、零ちゃんに お任せで」
結論から、私がそう言うと、零ちゃんは嬉しそうに頷いて、
「もうすぐ出来ますから〜」
そう言ってパタパタとキッチンへ戻って行く。

「桃プリンか…」
ボソリと呟いて肩を落とす武彦さん。
私は笑いながら立ち上がり、武彦さんの肩をポンと叩いて言う。
「食器と、御飯の準備して来るわね」

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2.

「お待たせしましたぁ〜〜!!」
ドカッとテーブルに鍋を二つ置く零ちゃん。
「作りすぎだろ…」
愕然として言う武彦さんに、零ちゃんが言う。
「一つは、普通のカレーですよ。シュラインさんの提案で」
「おっ。粋な計らい…さすがだな」
こんな事言うと、楽しそうな零ちゃんに失礼だけど。
一応、ね。口直しに…。私はクスクス笑う。
「じゃあ、いただきましょう〜」
零ちゃんが、意気揚々と鍋の蓋を取った瞬間。
ブワッと立ち込める、斬新なカレーの香り。
何…入れたのかしら。これ。
「取り分けします〜」
レードルを鍋に入れて、カレーを軽くかき混ぜる零ちゃん。
その時、見えてしまった。私は、見てしまった。
レモンがたくさん入ってる…。
一瞬見えただけで、レモンは、すぐに沈んだ。
うん…。カレーの底には、レモンが敷き詰められてる状態…ね。了解。
「どうぞっ」
「あ、ありがとう」
苦笑しつつ、カレーを受け取る私。
「はい、お兄さんの分」
「………」
もはや、絶句の武彦さん。
うん。まぁ、無理もないわ。見えちゃったものね。底が。
でも、ほら…匂いは、こんな感じだけど。美味しいかもしれないわよ。意外と。
…レモンの他にも、目を疑うようなものがあるけど、ね。魚の頭とか…ね。


うん。残念。
そう、うまくはいかなかった。見た目はグロッキーだけど、美味しいかも。とか。
淡い期待を抱いた私が、お馬鹿さんだったわ。
酸っぱい。もう、レモンの味しか しないの。
桃プリンは、一体どこ?って感じ…。
舌が痛くって、何だか、頭もズキッとする。
それに加えて、時折、プゥンと生臭い魚の香りがするのよ。
舌で感じる”酸っぱい” と 鼻で感じる ”生臭い”
その板挟みときたら、もう…。
「うぷ。もう限界。無理。ギブアップ」
カチャン、とスプーンを手放して、早々に戦線離脱する武彦さん。
あっ、ズルイ。私も…。そう思い、続こうとしたけれど。
隣で必死にカレーを食べ続ける零ちゃんを見て、私はギョッとする。
「れ、零ちゃん?無理しちゃ駄目よ?」
私が言うと、零ちゃんは必死に笑顔を作って。
「残しちゃ食材、勿体無いですから。言い出したのは私ですし」
そう言った。
「れ、零ちゃん…」
物凄く無理しているのが、わかる。
そんなに額に汗を滲ませて…顔色も、悪いような。
あぁ、もう…。隣で、そんな無理されちゃあ、離脱なんで出来ないじゃない。
「そうね。手伝うわ」
私は、再び、カレーを口に運ぶ。
零ちゃんと二人で、何度も。何度も。
酸っぱくて生臭いカレーを。何度も口に運ぶ。
食べても食べてもなくならないような。
減ってないような。そんな気がするのは、気のせい…?
終わりの見えなさに不安と、ほんのり恐怖を感じつつカレーを口に運ぶ私達。
それを、武彦さんは、苦笑しながら見ている。
”普通”の美味しいカレーを食べながら。
は、薄情者ぉ…。

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3.

「う、うぅー…」
ソファに寝そべって、情けない声を漏らす私。
向かいのソファでは、悪夢にうなされているかのように眉を寄せた零ちゃんが眠っている。
良く眠れるわね。羨ましい…。
私は、気持ち悪くて眠れない。
目を閉じても、こう、何ていうか胸がモヤモヤと…。
「大丈夫か?」
苦笑しながら、傍に座る武彦さん。
私は苦笑返しをしながら、小さな声で、少し嫌味に呟く。
「残念ながら、芳しくないです」
武彦さんは頭をワシワシと掻きながら返す。
「無茶しすぎなんだよ。結局 ほとんど、お前が食ったじゃねぇか」
「だって…」
手伝うわ、って言ったからには、途中で止めるわけにはいかないじゃない。
…うん。零ちゃんの早々な戦線離脱にはビックリしたわよ…。
まぁ、仕方ないとは思うけどね。かなりキツそうだったし。
頑張ったわよ。零ちゃん”は”、ね。

「武彦さんって、薄情よね」
少し意地悪な口調で言うと、武彦さんはハハッと笑う。
あっ。笑って誤魔化した。…まったく、もう。
目を伏せて、ハァと溜息を吐く私。
気持ち悪いなぁ…どうしよう。一応、薬は飲んだけど。
喉、渇いたな。水、飲みたい。でも、動くのキツイ…。
目を伏せたまま色々と考えていると。
「シュライン」
武彦さんが名前を呼んだ。
私は目を開けて、武彦さんを見やる。
「ほら。口、開けろ」
「えっ…」
私は目を丸くして問う。
「どうしたの、それ」
「一個だけ、余ってたから」
武彦さんは、桃のプリンを掬ったスプーンを私の口元に差し出している。
そっか。余ってたんだ。入れ忘れかな…?
うん、いや。そんな事は、どうでもいいね。
うん、いや。っていうか。ちょっと…。ねぇ。
「はずかしいんだけど…」
クスッと笑って言う私。武彦さんは急かすように返す。
「要らないなら、俺が食うぞ」
「あっ。待って。食べる食べる。食べます」
「ん」
トロンと喉を伝う桃のプリン。甘くて、美味しい。
幸せそうな私の顔を見て、武彦さんもプリンを口に運ぶ。
「ん…。このまんまの方が、美味いな。やっぱ」
「そうね」
私は、フフッと笑う。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

…スウィーティーな話になってしまいました(笑)
ドタバタした挙句、いつものようにシュラインさんの見事な気配りを…と思っていたのですが、
途中で路線変更(笑) お任せされると、ほぼ、こんな感じになってしまう模様です(笑)

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/03/17 椎葉 あずま