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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


サクラウタ

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0.オープニング

「うっわぁ。すっご〜い…」
大木の周りを荒れ舞う桃色を目の当たりにして、驚愕する萌。
「…確かにな」
荒れ舞っている桃色、その実態は「桜」
桜の花びらが。どこからともなく溢れて周囲を桃に染めている。
しかし、妙な光景だ。
まるで、桜が この大木を護っているかのような…。
「で?どーすんの?ディテクター」
萌に問われ、言葉を返す事なく。
俺は大木に向けて銃を構える。
チャキッ―
「えっ!ちょ、ちょっと!」
幹か。枝か。それとも、別所か。
先ず、この桜吹雪の出所を探る必要がある。
という訳で、とりあえず大木と話してみようと。思った次第だ。
「待った待った待ったぁぁっ!!」
ドカッ―
全身でタックルして、俺を阻む萌。
「…何だ」
「いきなり それはないよ!可哀想じゃないかっ!」
背伸びをして胸倉に掴みかかり、真剣に訴える萌。
バシッと 萌の手を払い、襟を整え。吐く、ごもっともな台詞。
「…じゃあ、どうするんだ」

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1.

うわぁ…。どんな状況なのか、サラッと聞いてはいたけど。
凄いわ。これは。風流ねぇ…とか、そんな事、言ってらんないじゃない。
「あ。シュラインさーん。ここですー。こっちですー」
両手を振って位置を知らせる萌ちゃんと、その隣で煙草をふかしている探偵さんを確認。
私は桜吹雪に目を細めつつ、二人に歩み寄る。
「こんばんは。花見日和ね」
笑いつつ、そう挨拶すると、萌ちゃんは苦笑してバシッと私の背中を叩く。
さてさて。冗談はさておき。どうしたものかしらね。これ。
二人が立ち往生って事は、相当な曲者ね。うーん。
協力してくれ、と頼まれて来たものの、説明らしい説明は聞かせてくれなかったから。
とりあえず、どういう状況なのか…。
二人は、どうやって解決しようとしてたのか。その辺を聞かせてもらわなくちゃ。


「ふぅん。なるほどね…」
二人に話を聞き、頬に手をあてがい、首を傾げる私。
一つ、疑問に思ってる事があるのよ。
うん。そう。確かに、この桜吹雪、物凄い勢いなんだけどね。
積もっていないの。地面に、一枚たりとも。
おかしな話じゃない?こんなに舞ってるのに。
「消えて…るね」
桜吹雪をジッと見やって言う萌ちゃん。
そうなの。数が多くて良く見ないとわからないけど。
花びらは、地に落ちる前に、消えていってるのよね。次から次へと。
「推測だけど…」
私は桜吹雪を見やりながら、自身の思いを述べる。
「もしかしたら、記憶かも」
「記憶?」
「そう。この、桜の木のね」
「…うーん」
「もしそうなら、弾の無駄だと思うの。武…じゃない、探偵さん」
見やって言うと、探偵さんは肩を竦める。
じゃあ、どうしろってんだ。そう言いたげね。うん。確かに。
でもね、闇雲に傷付けるのは、可哀想よ。
過剰反応して、一層暴れ出すかもしれないじゃない?
そうなったら、解決するのが、きっと、今よりずっと 大変になっちゃうわ。
うん。とりあえず…。
「この付近に、人って住んでるの?」
私が問うと、探偵さんは目を伏せて返す。
「集落程度だがな」
「ブラサ族っていう少数民族だよ。ちょっと変わった民族」
萌ちゃんが追加で説明を加える。
民族…か。うん。なるほど。
この桜の木の事は、知ってるわよね。きっと。
先ずは聞き込み。解決を急いちゃ駄目よ。
面倒臭そうな探偵さんの背中をポン、と叩いて私は言う。
「どっち?その、集落って」

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2.

萌ちゃんが言っていたように。
本当に、ブラサ族の皆さんは、ちょっと変わっていて。
というか、あんまり喋らないのよね…。寡黙っていうか。
凄く難航したけれど、それでも、何とか聞き込みは出来たわ。
あの桜の木は、ブラサ族にとって大切な崇拝対象”だった”。
過去形が意味するとおり、悲しい事に。
あの桜の木は、去年息絶えて。
ブラサ族に惜しまれながら伐されている、と。

「ブラサ族には見えてないって、どういう事なんだろ…」
首を傾げる萌ちゃん。
そう。あんなに大っぴらに桜吹雪を纏っているのに。
ブラサ族の皆さんは、口を揃えて 私達に言った。
”奇妙な事を言う”って。
また推測で申し訳ないんだけれど。
私は、こう思うの。
かつて、大切にしてくれたからこそ。
姿を隠しているんじゃないかな、って。
桜吹雪は、悲鳴なんじゃないかな、って。思うの。
大切に大切に長い間崇めてくれたブラサ族には。
ううん。ブラサ族だからこそ、言えない。
そんな悩みを、願いを。あの桜の木は、訴えているんじゃないかしら。
「萌ちゃん」
「ん?」
「木のお医者さんとか…そういう人とコンタクト取れないかしら」
「植物の専門家、って事?」
「そう」
「ん〜〜…。どうだろ?」
萌ちゃんに見上げられた探偵さんは、目を逸らしつつ呟く。
「出来なくはないが…それで解決するとは思えんな」
確かにね。専門家を呼んで解決するなら、とっくに、そうしてる。
でも、直接人を向かわせて解決しろ、って言ってるって事は。
それじゃあ解決出来ない、もしくは出来なかったって事だものね。
うん。違うのよ。専門家に解決してもらおうだなんて、これっぽっちも思ってない。
私は、知りたいの。
この木が、何を思っているのかを。

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3.

私が生まれる、ずっとずっと前から。
あなたは、ここに居て。
色んな人を、色んなものを見てきた。
いつだって、皆に愛されて。
それに対する感謝として。
あなたは、咲き誇った。咲き誇ってきた。
でも、もう。それが出来ない。
咲き誇る事も。人を癒す事も。
うん。悲しいね。悔しいね。
頬を伝う涙を拭う事もせずに。
私は必死に土を掘る。
「シュラインさん…手が…」
心配そうに私の手を見やる萌ちゃん。
私は土まみれになった手でグイッと頬を拭って言う。
「ちょうだい」
私を見て、つられて泣きそうな顔になりつつ、萌ちゃんは差し出す。
”継ぐ命”を。

桜の大木の、すぐ傍に植えられた小さな命。
ごめんね。私達には、あなたの望みを叶える事が出来ない。
気持ちはわかるの。すごく、わかるのよ。伝わってる。
でも、認めて。
あなたは、もう。
咲き誇る事が出来ないの。
どんなに存在を誇示しても。
あなたを蘇生させる事なんて。私達には出来ない。
だから。
ねぇ、ほら。見て。見えるでしょう?
あなたに比べたら、まだまだ小さくて。頼りないかもしれないけれど。
でも、あなたと同じ。咲き誇る力を持った命よ。
支えてあげて。
教えてあげて。
あなたの気持ちと、意志を。


「消えるとまた、名残惜しいもんだな」
ポツリと言う探偵さん。
桜吹雪が止んで、静まり返った景色。
確かに、そうね。
でも、またいつか。
桜舞う時が来るわよ。
ヒラリと一枚、落ちてきた桜の花びらを掌で受け止めて。
「うん。どういたしまして」
私はポツリと呟き、淡く笑う。

ブラサ族に囲まれている”小さな命”に。

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】

0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

NPC / ディテクター / ♂ / 30歳 / IO2エージェント

NPC / 茂枝・萌 (しげえだ・もえ) / ♀ / 14歳 / IO2エージェント NINJA


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           ライター通信          
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/03/20 椎葉 あずま