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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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VS フレアウルフ
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0.オープニング
「まぁまぁ、そう言わずに…見るだけ見て下さいよ」
鞄から怪しげな鏡を取り出す男。
あたしはヤレヤレと肩を竦め目を背ける。
「これ、異国では封鏡と呼ばれてましてねぇ」
聞いてもいない説明を始める男。
まぁ、慣れちゃあいるけどさ。面倒くさいねぇ。
訪問販売、っていうのかい?こういうの。ちょっと違うのかねぇ。
まぁ、この商品を、是非、店に置いてくれないか、ってアレさ。
しっかし、この男、しつこいね。断っても断っても。
毎日毎日、別の物を用意しては見せに来る。
どこから仕入れているのか、その辺には興味あるんだけどね。
あんたの持ってくる品は、不気味過ぎて嫌なんだよ。
その鏡だって、そうさ。何だい、その柄。髑髏じゃないか。
そんな鏡…よっぽど物好きな奴しか、欲しがりゃあしないよ。
「…でねぇ、どうやら封じられてるのは狼らしいんですよ。ハッハッハ」
「へぇ」
まるで聞いていなかったけれど、一応相槌を打つ あたし。
男は、誇らしげに笑って、鏡をコツコツと叩き出した。
「…何やってんだい」
問うと、男は、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに微笑んで。
「こうする事で封印が解けるそうですよ。ハハハ」
仕入れた際に、聞いたのだろう。その方法。
男の口調と表情から、冗談だと捉えている事が理解る。
あのねぇ。そういう曰く付きの物を扱う際の鉄則があるんだよ。
ひとつは、決して馬鹿にしてはならない。
「…う、うわぁっ!?」
鏡からヌッと姿を現す狼に驚愕し、鏡を放り投げ、その場に尻餅をつく男。
もうひとつは、決して、その物を投げやってはいけない。
「グルルル…」
鏡から現れた狼は炎を纏い。涎を垂らしながら唸り、辺りを伺う。
封印。どうして封じられたか。
恐怖に苛まれて理解したかい?
さぁ、どうするんだい。これ。
どうしてくれるんだい。これ。
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1.
「す、すみません…」
申し訳なさそうに何度も頭を下げる男性。
私はクスクス笑って返す。
「いいのよ。気にしないで」
慣れてるから。というか、もはや定番と化してきてるのよね。
蓮さんの店に来て、何か問題が起きてるのって。
「戻す方法は、聞いてるんですか?」
私が問うと、男性は頭を掻きながら返す。
「は、はい。あの〜…もう一度、鏡を二回叩けば」
なるほど。解く時と方法は一緒なのね。
でも、鏡かぁ…。
鏡は、紅く燃える狼の首元に首輪のようについている。
叩くだけなら簡単だけど。
狼さんってば、ものすごく威嚇してるし。
熱くて近寄れないわよね。このままじゃ。
私はウーン、と唸りながら蓮さんに問う。
「ねぇ、消火器ってある?」
「あぁ、あるよ。一応ね」
蓮さんがカウンター下から消火器を取り出す。
よしよし。それじゃあ…。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
男性が血相変えて叫んだ。
私と蓮さんはキョトンと男性を見やる。
「なぁに?」
「ま、まさかとは思いますが、それで狼を消そうとしてるんじゃ…」
絶望的な表情の男性。
私はクスッと笑って、返す。
「そんな事しないわよ。可哀想じゃない」
ホッと安堵の息を漏らす男性。
幾らなんでも、それは、ちょっとね。酷すぎるわ。
そうじゃないのよ。うん。そうじゃなくって。
「合図したら、御願いね」
私の言葉に、蓮さんは笑みを浮かべながら頷く。
さぁて。どうしよっか。
「グルルルルル…」
唸り声を上げつつ、私にジリジリと近寄る狼。
やぁだ…。そんな怖い顔しないでよ。
苦笑しつつ、狼との間合いを詰めていく私。
うーん。ギリシア神話のケルベロスなら、綺麗な曲で大人しくなったけれど…。
このコはそんなんじゃないわよね。
封印されていたって事は、何か悪さをしたからなのかしら。
首輪もついてるし…もしかしたら、人に飼われていた存在なのかも。
それなら、凶暴な部分を取り除ければ…。
「ガルルルッ!!」
「っと!」
突然飛び掛ってきた狼。
私はサッとそれを避けて、苦笑。
もぉ。お行儀の悪いコね。…って。
「熱っ」
掌に乗った小さな火の粉に、少々慌て。
パンパンッ―
私は両手を合わせて、それを払う。
「グルルル………」
「ん?」
私と、蓮さんと、男性。三人揃って首を傾げる。
突然、狼が、その場に伏せて大人しくなった。
誰か、伏せ!って言った?…言ってないわよね。
…なるほど。やっぱり、このコ、飼われていた存在なんだわ。
オッケー。それなら…。
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2.
キィィィィー…ン―
耳元に手をあてがい、脳を震わす、不快な音を発する私。
それは、人の耳には届かない音。
立ち上がり、再び構え出したけれど、
狼は、その音にフラッとよろめく。
そこで、追い討ちをかけるように。
パンッ―
手を叩く。
こうなったら、もう。成す術なしね。
狼は視点の定まらぬ目で、その場に伏せる。
動きが落ち着いたのは良いけれど、
この熱い炎は。さすがに、どうする事も出来ないわ。
その辺は、我慢ね。
私は蓮さんにパチンとウィンクを飛ばす。
それを合図だと瞬時に理解した蓮さんは、
構えていた消火器のピンを外して、放つ。白い煙を。
煙に紛れて、ダッと駆け出し、狼に近寄る私。
「あああっ!」
まるで身投げした人を憐れむような声をあげる男性。
冗談じゃないわ。身投げなんて。
こんなところで死ぬわけにはいかないもの。
私には帰りを待ってる、大切な人がいるんだから。
煙に紛れて狼に近寄った私。
狼は、辺りが真っ白になった事に少々、戸惑っているようで。
立ち上がろうと試みているんだけれど。それが出来ない。
ごめんね。出来ないのは、私の所為。
ずっと、あなたの嫌いな音を発しているから。
煙の中で目を凝らし、狼の喉元にある鏡を確認。
咳き込みそうになるのを、必死で堪えながら、私は鏡に手を伸ばす。
んもぅ…熱いっ。
コツン コツン―
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3.
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる男性。
私は右腕に軽く負った火傷を冷やしながら言う。
「どういたしまして」
男性は、狼が再び封じられた鏡を大切そうに鞄にしまう。
その様を見て、蓮さんが溜息混じりに言う。
「処分しちまいなよ。そんな厄介なもの」
蓮さんの言葉に、男性は情けない笑顔を浮かべつつ。
「手に入れるのに苦労した、大切な商品ですから」
そう言って、頬をポリポリと掻いた。
私はクスクスと笑って、蓮さんの肩をポン、と叩く。
困ったものね。本当に。
商売人さんの、商品に対する愛ときたら。
ヤレヤレと肩を竦める蓮さん。
あはっ。同じ商売人として、理解できる想い故の行動よね。それは。
「蓮さん、これ。あげても良いかしら?」
棚から一枚のレコードを取り出し、問う私。
蓮さんは苦笑して言う。
「代金は?」
私はクスクスと笑って、自分の右腕を差し出す。
今日の。今の働き。このレコード一枚分くらいには、なるでしょう?
私の顔を見やって、「好きにしな」という表情を浮かべる蓮さん。
私は男性にレコードを差し出して言う。
「聴かせてあげて。そのコに」
男性はキョトンとして言う。
「何でまた?」
絶対的な自信はないけれど、
そのコの凶暴性を和らげる事が出来たら、と思って。
これからも、その鏡を商品として持ち歩くんでしょう?
いつか、その鏡を気に入って買ってくれるお客さんが現れるかもしれない。
その時、あなたは何て言うの?
中に、凶暴な狼が居ますけど良いですか?って言うの?
駄目駄目。そんな事言ったら、どんなに大金をつめるお金持ちの人でも、退いちゃうわ。
そしたら、交渉決裂。大切な商品は、売れ残ってしまうのよ。
そんなの、悲しいじゃない?
何度も何度も、そうやって拒まれたら、そのコだって、可哀想だしね。
だから、少しずつでも。毎日聴かせてあげて。
優しい子守唄。
あなたが、その鏡を。そのコを大切に思うなら、尚更。ね。
あっ。でも一つだけ約束して。
鏡に聴かせるだけで良いの。
封印を解いちゃ駄目よ。
そんな事したら、あなた、今度こそ、灰になっちゃうんだから。
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【 整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 】
0086 / シュライン・エマ / ♀ / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
NPC / 碧摩・蓮 (へきま・れん) / ♀ / 26歳 / アンティークショップ・レンの店主
NPC / 早川・太助 (はやかわ・たすけ) / ♂ / 25歳 / 行商人
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ライター通信
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます!心から感謝申し上げます。
気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^
2007/03/20 椎葉 あずま
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