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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


サクラウタ

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0.オープニング

「うっわぁ。すっご〜い…」
大木の周りを荒れ舞う桃色を目の当たりにして、驚愕する萌。
「…確かにな」
荒れ舞っている桃色、その実態は「桜」
桜の花びらが。どこからともなく溢れて周囲を桃に染めている。
しかし、妙な光景だ。
まるで、桜が この大木を護っているかのような…。
「で?どーすんの?ディテクター」
萌に問われ、言葉を返す事なく。
俺は大木に向けて銃を構える。
チャキッ―
「えっ!ちょ、ちょっと!」
幹か。枝か。それとも、別所か。
先ず、この桜吹雪の出所を探る必要がある。
という訳で、とりあえず大木と話してみようと。思った次第だ。
「待った待った待ったぁぁっ!!」
ドカッ―
全身でタックルして、俺を阻む萌。
「…何だ」
「いきなり それはないよ!可哀想じゃないかっ!」
背伸びをして胸倉に掴みかかり、真剣に訴える萌。
バシッと 萌の手を払い、襟を整え。吐く、ごもっともな台詞。
「…じゃあ、どうするんだ」

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1.

まだ芽吹いてはいない、か…。
深夜の散歩中、吸い寄せられて。桜の樹の下、佇む私。
春が近付く度に…いつも、いつも。何とか、ならぬものかな。
この、胸をしめつけられるような。痛み。
亡き あの人が愛した桜。
私を吸い寄せたのは、あなたなのか。な…。
などと考えていると、ヒラリと一枚。桃色の花びらが視界に飛び込む。
芽吹いてもいないのに…どこから。
あぁ、そうか。あなたからの贈り物…。
そう判断した私は 手を広げ、その花びらを受け取る。
もしも、本当に"彼"からの贈り物ならば。とても素敵な話なのに。
現実は、そう甘くない。ピンッと耳を劈く音。
私は、その不快な音に目を固く閉じる。
そして、瞬間 悟る。
招かれた事に。


ばふっ―
「っ…!!」
パッと目を開き、視界を埋める桃色にギョッとする私。
「な、何だ。これはっ」
ガバッと身を起こすと、その桃色が、全て桜の花びらである事が理解る。
同時に、ここが、何処であるかも。
「あっ!冥月さんだ」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには萌の姿。傍に、ディテクターも居る。
やはり。ここは、異界だ。
桜の花びらの中に居る事も不思議な話だが、それよりも。
辺りに舞っている桜の花びらの量が、尋常じゃない。
幻想的だとか、美しいとか。そういうレベルじゃない。
ここまでくると、もはや ”災害” だ。
いや、事実そうなのだろうな。あの二人を見れば理解る。
この状況を何とかしようとしている所なのだろう。おそらく。

「久しぶりだな。萌」
髪に纏わり付く花びらを払いながら言うと、萌はニコッと笑い言う。
「ですねっ。っていうか、ナイスタイミングです。冥月さん」
ナイスタイミング、ね。まぁ、お前等にとってはな。
私は、また面倒な事に巻き込まれた気がして仕方ないよ。
「で。どうなってるんだ。これ」
腕を組み見やって問うと、ディテクターは桜の木を顎で示して説明を始める。
ディテクターの説明は、酷く簡素で、所々重要な箇所が抜けている。
そこを聞き詰めようとすると、すかさず萌が補足。いつもの事なんだけど、
…何と言うか。よく見る光景のデジャヴのような。妙な感覚だ。
「なるほどな」
説明を聞き、現状を把握した私は、
影で巨大な剣を作って、その切っ先を桜の木へ向ける。
確信は持てないが、何らかの処置にはなるだろう。
切り倒せば。
「ちょっと待ったァァっ!!」
ドカッ―
「むっ」
「駄目駄目駄目駄目〜っ!可哀想じゃないかっ!!」
私にタックルした後、そのまま腰元にしがみついて叫ぶ萌。
私は剣と化せた影を、ゆっくりと戻しながら返す。
「…じゃあ、どうするんだ」
私の言葉に萌は、ふてくされて呟く。
「何だよ。同じ事言うなよなぁ。もう…」
何か他に策があるのか?あるなら、言ってみろ。
それに賛同するとは限らないが、
内心、これ程 見事な桜の木を伐るのは心苦しい。
突発的に、おそらく元凶であろう元を絶てば良いのでは、と思っただけだ。
実際、異界の異変なんぞ、どうでも良い。
私には、無関係な事だ。ただ…。
「明日は用があるから、夜明け前には、向こうに戻りたいんだ」
胸元に留まる無数の花びらを叩き落として言う私。
別に急いているワケじゃない。急く必要はない。
たかが、あの馬鹿とのドライブだ。もう一度言おうか。
別に急いているワケじゃない。急く必要はない。
そんなに、気合いを入れて準備なんぞ、しないしな。断じて。
ただ、早めに眠っておきたいんだ。
寝不足で、あの馬鹿の相手をするのは酷だからな。
目を伏せて、そんな事を考えていると、妙な視線を感じた。
パッと目を開くと、ニヤニヤと萌が笑っている。
「な、何だ…?」
少し退いて言うと、萌はニタッと笑って。
「デート?」
「ばっ、だ、誰があんな奴とデートなんか…」
目を逸らして返す私。その姿を見て、萌とディテクターの声がハモる。
「「デートか」」

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2.

「いいんだ。そんな事は、どうでも!それよりも、これだ。これっ!」
話を逸らすように、辺りに荒れ舞う花びらを指して言う私。
「デートかぁ。冥月さんの彼氏って、どんな人なんだろ。想像できないなぁ」
こ、このクソガキ。人の話を聞け。イラッとざわつく心。
「まぁ、確かにな…」
追い討ちをかけるかのように、萌の言葉に反応するディテクター。
貴様等、本当に解決する気あるのか…?
苛つく私を他所に、興味津々で さりげなく詮索を続ける萌。
払っても払っても身体の各所に留まる花びらが、更に苛立ちを増幅させ。
「しつこい。貧乳のガキは黙ってろ」
私は、胸を張りつつ萌を睨んで言った。
萌は、眼差しに怯みつつ私の胸を見やり、ムッとした表情で言う。
「何なのっ。ちょっと胸が大きいからって。女の価値は胸じゃない!」
「でも、お前が貧乳なのは紛れもない事実だ。期待の兆しも見えんな。残念ながら」
「うっさいっ!大きな御世話だっ!」
悔しそうな顔で、戦闘体勢をとる萌。まぁ、冗談だろうがな。
「ふ。『NINJA』 如きが私に逆らうか。そんな装備、私には通じんぞ」
勝ち誇った笑みを浮かべ、萌を見やる私。数秒間の睨み合い。
そこに、ディテクターが冷静に仲裁へ入る。
「おい。くらだない争いは、その辺にしておけ」
…くだらないって。お前も多少食いついていたじゃないか。
でもまぁ、確かに。こんな事やってる場合じゃない。
とっとと、解決してしまわねば。この荒れ舞う桜を。


「桜が…木を護っているように見えるのは、私の思い違いかな」
まるで機械のように規則的に荒れ舞う桜を見つつ、思った事を口にする私。
「あぁ。俺も、似たような事を、先刻…考えた」
ジャケットをバサッと振るい、留まった花びらを払いつつ言うディテクター。
うん。そうだよな。何となくだけど…。
花びらに意志があって木を取り巻いているか。
木の意志、もしくは指示に近いもので、花びらが取り巻かされているか。
この二つの、どちらかのような気がする。根拠はないけれど。
「木と、お話出来れば良いんだけど…」
ウウンと唸って言う萌。
木と話す…か。
話せるかどうかは、わからないが。やってみる価値はあるな。
「でも、近づけないんだよね。この花びらが邪魔してきて…」
確かに、このままじゃ木に近寄る事も出来んな。
向こうも、近寄らせないように必死なのかもしれない。
「この花びら共を、どうにかすればいいんだな」
巨大な影を放ちつつ言う私を見て、萌は不安そうに言う。
「うーん。そうなんだけど…」
大丈夫だ。木を傷付ける事はしない。落ち着いて話せる状況を作る。それだけだ。
操られた影は、トンネルを模る。
「うわぁ。すごい!便利だなぁ…それ」
羨ましそうに言う萌と。
「器用なもんだな」
ボソリと呟いて感心するディテクター。
荒れ舞う花びらは、全て影の表面に吸収される。
要するに、この中を進めば 何の障害もなく、木まで辿り着けるわけだ。
「足元、気を付けろよ」
そう告げて、トンネルを模した影の中へスタスタと入って行く私。
萌とディテクターも、その後に続く。

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3.

影内を進み、木まで辿り着いた私達。
桜の花びらで、よく見えなかったが…。
こうして間近で見ると、本当に。見事な桜の木だ。
どうして、こんな人気のない所にポツンとあるのか、とか。
誰が植えたのだろうか、とか。
思う所は多々あるが。まぁ、良い。
私は木に、そっと触れて声をかける。
「何か、不満があるなら言え。解決してやるから。私は、早く帰りたいんだ」
私の発した言葉に、すかさず反応するは、萌。
「そんなにデートが楽し…」
「煩いっ」
肩を竦めて苦笑する萌。ったく…ガキは、しつこくて嫌だ。
呆れていると。
パキン―
枝の折れる音。
私達は一斉に、音のした方を見やる。
折れて落ちた枝を、萌が手に取って首を傾げる。
「何だろ?」
何かを、伝えようとしているのは理解る。けれど、これだけじゃあ…。
「ここだ」
ディテクターが木の一部を指差して言った。
「なになに?…あっ」
枝を持ったままディテクターが指差した箇所を見やって、驚く萌。
ディテクターが示した箇所。そこには、白い斑点が無数にあった。
「これは…」
「ゼ・ガッハだ」
「は?」
ディテクターが発した、聞き覚えのない言葉に首を傾げる私。
「少し前に流行った奇病だ。人にも感染する」
あぁ…そうか。この木は、病に もがいていたのか。
この桜吹雪は、人を寄せ付けないようにする為…と。なるほど。
「可哀想に…」
木を撫でつつ、今にも泣きそうな萌。
「治す術は、ないのか?」
私が問うと、ディテクターが呟く。
「聖薬を塗れば治る」
聖薬?何だ、それは。再度、首を傾げる私。
「植物学者が作った特効薬。でもなぁ、手に入れるの大変なんだよ。あれ…」
ハァ、と溜息をつく萌。入手困難な代物なのか。
となると、すぐに解決はできないという事に…。
「持ってる。少量だが」
懐に手を突っ込んで呟くディテクター。
「えぇ!?すごいっ!!何でぇ!?」
驚きつつ喜ぶ萌。ディテクターは何も言わず、
取り出した聖薬とやらを、病んだ箇所に塗る。
まったくだ。何故、持ってるんだ。入手困難なんじゃないのか。それ。
疑問を抱きつつ、病んだ箇所を見やっていると、スッと白い斑点が消えた。
「あっ…消えた」
「わー!良かったー…。良かったね…」
ギュッと木に抱きついて喜びを露わにする萌。
何も言わずにサングラスをクイッと上げるディテクターを見て、私は思う。
何か、臭う。こいつ、もしかして。
「…貴様。最初から理解っていたのではないか?この木が病に侵されていると」
あまりにも、準備が良すぎる。
聖薬とやらが、どれだけ入手困難な物なのかは知らないが、
萌の口調から、その程度は相当だと。私は思った。
なのに、サッと出した。お前は。怪しい。怪しすぎるだろう。
ジッと私が見つめると、ディテクターはフイッと顔を背けて。
「さぁな」
そう言い捨てて、スタスタと進んで来た影内を引き返して行く。
「あっ。ちょっと待て。貴様っ」


「とっても助かったよ。ありがと」
手をヒラヒラと振りつつ、笑顔で言う萌。
ディテクターは、解決報告をして来ると言って、どこかへ行ったまま。
協力してやったんだ。見送りくらいしろよ…。
何だか、スッキリしない気分だが…まぁ、解決されたから良しとするか。
「じゃあな」
背を向けて"東京"への帰路につく私。
「デート、楽しんでねぇ〜!!」
大声で叫ぶ萌。私はピタリと足を止め振り返り、叫び返す。
「だから、デートじゃないっ!!」

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / ディテクター / ♂

NPC / 茂枝・萌 (しげえだ・もえ) / ♀


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

初の異界ウェブゲームという事で。何だか新鮮でした^^ 参加ありがとうございます。
こう…萌が、某少女(笑)と被っているような気がするのは、意図的です(笑)
同時にミステリアスディテクターが確立されたような…(笑)

試行錯誤しましたが、ラストは”余計な御世話”で終わる、と(*´ー`)b
あっ。桜の花びら、頭につけたまま冥月さんは御帰還されました(笑)

気に入って頂ければ幸いです。よろしければ また お願い致します^^

2007/03/16 椎葉 あずま